ホーム > CPRC >

公開イベント

>

国際シンポジウム

>

競争政策研究センター発足記念国際シンポジウムの議事概要について

競争政策研究センター発足記念国際シンポジウムの議事概要について

各講演テキスト・説明資料等はこちら

 公正取引委員会競争政策研究センターは,平成15年11月20日,内閣府経済社会総合研究所及び日本経済新聞社との共催により,標記シンポジウムを開催しました。当日の議事の概要は,次のとおりです。

【開会挨拶】(竹島一彦 公正取引委員会委員長)

 小泉総理が繰り返し述べている「改革なくして成長なし」というモットーは,「競争なくして成長なし」と言い換えられるものと確信。

 「競争政策研究センター」には,当委員会の知的基盤の充実,説明責任遂行能力の向上,中長期的観点からの競争政策の企画立案への貢献に加え,産業界,学界や内外の関係機関との情報交流の拠点となることを期待。本日のシンポジウムは,そうした情報発信活動の第一歩。

 現在,公正取引委員会では,措置体系や独占・寡占規制の見直しを内容とする独占禁止法改正法案を次期通常国会に提出することを目指して作業を進めているところであり,本日のシンポジウムの内容は,そのような意味で極めて時宜を得たもの。

【開会挨拶】(香西泰 経済社会総合研究所所長)

 経済社会総合研究所は,経済分野と社会分野を対象にした政策研究機関であり,本日取り上げる競争政策は,わが国でやっと育ち始めたばかりの「法と経済学」という学問のかかわる政策分野であり,非常に意義深い。

1 第1基調講演: 競争,厚生そして競争政策(鈴村興太郎 競争政策研究センター所長)

 競争と厚生をめぐっては,対立する2つの伝統的通念がある。「競争は善,共謀は悪」という通念も,「競争は必要悪」という通念も,いずれも無条件では正しくない。競争政策の理論的根拠を明示化することは,センターが担うべき任務のひとつ。

 「聡明な規制」の成果は「競争」の成果に優るにせよ,不完全な規制による既得権益の保護は,大きな社会的コストを伴う。競争に対する規制の費用・便益分析が必要。

 経済学者は,結果として「総余剰」(厚生)が増加するかどうかという帰結主義的な観点から,経済政策の効果を判断してきた。だが,帰結の重要性もさりながら,人々が自らのチャンスを市場の内部で自由に試す「機会」が確保されているかとか,政策を実行する「手続き」が衡平性を備えているかなど,帰結以外の価値にも配慮して,バランスの取れた政策評価の考え方を確立することが必要。

2 パネル1:規制改革と競争政策の役割

(ズウィッキィ・連邦取引委員会政策企画室長)

 競争当局は,集中した経済的利益が競争を阻害しようとするプレッシャーに対抗して,分散した消費者や,競争により恩恵を受ける者の利益を代弁する役割を果たし得る。

 競争当局の役割としては,事業者の行為に対して措置をとることのみならず,政府による競争制限的な制度を廃止させていくことや,唱導活動により「競争」に対する社会的な支持を広げることも重要。

(ニューベリー・ケンブリッジ大学教授)

 電力,電気通信といったネットワーク型の公益事業については,自然独占的なネットワーク部分と競争的なサービス部分との分離に加え,後者に対して特別な事業規制を課すべきか,一般的な競争法によるべきか,免許制による対応が望ましいのか,市場構造や事業分野の特性に基づき判断しなければならない。

 ネットワーク型公益事業に対して,EUは一貫して市場支配的地位に着目して競争法を適用することを重視してきており,事業ごとの規制が競争法に合致したものとなるよう留意してきた。

(伊藤・東京大学教授)

 日本の航空産業における規制の枠組は,価格規制・参入規制から,競争政策の適用に大きく転換してきている。新規参入圧力の確保という点が特に重要であり,そのためには,非対象規制は正当化され得る。いずれにせよ,経済学的にみて合理的かどうかという判断を踏まえるべきである。

 国土交通省と公正取引委員会は,平成15年,空港の着陸料引上げに伴う運賃値上げを認めず,新型ウィルス等の影響により旅客数が急激に減少したことを理由とした運賃引上げを認めたが,経済学的な見地からすれば,逆の判断こそが合理的なはずである。

(八代・日本経済研究センター理事長)

 競争政策の目的は,できる限り競争的な市場を構築することであり,そのためには,できる限り市場への参入を容易にすることが重要である。また,競争政策上の課題としては,公的企業と民間企業の競争条件の均一化が挙げられる。

 競争政策は既存の制度の枠内で検討するのに対して,規制改革は制度そのものを変えていく,という見方もある。むしろ規制改革自体が「対等な競争を可能にする」という競争政策の考え方を踏まえて行われることが重要。 社会的規制と言われる医療,教育,法務,農業などの分野の規制改革においても,コンテスタブルな市場を作るべきである。

(江藤・東京経済大学教授)

 (ズウィッキィ室長に対して)米国においては,電力,電気通信,航空等の分野においてドラスティックな規制改革が行われてきたが,弊害,あるいは反動ともいえる事象もみられる。ここから,米国における規制改革と競争政策の関係をどのように評価しているのか。

 (ニューベリー教授に対して)電力については,電気通信と比べて規制当局の介入の余地が多いと聞いているが,これに対する見解を問う。

 規制省庁への注文など,規制改革に競争政策を反映させていくには,調査・分析に基づく実証的な議論の積み重ねが必要である。規制を巡る行政と業界の関係を併せて見直すことも重要なので,公務員制度の改革も同時に進める必要がある。

(フロア1)

 (伊藤教授に対して)ドイツにおいてルフトハンザ航空が新規参入を阻止するために行った料金引下げに対して,ドイツの競争当局(連邦カルテル庁)は,料金を原状に戻すように命令した。新規参入者の保護に関連して,日本の公正取引委員会も同様の措置をとるべきと考えるがどうか。

(フロア2)

 (ニューベリー教授に対して)欧州における電力分野の自由化に関してドイツとフランスの状況を比較すると,フランスでは,競争を超えた社会的価値を基に規制を行っているようであるが,このように,社会的価値に係る判断は国家ごとに行えばよいのか。また,こうした多様な社会的価値は,競争政策上どのように位置付けるべきであるのか。

(フロア3)

 (伊藤教授に対して)新規参入者を保護するために非対称規制を導入すべきとの意見には反対である。電気通信分野の例では,非対称規制はうまく行っていないのではないか。航空分野について言えば,既存事業者がスロットを独占的に利用していることにより独占レント(使用料)を獲得して,これをもって競争的な分野の価格を引き下げていることが問題である。スロット配分を競争入札にして独占レントが生じないようにすれば,問題は解決するのではないか。

(ズウィッキィ室長)

 電力,電気通信,航空等の分野には様々な困難な問題があるが,規制が競争にもたらす効果について,具体的な状況を特定しつつ検討しなければならない。

(ニューベリー教授)

 フランスにおいては,国営の電力会社が唯一の支配的事業者として存在するが,そのような状況が続く限り,電力分野において競争を促進することは難しい。なぜならば,電力に関しては輸入が限られているからである。他方,電力は,貯蔵ができず,システムをコントロールすることにより停電が生じないにする必要があるという特性があることから,事業者に対して詳細なルールに基づき事業を行わせる必要がある。

(伊藤教授)

 ドイツにおけるルフトハンザ航空の値下げに対する連邦カルテル庁の措置については,私も賛成である。また,非対称規制により新規参入者に甘えが生じるのではとの点について,質問者は電気通信分野を例として挙げていたが,電気通信分野において非対称規制が問題を生じさせたのは,どのように非対称規制を解消するのかという道筋ができていなかったことによるものと考えられる。

3 第2基調講演:ヨーロッパ競争政策の新展開(マリオ・モンティ 欧州委員会競争政策担当委員)

 リニエンシー制度が日本の文化に馴染まない,との論があるようだが,最初に導入した米国と,欧州との間にも文化の違いがある。日本企業も欧米でリニエンシー制度を活用して恩恵を得ている。(欧州委員会に対して,25社の申請実績がある。)むしろ,この制度の導入により(カルテルにまつわる)文化が変わる,ということが期待できる。

 日米欧の当局は,制度の緩やかな収斂に向けた努力を行っている。これは,消費者をグローバル化の中で効果的に保護するとともに,企業にとっても国際的な合併を進めていく中で相反する手続に直面するようなことがないようにしていくためのものである。

4 パネル2:国際事業活動と競争政策

(ハモンド・米国司法省刑事執行部長)

 国際カルテルを打破するためには,違反行為者が国際的に共謀・共同しているのに対抗して,各国の競争当局の側も,端緒や審査情報を相互に交換して,協力していく必要がある。

 カルテルの摘発という古くからの課題に対する新しい答えが,リニエンシー制度である。国際カルテルの摘発に関しては,リニエンシー制度こそが数あるツールの中で最も強力なツールとなっている。

(ディークマン・欧州委員会競争総局国際課員)

 競争当局間の二国間協力は,個別案件に関する協力と政策対話の二つに大別されるが,そのいずれも効果的に競争法を執行する上で必要不可欠となっている。

 競争当局間での緻密な連絡は,より緊密な関係を構築するとともに,相互の信頼醸成に寄与してきている。

(柴田・公正取引委員会委員)

 課徴金でカルテルを抑止するためには,「捕まる確率」と「課徴金の額」を掛けた値が「カルテルの利益」を上回る必要がある。この点からすると,課徴金の額の引上げとリニエンシー制度の導入は,セットで考えるべきである。

 競争当局間の協力が進展して,情報交換が緊密に行われるようになれば,GE・ハネウェル事案のように,同一の国際的企業結合事案に対して複数の競争当局の判断が異なるといった事態は,より生じにくくなるといえるのではないか。

(泉水・神戸大学教授)

 他国には日本の独占禁止法に関する誤解もある。国際協力を行う素地として,相互理解を深めることが重要である。

 課徴金の引上げに対して産業界からの反対意見が多いとのことだが,カルテル抑止の実効をあげるためには,リニエンシー制度の導入と課徴金の引上げは不可分である。他方,今回の見直しに当たり,課徴金の計算上のカルテル実行期間を違反行為の3年前までとしている点を据え置くことには疑問を感じる。

(フロア)

 ボーイング・マクダネルダグラス事件の際に欧州委員会内部に滞在していた経験からすれば,複数の競争当局間で緊密な協議を行ったとしても,それらの判断が異なる可能性は残り得ると考えられるがどうか。

(ディークマン氏)

 各国において法制面の差異が存在することから,国際協力のみにより,同一の事案に対して異なる当局が異なる結論を出すことを全面的に回避できるわけではない。しかし,国際協力により,異なる結論が出されるリスクを軽減することは可能である。

(柴田委員)

 国際協力については,国内法が優先する。例えば合併審査で,わが国では事前審査での非公式な処理が多いなど,必ずしも協力が容易でない面もある。だが,実績を積み重ねることにより,複数の当局間で異なる結論が出ることから企業に過剰なコストがかかることを避けるのに役立つとはいえるだろう。

5 パネル3:技術革新と競争政策

(ブレスナハン・スタンフォード大学教授)

 マイクロソフト事件からの教訓としては,技術革新と競争との間に対立があるのではなく,技術面での独占を背景として,流通支配により,参入障壁を維持強化する「垂直的な」独占が行われる場合がある,ということである。政府が参入障壁を低減する政策をとることは,競争を促進するとともに,技術革新をも促進する効果がある。

 競争政策は,技術革新市場における参入障壁を高めるような独占力の行使に対抗するべきである。また,知的財産権が強すぎる場合,技術革新や競争の障害となることもあり得ることに留意すべきである。

(後藤・東京大学教授)

 技術開発のインセンティブとして,新技術による利益を開発者が手中に収める「専有可能性」が重要であるが,そのための手段は,「特許による保護」以外にも,「製品の先行的な市場化」,「製造設備やノウハウの管理」など多様であることに留意すべきである。

 技術革新と競争との関係は複雑であり,単なるトレードオフではない。「強い特許」による問題も念頭において,ダイナミックな競争としての技術革新を促す競争政策が望まれる。政策デザインにも慎重な考慮が必要である。今日的な課題は,ネットワーク効果や特許制度と競争政策との関係をどう考えるか,という2点にある。

(田中・慶應義塾大学助教授)

 ネットワーク外部性が強く,独占の弊害がある場合,違法行為がなくとも競争政策が介入すべきケースがあり得る。ネットワーク外部性が技術革新により覆されるか,知的財産権保護の最適レベルはどの程度か,といった問題については,一律の基準を設定するよりも,経済学的な実証分析の結果に基づき,個別ケースごとに判断すべきである。

(フロア1)

 (ブレスナハン教授に対して)参入障壁を低くすることが,競争を促進する上で重要であるばかりでなく,技術革新にもつながるとのことであるが,この論理的な脈絡について説明願いたい。

(ブレスナハン教授)

 参入障壁を低くすると技術革新が促進される例としては,表計算ソフトの事例が挙げられる。シェアが小さかったマイクロソフトが大きくシェアを伸ばすことができたのは,参入障壁の低さが技術革新を促進する,という好例であったと考えられる。

(フロア2)

 技術革新のためには特許政策が必要であり,同時に,政府は研究開発のコストを下げるような努力をすべきであって,それにより技術革新を促進させるといった発想も重要ではないか。

(後藤教授)

 特許政策だけを使って技術革新を促進させようとするのは無理である。技術革新を促進するためには,基本的な最低限のラインを特許政策により確保することが必要なのであり,全てを特許政策でカバーしようとするのは,適切な方向ではない。

【閉会挨拶】鈴村 興太郎 競争政策研究センター所長

 本日の議論は,(1)市場の競争的セグメントと自然独占的セグメントを分離して,競争ゲームの公平なルールを設計すること,(2)フェアプレーの義務を監視して励行すること,(3)国際的な競争ゲームのインターフェイスを構築すること,という競争政策の3つの主要課題のいずれに対しても,価値ある情報を与えるものであったと確信。

 議論の主要なポイントのひとつとして,競争政策上の評価には時間的視野の選び方が重要である点が挙げられる。例えば,(1)仮に競争からの保護によって短期的には利益を得た企業でも,ダイナミックな競争に堪えられない非効率性を温存することから長期的には衰退を余儀なくされる可能性があるという側面,あるいは逆に,(2)新規参入企業の育成・保護のために既存企業の経済力の行使にくつわがはめられて,少なくとも短期的には消費者の利益に逆行したとしても,長期的には競争の成熟から大きな社会的な便益が期待できる可能性があるという側面がある。これら2つの側面が絡み合いつつ共存する場合に,これを統一的に捉える分析的な枠組みをどう作るかということは,競争政策を構想するうえで大きな課題である。

 競争法のデザインと競争政策の制度改革が大きな課題とされている現在であるだけに,公共の福祉の観点から制度設計の在り方を討議する公開されたフォーラムとして機能することが,競争政策研究センターが目指す社会的貢献の姿である。本日のシンポジウムを最初の一歩として,センターがこの機能を的確に果たせるように,参加者の皆様のご指導とご叱正をお願いしたい。

以上

競争政策研究センター発足記念国際シンポジウムについて

ページトップへ