第142回ワークショップが11月6日(金曜)に開催されました。報告等の概要は以下のとおりです。
「諸外国における競争法適用除外制度の動向及び同制度撤廃が市場に与える影響」の中間報告
報告者
(大久保直樹 CPRC主任研究官・学習院大学法学部教授)
(齊藤高広 CPRC客員研究員・金沢大学人間社会研究域法学系教授)
(佐藤英司 CPRC客員研究員・福島大学人文社会学群経営学類准教授)
(多田英明 CPRC客員研究員・東洋大学法学部教授)
(洪淳康 CPRC客員研究員・金城学院大学生活環境学部准教授)
(和久井理子 CPRC客員研究員・立教大学法学部特任教授・大阪市立大学大学院法学研究科特任教授)
(藤井宣明 CPRC研究員・調整課長)
(十川雅彦 CPRC研究員・調整課)
(口ノ町達朗 CPRC研究員・調整課)
(工藤恭嗣 CPRC研究員・経済調査室)
(小野香都子 CPRC研究員・経済調査室)
(岩宮啓太 CPRC研究員・経済調査室)
(川島裕司 CPRC研究員・経済調査室)
平成27年度の共同研究の一つである本研究は,我が国における適用除外制度のうち,研究対象を外航海運及び国際航空に係る適用除外制度の2分野に絞り,EU,米国,韓国等の諸外国における競争法適用除外制度の現状等を調査することを目的としています。
今回のワークショップにおいては,報告者から,研究計画WS以降のこれまでの主な研究について,法学パートでは,外航海運及び国際航空に係る適用除外制度に関する,諸外国における制度の概要や,ヒアリング調査の結果について,また,経済学パートでは,外航海運適用除外制度に関するこれまでのサーベイの結果に関する説明のほか,外航海運に関する実証分析について, EU適用除外制度の廃止による影響(海運同盟による輸送量の増減)に関する分析を行う予定である旨の説明が行われました。
これらの報告を受け,参加者から,[1]適用除外制度の在り方や,制度の適用の仕方・仕組みは国・地域によって様々であるが,これらの背景としてはどのようなものが考えられるかとの質問がなされました。これに対し,報告者からは,米国では,業界の力が強く,海運法が成立する前からconferenceが存在していたほか,韓国では,日韓・韓中路線を中心に中小の事業者が多く,仮に当該路線の海運同盟が廃止され,中小の船社が潰れ大手事業者のみが残った場合には,荷主に影響が及ぶことから,海運同盟は廃止できないと政府が考えていることが想定されるなど,各国の制度には国ごとに背景の違いがある。このため,各国の制度の沿革については,今後精査していきたいとの回答がなされました。
また,[2](1) EU外航海運の適用除外制度廃止の経緯について,当該制度廃止を船社等に説得させるために,どのような議論が行われたのか,また,(2) 我が国の適用除外制度は不透明な印象があるが,これは制度的な問題なのかとの指摘がありました。これに対し,報告者から,(1)について,船社側は,海運同盟の存在により運賃の変動を抑えられると主張したものの,運賃の変動は,適用除外制度の廃止前から始まっていたことなどから,船社側が自らの主張に対する裏付けができなかった等の経緯があるとの回答がなされました。また,(2)について,公取委が国交省に競争上問題のある協定に関し措置請求を行うときは官報に公示しなければならないこととされているため,この意味では透明性は確保されているが,国交省が国際航空カルテルを認可した事実そのものや,当該認可の理由が公表されていないことなどを踏まえると,今後,廃止を含め,制度の透明度を高めるための見直しを行うことが望ましいとの回答がなされました。
さらに,[3](1)それぞれの国・地域を結ぶ航路における適用除外の対象や,発着地以外の国に影響が及ぶ場合の競争法の適用などについては,どのように整理されているのか,また,(2) 二つの国の港湾を結ぶ航路について,当該外航海運カルテルに係るそれぞれの国の判断が異なる場合,それを調整するメカニズム等はあるのか,との質問がなされました。これに対し,報告者から,(1)について,適用除外制度の対象については,通常,各国の港湾と外国の地点を結ぶ航路であって,発着両方を含んでおり,我が国については,本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路が適用除外制度の対象となっている。また,他国の港湾間を結ぶ航路であって自国に影響を及ぼすカルテルについて,競争法を適用するかどうかについては,独禁法の域外適用ないし適用範囲の問題であり国により異なる立場がとられているとの回答がなされました。また,(2)については,同じカルテルがある国の法令(競争法を含む)で禁止され,他国の法令によっては禁止されないという場合,第二国はカルテルを禁止しないというのに過ぎず当該カルテルを行うことを国が要求しているわけではないのであるから,法的な衝突(コンフリクト)が生じるわけではないこと及び事実上は,発着するいずれかの国が一定の行為を禁止していれば,事業者としてはその航路については当該行為をやめる対応を採ると想定されることを内容とする回答がなされました。また,事実上の影響について,国際航空に関しては,EU及び豪州がそれぞれの競争法の適用除外を撤廃したことに伴い,米国が,米国とEU及び豪州との間の路線におけるIATA運賃協定の適用除外を廃止することを決定するという事例が存在するとの回答がなされました。