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共同研究開発に関する独占禁止法上の指針

共同研究開発に関する独占禁止法上の指針

平成5年4月20日
公正取引委員会
改定:平成17年6月29日
改定:平成22年1月1日
改定:平成29年6月16日

はじめに

1 基本的視点

 最近の技術革新の一つの特徴として、技術が極めて高度で複雑なものとなり、多くの分野にまたがるものとなっているため、その研究開発に必要な費用や時間が膨大になり、それに必要な技術も多様なものとなることがある。そのため、単独の事業者による研究開発や他の事業者からの技術導入に加えて、複数の事業者による共同研究開発が増加している。
 共同研究開発は、(1)研究開発のコスト軽減、リスク分散又は期間短縮、(2)異分野の事業者間での技術等の相互補完等、により研究開発活動を活発で効率的なものとし、技術革新を促進するものであって、多くの場合競争促進的な効果をもたらすものと考えられる。
 他方、共同研究開発は複数の事業者による行為であることから、研究開発の共同化によって市場における競争が実質的に制限される場合もあり得ると考えられる。また、研究開発を共同して行うことには問題がない場合であっても、共同研究開発の実施に伴う取決めによって、参加者の事業活動を不当に拘束し、共同研究開発の成果である技術の市場やその技術を利用した製品の市場における公正な競争を阻害するおそれのある場合も考えられる。
 この「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」は、以上のような認識の下に、共同研究開発に関し、研究開発の共同化及びその実施に伴う取決めについて公正取引委員会の一般的な考え方を明らかにすることによって、共同研究開発が競争を阻害することなく、競争を一層促進するものとして実施されることを期待して公表するものである。
 公正取引委員会としては、共同研究開発を一般的に問題視するものではなく、それによって競争制限的効果が生じるおそれがある場合に限り、独占禁止法上の検討を行うものであるが、その際に共同研究開発の競争促進的効果を考慮することはもちろんである。

2 指針の適用範囲及び判断時点

(1) この「指針」が適用される「共同研究開発」は、「複数の事業者が参加して研究開発を共同で行うこと」である。すなわち、この「指針」は、共同研究開発の参加者に着目すれば、「複数の事業者」が参加するものに適用される。また、この「指針」は、我が国市場に影響が及ぶ限りにおいて、参加者が国内事業者であると外国事業者であるとを問わず適用される。

(2) 研究開発の共同化の方法としては、(1)参加者間で研究開発活動を分担するもの、(2)研究開発活動を実施する組織を参加者が共同で設立するもの、(3)研究開発活動を事業者団体で行うもの、(4)主として、一方の参加者が資金を提供し、他方の参加者が研究開発活動を行うもの(一方のみが研究開発活動を行い、他方はその成果を一定の対価ですべて取得する場合のように、単に技術開発を目的とする請負契約類似の関係と考えられ、事業者間の共同行為という性質を持たないものは除かれる。)が考えられるが、この「指針」はそのすべてに適用される。

(3) 研究開発は、その性格に着目すると、段階的に基礎研究、応用研究及び開発研究に一応類型化されるが、この「指針」はこれらすべての段階における共同研究開発に適用される。

(4) また、この「指針」により共同研究開発に関する独占禁止法上の問題が判断されるのは、原則として共同研究開発契約締結時点であるが、共同研究開発の成果の取扱い等について、その時点においては定められない場合には、それらが取り決められた時点で独占禁止法上の問題が判断される。

第1 研究開発の共同化に対する独占禁止法の適用について

1 基本的考え方

 研究開発の共同化によって参加者間で研究開発活動が制限され、技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限されるおそれがある場合には、その研究開発の共同化は独占禁止法第三条(不当な取引制限)の問題となり得ると考えられる。共同研究開発が事業者団体で行われる場合には独占禁止法第八条の、また、共同出資会社が設立される場合には独占禁止法第一〇条の問題となることがある。
 研究開発の共同化が独占禁止法上主として問題となるのは、競争関係(潜在的な競争関係も含む。以下同じ。)にある事業者間で研究開発を共同化する場合である。競争関係にない事業者間で研究開発を共同化する場合には、通常は、独占禁止法上問題となることは少ない。事業者は、その製品、製法等についての研究開発活動を通じて、技術市場又は製品市場において競争することが期待されているところであるが、競争関係にある事業者間の共同研究開発は、研究開発を共同化することによって、技術市場又は製品市場における競争に影響を及ぼすことがある。
 共同研究開発は、多くの場合少数の事業者間で行われており、独占禁止法上問題となるものは多くないものと考えられるが、例外的に問題となる場合としては、例えば、寡占産業における複数の事業者が又は製品市場において競争関係にある事業者の大部分が、各参加事業者が単独でも行い得るにもかかわらず、当該製品の改良又は代替品の開発について、これを共同して行うことにより、参加者間で研究開発活動を制限し、技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限される場合を挙げることができる。

2 判断に当たっての考慮事項

(1) 研究開発の共同化の問題については、個々の事案について、競争促進的効果を考慮しつつ、技術市場又は製品市場における競争が実質的に制限されるか否かによって判断されるが、その際には、以下の各事項が総合的に勘案されることとなる。

[1] 参加者の数、市場シェア等

 参加する事業者の数、市場シェア、市場における地位等が考慮されるが、一般的に参加者の市場シェアが高く、技術開発力等の事業能力において優れた事業者が参加者に多いほど、独占禁止法上問題となる可能性は高くなり、逆に参加者の市場シェアが低く、また参加者の数が少ないほど、独占禁止法上問題となる可能性は低くなる。
 製品市場において競争関係にある事業者間で行う当該製品の改良又は代替品の開発のための共同研究開発についていえば、参加者の当該製品の市場シェアの合計が二〇%以下である場合には、通常は、独占禁止法上問題とならない。さらに、当該市場シェアの合計が二〇%を超える場合においても、これをもって直ちに問題となるというわけではなく、[1]から[4]までの事項を総合的に勘案して判断される。

 ○ 研究開発の共同化に関連する市場としては、製品とは別に成果である技術自体が取引されるので、技術市場も考えられる。技術市場における競争制限の判断に当たっては、参加者の当該製品についての市場シェア等によるのではなく、当該技術市場において研究開発の主体が相当数存在するかどうかが基準となる。その際、技術はその移転コストが低く、国際的な取引の対象となっていることから、当該技術市場における顕在的又は潜在的な研究開発主体としては、国内事業者だけでなく、外国事業者をも考慮に入れる必要があり、通常は相当数の研究開発主体が存在することが多く、そのような場合には、独占禁止法上問題となる可能性は低い。

[2] 研究の性格

 研究開発は、段階的に基礎研究、応用研究及び開発研究に類型化することができるが、この類型の差は共同研究開発が製品市場における競争に及ぼす影響が直接的なものであるか、間接的なものであるかを判断する際の要因として重要である。特定の製品開発を対象としない基礎研究について共同研究開発が行われたとしても、通常は、製品市場における競争に影響が及ぶことは少なく、独占禁止法上問題となる可能性は低い。一方、開発研究については、その成果がより直接的に製品市場に影響を及ぼすものであるので、独占禁止法上問題となる可能性が高くなる。

[3] 共同化の必要性

 研究にかかるリスク又はコストが膨大であり単独で負担することが困難な場合、自己の技術的蓄積、技術開発能力等からみて他の事業者と共同で研究開発を行う必要性が大きい場合等には、研究開発の共同化は研究開発の目的を達成するために必要なものと認められ、独占禁止法上問題となる可能性は低い。
 なお、環境対策、安全対策等いわゆる外部性への対応を目的として行われる共同研究開発については、その故をもって直ちに独占禁止法上問題がないとされるものではないが、研究にかかるリスク、コスト等にかんがみて単独で行うことが困難な場合が少なくなく、そのような場合には、独占禁止法上問題となる可能性は低い。

[4] 対象範囲、期間等

 共同研究開発の対象範囲、期間等についても共同研究開発が市場における競争に及ぼす影響を判断するに当たって考慮される。すなわち、対象範囲、期間等が明確に画定されている場合には、それらが必要以上に広汎に定められている場合に比して、市場における競争に及ぼす影響は小さい。

(2) なお、上記の問題が生じない場合であっても、参加者の市場シェアの合計が相当程度高く、規格の統一又は標準化につながる等の当該事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において、ある事業者が参加を制限され、これによってその事業活動が困難となり、市場から排除されるおそれがある場合に、例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがある(私的独占等)。

 ○ 例えば、参加者の市場シェアの合計が相当程度高く、研究開発の内容等からみて成果が当該事業分野における事実上の標準化につながる可能性が高い共同研究開発については、当該研究開発を単独で実施することが困難であり、これによって生産、流通等の合理化に役立ち、需要者の利益を害さず、かつ、当該技術によらない製品に関する研究開発、生産、販売活動等の制限がない場合には、研究開発の共同化は認められる。
 この場合においても、当該共同研究開発について、ある事業者が参加を制限され、成果に関するアクセス(合理的な条件による成果の利用、成果に関する情報の取得等をいう。以下同じ。)も制限され、かつ、他の手段を見いだすことができないため、その事業活動が困難となり、市場から排除されるおそれがあるときには、独占禁止法上問題となる。
 しかしながら、参加を制限された事業者に当該共同研究開発の成果に関するアクセスが保証され、その事業活動が困難となるおそれがなければ、独占禁止法上問題とはならない。

第2 共同研究開発の実施に伴う取決めに対する独占禁止法の適用について

1 基本的考え方

 研究開発の共同化が独占禁止法上問題とならない場合であっても、共同研究開発の実施に伴う取決めが市場における競争に影響を及ぼし、独占禁止法上問題となる場合がある。すなわち、当該取決めによって、参加者の事業活動を不当に拘束し、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、その取決めは不公正な取引方法として独占禁止法第一九条の問題となる。
 また、製品市場において競争関係にある事業者間で行われる共同研究開発において、当該製品の価格、数量等について相互に事業活動の制限がなされる場合には、主として独占禁止法第三条(不当な取引制限)の観点から検討される。
 なお、共同研究開発は、複数の事業者が参加して共通の目的の達成を目指すものであり、その実施に伴う参加者間の取決めについては、基本的に本指針の考え方によって判断され、技術の利用に係る制限行為を対象とする「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成十九年九月二十八日公表)の考え方は適用されない。ただし、共同研究開発の成果の第三者へのライセンス契約については、同指針の考え方によって判断される。

2 不公正な取引方法に関する判断

 以下では、共同研究開発の実施に伴う取決めを、共同研究開発の実態を踏まえ、「共同研究開発の実施に関する事項」、「共同研究開発の成果である技術に関する事項」及び「共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項」に分け、さらに、「原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項」、「不公正な取引方法に該当するおそれがある事項」及び「不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項」に分けて、不公正な取引方法の観点から、独占禁止法上の考え方を可能な限り明らかにしている。
 「原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項」は、共同研究開発の円滑な実施のために必要とされる合理的な範囲のものと認められ、また、競争に及ぼす影響が小さいと考えられることから、このような事項が取り決められたとしても、原則として不公正な取引方法に該当せず、独占禁止法上問題とならないものである。ただし、このような事項であっても、その内容において参加者間で著しく均衡を失し、これによって特定の参加事業者が不当に不利益を受けることとなる場合には、独占禁止法第一九条(独占禁止法第二条第九項第五号(優越的地位の濫用)又は一般指定第五項(共同行為における差別取扱い))の問題となる。
 「不公正な取引方法に該当するおそれがある事項」は、各事項について、個々に公正な競争を阻害するおそれがあるか否かが検討されるものであるが、この場合、当該事項が公正な競争を阻害するおそれがあるか否かは、参加者の市場における地位、参加者間の関係、市場の状況、制限が課される期間の長短等が総合的に勘案されることとなる。この場合、参加者の市場における地位が有力であるほど、市場における競争が少ないほど、また、制限が課される期間が長いほど、公正な競争が阻害されるおそれが強い。なお、上記で述べた独占禁止法第二条第九項第五号又は一般指定第五項の問題については、ここでも同様に一定の場合には問題となる。
 「不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項」は、共同研究開発の実施に必要とは認められず、また、課される制限の内容自体からみて公正競争阻害性が強いものであるため、特段の正当化事由がない限り、不公正な取引方法に該当すると考えられるものである。

(1) 共同研究開発の実施に関する事項

ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項

[1] 研究開発の目的、期間、分担等(業務分担、費用負担等)を取り決めること

[2] 共同研究開発のために必要な技術等(知見、データ等を含む。以下同じ。)の情報(共同研究開発の過程で得られたものを含む。以下同じ。)を参加者間で開示する義務を課すこと

[3] [2]で他の参加者から開示された技術等の情報に関する秘密を保持する義務を課すこと

[4] [2]の技術等の情報以外に共同研究開発に関して他の参加者から得た情報のうち特に秘密とされているもの(共同研究開発の実施自体が秘密とされている場合を含む。)の秘密を保持する義務を課すこと

[5] 分担した研究の進捗状況を参加者間で報告する義務を課すこと

[6] [2]で他の参加者から開示された技術等を共同研究開発のテーマ(共同研究開発の対象範囲をいう。以下同じ。)以外に流用することを制限すること((1)イ[1]の場合を除く。)

[7] 共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること

[8] 共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること((1)ウ[1]参照)

[9] 共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること((1)ウ[1]及び[2]参照)

 ○ 共同研究開発終了後についての研究開発の制限は、基本的に必要とは認められず、参加者の研究開発活動を不当に拘束するものであるので、公正競争阻害性が強いものと考えられる((1)ウ[1]及び[2]参照)。
 ただし、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限することは、背信行為の防止又は権利の帰属の確定のために必要と認められる場合には、原則として公正競争阻害性がないものと考えられる。

[10] 参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発実施期間中において、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること((1)イ[2]の場合を除く。)

[11] 共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること

 ○ 共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること自体は、原則として問題とはならないが、他の事業者の参加を制限する行為が、例外的に、不公正な取引方法(独占禁止法第二条第九項第一号又は一般指定第一項(共同の取引拒絶)、第二項(その他の取引拒絶)等)、私的独占等の問題となることがある(第一-2(2)参照)。

イ 不公正な取引方法に該当するおそれがある事項

[1] 技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて、共同研究開発に際して他の参加者から開示された技術等を共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること((1)ア[6]参照)

 ○ 開示された技術等をそのまま流用するのではなく、それから着想を得て全く別の技術を開発することまで制限するような場合には、当該研究開発活動の制限は、技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて参加者の事業活動を不当に拘束するものであり、公正な競争を阻害するおそれがあるものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

[2] 共同研究開発の実施のために必要な範囲を超えて、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること((1)ア[10]参照)

 ○ 参加者が共同研究開発に関係する知見、成果等に関する権利を放棄するなどして共同研究開発から離脱し、他から優れた技術を導入することを希望する場合にまでそれを認めないといった制限は、共同研究開発の実施のために必要な範囲を超えて参加者の事業活動を不当に拘束するものであり、このような事項は、競合する技術を保有する事業者の取引機会を奪い又は参加者の技術選択の自由を奪うものであって、公正な競争を阻害するおそれがあるものと考えられる(一般指定第一一項(排他条件付取引)又は第一二項(拘束条件付取引))。

ウ 不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項

[1] 共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること((1)ア[8]及び[9]の場合を除く。)

[2] 共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限すること((1)ア[9]の場合を除く。)

 ○ 上記[1]及び[2]のような事項は、参加者の研究開発活動を不当に拘束するものであって、公正競争阻害性が強いものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

[3] 既有の技術の自らの使用、第三者への実施許諾等を制限すること

[4] 共同研究開発の成果に基づく製品以外の競合する製品等について、参加者の生産又は販売活動を制限すること

 ○ 上記[3]及び[4]のような事項は、共同研究開発の実施のために必要とは認められないものであって、公正競争阻害性が強いものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

(2) 共同研究開発の成果である技術に関する事項

ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項

[1] 成果の定義又は帰属を取り決めること

[2] 成果の第三者への実施許諾を制限すること

 ○ 成果の第三者への実施許諾を制限すること自体は、原則として問題とはならないが、第三者への実施許諾を制限する行為が、例外的に、不公正な取引方法(独占禁止法第二条第九項第一号(共同の取引拒絶)、第二項(その他の取引拒絶)等)、私的独占等の問題となることがある(第一-2(2)参照)。

[3] 成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること

[4] 成果に係る秘密を保持する義務を課すこと

[5] 成果の改良発明等を他の参加者へ開示する義務を課すこと又は他の参加者へ非独占的に実施許諾する義務を課すこと

 ○上記[1]から[5]までのような事項であっても、その内容において参加者間で著しく均衡を失し、これによって特定の参加事業者が不当に不利益を受けることとなる場合には不公正な取引方法の問題となることは前記のとおりである。

イ 不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項

[1] 成果を利用した研究開発を制限すること

 ○ このような事項は、参加者の研究開発活動を不当に拘束するものであって、公正競争阻害性が強いものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

[2] 成果の改良発明等を他の参加者へ譲渡する義務を課すこと又は他の参加者へ独占的に実施許諾する義務を課すこと

 ○ このような事項は、参加者が成果の改良のための研究開発を行うインセンティブを減殺させるものであって、公正競争阻害性が強いものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

(3) 共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項

ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項

[1] 成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ[3]参照)

[2] 成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ[4]参照)

 ○ 上記[1]及び[2]の「合理的な期間」は、リバース・エンジニアリング等によりその分野における技術水準からみてノウハウの取引価値がなくなるまでの期間、同等の原材料又は部品が他から入手できるまでの期間等により判断される。

[3] 成果に基づく製品について他の参加者から供給を受ける場合に、成果である技術の効用を確保するために必要な範囲で、その供給を受ける製品について一定以上の品質又は規格を維持する義務を課すこと((3)イ[5]参照)

イ 不公正な取引方法に該当するおそれがある事項

[1] 成果に基づく製品の生産又は販売地域を制限すること

[2] 成果に基づく製品の生産又は販売数量を制限すること

[3] 成果に基づく製品の販売先を制限すること((3)ア[1]の場合を除く。)

[4] 成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること((3)ア[2]の場合を除く。)

[5] 成果に基づく製品の品質又は規格を制限すること((3)ア[3]の場合を除く。)

 ○ 上記[1]から[5]までのような事項は、参加者の市場における地位、参加者間の関係、市場の状況、制限が課される期間の長短等を総合的に勘案した結果、公正な競争を阻害するおそれがあると判断される場合には不公正な取引方法の問題となる(一般指定第一一項(排他条件付取引)又は第一二項(拘束条件付取引))。
 なお、上記[3]又は[4]に関し、例えば、取引関係にある事業者間で行う製品の改良又は代替品の開発のための共同研究開発については、市場における有力な事業者によってこのような制限が課されることにより、市場閉鎖効果が生じる場合(注)には、公正な競争が阻害されるおそれがあるものと考えられる(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成三年七月一一日公表)第一部の第二の二(自己の競争者との取引等の制限)参照)。
 (注)「市場閉鎖効果が生じる場合」とは、非価格制限行為により、新規参入者や既存の競争者にとって、代替的な取引先を容易に確保することができなくなり、事業活動に要する費用が引き上げられる、新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」第一部の三(二)ア(市場閉鎖効果が生じる場合)参照)。

ウ 不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項

[1] 成果に基づく製品の第三者への販売価格を制限すること

 ○ このような事項は、制限を課された参加者の重要な競争手段である価格決定の自由を奪うこととなり、公正競争阻害性が強いものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

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