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データ市場に係る競争政策に関する検討会と現在の競争政策への示唆

データ市場に係る競争政策に関する検討会と現在の競争政策への示唆

松島 法明(CPRC所長・大阪大学社会経済研究所教授)

  「データ市場に係る競争政策に関する検討会」(以下、本検討会)では、一部の企業が様々なデータを解析したものを各事業で利活用している現状を踏まえて、投入物としてのデータに着目して、データ市場について検討を行った。なお、本検討会におけるデータ市場とは、データの生成から利用に至る各段階における様々なデータに係る取引に加えて、データを活用した商品・役務が最終消費者に提供される場も含めた「データ流通の場」と広く捉えている。
 本検討会では、データを「産業データ」と「パーソナルデータ」の2種類に分類し、各データ市場における論点を整理した。
 産業データについては、具体事例として扱った農業分野と海運分野における取組を踏まえて、データ取引に係る権利義務の明確化やデータ取引に直接関与する事業者のデータ利用に係る懸念に対応した環境整備の必要性を指摘した。その際、データ集積により利便性が向上する特性を考慮して多くの関係者が関与できる環境の整備、データ生成・提供の誘因を確保しつつデータの利用制限を可能な限り緩めることなど、データの非競合性を踏まえて望ましいと考えられる取組を検討して、これら取組を実行に移す際に障害となる点についても指摘した。
 産業データ市場において懸念されることは、従来から競争政策で問題視されてきた点と重なる点が多く、従来の考え方を援用しやすい。権利関係が明確になっていないためにデータ利用の範囲を不当に制限すること、データ利用を制限することで競争者を排除する可能性、データ共有という協調領域と製品市場における競争領域の境界線が曖昧になることで生じる競争政策上の懸念などは、これまでも異なる文脈で問題とされてきた。従来通りの政策運用で概ね問題なく取り扱える課題として産業データ市場について整理できたことは、一定の意義があったと考えている。
 パーソナルデータが扱われる市場に係る議論においては、European Data Protection Supervisor (EDPS)が2014年に公表した資料に依拠して、競争(Competition)、データ保護 (Data Protection)、消費者保護 (Consumer Protection)の3要素について調和の取れた議論が必要であることを意識しながら望ましいデータ市場環境について検討した。主な指摘内容は、データの移転可能性(ポータビリティ)や相互運用性(インターオペラビリティ)を通じて特定の事業者によるデータ占有を防ぐことへの期待、その実行により生じる費用が参入制限効果など望ましくない帰結をもたらすことへの懸念、事業者が個人情報を取扱う際に適切な説明責任を負うことや意図しないデータ集約・統合により個人が不利益を被らないようにすることへの配慮、データ取引市場が成熟している状況においてはデータ取扱事業者の寡占化が懸念されることから何らかの事前規制も必要とされることである。

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