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(令和2年3月27日)ダイレックス株式会社に対する審決について(優越的地位の濫用事件)

令和2年3月27日
公正取引委員会

 公正取引委員会は,被審人ダイレックス株式会社(以下「被審人」という。)に対し,平成26年8月27日,審判手続を開始し,以後,審判官をして審判手続を行わせてきたところ,令和2年3月25日,被審人に対し,独占禁止法の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)による改正前の独占禁止法(以下「独占禁止法」という。)第66条第2項及び第3項の規定に基づき,平成26年6月5日付けの排除措置命令(平成26年(措)第10号)を変更するとともに,同日付けの課徴金納付命令(平成26年(納)第113号)の一部を取り消す旨の審決を行った(本件平成26年(判)第1号及び第2号審決書については,当委員会ホームページの「報道発表資料」及び「審決等データベース」参照。なお,公表する審決書においては,納入業者に係る事業上の秘密等に配慮し,マスキングの措置を施している。)。

1 被審人の概要

事業者名 本店所在地

ダイレックス株式会社
法人番号6300001004245

佐賀市高木瀬町大字長瀬930番地

2 被審人の審判請求の趣旨

⑴ 平成26年(判)第1号審判事件
 平成26年(措)第10号排除措置命令の全部の取消しを求める。
⑵ 平成26年(判)第2号審判事件
 平成26年(納)第113号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。

3 主文の内容

⑴ 平成26年6月5日付けの排除措置命令(平成26年(措)第10号)を別紙審決案別紙1のとおり変更する。ただし,第1項⑴中,「本審決案別紙2」とあるのは「別紙審決案別紙2」と読み替えるものとする。
⑵ 平成26年6月5日付けの課徴金納付命令(平成26年(納)第113号)のうち,11億9221万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
⑶ 被審人のその余の審判請求をいずれも棄却する。

4 本件の経緯

平成26年
6月5日 排除措置命令及び課徴金納付命令
6月6日 被審人から排除措置命令及び課徴金納付命令に対して審判請求
8月27日 審判手続開始
10月9日 第1回審判

平成30年
6月13日 第7回審判(審判手続終結)
令和元年
12月6日 審決案送達(審査官)
12月9日 審決案送達(被審人)
12月23日 被審人から審決案に対する異議の申立て及び委員会に対する直接陳述の申出
令和2年
2月25日 直接陳述の聴取
3月25日 審決

5 原処分の原因となる事実

⑴ 公正取引委員会は,被審人が,平成21年6月28日以降,自己の取引上の地位が特定納入業者に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,[1]新規開店又は改装開店(以下,両者を併せて「新規開店等」という。)に際し,特定納入業者である78社に対し,その従業員等を派遣させる(以下「本件従業員等派遣」という。)とともに,[2]特定納入業者のうち66社に対し,閉店の際に実施するセール(以下「閉店セール」という。)について,「協賛金」等の名目で金銭を提供させた(以下「本件協賛金の提供」という。)ほか,[3]特定納入業者のうち48社に対し,平成23年5月4日に発生したダイレックス朝倉店の火災に際し,滅失又は毀損した商品(以下「火災滅失毀損商品」という。)の納入価格に相当する額の一部又は全部の金銭を提供させていた(以下「本件火災関連金の提供」という。)ものであって,以上の行為は,独占禁止法第2条第9項第5号ロ(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律〔平成21年法律第51号。以下「改正法」という。〕の施行日である平成22年1月1日前においては平成21年公正取引委員会告示第15号〔以下「旧一般指定」という。〕の第14項第2号。以下同じ。)に該当し,独占禁止法第19条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成26年6月5日,被審人に対し,排除措置を命じた(平成26年(措)第10号。以下,この命令を「本件排除措置命令」といい,同命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。)。 
 
⑵ 公正取引委員会は,平成26年6月5日,被審人に対し,本件違反行為は独占禁止法第20条の6にいう「継続してするもの」であり,同条の規定により,本件違反行為の期間は,平成21年12月17日から平成24年12月16日までの3年間となるとした上で,本件違反行為のうち改正法の施行日である平成22年1月1日以後に係るものについて,特定納入業者それぞれとの間における購入額を課徴金算定の基礎として,12億7416万円の課徴金の納付を命じた(平成26年(納)第113号。以下,この命令を「本件課徴金納付命令」という。)。

6 審決の概要

⑴ 本件の争点
ア 本件各行為(本件従業員等派遣,本件協賛金の提供及び本件火災関連金の提供を受けた行為。以下同じ。)は,被審人が,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に行ったものか(争点1)
イ 本件排除措置命令の適法性(争点2)
ウ 本件課徴金納付命令の適法性(争点3)

⑵ 争点に対する判断の概要
ア 争点1について
(ア) 優越的地位の濫用規制の趣旨
 
独占禁止法第19条において,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に同法第2条第9項第5号(改正法施行日前においては旧一般指定第14項〔第1号ないし第4号〕)に該当する行為をすることが不公正な取引方法の一つとして規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者(以下「甲」という。)が,相手方(以下「乙」という。)に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,乙の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,乙はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,甲はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるといえるからである。

(イ) 優越的地位の濫用の判断基準
  
優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,甲が乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいうと解される。
 この判断に当たって,乙の甲に対する取引依存度が大きい場合,甲の市場におけるシェアが大きい場合又はその順位が高い場合,乙が他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合又は甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合,また,甲との取引の額が大きい,甲の事業規模が拡大している,甲と取引することで乙の取り扱う商品又は役務の信用が向上する,又は甲の事業規模が乙のそれよりも著しく大きい場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいものといえる。
 また,「不利益行為」(注)を甲が行い,乙がこれを受け入れている事実が認められる場合,これを受け入れるに至った経緯や態様によっては,それ自体,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことをうかがわせる重要な要素となり得るものというべきである。なぜなら,取引関係にある当事者間の取引を巡る具体的な経緯や態様には,当事者間の相対的な力関係が如実に反映されるからである。
 したがって,甲が乙に対して優越した地位にあるといえるか否かについては,[1]乙の甲に対する取引依存度,[2]甲の市場における地位,[3]乙にとっての取引先変更の可能性,[4]その他甲と取引することの必要性,重要性を示す具体的事実のほか,乙が甲による不利益行為を受け入れている事実が認められる場合,これを受け入れるに至った経緯や態様等を総合的に考慮して,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合であるかを判断するのが相当である。 
  (注)「不利益行為」とは,独占禁止法第2条第9項第5号イないしハが規定する行為をいう。
(ウ) 被審人の取引上の地位が特定納入業者に対して優越しているか
a 被審人の市場における地位
  
被審人は,本件期間中(平成21年6月28日から平成24年12月16日まで。以下同じ。)において,事業を急速に拡大し,消費者に人気のある小売業者であり,総合ディスカウント業を営む事業者として有力な地位にあったと認められる。
 そうすると,食料品,酒類,日用雑貨品,家庭用電気製品,衣料品等の製造業者及び卸売業者としては,被審人と継続的に取引を行うことで,被審人を通じて,消費者に幅広く自社の取扱商品を供給することができ,多額かつ安定した売上高を見込むことができることになるから,一般的にいえば,被審人と取引することの必要性及び重要性は高いと評価することができる。
b 被審人と特定納入業者の関係
(a) 40社について
 特定納入業者のうち40社については,前記aの事実に加え,これらの納入業者の被審人に対する取引依存度がいずれも大きいこと等の事実を考慮すれば,当該納入業者にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。
 また,報告命令に対する40社の回答内容等は,これら客観的状況に沿うものといえる。
 そして,後記(オ)のとおり,40社が被審人による不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,40社は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。
 以上を総合的に考慮すれば,40社は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は40社に対して優越していたものと認められる。
(b) 24社について
 特定納入業者のうち24社については,前記aの事実に加え,取引先別の売上高の順位における被審人の順位が高いこと等の事実を考慮すれば,当該納入業者にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。
 また,報告命令に対する24社の回答内容等は,これら客観的状況に沿うものといえる。
 そして,後記(オ)のとおり,24社が被審人による不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,24社は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。
 以上を総合的に考慮すれば,24社は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は24社に対して優越していたものと認められる。
(c) 4社について
 特定納入業者のうち4社については,前記(a)又は(b)と同等の状況にはないとしても,前記aの事実に加え,資本金額及び年間総売上高に照らして当該納入業者の事業規模が極めて小さいこと等の事実を考慮すれば,被審人に対する取引依存度が大きなものではなく,かつ,その取引先別の売上高の順位における被審人の順位が,取引先の数に比して高いものではないことを勘案しても,なお4社にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。
 また,報告命令に対する4社の回答内容等は,これら客観的状況に沿うものといえる。
 そして,後記(オ)のとおり,4社が被審人による不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,4社は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。
 以上を総合的に考慮すれば,4社は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は4社に対して優越していたものと認められる。
(d) 1社について
 特定納入業者のうち1社については,前記(a)ないし(c)と同等の状況にはないとしても,前記aの事実に加え,同社において被審人との取引を主に担当している九州地区の営業拠点は,全社的にみても,売上高が高く,営業上重要と認められるところ,同拠点における取引先別の売上高の順位における被審人の順位が高いこと等の事実を考慮すれば,1社にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,九州地区の営業拠点の収益の大幅な落込みが予想され,同区域内における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取でき,1社が全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さいことなどを考慮しても,なお同社にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。
 また,報告命令に対する1社の回答内容等は,これら客観的状況に沿うものといえる。
 そして,後記(オ)のとおり,1社が被審人による不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,1社は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。
 以上を総合的に考慮すれば,1社は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は1社に対して優越していたものと認められる。
(e) 9社について
 特定納入業者のうち8社については,取引依存度が小さいのみならず,取引先別の売上高の順位における被審人の順位も高いものではなく,当該納入業者の事業規模及びその他の事情によっても,前記(a)ないし(d)と同等の状況にあるとは認められない。
 特定納入業者のうち1社については,取引先別の売上高の順位は,本件期間中の最初の年度のみ5位と高いものであったが,取引依存度は著しく小さいのであり,1社の事業規模及びその他の事情によっても,同様に,前記(a)ないし(d)と同等の状況にあるとは認められない。
 これらによれば,被審人に関する前記aの事実を勘案しても,9社にとって,被審人との取引の継続が困難になることが直ちに事業経営上大きな支障を来すものとは認められない。
c 小括 
 以上のとおり,本件期間中,被審人の取引上の地位が前記b(a)ないし(d)記載の69社(以下「69社」という。)に対して優越していたことが認められる。
 これに対し,前記b(e)記載の9社に対しては,被審人の取引上の地位が優越していたとは認められない。
(エ) 本件各行為が不利益行為に当たるか
a 本件従業員等派遣 
(a) 従業員等の派遣をさせる行為が不利益行為となる場合
 買取取引において,売主は,買主に商品を引き渡すことにより取引契約上の義務を履行したこととなるところ,買主が小売業者である場合に,買主の新規店舗の開設,既存店舗の改装及びこれらの店舗での開店セール等の際に,買取取引で仕入れた商品を他の陳列棚から移動させ,又は新たに若しくは補充として店舗の陳列棚へ並べる作業や,接客するという作業などは,買主が消費者に商品を販売するための準備作業又は消費者に対する販売作業そのものであり,本来買主が行うべき役務であって,売主が自社の従業員等を派遣して上記のような作業に当たらせること(以下「新規店舗開設等作業のための従業員等派遣」という。)は,売主としては当該従業員等による労務をその派遣の期間逸失することになるほか,交通費などの派遣に必要となる費用が発生した場合には,当該費用を負担することになることから,売主にとって通常は何ら合理性のないことであり,そのような行為は,原則として不利益行為に当たるというべきである。
 もっとも,新規店舗開設等作業のための従業員等派遣については,例外的に,[1]従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について,あらかじめ相手方と合意し,かつ,派遣される従業員等の人件費,交通費,宿泊費等の派遣のために通常必要な費用を買主が負担する場合,[2]従業員等が自社の納入商品のみの販売業務に従事するものなどであって,従業員等の派遣による相手方の負担が従業員等の派遣を通じて相手方が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,相手方の同意の上で行われる場合([1]及び[2]の場合を「従業員等派遣例外事由」という。)は,不利益行為には当たらないと解される。
(b) 本件従業員等派遣をさせたことが不利益行為に該当するか
 被審人と特定納入業者との取引について,買取取引であることからすると,被審人の店舗の新規開店等に当たり行われる開店準備作業は,被審人が納入業者から買い取った商品を当該店舗で販売するためにその費用で行うべきものであるから,それにもかかわらず,被審人が特定納入業者に対してかかる作業を行わせるために,これらの従業員等の派遣をさせた行為は,従業員等派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,当該納入業者に対する不利益行為に当たると認められる。
(c) 従業員等派遣例外事由の[1]に該当するか
 被審人は,納入業者との間で,派遣に係る従業員等の業務内容や業務時間,これらの費用負担等の条件について,あらかじめ契約書等で合意をしていたことはなく,また,納入業者に対し,従業員等の派遣を依頼する際にも,このような合意をしていなかったから,被審人と特定納入業者との間で,いかなる条件で従業員等を派遣するかについて,あらかじめ合意がされていたとは認められない。なお,被審人は,本件期間中に,開店前準備作業の当日の朝,納入業者に対し,作業内容などが記載された承諾書への署名を求めるようになったものの,これらは当日の作業の指示事項や注意事項の承諾を求めるものにすぎず,日当についても,被審人に対して請求することができることが書いてあるにとどまり,具体的な請求の方法や金額については決められていなかったのであるから,被審人は,納入業者の従業員等を派遣させる行為が独占禁止法に抵触し得ることを認識しながら表面上これを回避するために,形式的に行われたものであり,これらを派遣に係る条件についての合意と認める余地はない。
 そして,本件期間中,派遣に係る従業員等の人件費,交通費,宿泊費等の費用を負担していなかったものであるから,従業員等派遣例外事由の[1]には該当しない。
(d) 従業員等派遣例外事由の[2]に当たるなどの特段の事情があるか
 被審人において,納入業者が従業員等を派遣していた理由として主張するところは,いずれも従業員等派遣例外事由[2]などの特段の事情に当たるものとは認められない。また,被審人のその他の主張には理由がなく,本件従業員等派遣につき,特段の事情があるとは認められない。
(e) 小括
 以上のとおり,被審人が特定納入業者に対し本件従業員等派遣をさせたことについて,かかる行為は,不利益行為に当たると認められる。 
b 本件協賛金の提供について
(a) 金銭の提供を受ける行為が不利益行為となる場合
 買取取引において,売主は,買主に商品を引き渡すことにより取引契約上の義務を履行したこととなるところ,契約等に別段の定めがなく,協賛金等の名目で売主が買主のために本来提供する必要のない金銭を提供することは,売主にとって通常は何ら合理性のないことであり,そのような行為は,原則として不利益行為に当たる。
 もっとも,例外的に,協賛金等の名目で提供した金銭について,その負担額,算出根拠,使途等について,あらかじめ事業者が相手方に対して明らかにし,かつ,当該金銭の提供による相手方の負担が,その提供を通じて相手方が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,相手方の同意の上で行われる場合(以下「金銭提供例外事由」という。)は,不利益行為には当たらないと解される。
(b) 本件協賛金の提供を受けた行為が不利益行為に該当するか
 被審人と特定納入業者との間の取引は買取取引であり,本件協賛金の提供について,両社間で契約上別段の定めはなく,本件協賛金の提供は,当該納入業者にとっては,本来必要のないものである。しかも,本件協賛金の提供は,被審人の閉店及びそれに伴う在庫商品の処分の必要性という被審人の事情により,既に納入した商品の代金を事後的に減額される結果となるのであり,納入業者にとっての不利益は大きい。したがって,金銭提供例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たるといえる。
 そして,金銭提供例外事由として,協賛金等の負担額,算出根拠,使途等をあらかじめ事業者が相手方に対して明らかにすることを必要とする趣旨は,相手方が,事前に不利益の程度及びその合理性について判断できるようにするためであるところ,被審人のバイヤーは,閉店セール前に,閉店セールを行う店舗及び日程についての通知はしたものの,在庫商品の数量について連絡はしていなかったこと,閉店セール実施後に割引額の通知はしていたものの,被審人において,閉店セール協賛金の算定方法は,被審人の予算上の粗利を確保できる金額以上の金額という条件とされ,専ら被審人の損失を転嫁するという観点によるものであり,バイヤーは,納入業者に対して算出根拠を明らかにしていないことからすれば,当該納入業者においては,事前に不利益の程度及びその合理性について判断することができたとはいえないから,被審人が,閉店セール協賛金の負担額,算出根拠,使途等をあらかじめ納入業者に対して明らかにしていたとは認められない。
 また,閉店する店舗において,納入済みの商品が売れたとしても,当該店舗において新たに商品が納入されることはないから,納入業者にとっての利益はなく,本件協賛金の提供の見返りとして,被審人が納入業者に対し,新規店舗における取引等を約束することはなかったのであるから,当該納入業者にとっては,本件協賛金の提供を通じて得ることとなる直接の利益等が存在せず,金銭提供例外事由に該当するとは認められない。
 以上のとおり,被審人が本件協賛金の提供を受けた行為は,金銭提供例外事由に当たるなどの特段の事情が存在するとは認められないから,不利益行為に該当する。
c 本件火災関連金の提供
(a) 金銭の提供が不利益行為になる場合
 火災により毀損した商品の損失補填のための金銭の提供も,前記b(a)と同様に,買取取引において,売主が買主のために本来提供する必要のない金銭を提供する行為であり,売主にとっては通常は何ら合理性のないことであるから,買主がかかる金銭を売主に提供させる行為は,金銭提供例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,売主である相手方は自由かつ自主的な判断に基づいてこれを受け入れたということはできず,不利益行為に当たると認めるのが相当である。
(b) 本件火災関連金の提供を受ける行為が不利益行為に該当するか
 被審人と特定納入業者との間の取引は買取取引であり,本件火災関連金の提供について,両社の間で契約等の別段の定めがないことには争いがないから,前記(a)のとおり,本件火災関連金の提供は,当該納入業者にとっては,本来必要のないものである。
 しかも,被審人において,自社の店舗の火災により商品が滅失毀損したことについて保険により損害の補填を受けられなかったのは,親会社の方針により保険への加入をやめたという被審人側の事情によるものであるにもかかわらず,納入業者において,このような火災関連金の提供によって,既に納入した商品の代金を事後的に減額される結果となるのは,極めて不合理なものである。
 したがって,本件火災関連金の提供は,金銭提供例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たると認めるのが相当である。
 そこで,本件火災関連金の提供について,金銭提供例外事由に当たるなどの特段の事情が存在するか否かについて検討すると,被審人が納入業者に対して,それぞれの火災滅失毀損商品の納入額を上限としてその負担額を明示するとともに,その使途が火災による損失の補填であることを明示するなどしており,相手方に与える不利益があらかじめ計算できないものではなかったとしても,本件火災関連金の提供は,飽くまで火災滅失毀損商品の損失補填であるから,納入業者の売上げの増加につながるものではない。そして,本件火災関連金の提供をした48社のうち,2社については,その従業員等が本件火災関連金の見返りとして一括発注等を受けた旨を供述し,又は審査官の平成25年3月29日付け報告命令に対する報告書(以下「本件報告書」という。)に同旨の記載があるものの,両社を除く少なくとも46社(以下「46社」という。)については,被審人が追加発注等の具体的な見返りを約した事実も認められないから,それ自体によって納入業者が得られる直接の利益等は存在しない。
 以上のとおり,少なくとも46社については,被審人において,これらの納入業者から本件火災関連金の提供を受けた行為は,金銭提供例外事由に当たるなどの特段の事情が存在するとは認められないから,不利益行為に該当する。 
(オ) 特定納入業者が不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様等
  
被審人は,消費者に販売するために商品を納入業者から購入する大規模な小売業者であり,他方で特定納入業者は,自ら製造しあるいは仕入れた商品を,被審人に販売する納入業者であって,特定納入業者に対する前記(エ) 認定の不利益行為は,このような被審人によるいわゆるバイイングパワーが発揮されやすい取引上の関係を背景としたものである。
 このような背景の下,前記(エ)で認定した不利益行為は,多数の取引の相手方である納入業者に対して,遅くとも平成21年6月28日から平成24年12月16日までの長期間にわたり,被審人において,自らの利益を確保することなどを目的として,役員等の指揮ないし関与の下,組織的かつ計画的に一連のものとして行われたものである。
 また,特定納入業者の中には,従業員等派遣を負担に感じていた者や,被審人との取引への悪影響を恐れて日当請求をしなかった者,被審人からの本件協賛金の提供について協議がなく,一方的な要請であると感じていたり,閉店セールの対象としない商品又は最終的に売れ残った商品については,被審人から返品に応じることを求められることから,返品による損失を回避するために本件協賛金の提供に応じた者もいた。特定納入業者の一部は,本件報告書や従業員等の供述調書において,被審人による不利益行為の要請に応じていた理由やこのうち本件従業員等の派遣について日当を請求することができなかった理由として,被審人の従業員の威圧的な態度や制裁,取引への悪影響のおそれを挙げている。
 以上のような不利益行為を特定納入業者が受け入れるに至った経緯や態様は,それ自体,被審人が納入業者一般に対してその意に反するような要請等を行っても,一般的に甘受され得る力関係にあったことを示すものであるから,前記(ウ)において被審人の特定納入業者に対する取引上の地位を判断する際に考慮したとおり,前記(エ)認定の不利益行為を受け入れていた納入業者については,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことをうかがうことができる。
(カ) 優越的地位の濫用に該当するか
a 被審人の本件各行為は取引上の地位が優越していることを利用して行われたものであること
   被審人は,前記(ウ)のとおり,その取引上の地位が69社に対して優越するものと認められるところ,被審人は,前記(エ)のとおり,69社に対して独占禁止法第2条第9項第5号ロに該当する不利益行為を行っていたことが認められる。
 そうすると,被審人が69社に対して本件各行為を行ったことは,通常,自己の取引上の地位が69社に対して優越していることを「利用して」(独占禁止法第2条第9項第5号柱書)行われたものであると認められる。
b 本件各行為が一体として優越的地位を濫用したものであること
 
独占禁止法第19条において優越的地位の濫用が不公正な取引方法の一つとして規制されている趣旨が公正競争阻害性にあることに照らせば,同法第2条第9項第5号又は旧一般指定第14項(第1号ないし第4号)に該当する行為は,これが複数みられるとしても,また,複数の取引先に対して行われたものであるとしても,それが,組織的かつ計画的に一連のものとして実行されているなど,行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合には,独占禁止法上1個の優越的地位の濫用として規制されると解するのが相当である。
 そして,被審人は,その取引上の地位が69社に対して優越していることを利用し,約3年半もの長期間にわたり,従業員等を派遣させ,閉店セール協賛金を提供させ,火災関連金の提供をさせたものであるところ,被審人は,自らの利益を確保することなどを目的として,役員等の指揮ないし関与の下,組織的かつ計画的に一連のものとして,こうした本件各行為を行ったことからすると,本件各行為は,行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合に該当し,独占禁止法上1個の優越的地位の濫用として規制されることになる。
c 結論
 
以上によれば,被審人は,本件期間中,自己の取引上の地位が,69社に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に独占禁止法第2条第9項第5号ロ(改正法の施行日前については,旧一般指定第14項第2号)に該当する行為を行っていたものであり,当該行為は,優越的地位の濫用に該当すると認められる。
 他方,前記(ウ)b(e)の9社については,被審人がこれらの納入業者に対して優越的地位を有していたことを認めるに足りないから,被審人の9社に対する行為は,優越的地位の濫用に該当すると認めることはできない。

イ 争点2について    
(ア) 本件排除措置命令における理由の記載に不備はないか
 排除措置命令書に記載すべき理由(公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用)とは,違反行為に関する認定事実のほか,いかなる事実関係に基づき排除措置が命じられたのかを,名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。
 これを本件についてみると,本件排除措置命令書には,排除措置命令の理由として,特定納入業者に該当するかの考慮要素及び被審人が特定納入業者に対して具体的にいかなる態様の行為をどの程度行ったのかという,命令の原因となる事実と,上記の行為は,被審人が自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭又は役務を提供させていたものであって,この行為が独占禁止法第2条第9項第5号ロ(改正法の施行前においては旧一般指定第14項第2号)に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するなどという,命令の根拠法条が示され,本件違反行為の相手方である78社が,別表により特定されている。
 したがって,被審人は,本件排除措置命令において,いずれの相手方に対する自己のいかなる行為が独占禁止法第2条第9項第5号ロ又は旧一般指定第14項第2号に該当する優越的地位の濫用との評価を受け,排除措置を命じられたのかを了知し得るものでなかったとはいえない。
 しかも,本件において,公正取引委員会は,独占禁止法第49条第5項に基づき事前説明を行い,その際,被審人の代表取締役らに対し,本件協賛金の提供及び本件火災関連金の提供に係る行為の対象となった66社及び48社が記載された資料を提示した上で説明をした。
 そうだとすれば,被審人は,本件排除措置命令に先立ち,事前説明において金銭の提供に係る各行為の対象となった特定納入業者を認識したのであるから,本件排除措置命令書の謄本送達時には,本件違反行為の相手方のみならず,本件各行為についてのそれぞれの相手方をも当然に知り得る状態にあったといえる。
 したがって,本件排除措置命令には,理由の記載に不備があったとはいえない。
(イ) 本件排除措置命令の法令の適用に誤りはないか
 旧一般指定は,あらゆる事業分野にわたる不公正な取引方法に一般的に適用されるものであり,それゆえに規定の内容もある程度一般的,抽象的となっており,他方,大規模小売業告示は,特定の事業分野における特定の取引方法に適用されるものであり,それゆえに規定の内容が具体的となっている点で異なるが,旧一般指定を定めた趣旨や,旧一般指定と大規模小売業告示はいずれも不公正な取引方法を指定するものであり,いずれの適用による法律効果も同じであることなどに照らすと,大規模小売業告示が定めている特定の事業分野について,旧一般指定の適用が排除されるものではないと解される。
 したがって,大規模小売業告示と旧一般指定第14項のいずれの要件をも満たし得る本件違反行為のうちの改正法施行前の行為に対し,大規模小売業告示ではなく旧一般指定を適用したとしても,法令の適用に誤りはない。
(ウ) 本件排除措置命令主文第2項において特定納入業者以外の納入業者に対する通知を命ずる部分は必要な措置といえるか
 被審人は,約3年半もの長期間にわたり,多数の納入業者に対し,自己の取引上の地位が優越していることを利用して,組織的かつ計画的に一体のものとして本件違反行為を行っていたものであり,これらの行為の相手方を特定の納入業者に限定していた様子はうかがえない。また,本件排除措置命令の効力が生じた時点においても被審人が総合ディスカウント業者として有力な地位にあり,69社以外の納入業者との関係でも優越的地位にある可能性が十分にあったことからすれば,69社以外の納入業者に対しても本件違反行為と同種又は類似の違反行為の行われるおそれがあると認められる。
 したがって,被審人による将来の違反行為を防止するためには,69社だけではなく,被審人と取引関係にある全ての納入業者に対して,本件排除措置命令の主文第1項に基づいて採った措置の通知を命じることが,必要かつ相当であると認められる。
 
ウ 争点3について 
(ア) 本件課徴金納付命令における理由の記載に不備はないか
 前記イ(ア)に同旨
(イ) 本件課徴金納付命令の課徴金の計算の基礎に誤りはないか
 本件違反行為期間は平成21年6月28日から平成24年12月16日までであるが,その期間が3年を超えるため,独占禁止法第20条の6の規定により,本件違反行為の終期から遡って3年となる平成21年12月17日から起算することとなる。
 そして,独占禁止法第20条の6が適用されるのは,改正法の施行日以後に係るものであるから(改正法附則第5条),課徴金の算定の基礎となる購入額は,平成22年1月1日から平成24年12月16日までの期間における対象納入業者である69社からの購入額(審決案別紙2の対象納入業者からの購入額)を合計した1192億2187万2931円となる。
 被審人は,違反行為は,相手方ごと,行為類型ごとに個別に認定するべきであるとして,違反行為期間についても,相手方ごと,行為類型ごとに個別に認定するべきであると主張するほか,本件火災関連金の提供は「継続してするもの」(独占禁止法第20条の6)に該当しないと主張する。
 しかし,本件違反行為は被審人による優越的地位の濫用として一体として評価でき,独占禁止法上1個の優越的地位の濫用として規制するべきであるから,被審人の主張は,これと異なる理解を前提とするものであり,採用することはできない。
(ウ) 本件課徴金納付命令の法令の適用に誤りはないか
 本件課徴金納付命令書の「3 課徴金に係る違反行為」における,本件違反行為が「独占禁止法第2条第9項第5号ロに該当」するという表記によって,当該行為が同項柱書の「不公正な取引方法」に該当することは明らかであるから,同項柱書の記載がないことが,法令の適用の誤りであるとはいえない。


※令和2年4月6日,「6 審決の概要」のア(ウ)の標題について,「被審人の取引上の地位が127社に対して優越しているか否か」を「被審人の取引上の地位が特定納入業者に対して優越しているか」に修正しました。

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