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第98回ワークショップの概要

第98回ワークショップの概要

 第98回ワークショップが11月26日(金曜)に開催されました。報告等の概要は以下のとおりです。

(1)「知的財産権法と独占禁止法の交錯状況に関する研究(マルチプルライセンスにおけるグランドバック条項の研究)」の中間報告

 (CPRC客員研究員・政策研究大学院大学准教授 畠中薫里氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 西村元宏氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,グラントバック条項が研究開発競争に及ぼす影響について,同条項に係る競争法上の規範を踏まえ,経済モデルを構築して分析するものです。
 今回のワークショップにおいて,昨年度の共同研究ではライセンサーとライセンシーの二者間(バイ)の関係に焦点を当てた基本モデルを構築し,グラントバック条項が研究開発投資のインセンティブに与える影響について分析を行ったところ,競争法の観点からグラントバック条項が問題とされるケースの多くは,パテントプールを典型とする,独占的地位を持つライセンサーが多数のライセンシーに並列的にグラントバック条項が課す状況であり,昨年度の分析結果では競争政策上活用する余地が少ないことから,今回研究においては,昨年度の基本モデルをライセンサーと多数のライセンシー(マルチ)の関係に拡張することによるグラントバック条項が研究開発投資のインセンティブに与える影響について分析した結果を報告されました。
 報告を受け,参加者からは,競争状態にある企業の場合,ライセンスを出すことによって利潤が減るのではないかというコメントがなされました。それを受け報告者からは,現在構築しているモデルではロイヤルティが固定となっているため,ライセンシーの数が増えると一社当たりの利潤は減るという回答がなされました。
 また,製品が差別化されているモデルかという質問について,報告者からは,同質財であり,技術市場及び生産市場は全て競争的な状態であると仮定しているという回答がなされました。
 なお,報告者からは,今回のモデル構築は実施料率を外生化して構築しているため複雑となっていることから,内生化することによるモデル構築を引き続き試みたいという報告がなされました。

(2)「知的財産権法と独占禁止法の交錯状況に関する研究」の中間報告

 (CPRC主任研究官・名古屋大学大学院法学研究科准教授 林秀弥氏)(都合により欠席)
 (弁護士・東京理科大学専門職大学院非常勤講師 萩原浩太氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 西村元宏氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,競争法と知的財産法の交錯状況について,関連知的財産法と独禁法のあるべき解釈についての示唆を得るために,知的財産権判例の個別事例を両法の観点から検討を行っています。
 今回のワークショップにおいては,公取委審査事案としてキャノンICタグ事件,裁判事案として(1)リソグラフ・インクボトル事件,(2)セイコーエプソン・インクカートリッジ事件,(3)キャノン・インクカートリッジ事件に焦点を当て,各事案の事実関係を詳細に検討するとともに,独禁法を適用した場合に生じ得る争点について整理した結果が報告されました。
 報告を受け,参加者からは,リソグラフ・インクボトル事件について,不当表示の観点から検討はしたのかという質問があり,それを受けて報告者からは,景品表示法上の不当表示とは原産地や品質について誤認を惹起する表示をするということである。本件は使用済となったインクボトルに顧客の依頼で自社インクを詰めて再利用可能にするという行為について,たまたま提供されたインクボトルに原告の商標が付されたままであったというものである。したがって不当表示という要素はなく,単にラベルが違うということなので不当表示の観点からの検討はしていないという回答がなされました。
 また,キャノン・インクカートリッジ事件について,原告の行為は自社が開発した製品に他社がフリーライドするのを止めようとしたものであり,なぜ特許権の濫用に当たるのかという質問がなされ,報告者からは,原告が開発した技術を侵害したのであれば濫用に当たらないが,技術の本質的部分ではなく、技術的には意味のない部分が侵害されたことを奇貨として権利を行使する場合は特許制度の趣旨に反し,濫用行為に当たるのではないかという回答がなされました。

(3)「知的財産権法のネットワーク分析を通じた法と経済分析」の中間報告

 (神戸市外国語大学外国語学部教授 田中悟氏)
 (CPRC主任研究官・名古屋大学大学院法学研究科准教授 林秀弥氏)
 (CPRC研究員・経済調査室 西村元宏氏)

 平成22年度の共同研究の一つである本研究は,公正取引委員会が過去に公表した合併事案のうち,当事会社が持つ技術の集積が問題視され,問題解消措置が採られた事案を題材として,問題解消措置の対象となった技術に関して,占有可能性の程度を評価するための新しい分析方法を確立するものです。
 今回のワークショップにおいては,平成13年度の公表事例である「富士電機による三洋電機自販機の株式取得」を題材にして,技術市場における「技術力」の尺度やネットワーク分析を用いた自販機技術分野のmain pathについて整理し,有識者から当該分野のmain pathについてヒアリングを行ったことを報告されました。また,事業者より,自動販売機技術の概要及び特徴,主要企業の特許出願動向についてヒアリングを行ったことが報告されました。
 報告を受け,参加者からは,問題視されたのは自販機に係る技術の市場なのか,それともそれらを用いた自販機の製造販売市場なのかという質問があり,それを受けて報告者からは,自販機の製造販売市場であるが,本来,技術市場における競争の状況を検討する必要があるとの回答がなされました。
 また,参加者から,本件は垂直的結合の大きなインプリケーションになるのではないかというコメントがなされました。

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