オーストラリア

オーストラリア競争・消費者委員会は,競争・消費者法の改正法案(相当程度の市場力を有する事業者の反競争的行為の判断基準の変更,協調行為の禁止規定の導入,企業結合の許可手続と認可手続の統合等)が連邦議会を通過したと公表。これに併せて,改正法に関するガイドラインのパブリックコメントを開始

2017年10月18日,2017年10月25日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
法改正に関する公表文(2017年10月18日)
原文
ガイドラインのパブリックコメントに関する公表文(2017年10月25日)
原文

【概要】

 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は,2015年のHarper Competition Policy Reviewの勧告に対応した,競争・消費者法の改正法案2本が連邦議会を通過したことを歓迎する。
 2017年8月23日の競争・消費者法改正法(市場力の濫用)に続き,同年10月18日,競争・消費者法改正法(競争政策レビュー)が議会を通過した。
 前者は事業者による市場力の濫用の禁止の強化を目的とする。相当程度の市場力を有する事業者が反競争的行為を行っているか判断する際の基準を,現行法の「目的」基準から「目的又は効果」基準とすることとした。すなわち,相当程度の市場力を有する事業者が競争を実質的に制限する目的,影響又は影響を与える可能性のある行為をすることを禁止した。後者は,競争を実質的に制限する協調行為(concerted practice)の禁止規定の導入,企業結合計画の認可申請に関する第一審機関をACCCとする改正のほか,カルテル,プライス・シグナリング,排他供給,第三者強制,再販売価格維持,一括適用免除,アクセス及び証拠の規定等,競争・消費者法の広範囲の改正を内容とするものである。
 Rod Sims委員長は以下のとおり述べている。
  ・これら重要な改正法が議会を通過したことは喜ばしい。市場力の濫用の禁止の見直し及び新たな協調行為の禁止規定の導入によって,オーストラリア経済への侵害行為に対する対応能力が改善された。
  ・これまでは企業結合計画の当事者は,ACCCから競争上の見地からの許可を得るか,競争審判所から公共の利益の見地からの認可を得るかを選択することができていたが(注1),今回の法改正によって両機関による許可・認可プロセスは統合され合理化されることとなった。
 ACCCは,今回の改正法の効果的な法令遵守及び法執行のために,市場力の濫用及び協調行為の調査や訴訟を担当する競争の実質的制限チーム(Substantial Lessening of Competition Unit)を設置した。
 前記2本の改正法は数週間以内に施行される予定である。(注2)

(注1)オーストラリアにおいては,企業結合計画の事前届出義務は存在しないが,任意にACCCによる許可又は競争審判所による認可の申請を行うことができる。
(注2)前記2本の改正法は11月6日に施行された。

【背景】

 2013年12月4日,首相及び中小企業庁長官は競争政策の見直しを行うことを公表した。2014年9月22日,Harper Competition Policy Reviewの草案が公表され,2015年3月31日,最終報告書が公表された。

【改正法に関するガイドラインのパブリックコメント】

 2017年10月25日,ACCCは,パブリックコメントを行うために,市場力の濫用,協調行為及び企業結合の認可の規定に関するガイドライン案を公表した。
 また,ACCCは,企業結合計画等の認可申請の様式案についてもパブリックコメントを行うこととした。
 パブリックコメントは,消費者,事業者及びその他の関係者がACCCに意見を提出する機会を設けるものである。最終的なガイドライン及び申請様式はパブリックコメントを踏まえて修正することになる。
 意見提出の期限は2017年11月24日とする。

台湾

台湾公平交易委員会は,クアルコムが競争事業者に対し移動体通信技術に関する標準必須特許のライセンス供与を拒否していた等として,同社に対して是正措置を命じるとともに,234億台湾元の制裁金(同委員会史上最高額)を賦課

2017年10月11日 台湾公平交易委員会 公表(英文公表:2017年10月24日)
原文

【概要】

 台湾公平交易委員会(以下「TFTC」という。)は,2017年10月11日,第1353回委員会において,CDMA,WCDMA及びLTEの移動体通信規格に適合するベースバンドチップ市場における支配的地位を濫用し,公平交易法第9条第1項に違反したとして,米国企業のQualcomm Incorporated(以下「クアルコム」という。)に対して,234億台湾元の制裁金を賦課することを決定した。クアルコムは,他のチップメーカーに対する標準必須特許のライセンス供与を拒否し,さらに,不公正な条項の契約への署名を要求することにより,競争を阻害した。その上,一部の携帯電話会社に対し,ライセンス契約を締結しなければチップを供給しないという「ノーライセンス,ノーチップ」という手段を採り,また,独占取引を行えば値引きを行うという排他的リベートを提供することにより,競争を阻害した。上記の様々な行為を総合的にみると,これらの行為は,直接的又は間接的に他の事業者との競争を妨げ,ベースバンドチップ市場における競争を阻害していた。TFTCは,制裁金の賦課に加え,クアルコムに対し,以下の行為を取りやめることを求めた。
 (1) 競争事業者に対し,チップ価格,販売対象,販売数量,製品モデルナンバーに関する営業秘密の提供を義務付ける,締結済みの契約条項の適用
 (2) 供給業者からチップの提供を受けている携帯電話メーカーに対し,ライセンス契約を締結しなければ,チップを供給しないとする,締結済みの部品供給契約条項の適用
 (3) 排他的取引条件を受け入れた事業者に対し値引きを行うという,締結済みの契約条項の適用

TFTCは,また,クアルコムに対し,次の事項を求めた。
 ・ 処分書の受領後30日以内に,クアルコムの競争事業者のチップメーカー及び携帯電話メーカーに対し,「競争事業者及び携帯電話メーカーは,クアルコムからの通知の受領後60日以内に特許ライセンス契約の改訂又は新しいライセンス契約を提案することができる」旨を書面で通知すること
 ・クアルコムは,誠意と互恵の原則に基づいて協議を行うこと
協議の範囲は,処分書において不公正とされている契約条項を含み,かつ,それに限定されず,また,クアルコムは,意見の相違を解決するため,協議の相手方が訴訟又は独立した第三者の仲裁に訴えることを制限してはならない。さらに,クアルコムは,処分書の送達後6か月ごとに,TFTCに対して協議の結果を報告しなければならず,また,改訂した特許ライセンス契約又は新しいライセンス契約について,改訂又は締結後30日以内にTFTCに報告しなければならない。

 TFTCは,2015年2月中旬に,本件についての調査を職権により開始した。台湾は,チップ製造,携帯電話のOEMから他メーカーの携帯電話の販売までの完全なサプライチェーンを有する主要な携帯電話製造国であるため,関係する範囲は広範囲にわたった。調査の範囲は,(自社ブランドメーカー及びOEMメーカーを含む)国内外の携帯電話メーカー,チップの供給業者,通信機器メーカーなど,20社を超えた。それと並行して,TFTCは,業界の所管官庁及び関係する研究機関の意見を求め,海外競争当局と意見交換を行った。

 移動体通信とは無線通信の一種であり,音声及びデータ転送を行うためには,所定の標準通信プロトコル(通信接続手順)に準拠した端末装置(携帯電話)及び鍵となる内蔵部品が必要である。ベースバンドチップは移動体通信を可能にするための鍵となる部品の一つである。台湾では2005年に3G移動体通信サービスが開始された際,主流の通信規格にはCDMAとWCDMAが含まれていたが,その後,2014年に4Gの移動体通信サービスが開始された際は,主流の通信規格はLTEであった。各世代の通信規格は,相互互換性はないが後方互換性は有していた。しかし,様々な移動体通信ベースバンドチップを製造するためには,規格ごとのライセンスが必要であり,本件においても,移動体通信ベースバンドチップの製造販売と,CDMA,WCDMA及びLTEの移動体通信規格の特許ライセンスが必要なことは密接に関係している。

 クアルコムは,CDMA,WCDMA及びLTEの移動体通信規格に関する標準必須特許(SEP)を相当数保有しており,同時に,CDMA,WCDMA及びLTEの移動体通信規格のベースバンドチップ市場における独占的な事業者でもあった。移動体通信規格市場で市場支配的な地位にある同社が,競争を阻害するために,競争事業者のチップメーカーに対し,標準必須特許のライセンス供与を拒否し,不公正な契約でライセンス料を課した結果,携帯電話メーカー及び競争事業者のチップメーカーの管理コストが増加した。また,携帯電話メーカーは,特許ライセンス契約を締結しなければベースバンドチップが供給されなかったため,クアルコムのライセンス条件に同意する以外に選択肢はなかった。その一方で,クアルコムは,主な取引先に対し,排他的取引条件を受け入れるという条件で,ライセンス料の値引きも行った。これにより,ライセンスを得られなかった競争事業者は,取引の機会を喪失又は減少させ,あるいは価格競争をすることができなくなった。クアルコムの標準必須特許が必要だが,ライセンスを得られない競争事業者は,チップ価格,顧客及び販売数量に関する秘密情報の提供を要件とするクアルコムとの契約を締結せざるを得なかった。すなわち,制限的な契約を締結しなければ競争事業者に対するライセンス供与を拒否し,ライセンス契約を締結しなければベースバンドチップの供給を拒否し,特定の事業者に対し排他的取引条件を受け入れた場合にライセンス料の値引きを提供することにより,クアルコムは,競争事業者のベースバンドチップ価格を上昇させ,競争事業者のベースバンドチップに対する取引先の需要を減少させた。その結果,クアルコムの競争事業者は競争から排除され,クアルコムの関連市場における支配力は更に強固なものとなった。クアルコムの行為を総合的にみると,ベースバンドチップ市場における競争を阻害し,台湾の取引秩序に重大な影響を与えたことは明白である。

 本件違反行為が行われていた期間は少なくとも7年間に及び,この期間内において,クアルコムは台湾の企業から合計約4000億台湾元のライセンス料を得ていたほか,台湾の企業がクアルコムに支払ったベースバンドチップの購入代金は約300億ドルであった。クアルコムの売上高は1億台湾元を超えていることから,本件は重大な違反行為に該当する。また,
 ・違反行為の動機,目的,予期した不当な利益
 ・違反行為がCDMA,WCDMA及びLTE規格のベースバンドチップ市場に与えた影響
 ・違反行為が取引秩序に影響を与えた期間の長さ
 ・違反行為によって実際に得た利益
 ・事業規模,経営状況,市場の状況
 ・過去の違反行為の状況
 ・反省及び調査への協力の程度
を勘案した後,「公平交易法第9条及び第15条に違反する重大事案の制裁金算定規則」に基づいて,前記の制裁金を同社に賦課した。本件の制裁金額は,TFTC史上最高額である。TFTCは,本件処分が,今後,企業による不公正な競争を防ぎ,移動体通信業界の健全な競争を促進させることを期待している。

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