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第64回ワークショップの概要

第64回ワークショップの概要

 第64回ワークショップが10月24日(金曜)に開催されました。報告等の概要は以下の通りです。(かっこ内は担当客員研究員及び研究員を表す。)。

 「イノベーション競争と独禁政策」の最終報告

 (CPRC主任客員研究員・一橋大学イノベーション研究センター教授 長岡 貞男 氏)
 (一橋大学経済学研究所教授 青木 玲子 氏)
 (大阪市立大学大学院法学研究科准教授 和久井 理子 氏)
 (東洋大学及び日本大学非常勤講師 伊藤 隆史 氏)
 (山形大学人文学部法経政策学科講師 真保 智行 氏)

 平成19年度の共同研究として行われてきた本研究は,研究開発が重要な産業において合併が起こった際,イノベーションにどのような影響が与えられ,イノベーション競争(研究開発競争)を競争政策上どのように判断するのかという問題について,欧米の独禁当局による実務上の取扱いの実態,米国における法理論上の議論及び実際の企業結合事例における研究開発動向の変化という3つの観点から調査を行い,独禁政策におけるイノベーション市場に対する知見を蓄積するという目的で行われました。
 報告者から,調査・分析の結果,以下にまとめる概要についての知見が得られたとの報告がありました。(1)米国の独禁当局が合併による研究開発への悪影響について言及した事例は最近では全体の約4分の1にもなっているが,そのほとんどは,研究開発と製造販売の両方への悪影響に言及がなされているものであった。(2)欧州の企業結合実務においては,合併が研究開発へ与える影響を検討した事例は少ないことが確かめられた。(3)合併とイノベーション競争に関する法理論上の議論についてサーベイした結果,イノベーション競争への影響を認めた介入を行うべきか否かについては,なお賛否両論があることが分かった。(4)特許のマイクロデータ分析によって,合併後に共同研究がどの程度発生するか,またそれが研究者の異動や統合後の時間とどのように関係しているかなど,合併のシナジー効果などについて,具体的な検証を行うことが可能であることが分かった。
 以上の研究成果に対し,出席者から,米国の合併審査の現場では,製品市場と研究開発市場の両方を勘案するという調査報告に対し,両市場を比較した場合,研究開発市場の方は大学を含め広範な分野から競争者や参入者の可能性があると考えられるが,それについて当局はどのように対処しているのか,という質問が出されました。これについて報告者からは,米国競争当局の方針では研究開発に従事する能力が特定の資産等で識別できる場合にのみイノベーション市場を画定することになっており,同時に,「2年以内に関連市場に参入する」者のみを検討対象に含めるという方針が,研究開発に関して,その中で悪影響が識別可能なかたちで市場や競争・参入者の範囲を確定する上で重要な意義を有しているとの説明がなされました。このほか,医薬品(GenzymeとNovazyme)における合併審査の際,合併による研究開発の向上が効率性の抗弁として認められたと紹介があったが,他に同様のケースはあるのか,という質問に対しては,本件は純粋に研究開発競争への影響のみが問題となったケースであり,製品市場での競争への悪影響と研究開発の効率性の潜在的なトレードオフを評価したケースではないこと,また,効率性は考慮されると一般的に説明されているが,研究開発を促進するという事情は,競争への悪影響が示されたにもかかわらず問題の企業結合を合法とするという意味での「抗弁」としては機能していないということが,少なくとも公表文書を基礎とした調査並びに今回の聴取調査の結果であるとの説明が補足的になされました。

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