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ディスカッション・ペーパー

>平成16年度 >

動態的競争が企業利益率に与える影響に関する実証分析

動態的競争が企業利益率に与える影響に関する実証分析

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「動態的競争が企業利益率に与える影響に関する実証分析」(2004年11月)
 泉田成美(東北大学大学院経済学研究科助教授,競争政策研究センター客員研究員)
 船越誠(競争政策研究センター研究員)
 高橋佳久(競争政策研究センター研究員)
概要
 本研究では,公正取引委員会の集中度調査データを利用して,市場における動態的な競争の程度を表す指標としてマーケットシェアの変動の大きさを表す「シェア変動指標」を定義し,こうした動態的な競争の大きさが企業の利益率の説明要因に対してどのような影響を与えるのかについて実証分析を行った。すなわち,動態的な競争の程度を表す指標であるシェア変動指標は同時に市場における競争圧力の大きさを表す代理変数として用いることができると考えることによって,競争圧力の大きさにより,企業の利益率の説明要因に有意な差が観察されるのかどうかを実証的に検討した。
 その結果,競争圧力の大きな市場では,企業の利益率に対して影響を与えるのは労働生産性の変化率で表される効率性の改善と,企業成長率のみであり,集中度を表すマーケットシェア・ハーフィンダール指数や,参入障壁を表す変数は企業の利益率に対して統計的に有意な影響を与えていないことが示された。すなわち,競争圧力の高い市場では効率性および成長を達成した企業のみが高い利益率を獲得しているのであり,市場支配力によって超過利益を獲得しているとは考えられないとの推定結果を得た。
 一方,競争圧力の小さな市場では,効率性や企業成長ばかりではなく,マーケットシェア・企業規模や,参入障壁の存在が企業の利益率に対して統計的に有意な正の影響を与えていることが確認された。すなわち,競争圧力の小さな市場では,効率性や成長性をコントロールしてもなお市場支配力の存在が超過利益の発生原因となっていることを否定することができないとの結論を得た。
 さらに,利益率の持続性に関する回帰分析を行ったところ,競争圧力の小さな市場では超過利益率が統計的に有意に持続する一方で、競争圧力の大きな市場においては超過利益率の持続性が観察されないという結論を得た。すなわち,競争圧力の大きな市場では,超過利益が発生したとしてもすみやかに平均的な水準に収束する傾向があることが確認された。
 以上の結論から,競争政策において反競争的な効果が存在するかどうかを判断するときには,シェア変動で表されるような動態的な市場の競争状況を考慮に入れることが望ましいと考えることができよう。
CPDP
14-J

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