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平成28年 委員長と記者との懇談会概要(平成28年4月)

平成28年 委員長と記者との懇談会概要(平成28年4月)

1 日時 平成28年4月5日(火曜) 16時~17時(於 公正取引委員会)

2 概要

(1)説明

 新しい年度に入り,競争政策に関する今後の課題等について発信したいと考え,このような懇談の機会を設けさせていただいた。公正取引委員会のミッションは,競争環境を確保することによって経済成長を促し,消費者利益を確保することであり,本日は,このような観点から,公正取引委員会の課題等についてお話することとしたい。
 課題の一つ目は経済のグローバル化への対応である。カルテル・談合といった反競争的行為や企業結合案件が国際化し,各国当局との協調・連携が重要となっていることから,多国間及び二国間での協議の積極的な実施や連携を推進している。例えば,EUとの関係でいえば,独占禁止法違反行為に関する秘密情報等も含めて情報交換できるような協力協定とするべく正式交渉をするための準備に入ったところである。また,競争政策の国際的な整合性を確保する観点から裁量型課徴金制度について研究会(独占禁止法研究会)を立ち上げ検討するなどの取組を行っている。
 二つ目の課題はイノベーションの推進を図るため競争政策をどう運用していくかである。イノベーションの推進に当たっては競争環境の整備が重要である。公正取引委員会では,昨今のデジタルエコノミーの進展に合わせ,「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」の改正を行ったほか,「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」についても今の時代に合わせて見直すとの観点から研究会(流通・取引慣行と競争政策の在り方に関する研究会)を立ち上げ検討しているところである。
 三つ目の課題は,競争環境の整備,特に規制分野における対応である。平成26年度においては,保育分野について調査を行い,競争政策的な観点から問題点を指摘するなどし,現在は介護分野について調査を行っている。ガイドラインの関係では,「適正な電力取引についての指針」(電力ガイドライン)の改正を行ったほか,公的再生支援が競争に与える影響を最小限にするという観点から「公的再生支援に関する競争政策上の考え方」(公的再生支援ガイドライン)を策定・公表した。また,「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」(電気通信ガイドライン)については改正案に対する意見を募集しているところである。
 四つ目の課題は不公正取引に対する対応である。公正取引委員会には,不利な立場にある中小事業者が不公正な取引を押し付けられないように監視するという機能もある。特に,下請法に関する指導件数(平成27年度においては5,981件)が増えてきており,下請法の運用を厳正かつ的確に行うこととしている。また,消費税の転嫁拒否行為に対しては指導や勧告を行っているところである。

(2)質疑応答

(問) 裁量型課徴金制度の必要性についてどのように考えているか。
(委員長) 現行の課徴金制度では業種や中小企業か否かによって算定率が機械的に決まっているが,業種について製造業か卸売業かなど明確に区分けできるのか,子会社が違反行為者である場合の親会社の関与をどう考えるのか,などの点から実際の運用において不都合が出てきている。また,国際的には,行為の悪質性,事業者の調査への協力度合い等を考慮要因として制裁金や罰金等が課されており,国際的整合性を図る必要もある。このような点を踏まえ,課徴金制度の在り方について独占禁止法研究会において検討していただいている。
(問) EUとの間で第2世代協定の取りまとめに向けた動きがあるが,現行の第1世代協定では限界があるのか。
(委員長) 国境を越えるカルテル等の行為に対する調査に当たっては,各国当局と情報交換や意見交換を行いながら進めていく必要性が高まっている。その中で,いわゆる秘密情報についても情報交換できるようにすることが国際的な反競争的行為を防止し,また,摘発を行う上で重要となる。各国当局との覚書の締結や協力協定の改正を行うことにより,このような情報交換の実現を図りたいと考えている。
(問) 企業結合審査において,ローカルな事業者間の企業結合とグローバルな事業者間の企業結合を審査するに当たっての線引きはあるのか。
(委員長) 特定の企業結合について,ローカルでみるとか日本国内若しくは世界市場でみるといったことを恣意的に決めていることはなく,例えば,「SSNIPテスト」といった価格の引上げが需要にどのような影響を及ぼすかなどによって市場を画定し,その中で競争が実質的に制限されることとなるか否かをみることとなる。
(問) 産業政策の観点からは,日本の国際競争力を高めるため,寡占化を図るべきという考え方もあると思われるが,委員長はどのように考えるか。
(委員長) 企業の競争力は競争があってこそ強くなる。寡占化によって競争を弱め国内での価格支配力を強くすることは,国内市場においてある意味で非常に高い価格付けを可能とし,イノベーションの努力をせずに安易な形で生き延びることを可能とすることとなり,結局は国際的な競争に負け,日本の経済力を弱めることとなる。市場で競争力を失いつつある企業は,新しい分野に進出し,イノベーションの努力を行い,競争力を付けようとする姿勢が重要であり,これが産業構造の転換,構造改革につながると考えている。
(問)「公的再生支援に関する競争政策上の考え方」は「再生支援」を対象としているが,何らかの建前を付け,「再生支援」ではないと言えば,本ガイドラインの対象から外すことが簡単にできるのではないか。
(委員長) 交通網の維持,イノベーションの推進,雇用の維持といった政策目的を達成するための支援であって本ガイドラインにいう「再生支援」のためのものではないと言ったとしても,事実として再生につながっているものについては,競争条件を歪めるようなことは適当ではないという本ガイドラインの考え方を踏まえ,支援機関は当該支援についての説明責任を持つこととなるものと考えている。
(問) 平成27年度の法的措置件数は9件,課徴金納付命令額が約85億円ということであるが,近年,独占禁止法違反事件の処理件数等が減少傾向にあることについて委員長はどう考えるか。
(委員長) 処理状況については,その年度において違反事件として取り上げた案件が,たまたま大きな規模の案件であったなど,どのような案件であったかに依存する。公正取引委員会が摘発努力を弱めているということはない。また,コンプライアンスが進めば違反は少なくなるはずである。公正取引委員会としては,違反行為の摘発だけではなく,企業におけるコンプライアンスの推進に資する活動を行うことも我々の仕事と考えている。

以上

 [配布資料]

「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」の一部改正について(平成28年1月21日公表資料)

「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の一部改正(案)に対する意見募集について(平成28年3月28日公表資料)

「公的再生支援に関する競争政策上の考え方」の公表について(平成28年3月31日公表資料)

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