令和7年6月23日
公正取引委員会事務総局
近畿中国四国事務所
第1 独占禁止法違反事件等の処理状況
1
公正取引委員会は、迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下、国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整、中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売などに厳正かつ積極的に対処することとしている。また、IT・デジタル関連分野や農業・漁業分野における独占禁止法違反被疑行為など、社会的ニーズに的確に対応した多様な事件に取り組んでいる。
そして、公正取引委員会は、一般から提供された情報(申告)、自ら探知した事実等を検討し、必要な審査を行い、審査の結果、違反行為が認められたときは、違反行為をした事業者等に対し、違反行為を排除するために必要な措置等を命じている。違反行為のうち、価格カルテル・入札談合・受注調整、優越的地位の濫用等については、違反行為をした事業者に対して課徴金の納付を命じている。また、違反被疑行為について公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認められるときは、確約手続を適用し、事業者と協調的な問題解決を図っている。
2 最近の独占禁止法違反事件等の処理状況(不当廉売事案で迅速処理したもの及び優越的地位の濫用事案で注意したものを除く。)
最近の5年間における近畿地区の独占禁止法違反事件等の処理状況は、次のとおりである。
処理内容\年度 | 令和2年度 |
令和3年度 | 令和4年度 |
令和5年度 |
令和6年度 |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|
審査件数 | 前年度からの繰越し |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
|
年度内新規着手 | 3 |
4 |
5 |
4 |
6 |
||
合計 | 4 |
5 |
6 |
5 |
7 |
||
処理件数 | 法的措置(注1) | 排除措置命令等 | 1 |
0 |
2 | 2 |
0 |
その他 | 警告(注2) | 0 | 0 |
0 |
0 | 1 | |
注意(注3) | 2 |
4 |
3 |
2 |
4 |
||
打切り(注4) | 0 |
0 |
0 | 0 | 0 | ||
小計 | 2 |
4 |
3 |
2 |
5 |
||
合計 | 3 |
4 |
5 |
4 |
5 |
||
次年度への繰越し | 1 |
1 |
1 |
1 |
2 |
(注1)「法的措置」とは、排除措置命令、課徴金納付命令及び確約計画の認定であり、一つの事件について、排除措置命令と課徴金納付命令が共になされている場合には、法的措置件数を1件としている。
(注2)「警告」とは、排除措置命令を採るに足る証拠が得られないが、違反の疑いがある場合に行う措置である。
(注3)「注意」とは、違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが、将来違反につながるおそれがある場合に行う措置である。
(注4)「打切り」とは、違反行為が認められない等により、審査を打ち切る場合をいう。
3 独占禁止法違反事件等の概要
(1) 再販売価格の拘束
日清食品株式会社に対する件(令和6年8月22日警告)
ア 日清食品は、自ら製造販売する即席麺に関して、かねてから小売業者(注1)が販売する定番売価(注2)及び特売売価(注3)の基準(以下「基準価格」という。)を設定していたところ、令和4年6月及び令和5年6月の取引先卸売業者に対する出荷価格の引上げに向けて、それぞれ基準価格の改定を行った。
(注1)「小売業者」とは、日清食品が製造販売する即席麺を販売している小売業者のうち、コンビニエンスストアを除く者をいう。
(注2)「定番売価」とは、小売業者が特売を行わない期間である「通常時」に設定する小売売価をいう。
(注3)「特売売価」とは、小売業者が特売を行う期間である「特売時」に設定する小売売価をいう。
イ 日清食品は、本件5商品(注4)について、前記アの改定後の基準価格を基に定番売価及び特売売価をそれぞれ設定した上で(以下、当該設定した価格を総称して「提示価格」という。)、小売業者に提示価格を遵守させるという方針の下、令和4年2月及び令和5年2月以降、小売業者に対して、自ら以下の行為を行うとともに、取引先卸売業者をして以下の行為をさせている。
(ア) 通常時において、他の小売業者にも同様の要請を行っている旨を伝えたり、又 は、要請を受け入れるまでは特売の条件を出せない(注5)旨を示唆したりするなどして、提示価格まで定番売価を引き上げることを要請することにより、前記アの各出荷価格の引上げ以降、提示価格で販売するようにさせている。
(イ) 特売時において、提示価格で販売することを前提に特売の条件を出すようにするなどして、提示価格まで特売売価を引き上げることを要請することにより、前記アの各出荷価格の引上げ以降、提示価格で販売するようにさせている。
(注4)「本件5商品」とは、日清食品が製造販売する即席麺のうち、「カップヌードル」、「カップヌードルシーフードヌードル」、「カップヌードルカレー」、「日清のどん兵衛きつねうどん」及び「日清焼そばU.F.O.」のブランドが付されたものであってレギュラーサイズのものをいう。
(注5)「特売の条件を出す」とは、小売業者が特売を行う際、卸売業者から小売業者に対して販売する価格を一時的に引き下げ、その引下げ分を日清食品が負担することをいう。
(2) 優越的地位の濫用
公正取引委員会は、優越的地位の濫用に係る情報に接した場合には、効率的かつ効果的な調査を行い、独占禁止法違反につながるおそれのある行為が認められた場合には、未然防止の観点から注意するほか、独占禁止法違反が認められた場合は厳正に対処することとしている。
令和6年度においては、近畿地区で7件の注意を行ったところ、その主な事例は以下のとおりである。
ア 外食産業向け飲食料品の卸売業を営むAは、納入業者に対し、繁忙期に従業員等の派遣を要請し、自社倉庫において他社商品を含む商品の棚入れ作業を行わせているが、派遣を受ける従業員等の業務内容等についてあらかじめ納入業者と合意することなく、かつ、納入業者に対して日当や交通費等の納入業者が従業員等を派遣するために通常必要となる費用を支払っていなかった。
イ 飲食料品の卸売業を営むBは、運送業務を委託する物流事業者に対し、繁忙期の納品の際に待機時間が発生しているにもかかわらず、待機に伴う費用の支払について物流事業者と取り決めておらず、待機料を支払っていなかった。
(3) 不当廉売
公正取引委員会は、申告のあった小売業に係る不当廉売事案については、迅速に処理するとの方針の下で対処しているほか、大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案であって、周辺の販売事業者に対する影響が大きいと考えられるものについて、周辺の販売事業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い、問題のみられる事案については厳正に対処することとしている。
令和6年度においては、酒類、石油製品等の小売業について、不当廉売につながるおそれがあるとして近畿地区で36件の注意を行った。
(4) その他
次の各事例は、独占禁止法違反につながるおそれがあったため、注意を行った。
ア 玩具の製造販売業を営むCは、自社が製造販売する玩具について、小売業者に対し、直接又は卸売業者を通じて、メーカー希望小売価格で販売すること、特定のインターネットショッピングサイトを通じては販売しないことを要請していた。(再販売価格の拘束、拘束条件付取引)
イ 化粧品等の卸売業を営むDは、自社が販売する化粧品について、小売業者に対し、自社の指定した価格で販売するよう要請していた。(再販売価格の拘束)
第2 企業結合関係届出及び協同組合届出の状況
1 企業結合関係届出
独占禁止法では第4章において、事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等の禁止(第9条)及び銀行業又は保険業を営む会社の議決権取得・保有の制限(第11条)について規定しているほか、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合の会社等の株式取得・所有、役員兼任、合併、分割、共同株式移転及び事業譲受け等の禁止並びに一定の条件を満たす企業結合についての届出義務(第10条及び第13条から第16条まで)を規定している。
公正取引委員会は、これらの規定に従い、企業結合審査を行っている。
最近5年間における近畿地区の企業結合関係届出の状況は、次のとおりである。
令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 | |
---|---|---|---|---|---|
株式取得届出受理 | 15 |
12 |
6 |
10 |
14 |
合併届出受理 | 0 | 0 |
0 | 0 | 0 |
分割届出受理 | 1 |
1 |
0 |
0 |
2 |
共同株式移転届出受理 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
事業譲受け等届出受理 | 5 |
1 |
1 |
0 |
0 |
合計 | 21 |
14 |
7 |
10 |
16 |
2 協同組合届出
中小企業等協同組合法は、同法に基づき設立された事業協同組合及び信用協同組合に対し、同法第7条第1項第1号に規定する小規模事業者以外の事業者が加入したとき又は組合員が同小規模事業者でなくなったときには、その旨を公正取引委員会に届け出ることを義務付けている(同法第7条第3項)。
最近5年間における近畿地区の協同組合届出件数は、次のとおりである。
令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|---|---|
35 |
31 |
35 |
40 |
34 |
第3 広報・広聴活動
公正取引委員会は、独占禁止法等の普及・啓発及び競争政策の運営に資するため、次のような広報・広聴活動を行っている。
1 独占禁止政策協力委員制度
競争政策への理解の促進と地域の経済社会の実情に即した政策運営に資するため、独占禁止政策協力委員制度を設置しており、公正取引委員会が行う広報活動等に御協力いただくとともに、独占禁止法等の運用や競争政策の運営等について意見聴取を行っている。
令和6年度においては、(1)中小企業の取引適正化/優越的地位の濫用規制・下請法の規制、(2)競争環境の整備に係る調査・提言、(3)地域経済の実情と競争政策上の課題、(4)広報・広聴活動、(5)公正取引委員会に対する期待等についての意見聴取をそれぞれ行った(注)。
(注) 聴取した意見の概要は、他の地区のものと合わせて令和7年5月28日に公表されている。
2 有識者との懇談会
各地の有識者と公正取引委員会の委員等との懇談会を通して、競争政策についてより一層の理解を求めるとともに、幅広く意見及び要望を把握し、今後の競争政策の有効かつ適切な推進を図るため、毎年、全国各地において有識者との懇談会を開催している。
近畿地区では、令和6年度は京都市において、京都商工会議所、京都府商工会連合会等の経済団体、報道機関といった京都市の有識者と公正取引委員会委員との懇談会を開催した。
このほか、近畿中国四国事務所長等と各地の有識者との懇談会を開催しており、令和6年度は福井市(2か所)、大津市、滋賀県草津市(2か所)、同県長浜市、同県高島市、大阪市(6か所)、神戸市及び和歌山市(2か所)の計16か所において開催した。また、京都府、大阪府(2回)及び兵庫県の弁護士会との懇談会を開催した。さらに、公正取引委員会委員とともに京都市及び京都府向日市の事業者の工場等を訪問し、懇談を行った。
3 独占禁止法説明会等
公正取引委員会は、独占禁止法等の違反行為の未然防止を図るため、説明会・講習会等を自ら主催しているほか、各種業界団体等から要請を受けて講習会等へ講師を派遣している。
近畿地区では、令和6年度は独占禁止法に関する説明会等を24回実施した。また、入札談合等関与行為防止法に関する研修会等を37回実施した。
このほか、令和6年度は、働き方改革等の課題について、各地域で地方公共団体や労使を交えて話し合う場として全都道府県に設置されている「地方版政労使会議」につき、令和7年1月から3月にかけて開催された近畿地区の同会議に出席し(滋賀県及び兵庫県を除く)、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」等の説明を行った。
4 独占禁止法教室(出前授業)
将来を担う中学生、高校生、大学生等を対象に、市場経済の仕組みや競争の機能について説明するなどし、競争の必要性・重要性、独占禁止法の役割等について理解してもらうことを目的として、公正取引委員会の職員による「独占禁止法教室」を開催している。
近畿地区では、令和6年度は中学生向け独占禁止法教室を5回、高校生向け独占禁止法教室を5回、大学生等向け独占禁止法教室を18回それぞれ開催した。
5 消費者セミナー
一般消費者に独占禁止法の内容や公正取引委員会の活動について、より一層理解を深めてもらうことを目的として、地域の一般消費者を対象としたセミナーを開催しているほか、公正取引委員会の職員を消費者団体等の勉強会等に派遣している。
近畿地区では、令和6年度は福井市、京都市、大阪府東大阪市(2か所)、兵庫県西脇市、和歌山市及び和歌山県橋本市において、消費者セミナーを計7回実施した。
6 一日公正取引委員会
本局及び地方事務所等の所在地以外の都市において、独占禁止法、下請法等の普及啓発活動や相談対応の一層の充実を図るため、独占禁止法講演会、下請法基礎講習会、フリーランス法説明会、入札談合等関与行為防止法研修会、消費者セミナー、独占禁止法教室、報道機関との懇談会、相談・展示コーナーなどを1か所の会場で開催する「一日公正取引委員会」を開催している。
近畿地区では、令和6年度は京都市において、11月20日に一日公正取引委員会を開催した。
7 相談業務
公正取引委員会は、法運用に対する理解を深め、違反行為の未然防止を図るため、相談を受け付けている。
最近5年間における近畿地区の相談受付件数は次のとおりである。
令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 | |
---|---|---|---|---|---|
独占禁止法 | 878 |
944 |
1,189 |
1,319 |
953 |
関連ファイル
(印刷用)(令和6年7月29日)令和5年度における近畿地区の独占禁止法の運用状況等について
(145 KB)
問い合わせ先
第1に関する問い合わせ先 公正取引委員会事務総局近畿中国四国事務所第一審査課
電話 06ー6941ー2193(直通)
第2に関する問い合わせ先 公正取引委員会事務総局近畿中国四国事務所経済取引指導官
電話 06ー6941ー2174(直通)
第3に関する問い合わせ先 公正取引委員会事務総局近畿中国四国事務所総務課
電話 06ー6941ー2173(直通)
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