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令和6年 年頭所感(令和6年1月)

令和6年 年頭所感(令和6年1月)

公正取引委員会委員長
古谷 一之

古谷一之公正取引委員会委員長顔写真

 

 新年、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
  人口減少や少子高齢化といった課題を抱える日本経済の成長を維持し社会の活力を保っていくためには、企業や消費者の選択が保障され、活発なイノベーションにより付加価値を上げていく公正で自由な競争の確保が不可欠です。また、これに加えて、日本経済がこれまでの長期停滞状況から脱し「成長と分配の好循環」を実現する上で、公正な競争が確保された市場の機能を通じて適切な分配が行われるよう、様々な分野における取引環境を整備することも競争政策の大きな役割です。
  公正取引委員会はこのような基本的な考え方の下に、デジタル経済の進展等の急速かつ不可逆的な経済・社会の変化も見据えながら様々な取組を進めていますが、本年も引き続きその任務を着実に果たしていきたいと考えております。
  皆様におかれましては、倍旧の御理解・御支援をよろしくお願いいたします。

1 厳正・機動的な法執行

 公正取引委員会の基本的な任務は独占禁止法などの厳正かつ機動的な法執行です。独占禁止法違反行為については、国民生活に影響が大きい分野や規制改革により自由化が進む分野などを中心に価格カルテル等の不当な取引制限に厳正に対処するとともに、中小事業者にとっての公正な取引機会の確保の観点から、優越的地位の濫用等の不公正な取引方法に係る事案や下請法違反事案等に対して厳正かつ機動的な法執行に取り組んでいきます。法執行に当たっては、排除措置命令や課徴金納付命令に加え、技術変化のスピードが速いデジタル分野を中心に確約手続を活用するなど、多様な手法により迅速かつ効果的に競争を回復してまいります。
  昨年10月には、Android端末における検索アプリケーションに関連するGoogle LLCらの独占禁止法違反被疑行為に関する審査の開始を公表するとともに、Google LLCらの行為の日本市場への競争上の影響等について、市場参加者からの意見、情報の募集を行いました。企業結合審査においても、第三者からの意見、情報の募集を積極的に活用しています。引き続き、令和4年6月に公表した「ステイトメント」(※)に沿って機動的で実効性のある法執行を進めていきます。
  ※「デジタル化等社会経済の変化に対応した競争政策の積極的な推進に向けて―アドボカシーとエンフォースメントの連携・強化-」(令和4年6月16日公表)

2 価格転嫁の円滑化

 「成長と分配の好循環」を実現するため、中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう、コスト上昇分の適正な価格転嫁に向けた政府全体での環境整備の一環として公正取引委員会でも一昨年の緊急調査に続き昨年は特別調査を行うなど、従来にない規模の取組を重点的に進めてきました。昨年11月末には、特別調査を踏まえ、内閣官房と連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しました。本年も引き続き、関係省庁と緊密に連携し、指針の周知を進めるとともに、独占禁止法の優越的地位の濫用や下請法の買いたたきなど法違反事案に対しては厳正に対処してまいります。
  このような取組を通じて、サプライチェーン全体での円滑な価格転嫁が可能となる競争環境の整備を図ってまいります。

3 競争政策の強化

 公正取引委員会は経済社会の様々な課題に対して競争環境整備のためのアドボカシー活動を積極的に取り組み、企業の競争法に対するコンプライアンスの向上や他の政府機関の政策、規制、制度などの見直しにつなげています。
 デジタル分野では、昨年2月にモバイルOS等に関する実態調査報告書、9月にニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書をそれぞれ公表しました。また、内閣のデジタル市場競争本部の下でモバイル・エコシステムの競争評価が進められ、6月に最終報告が取りまとめられました。現在、この最終報告で示された方針に基づき、政府においてEUのデジタル市場法(DMA)など国際的なルール整備の動向も踏まえ、いわゆる事前規制の導入を含む必要な法整備について具体的な検討が進められています。公正取引委員会としても、これに積極的に参画・貢献していきたいと考えています。
 グリーン社会の実現に関し、公正取引委員会は企業の脱炭素に向けた取組を競争政策サイドから後押しすることを目的として、昨年3月にグリーンガイドラインを策定・公表しました。その後の経済界等との意見交換を踏まえ、独占禁止法上の考え方の更なる明確化と予見可能性の向上のため、早ければ今春にもガイドラインの改定を行う予定です。
  また、フリーランスに係る取引適正化に関しては、昨年5月に公布された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が本年秋頃までに施行されます。現在、政令等の検討を行っていますが、周知活動を含め施行準備を適切に行い、施行に向け万全を期します。

4 国際的な連携の推進

 デジタル経済が進展する中で、ビッグテックのプラットフォーム事業者の活動は国境を越えてグローバルに広がっており、企業結合、反競争的な活動への対応などデジタル市場における競争上の懸念に対処するため、競争法の執行と競争政策の推進の両面で海外当局との国際的な連携・協力の必要性が一層高まっています。
 昨年11月には、日本が議長国を務め「G7エンフォーサーズ及びポリシーメイカーズサミット」を東京で開催しました。本サミットではデジタル分野における競争当局にとっての優先事項・課題及びアプローチ等について、各国・地域の知見と経験を共有し連携の強化を確認するとともに、デジタル市場における競争を促進し維持するための取組や生成AIなどの新たな技術により生じ得る競争上の課題への取組等についての考え方を示した「デジタル競争コミュニケ」を採択しました。
  生成AIの出現と急速な進化、普及に対しては、我が国は「G7広島AIプロセス」を通じて、高度なAIシステムに関する国際的な指針及び行動規範の策定を主導しています。公正取引委員会としても、国内の関係省庁や海外競争当局と連携しつつ、デジタル経済におけるイノベーションの進展とビジネスモデルの変化に的確にキャッチアップし、公正な競争環境を確保していかなければなりません。そのためにも組織の能力の拡充と体制の強化を図っていく努力を続けていきます。

 

 最後になりましたが、公正取引委員会に対する変わらぬ御理解と御支援を重ねてお願い申し上げるとともに、皆様の御健勝と御発展を祈念いたしまして、私の新年の御挨拶といたします。

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