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特殊指定の見直しに関するQ&A

特殊指定の見直しに関するQ&A

Q&A

問1 特殊指定って,そもそも何のことですか?

答1 独占禁止法は,禁止行為の一つである「不公正な取引方法」の規制に際し,その具体的な内容は公正取引委員会が告示で指定するという法形式を採用しています。
 もちろん,法律の中で,指定する上での要件が定められており,以下の2つを満たす場合に限られています。また,かかる法形式を採用したことについては,最高裁判所もこれを合憲とする判断を示しています(和光堂事件・昭和50年7月10日最高裁判決)。
(1)第2条第9項で規定されている6つの行為のいずれかに該当する行為であること
(2)公正な競争を阻害するおそれがあるものであること
 この,「不公正な取引方法」の指定には,2つあり,その1つが「特殊指定」と呼ばれているものです。正式には,「特定の事業分野における特定の取引方法」の指定ということになります。もう1つは「一般指定」と呼ばれる,全ての業種に適用される指定のことです。
 上記の(1)及び(2)の要件のいずれかを満たさなくなると,法律により授権された範囲を超える違法な指定となってしまいます。したがって,公正取引委員会として必要と判断すれば,自由に指定できるものではなく,上記の法律の定める要件をクリアできるものでなければならない制度なのです。
 公正取引委員会は,特に(2)の,公正な競争を阻害するおそれがあるものであることとの要件については,ある時点で公正な競争を阻害するおそれがあると判断された行為であっても,その後その要件に欠けることがあり得るので,変化する経済社会の中で不断の見直しが必要になると考えています。その中には,もはやそのような行為がその事業分野では見られなくなった場合や,問題となることに変わりがないとしても,特に特殊指定として規定しておく必要性はなくなった場合などが含まれます。

問1-1 「公正な競争を阻害するおそれがある」ことが要件ということですが,この点について,もう少し説明してください。

答1-1 事業者の事業活動において,価格は最も重要な競争手段の1つであり,競争の結果として商品又は役務に価格差が生ずることは当然と考えられます。独占禁止法上「不公正な取引方法」を指定する際に,「公正な競争を阻害するおそれがある」という要件を必要としているのもこのためです。この点については,以下のような判例があります。

 (平成17年4月27日東京高裁判決独占禁止法に基づく差止請求控訴事件)
 (略)
 独占禁止法は,「私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し,事業支配力の過度の集中を防止して」「公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇傭及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発展を促進することを目的とする」ものであるから,同法2条9項2号の「不当な対価をもって取引すること」に該当する行為で「公正な競争を阻害するおそれがあるもの」として,一般指定3項により禁止された差別対価行為とは,地域又は相手方によりその対価に差異を設けて行う販売方法が,その方法自体の中に,不当に競争事業者の事業活動を困難にさせ,これを競争から脱落させるなど競争を減殺し,市場における公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある違法な性質,すなわち公正競争阻害性が認められる行為をいうものと解するのが相当である。
 (略)
 一般に,市場において商品又は役務に価格差が存在することは,それぞれの商業地域の事業者間において,能率競争が行われ,市場における需給調整が機能していることの現れとみることができるのであり,特に,行為者の設定価格がコスト割れでない(略)場合においては,それが不当な力の行使であると認められるなど特段の事情が認められない限り,他の競争事業者において,当該価格設定自体を違法,すなわち公正競争阻害性があるものと非難することはできない筋合いである。

問2 特殊指定にはどのようなものがありますか?

答2 現在,3つの特殊指定があります。詳しくは,下記のとおりです。
(1)新聞業における特定の不公正な取引方法(新聞特殊指定)
(2)特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(物流特殊指定)
(3)大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(大規模小売業告示)
 上記のうち,(2)と(3)はそれぞれ平成16年,平成17年に制定されたものですが,(1)は,もともと,昭和30年代に制定されたものです。
 また,これらのほか,平成18年まで,食品かん詰または食品びん詰業における特定の不公正な取引方法(食品かん詰告示 平成18年2月1日に廃止),海運業における特定の不公正な取引方法(海運特殊指定 平成18年4月13日に廃止),広告においてくじの方法等による経済上の利益の提供を申し出る場合の不公正な取引方法(オープン懸賞告示 平成18年4月27日に廃止),教科書業における特定の不公正な取引方法(教科書特殊指定 平成18年6月6日廃止告示,同年9月1日施行)がありました。

問3 特殊指定の見直し作業の現状はどうなっていますか?

答3 公正取引委員会は,平成16年,平成17年に2つの「特殊指定」が新設されたことを機に,制定から長期間が経過し,また近年において運用実績が乏しい既存の5つの「特殊指定」をまとめて見直すこととし,平成17年11月2日の事務総長定例記者会見の場でこの方針を公表しました。
 見直し対象とされた5つの「特殊指定」のうち,新聞特殊指定を除く4つについては,現在,下記のとおり,既に廃止されました。また,新聞特殊指定については,新聞発行本社や販売店の業界団体と意見交換を行うなど,鋭意議論を進めたところではありますが,今回の見直しでは結論を出すことを見合わせることとしました(平成18年6月2日新聞発表)。
(1)教科書業における特定の不公正な取引方法(教科書特殊指定)
 →平成18年6月6日廃止告示,同年9月1日施行
(2)海運業における特定の不公正な取引方法(海運特殊指定)
 →平成18年4月13日廃止
(3)食品かん詰または食品びん詰業における特定の不公正な取引方法(食品かん詰告示)
 →平成18年2月1日廃止
(4)広告においてくじの方法等による経済上の利益の提供を申し出る場合の不公正な取引方法(オープン懸賞告示)
 →平成18年4月27日廃止
 これらの手続きにおいても実施されているとおり,「特殊指定」を廃止する際には,広く国民・消費者の皆様の御意見を聴くための意見募集手続を行うこととしており,公正取引委員会としては,意見募集に寄せられた意見を踏まえた上で,最終的な判断を行うこととしております。
 なお,「特殊指定」の制定には公聴会の開催が法律上義務付けられておりますが,廃止する場合にはその旨の規定はありません。

問4 新聞の特殊指定は何を定めているのですか?

答4 新聞特殊指定(新規ウインドウで開きます)では,新聞の値引きの禁止などを定めています。具体的には,次の3点を定めています。
(1)新聞発行本社が地域又は相手方により多様な定価・価格設定を行うことを禁止(ただし,学校教育教材用や大量一括購読者向けなどの合理的な理由がある場合は例外。)。
(2)販売店が地域又は相手方により値引き行為を行うことを禁止((1)のような例外はない。)
(3)新聞発行本社による販売店への押し紙行為(注)を禁止。
 (注)押し紙:注文部数を超えて供給し,又は自己が指示する部数を注文させること

問5 新聞の特殊指定は平成11年に見直されたと聞きましたが,それでも今見直しをする必要があるのでしょうか?

答5 これにお答えするには,当時の状況をお話する必要があります。当時公正取引委員会では,新聞の再販制度を含めた著作物再販制度全体について,これを独占禁止法の適用除外にしておく理由はないのではないかとの観点から,見直し作業を進めていました。
 しかし,新聞に関しては他の著作物とは異なり,値引き等を禁止した新聞特殊指定も存在するという特殊な事情があり,それが新聞の定価設定の多様化を阻害する根拠として利用されるおそれもあったため,まず,新聞特殊指定を改正することとし,著作物再販制度の下でも,新聞の定価の多様化を図ることは可能であること,新聞の定価の多様化は,消費者利益に資するものであって何ら独占禁止法上禁止する理由のない行為であることを明らかにする観点から,新聞特殊指定の第1項(注)を現行のような規定に変えたわけです。
(平成11年6月9日)(PDF:9KB) (平成11年6月30日)(PDF:28KB) (平成11年7月5日)(PDF:24KB) (平成11年7月21日)(PDF:11KB)

 (注)新聞特殊指定第1項
 日刊新聞(以下「新聞」という。)の発行を業とする者が,直接であると間接であるとを問わず,地域又は相手方により,異なる定価を付し,又は定価を割り引いて新聞を販売すること。ただし,学校教育教材用であること,大量一括購読者向けであることその他正当かつ合理的な理由をもってするこれらの行為については,この限りでない。

 この見直しにより,新聞についても,発行本社が,学校教育教材用定価,大量一括購読者向け定価,長期購読者向け定価,口座振替用定価,前払い用定価などの多様な定価を設定しても,何ら特殊指定上問題のないことを明らかにしました。しかし,このように,定価の多様化を図る上での障害は取り払われたにもかかわらず,現状では,学校教育教材用定価と大量一括購読者向け定価が一部の新聞発行本社によって設定されているだけという状況にあります。
 他方,平成11年の時点では,著作物再販制度の見直しの方向性はまだ何ともいえない状況にあったために,販売店による定価の値引き行為を禁止する規定(現行特殊指定第2項)については,そのまま維持することとしました。これは,販売店が発行本社に無断で,勝手に新聞の定価を値引きする行為をやめさせることができるというのが,新聞再販制度の本質ですから,その制度自体が廃止になるのか存続になるのか分からない状況の下では,規定の見直しを図ることが困難であったからです。また,新聞特殊指定第1項と同じようなただし書を第2項に加えることも困難でした。というのは,正当かつ合理的な理由による値引きを,第2項の禁止規定の例外にしようとすると,新聞再販制度の下で,販売店による正当かつ合理的な理由による値引きとは何なのか,どこまでが正当な値引きといえるのかという問題があったからです。
 以上のように,新聞特殊指定の更なる見直しは,著作物再販制度の当面の存続が決定された平成13年の段階から,公正取引委員会にとって,宿題となっていた問題なのです。

問6 公正取引委員会は,新聞特殊指定についてどのような問題があると考えているのですか?

答6 まず,(1)新聞特殊指定が新聞について多様な定価設定を行わない口実に使われているおそれがあり,消費者利益を害する結果をもたらしていること,(2)新聞特殊指定が,独占禁止法の認めた範囲を超える過剰規制となっているおそれがあるということ,(3)新聞については著作物再販制度の対象となっていることから,販売店間の価格競争を回避したいのであれば,新聞発行本社と販売店の間の再販契約を利用すべきであること,が挙げられます。
 まず,(1)について具体的にいいますと,例えば,長期購読割引,口座振替割引,一括前払い割引,学生・高齢者向け割引等は,携帯電話の通話料など他の長期的な契約においては幅広く導入され,消費者利益の向上をもたらしているところですが,新聞においては,新聞特殊指定の存在を口実にして,ほとんど導入が進んでいません。著作物再販制度の下でも多様な定価を設定することは認められているはずです。
 次に,(2)について具体的にいいますと,新聞特殊指定は,新聞発行本社の多様な定価設定や販売店の値引き行為を原則的又は全面的に禁止しているかのような規定になっていますが,このような多様な定価・価格設定や値引き行為は,本来,重要な競争手段であり,競争を促進する効果はあっても,それ自体が公正な競争を阻害するおそれがあるとはいえません。
 したがって,独占禁止法第2条第9項では「公正な競争を阻害するおそれのあるもの」であることを要件に「特殊指定」がされる仕組みになっているにも拘らず,現行の新聞特殊指定第1項及び第2項は,この要件に該当しないものまで規制対象としている点で,過剰な規制になっているおそれがあります。
 (3)については,新聞については著作物再販制度の対象となっていることから,新聞発行本社と販売店と間の再販契約により,販売店は定価からの値引販売を禁止されています。したがって,新聞発行本社が,販売店間の価格競争を回避させたいのであれば,契約違反とすることによって定価販売を維持させることができるのです(ただし,再販契約を守らない販売店を放置しておくのも新聞発行本社の任意といえます。)。

問7 今まで新聞特殊指定を維持していたことに問題があったということですか?

答7 公正取引委員会としては,問6で述べたように,現在の新聞特殊指定には問題があると考えています。行政機関が自ら行っている規制に問題があると気が付いた場合には,それを改めることをためらうべきではないと考えます。「特殊指定」は,公正取引委員会が個別業種の事情にかんがみ,一般指定では不十分であると認める場合に行う特別な規制であり,今日,これをそのまま維持する理由は見当たらないと考えています。

問8 それでは,公正取引委員会は,特殊指定はどういう事業分野において指定する意味があると考えているのですか?特殊指定は不要と考えているように聞こえますが

答8 「特殊指定」のメリットは,適用を受ける事業者の範囲を明確にできることと,当該業界において不公正な取引方法として違法となる行為類型を具体的に規定できることの2点にあります。また,特殊指定を行うに当たっては,公聴会の開催が義務付けられており,広く関係方面の意見を聞いたうえで指定されるという,手続面でのメリットもあるといえます。
 適用を受ける事業者の範囲を明確にできることについては,優越的地位の濫用に該当する行為については,特殊指定の意味が大きいと考えています。どういう場合に取引当事者間に優越的地位の関係が見られるかを具体的に規定することができるからです。
 行為類型を具体的に規定できることについては,ガイドラインにおいて具体的な行為類型を示すという方法も可能なので,前者のメリットの方が大きいと考えていますが,問題があると考えられる行為が,全国的に幅広く見られるような場合においては,禁止行為を明確に指定しておく目的で活用する意味があると考えています。

問9 特殊指定に違反するとどうなりますか?

答9 公正取引委員会は,「特殊指定」で禁止している不公正な取引方法に該当する行為が行われている疑いがある場合,独占禁止法第47条の規定に基づいて事業者の事務所などへの立入検査を行い,帳簿,取引記録などの関係資料を収集する等の調査を行います。また,必要に応じて関係者に出頭を命じて事情聴取を行い,供述調書を作成するなど違反行為に関する証拠を収集します。
 これらの調査の結果,特殊指定に違反する場合には,違反行為を速やかに止めること等を命じる排除措置命令が命じられます。この排除措置命令を受けた事業者は,命令に不服がある場合には,その取消しを求める訴訟を提起することができます。事業者が所定の期限までに訴訟を提起しない場合には,排除措置命令は確定します。
 このようにして排除措置命令が確定した後に,命令主文で命じられた事項に事業者が従わない場合は,確定排除措置命令違反として刑事罰の対象となります(2年以下の懲役又は3百万円以下の罰金)。

問10 特殊指定を廃止すると,その行為は自由に行えるようになるのですか?

答10 答は,ノーです。というのは,「特殊指定」と「一般指定」は重複関係にあるので,要するに,特殊指定で規定されている行為については,まず,「特殊指定」が適用されるという関係にあります。したがって,そこで規定されていない行為には,当然に「一般指定」が適用されることになります。これは,「特殊指定」が廃止された場合であっても同じことです。

問11 著作物再販制度とは何ですか?

答11 一般的に,販売店は自分で仕入れた商品をいくらで販売しようが自由です。メーカーが販売店に対して,メーカーが定める小売価格から値引きすることを禁止すると,販売店の事業活動を不当に拘束するものとして独占禁止法違反となります(「不公正な取引方法」のうちの「再販売価格維持行為」。)。
 しかしながら,一部の著作物(書籍,雑誌,新聞,音楽用CD等)については,著作物の発行者が販売店に対して値引き販売することを禁止し,これに従わない販売店に不利益を及ぼしても独占禁止法違反にならないことが同法第23条に定められており,これがいわゆる著作物再販制度と呼ばれるものです。
 例えば,著作物再販制度の対象となっている新聞については,新聞発行本社と販売店の間の契約(再販契約)により,販売店は定価からの値引販売を禁止されています。新聞発行本社は,この契約に違反した販売店との契約を解除しても独占禁止法上問題とはなりません。
 なお,この著作物再販制度を利用するか否かは,各事業者の任意であって法律上の義務ではありません。したがって,再販契約を販売店と締結するか(しないか),締結した場合にどの程度例外を容認するか(しないか)は,基本的に発行者の自由な判断に委ねられています。
 このような制度であるため,再販制度の利用に当っては,以下のようないろいろな方法があり得るのです。いずれにせよ,公正取引委員会は,著作物再販制度の硬直的な運用は消費者利益に反するものと考えています。

  • 時限再販(例えば,午後には一部売りの新聞の値引販売を自由とする。)
  • 部分再販(一部の新聞は再販契約の対象としない。)
  • 値幅再販(例えば,10%までの値引販売を自由とする。)

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