令和7年12月23日
公正取引委員会
中小企業庁
1 集中調査の実施等について
公正取引委員会及び中小企業庁は、下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号。以下「下請法」という。)に違反する疑いのある行為を行っている事業者に対して、連携して調査を行い、違反が認められた場合には、勧告、公正取引委員会に対する措置請求、指導等の措置を迅速かつ厳正に行っている。
今般、公正取引委員会及び中小企業庁は、下請法の執行を通じた取引の適正化の取組を更に効果的なものとするため、特定の業種・業界における下請法違反被疑行為について集中的に調査を行い、下請法に違反する又は違反するおそれのある行為が認められた事業者に対して、迅速に指導等を行う新たな取組を実施した。
この取組の一つとして、公正取引委員会及び中小企業庁は、令和7年4月以降、運送事業者間の取引において行われている下請代金(以下「代金」という。)等に係る下請法違反被疑行為について集中的に調査を行い、運送事業者に対して、2件の勧告(令和7年12月4日及び同年12月12日にそれぞれ措置済み)及び530件の指導を行った。勧告及び指導事例の概要は別紙1のとおりである。
また、中小企業庁では全国に下請Gメンを配置して中小企業に対しヒアリングを行っており、運送事業者間の取引に関して、中小企業である運送事業者からのヒアリングで聴取した主な意見は別紙2のとおりである。
2 主な違反行為の傾向
(1)書面の不交付・記載不備について 運送事業者が、下請事業者(以下「受託側の運送事業者」という。)に対して運送業務を委託する場合には、取引条件を記載した発注書面等を交付する義務があるが、発注書面等を交付していなかった書面の不交付の事例が複数あった。
また、発注書面等を交付していた場合でも、荷待ち、積込み・取卸し等の運送業務以外の役務を委託しているにもかかわらず、発注時に当該役務を「提供される役務の内容」として記載していなかった記載不備の事例が複数あった。
本集中調査で確認した限りでは、運送事業者が取引条件を記載した発注書面等を交付する際に、運送業務以外の役務を運送業務と区別して記載していない事例が多く、その要因としては、運送業界全体において、「荷待ち、積込み・取卸し等の役務も運送業務の一部である」という商慣習が根強く残っていることが考えられる。
(2)買いたたきについて
昨今の労務費やエネルギーコスト等の上昇により、運送に係るコストが上昇しているにもかかわらず、運送事業者が、受託側の運送事業者と協議を行うことなく代金を据え置いていた事例や、受託側の運送事業者が代金の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を発注書面等で受託側の運送事業者に回答することなく、代金を据え置いていた事例が複数あった。
また、運送事業者が、運送業務以外の役務を運送業務と一体であるとみなして、「運送業務及びその他附帯する業務」といったように委託内容を記載した上で、運送業務以外の役務について受託側の運送事業者と十分な協議を行わず一方的に代金を決定し、本来支払うべき運送業務以外の役務に係る代金を支払っていなかった事例もあった。
代金を決定する際に代金が据え置かれていた事例が多かった要因としては、受託側の運送事業者から協議を求めにくいことや、協議が行われた場合でも意見が言いにくいことが考えられる。
(3)不当な経済上の利益の提供要請について
運送事業者が発注時に委託内容として発注書面等に記載していないにもかかわらず、受託側の運送事業者に対して、無償で、荷待ち、積込み・取卸し等の運送業務以外の役務を行わせていた事例が複数あったほか、有料道路の利用が必要な遠距離運送業務において、有料道路の利用料金を受託側の運送事業者に負担させていた事例もあった。
運送事業者が無償で運送業務以外の役務を行わせていた要因としては、受託側の運送事業者に支払う運送業務の対価に運送業務以外の役務の対価も含まれているとして、無償で行わせることが商慣習化していることがうかがえた。また、発荷主から運送業務以外の役務に係る対価が支払われていないことが、受託側の運送事業者に無償で当該役務を行わせている要因であることを挙げる運送事業者も多数みられた。
3 違反行為に対する改善のための取組
(1)書面の不交付・記載不備について運送事業者に対し、取引条件を記載した発注書面等に運送業務以外の役務の委託内容を全く記載していなかった場合、荷待ち、積込み・取卸し等の運送業務以外の役務が生じる時には具体的に明記するよう指導し、また、発注書面等に「その他一切の附帯業務」といった記載をしていた運送事業者に対しては、役務の内容について運送業務以外の役務を明確にするよう指導を行った。
(2)買いたたきについて
運送事業者から一方的に代金の決定が行われていた場合や、代金の額の決定に当たり十分な協議が行われていなかった場合には、運送事業者に対し、受託側の運送事業者との価格協議を行う場を設けるようにすること、また、その際には昨今の労務費等のコスト上昇を考慮し、十分な協議を行った上で代金の額を定めるよう指導を行った。
令和8年1月1日から施行される「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(下請法の改正法(令和7年法律第41号)による改正後の法律。以下「取適法」という。)では、委託事業者の禁止行為として「協議に応じない一方的な代金決定」が追加されるため、委託事業者は中小受託事業者からの価格協議に応じない場合は取適法上問題となり得ることにも留意する必要がある。
(3)不当な経済上の利益の提供要請について
運送事業者に対し、運送業務以外の役務の内容を運送業務とは区別して定め、当該役務に係る対価について十分な協議を行い、適正な対価を定めて支払うよう指導を行った。
本集中調査においては、運送業務以外の役務に関する記載不備が複数みられたが、発注時に運送業務以外の役務について運送業務と区別して委託内容を記載することで、買いたたきや不当な経済上の利益の提供要請の未然防止にもつながるため、運送事業者においては、取引条件を記載した発注書面等を交付する義務を遵守し、適切に交付することが重要である。
また、取適法では、適用対象となる取引に特定運送委託が追加され、発荷主から直接運送事業者に委託する運送も同法の適用対象となるため、発荷主及び運送事業者の双方において法令遵守の徹底に取り組む必要があると考えられる。
4 今後の対応
運送事業者間の取引における下請法違反被疑行為について集中的に調査を行った本集中調査の過程においては、貨物自動車運送事業法(以下「トラック法」という。)上も問題となり得ると考えられる事例も散見された。運送事業者間の取引においては、取適法、トラック法等の関係法令の遵守を徹底し、物流業界全体で事業者間の対等な価格交渉の確保への機運を醸成しながら、取引適正化を進めていくことが求められる。
公正取引委員会及び中小企業庁は、今回の調査・指導の結果を踏まえ、事業所管省庁と更なる連携を図りながら、引き続き、運送事業者間の取引の適正化に向けて、違反する又は違反するおそれのある行為については、取適法に基づき迅速かつ厳正に対応していくこととする。
また、その一環として、公正取引委員会、中小企業庁及び国土交通省は、物流業界の取引適正化を阻害する行為に対して取適法・トラック法を活用してシームレスに対応するために、3省庁で執行情報の共有を行う連絡会議を定期的に開催し、一層の執行連携に取り組んでいくこととする。
関連ファイル
(概要)(令和7年12月23日)運送事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果について(本文)(令和7年12月23日)運送事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果について
問い合わせ先
公正取引委員会事務総局経済取引局取引部下請取引調査室
電話 03-3581-3374(直通)〔本文及び別紙1について〕
中小企業庁事業環境部取引課
電話 03-3501-1732(直通)〔別紙2について〕
ホームページ https://www.jftc.go.jp/