令和6年7月31日
公正取引委員会事務総局
中部事務所
第1 独占禁止法違反事件等の処理状況
1
公正取引委員会は、迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下、国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整、中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売などに厳正かつ積極的に対処することとしている。また、IT・デジタル関連分野や農業・漁業分野における独占禁止法違反被疑行為など、社会的ニーズに的確に対応した多様な事件に取り組んでいる。
そして、公正取引委員会は、一般から提供された情報(申告)、自ら探知した事実等を検討し、必要な審査を行い、審査の結果、違反行為が認められたときは、違反行為をした事業者等に対し、違反行為を排除するために必要な措置等を命じている。違反行為のうち、価格カルテル・入札談合・受注調整、優越的地位の濫用等については、違反行為をした事業者に対して課徴金の納付を命じている。また、違反被疑行為について公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認められるときは、確約手続を適用し、事業者と協調的な問題解決を図っている。
2 最近の独占禁止法違反事件等の処理状況(優越的地位の濫用事案で注意したもの及び不当廉売事案で迅速処理したものを除く。)
最近の5年間における中部地区の独占禁止法違反事件等の処理状況は、次のとおりである。
処理内容/年度 | 令和元年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
審査件数 | 前年度からの繰越し | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
年度内新規着手 | 2 | 3 | 3 | 5 | 6 | ||
合計 | 3 | 4 | 4 | 6 | 7 | ||
処理件数 | 法的措置(注1) | 排除措置命令等 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
その他 | 警告(注2) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
注意(注3) | 1 | 3 | 3 | 3 | 6 | ||
打切り(注4) | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | ||
小計 | 1 | 3 | 3 | 4 | 6 | ||
合計 | 2 | 3 | 3 | 5 | 6 | ||
次年度への繰越し | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
(注1)「法的措置」とは、排除措置命令、課徴金納付命令及び確約計画の認定であり、一つの事件について、排除措置命令と課徴金納付命令が共になされている場合には、法的措置件数を1件としている。
(注2)「警告」とは、排除措置命令を採るに足る証拠が得られないが、違反の疑いがある場合に行う措置である。
(注3)「注意」とは、違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが、将来違反につながるおそれがある場合に行う措置である。
(注4)「打切り」とは、違反行為が認められない等により、審査を打ち切る場合をいう。
3 独占禁止法違反事件等の概要
(1)優越的地位の濫用
公正取引委員会は、優越的地位の濫用に係る情報に接した場合には、効率的かつ効果的な調査を行い、独占禁止法違反につながるおそれのある行為が認められた場合には、未然防止の観点から注意するほか、独占禁止法違反が認められた場合は厳正に対処することとしている。
令和5年度においては、中部地区で9件の注意を行ったところ、その主な事例は以下のとおりである(注)。
(注) 次の各事例は、独占禁止法違反につながるおそれがあったものである。
ア 家庭教師派遣業を営むAは、経過措置により仕入税額控除が認められているにもかかわらず、業務委託先の家庭教師に対し、インボイス制度の実施後も課税事業者に転換せず、免税事業者を選択する場合には、消費税相当額を取引価格から引き下げる旨文書で伝えるなど一方的に通告していた(注)。
(注) 免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後3年間は同5割の控除ができることとされている。
イ プラスチック製品製造業を営むBは、運送業務を委託する物流事業者に対し、発注内容に含まれていない積込み作業を行わせていたにもかかわらず、当該作業に必要な費用を支払っていなかった。
ウ 段ボール製造業を営むCは、運送業務を委託する物流事業者に対し、荷卸しの際に待機時間が発生しているにもかかわらず、待機に伴う費用の支払について物流事業者と取り決めておらず、待機料を支払っていなかった。
(2)不当廉売
公正取引委員会は、申告のあった小売業に係る不当廉売事案については、迅速に処理するとの方針の下で対処しているほか、大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案であって、周辺の販売事業者に対する影響が大きいと考えられるものについて、周辺の販売事業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い、問題のみられる事案については厳正に対処することとしている。
迅速に処理するとの上記方針の下、令和5年度においては、石油製品等の小売業について、不当廉売につながるおそれがあるとして中部地区で45件の注意を行った。
(3)その他
次の各事例は、記載された行為が行われていた疑いがあり、独占禁止法違反につながるおそれがあったため、注意を行った。
ア 漁業協同組合Dは、組合員に対し、組合員が漁獲した水産物の全量を原則Dに出荷させることを条件とし、D以外に出荷して販売(漁協外販売)した組合員から、漁協外販売に係る売上額に一定率を乗じた額を手数料として徴収していた。(拘束条件付取引)
イ 建設資材の製造業者を組合員とする協同組合Eは、取引先建設業者に対し、E以外から建設資材を購入した場合、今後の取引条件を不利に扱う旨告知していた。(競争者に対する取引妨害)
ウ 水産加工品製造業を営む事業者を組合員とする任意団体Fは、組合員に対し、水産加工品の原料を加工することなく販売することを制限していた。(事業者団体による特定の商品等の開発・供給の制限)
第2 企業結合関係届出及び協同組合届出の状況
1 企業結合関係届出
独占禁止法では第4章において、事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等の禁止(第9条)及び銀行業又は保険業を営む会社の議決権取得・保有の制限(第11条)について規定しているほか、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合の会社等の株式取得・所有、役員兼任、合併、分割、共同株式移転及び事業譲受け等の禁止並びに一定の条件を満たす企業結合についての届出義務(第10条及び第13条から第16条まで)を規定している。
公正取引委員会は、これらの規定に従い、企業結合審査を行っているところ、最近5年間における中部地区の企業結合関係届出の状況は、次のとおりである。
令和元年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | |
---|---|---|---|---|---|
株式取得届出受理 | 4 | 5 | 4 | 7 | 7 |
合併届出受理 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 |
分割届出受理 | 1 | 0 | 2 | 0 | 1 |
共同株式移転届出受理 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
事業譲受け等届出受理 | 2 | 1 | 0 | 2 | 3 |
合計 | 10 | 7 | 6 | 9 | 11 |
2 協同組合届出
中小企業等協同組合法は、同法に基づき設立された事業協同組合及び信用協同組合に対し、同法第7条第1項第1号に規定する小規模事業者以外の事業者が加入したとき又は組合員が同小規模事業者でなくなったときには、その旨を公正取引委員会に届け出ることを義務付けている(同法第7条第3項)。
最近5年間における中部地区の協同組合届出件数は、次のとおりである。
令和元年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 |
---|---|---|---|---|
46 | 26 | 27 | 19 | 30 |
第3 広報・広聴活動
公正取引委員会は、独占禁止法等の普及・啓発及び競争政策の運営に資するため、次のような広報・広聴活動を行っている。
1 独占禁止政策協力委員制度
競争政策への理解の促進と地域の経済社会の実情に即した政策運営に資するため、独占禁止政策協力委員制度を設置しており、公正取引委員会が行う広報活動等に御協力いただくとともに、独占禁止法等の運用や競争政策の運営等について意見聴取を行っている。
令和5年度においては、(1)中小企業の取引適正化/優越的地位の濫用規制・下請法の規制、(2)競争環境の整備に係る調査・提言、(3)広報・広聴活動、(4)地域経済の実情と競争政策上の課題、(5)公正取引委員会に対する期待等についての意見聴取をそれぞれ行った(注)。
(注) 聴取した意見の概要は、他の地区のものと合わせて令和6年5月24日に公表されている。
2 有識者との懇談会
各地の有識者と公正取引委員会の委員等との懇談会及び講演会を通して、競争政策についてより一層の理解を求めるとともに、幅広く意見及び要望を把握し、今後の競争政策の有効かつ適切な推進を図るため、毎年、全国各地において有識者との懇談会を開催している。
中部地区では、令和5年度は静岡市において、静岡商工会議所、消費者団体、学識経験者等の静岡市の有識者と公正取引委員会委員との懇談会を開催するとともに「成長と分配の好循環の実現と公正取引委員会の役割」をテーマに講演会を開催した。
このほか、中部事務所長等と各地の有識者との懇談会を開催しており、令和5年度は名古屋市(3か所)、津市、三重県四日市市、静岡市(2か所)、静岡県沼津市及び富山県氷見市の計9か所において開催した。また、静岡県の弁護士会との懇談会を開催した。さらに、公正取引委員会委員及び事務総長が、愛知県愛西市及び静岡県藤枝市の事業者の工場等を訪問し、事業実態の説明を受けるとともに、労務費、原材料価格、エネルギーコストの転嫁状況等について意見交換を行った。
3 独占禁止法説明会等
公正取引委員会は、独占禁止法等の違反行為の未然防止を図るため、説明会・講習会等を自ら主催しているほか、各種業界団体等から要請を受けて講習会等へ講師を派遣している。
中部地区では、令和5年度は独占禁止法に関する説明会等を16回実施した。また、入札談合等関与行為防止法に関する研修会等を63回実施したほか、インボイス制度への対応に係る独占禁止法等において問題となり得る行為についての説明会を1回実施した。
このほか、令和5年度は、働き方改革等の課題について、各地域で地方公共団体や労使を交えて話し合う場として全都道府県に設置されている「地方版政労使会議」につき、令和6年2月から3月にかけて開催された中部地区の同会議に出席し、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の説明を行った。
4 独占禁止法教室(出前授業)
将来を担う中学生、高校生、大学生等を対象に、市場経済の仕組みや競争の機能について説明するなどし、競争の必要性・重要性、独占禁止法の役割等について理解してもらうことを目的として、公正取引委員会の職員による「独占禁止法教室」を開催している。
中部地区では、令和5年度は高校生向け独占禁止法教室を5回、大学生向け独占禁止法教室を27回それぞれ開催した。
5 消費者セミナー
一般消費者に独占禁止法の内容や公正取引委員会の活動について、より一層理解を深めてもらうことを目的として、地域の一般消費者を対象としたセミナーを開催しているほか、公正取引委員会の職員を消費者団体等の勉強会等に派遣している。
中部地区では、令和5年度は名古屋市(7か所)、愛知県岡崎市、愛知県尾張旭市、愛知県東海市、岐阜県各務原市、岐阜県関市、津市(2か所)、三重県三重郡菰野町、静岡市(2か所)、静岡県沼津市において、消費者セミナーを18回実施した。
6 一日公正取引委員会
本局及び地方事務所等の所在地以外の都市において、独占禁止法及び下請法の普及啓発活動や相談対応の一層の充実を図るため、独占禁止法説明会、下請法説明会、入札談合等関与行為防止法研修会、景品表示法説明会、相談コーナーなどを1か所の会場で開催する「一日公正取引委員会」を開催している。
中部地区では、令和5年度は静岡県沼津市において、12月14日に一日公正取引委員会を開催した。
7 相談業務
公正取引委員会は、法運用に対する理解を深め、違反行為の未然防止を図るため、相談を受け付けている。
最近5年間における中部地区の相談受付件数は次のとおりである。
令和元年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | |
---|---|---|---|---|---|
独占禁止法 | 456 | 520 | 426 | 699 | 879 |
下請法 | 904 | 1,028 | 1,229 | 1,540 | 1,841 |
合計 | 1,360 | 1,548 | 1,655 | 2,239 | 2,720 |
関連ファイル
(印刷用)(令和6年7月31日)令和5年度における中部地区の独占禁止法の運用状況等について(149 KB)問い合わせ先
第1に関する問い合わせ先
公正取引委員会事務総局中部事務所第一審査課
電話 052-961-9425(直通)
第2に関する問い合わせ先
公正取引委員会事務総局中部事務所経済取引指導官
電話 052-961-9422(直通)
第3に関する問い合わせ先
公正取引委員会事務総局中部事務所総務課
電話 052-961-9421(直通)