「業務提携に関する検討会」に参加して
根岸 哲(神戸大学名誉教授・甲南大学名誉教授)
事業者間の業務提携は、従来から珍しくはないが、近年、特に、急速に進行するデジタル化とIoT化、脱炭素化、高齢化、人口・労働力減少など急速に進行する社会の大きな環境変化に対応して、事業戦略上の重要な手法の一つとして選択されることが多くなっており、その競争促進効果と競争制限効果とを吟味した上で、独占禁止法上の取扱いのあり方が問われることも多くなっている。
平成30年(2018年)12月、公正取引委員競争政策研究センター(以下「CPRC」という。)において、業務提携に関する独占禁止法上の考え方を体系的に整理するべく、「業務提携に関する検討会」(以下「検討会」という。)が設置されたのは、このような要請に応えようとするものであった。
検討会のメンバーは、理論面と実務面とに精通した、CPRC主任研究官の宮井雅明立命館大学教授及び齊藤高広南山大学教授、石垣浩晶NERAエコノミックコンサルティング・マネジングディレクター/東京事務所代表、池田毅弁護士(池田・染谷法律事務所)、多田敏明弁護士(日比谷総合法律事務所)、及び山田英司(株)日本総合研究所理事であり、令和元年(2019年)6月に至るまで9回の会合を精力的に重ね、7月に報告書を公表したが、私は、その座長を務めさせていただいた。おおむね毎回、CPRC事務局からたたき台として提出される入念に練られたペーパーを軸として議論を重ねることが多かったが、メンバーからのプレンゼンテーションのほか、お呼びした関係企業担当者からのビビッドな現在進行形のプレンゼンテーションを通じて議論を深めていった。さらに、適宜、会合に参加されたCPRC所長の岡田羊祐一橋大学経済学部教授とCPRC主任研究官の大橋弘東京大学経済学部教授から、経済学の観点から貴重な参考意見をお聞きすることもあった。私は、会合の単なる司会役に過ぎず、会合での議論の内容は、高度であってフォローするのに精一杯であったが、極めて刺激に富むものであった。
公正取引委員会は、すでに、平成14年(2002年)2月、「業務提携と企業間競争に関する実態調査報告書」を公表し、業務提携に関する独占禁止法上の考え方に関し基本的な整理を行っているが、その後、独占禁止法の運用実務における理論的進展や事例の蓄積等もみられ、また、生産、販売、購入、物流、研究開発、技術、標準化の各種類型ごとの独占禁止法上の具体的な考え方を、各種ガイドラインの一部や相談事例集における個別事例の評価の中で明らかにしているが、それらの考え方は各種業務提携の局面・論点ごとに散在している状況にあった。そこで、検討会では、近年の運用実務も反映しつつ、業務提携一般に関する独占禁止法上の考え方を体系的に整理するとともに、業務提携の各種類型ごとの個別的・具体的な考え方に関して検討を行い、さらには、今日の社会経済環境を背景に広く活用されつつあった業種横断的データ連携型業務提携である、社会課題解決型ビジネス(スマートシティ、MaaSなど)やデータ駆動型ビジネス(データを総合的に分析し、新商品の開発や品質改良、マーケテイング強化等に役立てる)の競争促進効果と競争制限効果とを具体的に明らかにすることに努めた。
本検討会の報告書が、業務提携と独占禁止法との関係に係る実際上のガイドラインとして機能するとともに、業務提携に対する独占禁止法上の考え方をさらにブラッシュアップする上でのスプリングボードとして機能すること、を期待している。