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第89回ワークショップの概要

第89回ワークショップの概要

 第89回ワークショップが3月26日(金曜)に開催されました。報告等の概要は以下のとおりです。

(1)「排他的取引契約における反競争効果と競争促進効果の考察」の共同研究最終報告

 (CPRC客員研究員・東京大学大学院経済学研究科准教授 柳川範之氏)
 (CPRCスチューデントフェロー・東京大学大学院経済学研究科 大木良子氏)
 (CPRC客員研究員・東北大学大学院法学研究科准教授 滝澤紗矢子氏(都合のため欠席))
 (CPRC研究員・経済調査室 松八重泰輔氏)

 平成21年度の共同研究の一つである本研究は,先行研究の整理や調査などにより,排他的取引契約に反競争効果があるとみなされるのはどのような場合であるのかについて考察することを目的とするものです。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,問題意識と基本モデルの説明,伝統的な見解や最近の研究の分析対象や主要結論が説明されました。その後,本研究の提案として,下流市場から上流市場への排他的取引契約を提案した場合について説明されました。その際,下流市場の既存流通業者と上流市場の既存生産者との排他的取引契約が下流市場の新規流通業者に与える効果についての検討がなされました。まとめとして,第一に,排他的取引契約を申し込む企業数によって,排除均衡が生じる場合があることが説明されました。第二に,差別財の場合において,排他的取引契約を用いて,上流市場の効率的な新規参入を排除することが可能な領域は,下流市場に効率的な新規参入がある場合に排除可能な領域と比べて大きいことが説明されました。最後に,多段階構造において,独占既存企業は当該市場の上流市場の企業,又は下流市場の企業に排他的取引契約を申し込んだとしても新規参入企業の排除が可能な場合,申し込む企業数に依存するが,新規参入に直面している独占既存企業は,当該市場よりも上流市場の企業へ申し込む方を選好するということが説明されました。
 報告を受け,参加者から,排他的取引契約が成立しているときに新規参入があったとしても,排除均衡が完全に生じていないとは言い切れないのではないか,例えば排他的取引契約が成立している際には,価格がより上昇する場合があるのではないかという質問があり,報告者から,そういう場合もありうるとの説明がなされました。また,競争政策の観点から排他的取引契約を結ぶために補償料を支払うといった場合に,そのような補償料の支払いを禁止してはどうかという質問に関して,仮に禁止したとしても今度は契約条件の中に同様の効果を持つ条項を入れ込むので本質的な解決手段にはならないのではないかとの返答がなされました。さらに,参加者から,競争政策上役立つように,それぞれの状況で価格はどうなっているのか,総余剰はどうなるのか,どんなときに社会厚生上マイナスになるのか明らかにしてほしいとの指摘がなされました。

(2)「マイクロソフトによる非係争条項の効果 ― 垂直的関係の技術開発のインセンティブの研究 ―」の共同研究最終報告

 (CPRC客員研究員・大阪大学社会経済研究所准教授 松島法明氏)
 (CPRC客員研究員・大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授 石橋郁雄氏)
 (CPRC客員研究員・神戸大学大学院法学研究科教授 泉水文雄氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 荒井弘毅氏)

 平成21年度の共同研究の一つである本研究は,マイクロソフトによる非係争条項の効果を分析することにより,垂直的関係の技術開発のインセンティブについて考察することを目的とするものです。
 今回のワークショップにおいては,報告者から,マイクロソフトの非係争条項をモデル設定し,(1)OEM業者の技術がマイクロソフトのOSに導入され,OEM業者の製品品質が向上する,(2)OEM業者の技術がマイクロソフトのOSに導入され,マイクロソフトの限界費用が減少する,(3)OEM業者の技術がマイクロソフトのOSに導入され,OEM業者の限界費用が減少する3つのモデルを設定した際に価格,限界費用等に与える影響についての分析結果及びその解釈に関する説明等がされました。
 報告を受け,参加者から,問題は非係争条項の有無が企業行動に影響を与えるかどうかということにあるとの指摘がなされました。また,非係争条項により研究開発意欲が阻害されたとしても,時間的ズレがあるのではないかとの指摘がなされました。さらに,単独行為においては,中小企業ではなく,デファクトスタンダードをつかんだ大企業がやるかどうかが問題になることを見ていくべきではないかとの指摘があり,報告者から,今回の研究では前提としてそのようなケースは想定していないとの返答がなされました。他にも,非係争条項により,フリーライドするインセンティブがOEM企業に出てきているかという質問に関して,多少はあるが,川下における数量競争は存在しているとの返答がなされ,現実問題として非係争条項があるからスピルオーバーが起こるのがどこまでリアルなことなのかという指摘がなされました。そして,本研究から見て公取委の審決はどう評価できるかという質問に関して,報告者から,非係争条項によりインセンティブが下がりうるという意味で審決と本研究の整合性はあると考えられるとの説明がなされました。最後に,非係争条項により訴訟に伴う費用が低下するということもモデル設定に盛り込んではどうかとの指摘がなされました。

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