平成27年1月15日
公正取引委員会
1 はじめに
公正取引委員会は,今般の消費税率の引上げに当たり,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保する観点から,消費税の転嫁拒否等の行為(以下「転嫁拒否行為」という。)の未然防止のための取組と,転嫁拒否行為に対する迅速かつ厳正な対処のための取組を進めてきた。
公正取引委員会は,転嫁拒否行為に関する情報を積極的に収集するため,消費税率の引上げが実施された平成26年4月以降,中小企業庁と合同で,中小企業・小規模事業者等に対する悉皆的な書面調査や,大規模小売事業者及び大企業等に対する書面調査を実施したところであり,これらによって把握した情報等に基づき,転嫁拒否行為に対して迅速かつ厳正に対処しているところである。
また,平成26年4月から11月までに計11件の勧告・公表を行ったほか,平成26年12月に2件の勧告・公表を行ったところである。
今後も引き続き,転嫁拒否行為に対して迅速かつ厳正に対処していくとともに,重大な転嫁拒否行為が認められた場合には勧告・公表を積極的に行うこととしている。また,転嫁拒否行為の未然防止のための取組についても,引き続き実施していく。
2 転嫁拒否行為に対する迅速かつ厳正な対処のための取組
(1) 転嫁拒否行為に関する情報収集
ア 中小企業・小規模事業者等に対する悉皆的な書面調査
公正取引委員会は,平成26年4月から6月にかけて,中小企業庁と合同で,中小企業・小規模事業者等(売手側)から転嫁拒否行為に関する情報提供を求めるため,中小企業・小規模事業者等全体に対して,広く調査票を送付又は配布して,書面調査を実施したところである。
転嫁拒否行為は,今後も行われる可能性があることから,平成26年度内にわたって違反行為を監視するため,平成26年7月以降も書面調査を引き続き実施している。
さらに,公正取引委員会は,これまでの書面調査に加え,個人事業者からの情報収集を一層強化すべく,中小企業庁と合同で,個人事業者に対して書面調査を実施するため,平成26年11月に調査票を送付したところである。
イ 事業者及び事業者団体に対するヒアリング調査
公正取引委員会は,転嫁拒否行為に関する情報等を把握するため,これまでに7,786社の事業者及び1,608の事業者団体に対してヒアリング調査を実施した(平成26年12月末時点)。
(2) 転嫁拒否行為に対する調査及び勧告・指導
公正取引委員会は,様々な情報収集活動によって把握した情報を踏まえ,立入検査等の調査を積極的に実施しており,違反行為が認められた事業者に対しては転嫁拒否行為に係る不利益の回復などの必要な改善措置を迅速に行っている。また,重大な転嫁拒否行為が認められた場合には,勧告・公表を積極的に行っている(公正取引委員会及び中小企業庁における平成25年10月から平成26年12月までの対応実績は別紙参照)。
公正取引委員会及び中小企業庁は,平成26年12月に50件の指導を行い,平成25年10月から平成26年12月までの指導件数の合計は1,493件である。また,公正取引委員会は,平成26年12月に2件の勧告を行い,平成25年10月から平成26年12月までの勧告件数の合計は13件である(別添1)。
違反行為類型別では,買いたたき(消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号後段)が1,204件,本体価格での交渉の拒否(同法第3条第3号)が241件,役務利用・利益提供の要請(同法第3条第2号)が66件及び減額(同法第3条第1号前段)が31件となっている(合計1,542件)。
(3) 平成26年12月における転嫁拒否行為に対する措置
公正取引委員会は,平成26年12月に2件の勧告を行っており,同月における勧告の概要は以下のとおりである。
また,公正取引委員会及び中小企業庁は,平成26年12月に50件の指導を行っており,同月における主な指導事例は別添2のとおりである。
ア 東映アニメーション株式会社に対する件(平成26年12月17日勧告)
(ア) 東映アニメーション株式会社(以下「東映アニメーション」という。)は,主にアニメーションの製作事業を営む事業者であり,アニメーションの原画,動画等の制作業務について,他の事業者に継続して委託している。
(イ) 東映アニメーションは,アニメーションの原画,動画等の制作業務の委託料を消費税を含む額で定めている個人事業者(以下「本件事業者」という。)に対して,平成26年4月1日以後の委託料について,消費税率の引上げ分を上乗せせず,平成26年3月31日までの委託料と同額の委託料を平成26年9月分まで支払った。
(ウ) 東映アニメーションは,公正取引委員会が本件について調査開始の連絡をした後,平成26年4月1日以後に本件事業者から供給を受ける役務に関する前記(イ)の委託料の額について,平成26年11月20日までに,消費税率の引上げ分に相当する額を上乗せした額まで引き上げることを本件事業者との間で合意し,平成26年4月1日に遡って支払った。
(エ) 公正取引委員会は,前記(イ)の行為が,消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号後段(買いたたき)の規定に違反するものであるとして,同法第6条第1項の規定に基づき,東映アニメーションに対し,今後,特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むことのないよう,自社の役員及び従業員に本勧告の内容について周知徹底すること,同法の研修の実施等の社内体制整備のための措置を講じること,実施した措置を速やかに公正取引委員会に報告すること等を内容とする勧告を行った。
イ 株式会社トライグループに対する件(平成26年12月19日勧告)
(ア) 株式会社トライグループ(以下「トライグループ」という。)は,児童,生徒等(以下「生徒」という。)を対象とした学習指導事業を営む事業者であり,講師が生徒の家庭を訪問して学習指導を行う事業と,自ら運営する教室施設において1人の講師が1人の生徒に学習指導を行う事業を営んでいる。
(イ)[1] トライグループは,家庭教師について業務委託契約を個人事業者(以下「本件家庭教師」という。)と締結しており,本件家庭教師は,トライグループが契約した生徒の家庭を訪問し,継続して学習指導を行っている。
[2] トライグループは,前記[1]の業務委託の委託料金について,消費税を含む額として委託報酬単価を定め,本件家庭教師の委託報酬単価及び指導時間に応じて毎月の委託料金を算出し,支払っている。
[3] トライグループは,前記[2]の委託報酬単価について,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せせず,平成26年3月31日までの委託報酬単価と同額に定め,本件家庭教師に対して前記[2]の方法で算出した金額を平成26年4月分の委託料金として支払った。
[4] トライグループは,公正取引委員会が本件について調査開始の連絡をした後,本件家庭教師に対し,平成26年4月1日以降の委託料金について,平成26年6月下旬までに,消費税率の引上げ分に相当する額を上乗せした額まで引き上げることを本件家庭教師との間で合意し,平成26年4月1日に遡って支払った。
(ウ)[1] トライグループは,学習指導に使用する教室施設のほとんどを賃借している。
[2] トライグループは,前記[1]の教室施設の賃料を消費税を含む額で定めている賃貸人の一部(以下「本件賃貸人」という。)に対し,平成26年4月1日以後の賃料について,消費税率の引上げ分を上乗せせず,平成26年3月分の賃料と同額を支払った。
[3] トライグループは,公正取引委員会が本件について調査を開始した後,本件賃貸人に対し,平成26年4月1日以後の賃料について,平成26年11月中旬までに,消費税率の引上げ分に相当する額を上乗せした額まで引き上げることを本件賃貸人との間で合意し,平成26年4月分に遡って支払った。
(エ) 公正取引委員会は,前記(イ)[3]及び(ウ)[2]の行為が,それぞれ,消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号後段(買いたたき)の規定に違反するものであるとして,同法第6条第1項の規定に基づき,トライグループに対し,今後,特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むことのないよう,自社の役員及び従業員に本勧告の内容について周知徹底すること,同法の研修の実施等の社内体制整備のための措置を講じること,実施した措置を速やかに公正取引委員会に報告すること等を内容とする勧告を行った。
別紙
転嫁拒否行為に対する対応実績(平成26年12月まで)
公正取引委員会
中小企業庁
平成26年12月までの公正取引委員会及び中小企業庁における転嫁拒否行為に対する対応状況は下表のとおりである(勧告事件及び主な指導事例については,別添1及び別添2を参照)。
調査着手 | 立入検査 | 指導(注2) | 勧告(注3) | 措置請求 |
3,534件 | 1,934件 | 1,493件 |
13件 |
3件 |
(注1) 公正取引委員会及び中小企業庁の合算。また,平成26年12月までの累計(平成25年10月~平成26年12月)。≪ ≫内の件数は,大規模小売事業者に対する指導又は勧告の件数で内数である。
(注2) 転嫁拒否行為を行っていると回答した事業者に対する下請代金支払遅延等防止法に基づく中小企業庁の指導を含む。
(注3) 勧告は,公正取引委員会のみが行う。
業種 | 指導 | 勧告 | 合計 |
建設業 | 68件 | 0件 | 68件 |
製造業 | 529件 | 0件 | 529件 |
運輸業(道路貨物運送業等) | 153件 | 0件 | 153件 |
情報通信業 | 136件 | 1件 | 137件 |
卸売業 | 141件 | 1件 | 142件 |
小売業 | 154件 | 2件 | 156件 |
不動産業 | 32件 | 1件 | 33件 |
技術サービス業(広告・建築設計業等) | 104件 | 0件 | 104件 |
事業サービス業(ビルメンテナンス業・警備業等) | 25件 | 0件 | 25件 |
自動車整備業・機械等修理業 | 18件 | 0件 | 18件 |
その他(注5) | 133件 | 8件 | 141件 |
合 計 | 1,493件 | 13件 | 1,506件 |
(注4) 複数の業種にわたる事業者が勧告又は指導の対象となった場合は,当該事業者の主な業種を1件として計上している。
(注5) 「その他」は,医療福祉,旅行業,労働者派遣業等である。
行為類型 | 指導 | 勧告 | 合計 |
減額 | 28件 | 3件 | 31件 |
買いたたき(注6) | 1,191件 | 13件 | 1,204件 |
役務利用・利益提供の要請 | 66件 | 0件 | 66件 |
本体価格での交渉の拒否 | 241件 | 0件 | 241件 |
合 計(注7) | 1,526件 | 16件 | 1,542件 |
(注6) 買いたたきの勧告及び指導件数には,平成26年3月31日以前に減額行為があり,同年4月1日以降に違反のおそれがあるものを含む。
(注7) 事業者の中には,複数の行為を行っている場合があり,表1及び表2に記載の件数とは一致しない。
別添1
勧告事件(平成26年12月まで)
名称 |
概要 | 違反法条 |
|
1 | 株式会社JR東日本ステーションリテイリング |
駅構内等で食料品,衣料品等を販売する株式会社JR東日本ステーションリテイリングは,消費税率の引上げに伴う売上高の減少を防止するため,納入業者に対し,仕入価格を通常支払われる仕入価格に比べ3%程度低く設定することになる販売促進企画への参加を要請した。 | 第3条第1号後段 |
2 | 株式会社三城 |
メガネ等を販売する株式会社三城は,消費税率の引上げに対応するため,店舗の賃貸人のうち,税込価格で賃料を契約している賃貸人に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに賃料を据え置いた。 | 第3条第1号後段 |
3 | 山形市(山形市立病院済生館) |
山形市立病院済生館は,消費税率の引上げに対応するため,医療材料の納入価格を引き下げることとし,納入業者に対し,平成25年度下期の納入価格に一定率を乗じた額等を減じて算出した医療材料ごとの納入価格の目標値を定めた。 | 第3条第1号後段 |
4 | 一般社団法人東京都自転車商防犯協力会 |
東京都公安委員会が指定する自転車の防犯登録を行う一般社団法人東京都自転車商防犯協力会は,防犯登録業務を委託している自転車販売店等に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託手数料を据え置いた。 | 第3条第1号後段 |
5 | 一般社団法人兵庫県自転車防犯登録会 |
兵庫県公安委員会が指定する自転車の防犯登録を行う一般社団法人兵庫県自転車防犯登録会は,消費税率の引上げに伴う自らの経費の負担を回避するため,防犯登録業務を委託している自転車販売店等に対し,消費税率の引上げ前の額より更に低い委託手数料を定めた。 | 第3条第1号後段 |
6 | 株式会社ルネサンス |
スポーツ施設の運営等の事業を行う株式会社ルネサンスは,消費税率の引上げに対応するため,スポーツ指導を行う個人事業者に対し,免税事業者に該当することを理由として,消費税率の引上げ分を上乗せせずに業務委託料を据え置く等した。 | 第3条第1号後段 |
7 | 産業機械健康保険組合 |
健康保険給付事業及び保健・福祉事業を行う産業機械健康保険組合は,健康診断に関する委託契約を締結している病院等に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託料金を据え置いた。 | 第3条第1号後段 |
8~10 | 吉野家グループ |
店舗等の賃貸借等の事業を行う株式会社吉野家資産管理サービス,外食業を行う株式会社北日本吉野家及び株式会社中日本吉野家の3社は,それぞれ,店舗所有者(賃貸人)の一部に対し,賃料の消費税率の引上げ分を減額し,又は賃料の消費税率の引上げ分を上乗せせずに据え置いた。 |
第3条第1号前段(減額)及び同号後段(買いたたき) |
11 | 山佐産業株式会社 |
パチンコホール等の遊技場にスロットの販売等を行う山佐産業株式会社は,スロットの販売等の業務に関する業務委託契約を締結している販売代理店に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに業務委託手数料を据え置いて支払った。 | 第3条第1号後段 |
12 | 東映アニメーション株式会社 |
主にアニメーションの製作事業を行う東映アニメーション株式会社は,アニメーションの原画,動画等の制作業務を委託している個人事業者に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託料を据え置いて支払った。 | 第3条第1号後段 |
13 | 株式会社トライグループ |
学習指導事業を行う株式会社トライグループは, |
第3条第1号後段 |
別添2
主な指導事例(平成26年12月)
業種 | 概 要 |
農業 | 農業生産法人Aは,農作業を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの委託代金を据え置いていた。 |
建設業 | B社は,内装工事等の現場管理業務を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後の委託代金について,消費税率の引上げ分を上乗せすることなく据え置いていた。また,消費税率の引上げ分を上乗せした事業者に対しては,上乗せにより生じた千円未満の端数を切り捨てていた。 |
小売業 | 大規模小売事業者であるC社は,自社で販売する衣料品等のデザインの作成業務及びイベント実施に係る業務を委託する事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの委託代金を据え置いていた。 |
道路貨物運送業 | D社は,物品の運送業務を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後の委託代金について,消費税率の引上げ分を全て上乗せすることなく,その半分(1.5%)を上乗せして定めていた。 |
建設業 | E社は,建設工事を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税分を消費税率5%として計算することにより,消費税込みの委託代金を据え置いていた。 |
学校教育業 | 学校法人Fは,運営する講座を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの委託代金を据え置いていた。 |
関連ファイル
(印刷用)(平成27年1月15日)平成26年12月までの消費税転嫁対策の取組について(PDF:217KB)
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