輸送用機械製造販売業者が、グリーン社会の実現に有用な輸送用機械の普及を目的として、当該輸送用機械に用いられる温室効果ガスの排出量削減に有効な燃料を販売する小売業者に対し、当該燃料の小売価格を値引きするための原資を提供し、値引きの効果を検証する実証プロジェクトを実施する取組について、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
#不当廉売、#拘束条件付取引、#グリーン社会の実現、#小売価格引下げの原資補助、#輸送用機械の燃料の販売に係る実証プロジェクト
1 相談者
X社(輸送用機械Aの製造販売業者)
2 相談の要旨
⑴ア X社は、輸送用機械Aの製造販売業者である。
イ Y1~Y5の5社(以下「5社」という。)は、甲地域において輸送用機械Aの需要者に対し、輸送用機械Aに用いられる燃料αの販売を行う小売業者である。
甲地域には5社以外に燃料αの小売業者は存在しない。
⑵ 輸送用機械Aは、稼働の際に燃料αを必要とするが、燃料αは、その使用によって温室効果ガス[1]の排出量の削減に寄与することのできるエネルギー資源である。
[1] 温室効果ガスとは、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等の総称をいう(「地球温暖化対策の推進に関する法律」(平成10年法律第117号)第2条第3項)。
⑶ア 輸送用機械Aは燃料αを用いることから、環境負荷の低減と経済成長の両立する社会、すなわち「グリーン社会」の実現に有用な製品とされている。しかし、
・ 輸送用機械Aの製造販売業者は、輸送用機械Aの需要増が見込めなければその増産に踏み切れないこと
・ 輸送用機械Aの需要者は、燃料αの販売施設数が少ない上、その価格も他の輸送用機械に用いられる燃料に比して高いことから、輸送用機械Aの購入や積極的な使用に踏み切れないこと
・ 燃料αの小売業者は、輸送用機械Aの需要者増が見込めなければ燃料αの販売施設の新設や増設に踏み切れないこと
から、輸送用機械A及び燃料αの販売施設の普及は進んでいない状況にある。
イ 前記アの状況により、5社においては、公的機関からの補助金を受けて燃料αの販売施設を運営している。
ウ(ア) 輸送用機械Aの需要者は、燃料αの販売施設の分布状況、一度の補給における輸送用機械Aの運転可能距離等から、輸送用機械Aを移動手段として、燃料αをおおむね半径pキロメートルの範囲内において購入している。
(イ) 5社の販売施設間の距離は、それぞれpキロメートルを超える場合とpキロメートル以内である場合とがある。
(ウ) 甲地域と隣接する乙地域や丙地域においては、5社以外の燃料αの小売業者が燃料αの販売を行っているが、いずれの事業者の販売施設も、最も近い5社の販売施設とはpキロメートルの3倍以上離れている。
⑷ X社は、前記⑶アの状況を打開することを目的として、以下の方法により、燃料αの小売価格と需要動向との相関を検証する実証プロジェクトの実施(以下「本件取組」という。)を検討している。
ア X社は5社に対し、それぞれの燃料αの販売量に応じた値引き原資(単位当たり一律の金額に販売量を乗じた額)を提供し、後記イのとおり燃料αの値引き販売を行うことを依頼する。X社が5社に提供する値引き原資の金額は、輸送用機械Aの運転距離に換算した場合、燃料αの需要者がpキロメートルの2倍程度の距離を往復するのに要する燃料αの代金の額と同程度の金額であり、それ以上の距離を移動すると需要者が享受できる値引き相当分の利益は失われる。
イ 5社は、それぞれが自由に決定した燃料αの小売価格から、前記アによりX社から提供を受けた値引き原資のうち、一定額以上の任意の額を値引いた価格で燃料αの販売を行うことを約する。これにより5社が販売する燃料αの小売価格は、いずれも5社が燃料αの供給に要する費用を下回るものとなることが見込まれる。
ウ 5社は、燃料αの値引き販売を行い、これによる燃料αの販売量の変動状況に係る情報をX社に提供する。X社は、5社による値引きの実施及び情報提供について対価を支払い、当該情報に基づき、燃料αの小売価格と需要動向との相関を検証する。
また、X社は、5社との間で秘密保持契約を結び、5社から提供を受けた燃料αの販売量の変動状況に係る情報が、当該情報の提供元以外の事業者に還流することのないよう適切に取り扱う。
エ 5社は前記アないしウについて、参加の有無を自由意思により決定する。
オ 本件取組の実施期間は1年とするが、燃料αの需要動向次第では期間を延長する可能性もある。
本件取組は、独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図
3 独占禁止法上の考え方
⑴ア グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、多くの場合、事業者間の公正かつ自由な競争を制限するものではなく、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果(注)を持つものであり、温室効果ガス削減等の利益を一般消費者にもたらすことが期待されるものでもある。そのため、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い(グリーンガイドライン「はじめに」の2〔基本的考え方〕)。
(注) 「競争促進効果」とは、事業者等による取組の結果として新たな技術、商品、市場等が生み出され、事業者間の競争が促進されることを指し、効率性の向上とも称される場合もある。また、「優れた商品」には、当該商品の生産段階若しくは使用段階又は当該商品が部品として組み込まれた最終製品の生産段階若しくは使用段階における温室効果ガス削減に資する商品も含まれ得る。
イ 相手方の事業活動を拘束する条件をつけて、当該相手方と取引することにより、価格維持効果が生じる場合(注)には、不公正な取引方法(一般指定第12項(拘束条件付取引))に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第19条)。
(注) 「価格維持効果が生じる場合」とは、非価格制限行為により、当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ、当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し、当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう(流通・取引慣行ガイドライン第1部-3⑵イ〔価格維持効果が生じる場合〕)。
ウ 不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第19条(一般指定第6項(不当廉売)))。
⑵ 本件取組は、燃料αの販売価格に変更を生じるものであり、燃料αの小売販売市場における現在又は将来の競争に影響を与える可能性があると考えられるため、当該市場に与える影響について検討する。
⑶ 本件取組は、輸送用機械A及び燃料αの販売施設の普及を図るためのものであり、燃料αはその使用によって温室効果ガスの排出量の削減に寄与することのできるものであることから、グリーン社会の実現に向けた取組であることが認められる。以下、これを前提に検討する。
ア X社の行為
本件取組は、X社が5社に対価を支払い、5社はX社の依頼を受けて燃料αの値引き販売を実施し、その成果となる情報をX社に提供する取引であるところ、これは、X社が、5社の小売価格について値引きを行う拘束条件を付けるものである。
しかし、当該拘束条件は、X社が、燃料αの5社の小売価格それ自体ではなく、5社が各々自由に決定する小売価格からの値引き額を拘束するものであり、これにより価格維持効果が生じるおそれはないと考えられることから、独占禁止法上問題となるものではない。
イ 5社のうち本件取組に参加する事業者の行為
本件取組の実施期間中、5社のうち本件取組に参加する事業者は、燃料αをその供給に要する費用を下回る価格で販売することになることが見込まれる。このため、本件取組により、燃料αの他の小売業者の事業活動を困難にさせるかについて検討する。
(ア) 燃料αの小売販売市場における集客の範囲(以下「商圏」という。)は、燃料αの販売施設を中心に、需要者が燃料αを購入する範囲であるおおむね半径pキロメートルの範囲になると考えられる。
(イ)a 甲地域において燃料αの小売を行う5社の販売施設は、一部において商圏が重複することから、5社間の一部では燃料αの販売競争が行われていると考えられる。しかし、本件取組はX社が5社に対して等しく同内容の値引き原資の額を提案して実施するものであり、5社がそれぞれに決定する値引き額の水準はおおむね同等のものになると考えられる。また、5社は公的機関からの補助金を受けて販売施設を運営しているところ、X社から提供される値引き原資の額を超えて値引きを実施する余力はないと考えられることから、本件取組を契機として、5社間における採算を度外視した極端な値引き販売が昂進するおそれはないと考えられる。このため、本件取組により、5社が相互に極端な値引き販売を行うことにより燃料αの需要者を奪い、5社のうち燃料αの他の小売業者の事業活動を困難にさせるおそれはないものと考えられる。
b 甲地域と隣接する乙地域や丙地域に所在する燃料αの小売業者の販売施設は、5社の販売施設とは最も近くてもpキロメートルの3倍以上離れており、5社とは相互に商圏を異にしていることが明らかである。また、X社が提供する値引き原資の金額は、pキロメートルの2倍程度の距離を往復するのに要する燃料αの代金の額と同程度の金額である。このため、本件取組により、乙地域や丙地域における燃料αの需要者が甲地域に移ってくることは考え難く、本件取組が乙地域や丙地域における燃料αの小売業者の事業活動を困難にさせるおそれもないものと考えられる。
(ウ) 本件取組により輸送用機械A及び燃料αの販売施設が普及し、従来の輸送用機械から輸送用機械Aへの置き換えが進み燃料αの利用が増えた場合、従来と比較して温室効果ガス排出量の削減が見込まれるため、本件取組には、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果もあると考えられる。
(エ) 以上のことから、本件取組の実施期間中、5社のうち本件取組に参加する事業者は、燃料αをその供給に要する費用を下回る価格で販売することになるものの、甲地域及びこれに隣接する地域の燃料αの小売業者の事業活動を困難にさせるおそれがないものであり、さらに、本件取組には競争促進効果もあると考えられることから、当該事業者の行為は不当廉売に該当するものとして独占禁止法上問題となるものではなく、したがって、X社が実施する本件取組は、独占禁止法上問題となる行為を生じさせるものでもない。
⑷ 以上から、本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。
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本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。