第15回ワークショップが10月29日(金曜)に開催されました。報告等の概要は以下のとおりです(かっこ内は担当客員研究員及び研究員を表す。)
(1)「競争,イノベーション,生産性に関する定量分析」に係る中間報告
(東京大学先端科学技術研究センター助教授 元橋 一之 氏)
(船越 誠 公正取引委員会競争政策研究センター研究員)
(藤平 章 公正取引委員会競争政策研究センター研究員)
本研究では,「生産・出荷集中度調査」(公正取引委員会)と「企業活動基本調査」(経済産業省)のデータを接続し,競争,イノベーション,生産性に関する定量的な実証分析を行っています。今回のワークショップにおいては,先行的に,集中度調査の平成9年度~平成13年度の個票データからシェア,HHI,シェア変動指標などの競争指標を算出し,さらに企業活動基本調査の財務データからTFP(全要 素生産性)を算出して,それらの指標から生産性と競争の関係についての計量分析を行った結果を中心に報告が行われました。
(2)「技術標準への競争政策-米国,欧州の競争政策の動向分析を中心に-」に係る海外出張報告
(一橋大学イノベーション研究センター教授 長岡 貞男 氏)
本研究については,フォーラム活動を通じた標準策定を中心に技術の標準化プロセスについて調査研究を行っています。9月から10月にかけて,米国及び欧州の競争政策当局等を訪問し,技術標準と競争政策に関する主要な論点,例えば,プールの対象となることが効率的な技術,標準にかかる必須特許の効率的なライセンス政策と標準機関の役割,技術標準に関する反競争的な行為の類型と競争法の適用範囲等といった米国及び欧州の現状等についてヒアリングを実施したため,出張報告が行われました。
オーガナイザーである長岡教授から,(1)問題の所在の説明,(2)現在までの調査経過の報告,(3)特許プールを競争法に基づいて調査する際の基本的な分析視角,とりわけ特許プールを検討する際の特許間の関係にかかる3分類(必須特許,補完特許,代替特許)の整理,(4)標準設定前であって競争圧力が働いている状況下でライセンス条件が決定されることが競争政策の観点からは望ましいとの検討が行われました。
青木助教授からは,米国司法省および連邦取引委員会におけるヒアリングに基づき,特許プール,標準化機関・活動,知的財産にかかるヒアリング結果公表作業の進捗状況について報告が行われた。米国競争当局が,特許プールや標準化機関のIPRポリシー(知的財産権の取扱いに関する方針)の内容次第では,イノベーションへの悪影響や買手独占への懸念があると考えていることなどが紹介されました。また,現在の動きについて,都度合理の原則に基づいて判断していく意向であること,従来の特許プールについてのビジネス・レビューレターは各事件における事実関係の説明とそれに対する判断結果を示したものであってルールを一般に示したものとみられるべきものではないことなどの,ヒアリング結果が紹介されました。
和久井助教授からは,通信分野における標準技術へのアクセス問題の対処・解決状況について,とりわけ(1)欧州委員会・競争総局による競争法運用と,(2)欧州所在の公的標準化機関(InternationalTelecommunication Union Standardization Sector (ITU-T),European TelecommunicationsStandards Institute (ETSI)など)のIPRポリシー運用・改訂等の動向,(3)企業らによる特許プール構築・運営の状況などにつき,これら標準化機関,英国政府・標準化機関(DTI・BSI,NationalStandardization Strategic Framework担当者ら),企業等でのヒアリングを踏まえた報告が行われました。
コメンテーターである山根教授は,本テーマにかかる欧米での調査結果も踏まえつつ,(1)欧米でイノベーションに対する考え方および標準の起源や役割は異なるので,標準にかかる現状や政策を調査・研究する際には,その違いを踏まえる必要性があることを指摘しました。さらに,(2)日本政府ないし公取委としては,いかなる視角でこの問題に取り組むのか - 日本企業の産業力増強や他国企業への技術アクセスを容易にしようということなのか,中小企業らのアクセスを促進しようということなのか,技術標準にかかるあるべき国際的秩序をともに考えていこうということなのか - 精緻化していく必要性も提起しました。
討論においては,(1)「RAND」の具体的内容・基準を明らかにする試みは欧米の競争当局によっても,標準化機関によっても,行なわれていないこと,(2)欧米競争当局のヒアリングによれば特許プールと標準技術をカバーする特許に対するアクセス問題(ライセンス強制,価格規制)に関してはアプローチがかなり近似していること,(3)現実にいかなる問題が生じ,どの程度深刻であるのかの実証研究・調査が日本においても国際的にも必要であることなどが,話し合われました。