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第110回ワークショップの概要

第110回ワークショップの概要

 第110回ワークショップ(中間報告)12月2日(金曜)に開催されました。報告等の概要は以下のとおりです。

(1) 「占有率リベートの反競争性に関する分析の研究計画」の中間報告
 (「拘束条件付き取引の反競争性に関する経済分析」からテーマ変更。)

 報告者
 (北村紘CPRC客員研究員・札幌学院大学経済学部准教授)
 (大久保直樹CPRC主任研究官・学習院大学法学部教授)
 (内野雅美CPRC研究員・取引調査室長)
 (鈴木隆彦CPRC研究員・経済調査室)

 平成23年度の共同研究の一つである本研究は,占有率リベート(注1)の競争事業者の排除効果のほか,占有率リベートが市場に与える様々な効果を検証することを目的とするものです。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,本研研究の問題意識,これまでの研究成果,今後検討すべき課題と検討方法及び報告書の取りまとめイメージについて報告がありました。
 報告を受け,参加者から,占有率リベートに関する日米欧の比較に関して,欧米では占有率リベートについては費用との関係に着目して規制しているとの説明であったが,我が国では欧米と異なり,排除型私的独占の場合,主として排除性に着目しており,不当廉売の場合,費用割れに着目して規制する法体系となっているので,単純な比較はできないのではないかとのコメントがなされました。これに対して,報告者から,排除型私的独占のガイドラインでは費用に関する言及はないが,このことは費用の関係を考慮していないということではないとの回答がありました。
 また,参加者から,占有率リベート契約によって,メーカーと川下企業との二重マージンの問題(二重の限界化(注2)))がどのように解消されるのかとのコメントがなされ,報告者から,占有率リベート契約によって川下企業への卸売価格が低下することになるため二重マージンの問題が解消されるとの回答がなされました。さらに,参加者から,川下企業が独占であるとすると,むしろ川下企業からいずれかのメーカーに対しリベートを要求する場合も考えられるのではないかとのコメントがなされました。これに対し,報告者から,今回の研究では垂直的外部性に着目するため,そうした事態はあえて捨象しているが,今後そういった点についても検討したいとの回答がなされました。
(注1) メーカー等が,流通業者等の一定期間における取引額全体に占める自社商品の取引額の割合や流通業者の店舗に展示されている商品全体に占める自社商品の展示の割合(占有率)に応じて供与するリベートをいう。
(注2) 垂直連鎖における複数段階の市場において競争が不完全なとき,それぞれの市場においてメーカー及び小売店により限界費用を上回る価格設定がなされるため,価格は二重に限界費用を上回る。これに伴い,生産量(=販売量=消費量)は完全競争均衡に比べ二重に過小になる。これを二重の限界化という。

(2) 「ネットワーク産業に関する競争政策」の中間報告

 報告者
 (泉水文雄CPRC客員研究員・神戸大学大学院法学研究科教授)
 (柳川隆・神戸大学大学院経済学研究科教授)
 (品川武CPRC研究員・第四審査長)
 (木村智彦CPRC研究員・第四審査)
 (植田真太郎CPRC研究員・第四審査)

 平成23年度の共同研究の一つである本研究は,先行研究の整理や調査などにより,ネットワーク産業に関する競争政策,特にマージンスクイーズの問題について考察し,我が国の競争政策の立案・執行への示唆を得ることを目的とするものです。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,最初に,研究の問題意識について説明がなされ,次に,これまでの研究成果と今後検討すべき課題についての説明がなされ,最後に,報告書取りまとめのイメージについての説明がなされました。
 報告を受け,参加者からTelefonica事件とDeutsche Telecom事件の排除措置の内容はどのようなものかとの質問がなされ,報告者から,具体的な行為は明示されておらず,この点は下流市場での価格を引き上げるよう命じると経済厚生が下がる可能性があるので,排除措置の内容としての悩みどころであるとの回答がなされました。
 また,参加者から作為命令の内容についてEU等ではどのように決めているのかとの質問がなされ,報告者から,EUでは数年前に導入されたコミットメント(注1)が用いられることがあり,この手続は,当事者の意向により問題解消措置が自由に設計できるというメリットがある一方で,我が国の制度では,名宛人は命令案の段階では具体的に何をすればよいか分からず,どうすれば排除措置の内容を満たすのかが分からないので,コミットメントのように命令を出す前に競争当局と名宛人と命令の内容を調整するのも一つの方法であるとの回答がなされました。
 さらに,参加者からEUが最近コミットメントを導入した背景について質問がなされ,報告者から,決定に至るまで時間が掛かるので早期解決を図るということと,措置の柔軟性を確保することにあるとの回答がなされました。
 最後に,参加者から,マージンスクイーズは電気通信以外の産業で生じ得るかについて,具体的にはEssential Facility理論(注2),ネットワーク外部性(注3)の議論が当てはまる産業にも同様の問題が生じるかについて検討すべきではないかとのコメントがなされました。
(注1)違反行為の審査の過程で生じた懸念について,対象事業者が当該懸念を解消するための措置を講じる旨を申し出た場合に,EU委員会はこれを受諾することができ,審査を継続する根拠が失われた旨を宣言する決定をいう。
(注2)ある事業に不可欠な施設を保有する者は,競争者に対して平等かつ合理的な条件でその施設を提供しなければならず,正当な理由がないのに提供を拒絶することは競争法違反となる理論をいう。(注3)ネットワーク型サービスにおいて,加入者数が増えれば増えるほど,利用者の便益が増加するという現象をいう。

(3) 「企業の提携・部分的結合に関する研究2」の中間報告

 報告者
 (荒井弘毅CPRC次長)
 (松八重泰輔CPRC研究員・経済調査室)

 平成23年度の共同研究の一つである本研究は,前年度の研究「企業の提携・部分的結合に関する研究」において仮定した企業が部分的結合を行う理由(「知識移転のみが部分的結合を行う理由」)が限定的ではないかという問題意識から,それ以外の要素を考慮した経済理論モデルを作成するため,部分的結合の理由を,平成22年度の株式取得事例(公正取引委員会に株式取得の届出書の提出があったもの)をサンプルとして経済学の概念で分類整理することを試みています。
 報告者から,はじめに,株式取得後議決権が100%となる結合を全体結合,それ以外を部分的結合として,部分的結合を経済学の概念で九つ((1)研究補完,(2)企業規模,(3)製品戦略,(4)信頼醸成,(5)資源融合,(6)経営掌握,(7)資金援助,(8)純粋投資,(9)形式理由)に分類整理したとの報告がなされました。
次に,部分的結合を行った企業と全体結合を行った企業を,グラフ及び図表を用いて整理し,九つの概念をそれぞれ比較することで,生産関数要因,需要関数要因及び戦略的要因の三つの要因に分類し,また,企業が部分的結合を選ぶことによって,競争促進的又は競争制限的な効果を生じる可能性があることが報告されました。
 最後に,今後の方針として平成22年度だけではなく平成23年度の株式取得事例を用いることでサンプル数を増やし,部分的結合と全体結合の間での結合理由の顕著な違いがみられる経済学的要因について,事例研究(ケーススタディ)を行う方針であるという報告がなされました。
 報告を受けて,参加者から,企業が部分的結合を行う事業は,その事業が成長段階,成熟段階又は衰退段階のどの段階にある場合が多いのかというコメントがなされ,報告者から,詳細については現在調査中であるが,その事業が成長段階にある場合が多くみられるとの回答がなされました。
 また,参加者から,部分的提携に関する分類として,株式取得による部分的結合と契約による部分的提携があるが,本研究において株式取得による部分的結合を検討対象に選んだのはなぜかというコメントがなされ,報告者から,本研究では,前年度の研究成果を踏襲して,株式取得事例の内容に基づいて概念を整理したため,株式取得による部分的結合を選んだとの回答がなされました。一方で,今後,契約による部分的提携の側面からも可能であるならば研究を進めていきたいとの回答もなされました。
 最後に,参加者から,ケーススタディとして「契約による部分的提携」との比較,また,「水平結合と垂直結合による相違」による比較を行えば興味深い結果が出るのではないかというコメントがなされ,報告者から,そのような方法も検討したいとの回答がなされました。

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