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反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定

反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定

 (正本とは形式上異なります。)

 日本国政府及び欧州共同体(以下「両締約者」という。)は,
 日本国及び欧州共同体の経済を始め世界経済における相互関連が一層強まりつつあることを認識し,日本国及び欧州共同体それぞれの競争法の健全かつ効果的な執行が,それぞれの市場の効率的な機能及び相互間の貿易にとって重要であることに留意し,
 日本国及び欧州共同体それぞれの競争法の健全かつ効果的な執行が,当該競争法の適用における両締約者間の協力及び時宜に応じた調整により強化されることに留意し,
 日本国及び欧州共同体それぞれの競争法の適用に関する両締約者間の相違が随時生じ得ることに留意し,
 日本国及び欧州共同体それぞれの競争法(以下「各締約者の競争法」という。)の適用において各締約者の重要な利益を慎重に考慮する旨の両締約者の誓約に留意し,
 1995年7月27日及び28日に修正された国際貿易に影響のある反競争的慣行に係る加盟国の間の協力に関する経済協力開発機構理事会勧告並びに1998年3月25日に採択されたハード・コア・カルテルを防止するための効果的な行動に関する同理事会勧告を考慮して,
 次のとおり協定した。

第1条

1 この協定は,両締約者の競争当局間の協力及び調整を促進することを通じて,各締約者の競争法の効果的な執行に寄与するとともに,その適用におけるすべての事項にわたり,両締約者間の紛争が生ずる可能性を回避し又は軽減することを目的とする。
2 この協定の適用上,
(a) 「反競争的行為」とは,各締約者の競争法により制裁その他の排除に係る措置の対象とされる行動又は取引をいう。
(b) 「構成国の権限のある当局」とは,欧州共同体を設立する条約第299条(1)に規定する欧州共同体各構成国ごとに一の当局であって,欧州共同体の競争法を適用する権限を有するものをいう。欧州委員会は,この協定の署名に際して構成国の権限のある当局の一覧表を日本国政府に提供するものとし,また,必要に応じその都度,最新の一覧表を日本国政府に提供するものとする。欧州委員会が日本国政府に対し提供する最新の一覧表に構成国の権限のある当局が記載されるまでの間においては,第9条6の規定による当該構成国の権限のある当局への情報の送付は,これを行ってはならない。
(c) 「競争当局」とは,
(i) 欧州共同体については,欧州共同体の競争法に基づく職責における欧州委員会をいう。
(ii) 日本国については,公正取引委員会をいう。
(d) 「競争法」とは,
(i) 欧州共同体については,欧州共同体を設立する条約第81条,第82条及び第85条,事業集中規制に関する閣僚理事会規則(EEC)4064・89,当該条約に基づく実施規則並びにそれらの改正をいう。
(ii) 日本国については,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)並びにその実施について定める命令及び規則並びにそれらの改正をいう。
(e) 「執行活動」とは,一方の締約者の競争当局が行う審査又は手続による競争法の適用をいう。ただし,経済概況又は特定産業分野における概況の調査を目的とする調査研究活動(競争法違反の疑いに関連して行われるいかなる調査も含むものと解してはならない。)を含むものではない。
(f) 「締約者の領域」とは,文脈により,日本国の領域又は欧州共同体を設立する条約が適用される領域をいう。
(g) 「締約者の法令」とは,文脈により,日本国の法令又は欧州共同体の法令をいう。

第2条

1 各締約者の競争当局は,他方の締約者の重要な利益に影響を及ぼすことがあると認める自己の執行活動について,当該他方の締約者の競争当局に通報する。
2 他方の締約者の重要な利益に影響を及ぼすことがある執行活動は,次のものを含む。
(a) 当該他方の締約者の執行活動に関連する執行活動
(b) 当該他方の締約者の国民(欧州共同体については,その構成国の国民)又は当該他方の締約者の領域内における関係法令に基づいて設立され若しくは組織された会社に対して行われる執行活動
(c) 企業結合以外の反競争的行為であって,その実質的な部分が当該他方の締約者の領域内において行われるものに関する執行活動
(d) 企業結合であって,次の(i)又は(ii)に掲げるものが当該他方の締約者の領域内における関係法令に基づいて設立され又は組織された会社である場合に関する執行活動
(i) 当事者の一又は二以上
(ii) 当事者の一又は二以上を支配する会社
(e) 当該他方の締約者が要求し,奨励し又は承認したものと一方の締約者の競争当局が認める行為に関する執行活動
(f) 当該他方の締約者の領域内における行為を要求し又は禁止する制裁その他の排除に係る措置がいずれかの競争当局により実施され又はその実施が求められることを含む執行活動
3 次の措置を企業結合についてとることに関し1の規定による通報が必要となる場合には,その通報は,当該措置をとる時までに行う。
(a) 欧州共同体については,
(i) 閣僚理事会規則(EEC)4064・89第6条(1)(c)に従った企業結合に関する手続の開始の決定
(ii) 異議告知書の発出
(b) 日本国については,
(i) 企業結合計画に関する文書,報告その他の情報の提出につき独占禁止法に従って行う競争当局の要請の発出
(ii) 勧告又は審判開始決定の発出
4 次の措置を企業結合以外の事項についてとることに関し1の規定による通報が必要となる場合には,その通報は,当該措置をとるに先立ち,できる限り早期に行う。
(a) 欧州共同体については,
(i) 異議告知書の発出
(ii) 決定又は和解の採択
(b) 日本国については,
(i) 刑事告発
(ii) 緊急停止命令の申立て
(iii) 勧告又は審判開始決定の発出
(iv) 課徴金納付命令の発出(ただし,納付者に対して事前の勧告が発出されていない場合に限る。)
5 この条の規定による通報は,当該通報を受ける締約者がその重要な利益に与える執行活動の影響について当初の評価を行うことを可能とする程度に十分詳細な内容を伴うものでなければならない。

第3条

1 各締約者の競争当局は,当該締約者の法令及び重要な利益に適合する限りにおいて,かつ,自己の合理的に利用可能な資源の範囲内で,他方の締約者の競争当局に対し,その執行活動について支援を提供する。
2 各締約者の競争当局は,当該締約者の法令及び重要な利益に適合する限りにおいて,次のことを行う。
(a) 他方の締約者の領域内における競争に対しても悪影響を及ぼす可能性があると認める反競争的行為に係る自己の執行活動につき,他方の締約者の競争当局に通報すること。
(b) 反競争的行為に関する重要な情報(自己が保有し,かつ,その注意の対象となっているものに限る。)であって,他方の締約者の競争当局の執行活動に関連し又はその執行活動を正当化する可能性があると認めるものを,当該他方の締約者の競争当局に提供すること。
(c) 要請に応じ,かつ,この協定の規定に従い,自己の保有する情報であって他方の締約者の競争当局の執行活動に関連するものを,当該他方の締約者の競争当局に提供すること。

第4条

1 両締約者の競争当局は,相互に関連する事案について執行活動を行う場合には,それぞれの執行活動の調整につき検討する。
2 両締約者の競争当局は,特定の執行活動の調整の要否を検討するに当たり,特に次の要素を考慮すべきである。
(a) 当該執行活動の目的を達成する上で双方が有する能力に対して当該調整が及ぼす効果
(b) 当該執行活動に必要な情報を入手する上で双方のそれぞれが有する相対的な能力
(c) 関係の反競争的行為に対し双方のいずれかが効果的な排除に係る措置を確保することのできる程度
(d) 一層効率的な資源の利用可能性
(e) 該執行活動の対象者にとっての費用の削減可能性
(f) 排除に係る措置の調整が両締約者及び当該執行活動の対象者のそれぞれにもたらす潜在的な利益

3 執行活動の調整に際しては,各締約者の競争当局は,他方の締約者の競争当局による執行活動の目的を慎重に考慮して自己の執行活動を行うよう努める。
4 相互に関連する事案について両締約者の競争当局が執行活動を行うに際しては,各締約者の競争当局は,他方の締約者の競争当局の要請により,かつ,自己の締約者の重要な利益に適合する限りにおいて,当該執行活動に関連して秘密の情報を提供した者に対し,当該情報を当該他方の締約者の競争当局が共有することに同意するかどうかを照会することにつき検討する。
5 いずれの一方の締約者の競争当局も,他方の締約者の競争当局に適切な通報を行うことを条件として,執行活動の調整をいつでも限定し又は終了し,執行活動を独自に行うことができる。

第5条

1 各締約者の競争当局は,他方の締約者の領域内で行われた反競争的行為が自己の締約者の重要な利益に悪影響を及ぼすと信ずる場合には,管轄権に関する紛争を回避することの重要性及び当該他方の締約者の競争当局が当該反競争的行為に関してより効果的な執行活動を行うことのできる可能性があることに留意して,当該他方の締約者の競争当局に対して適切な執行活動を開始するよう要請することができる。
2 1の規定による要請には,関係の反競争的行為の性質及び当該反競争的行為が当該要請を行う競争当局の側の締約者の重要な利益に及ぼす影響についてできる限り具体的な説明を付し,当該要請を行う競争当局として可能な追加的情報の提供その他の協力の申出を含める。
3 要請を受けた競争当局は,当該要請において特定される反競争的行為について執行活動を新たに開始し又は拡大するかどうかを慎重に検討する。当該要請を受けた競争当局は,当該要請を行った競争当局に対し,実行可能な限り速やかに自己の決定を通報する。執行活動を開始する場合には,当該要請を受けた競争当局は,当該要請を行った競争当局に対し,当該執行活動の最終的な結果を通報し,かつ,暫定的な進展のうち重要なものを可能な範囲において通報する。
4 この条のいかなる規定も,当該要請において特定された反競争的行為について執行活動を行うかどうかに関し,当該要請を受けた締約者の競争当局がその競争法及び執行政策の下で有する裁量を制限するものではなく,また,当該要請を行った締約者の競争当局が当該要請を取り下げることを妨げるものでもない。

第6条

1 各締約者の競争当局は,執行活動のあらゆる局面(執行活動の開始及び範囲並びに各事案における制裁その他の排除に係る措置の性質に関する決定を含む。)において,他方の締約者の重要な利益に慎重な考慮を払う。
2 いずれか一方の締約者が,他方の締約者による特定の執行活動が自己の重要な利益に影響を及ぼすことがあることを当該他方の締約者に通報したときは,当該他方の締約者は,当該執行活動の重要な進展について適時に通報するよう努める。
3 いずれか一方の締約者の執行活動が他方の締約者の重要な利益に悪影響を及ぼすおそれがあるといずれかの締約者が認める場合には,両締約者は,利害の競合を適切に調整するに当たり,次の要素その他状況に応じ関連する要素を考慮すべきである。
(a) 関係する反競争的行為に対し,一方の締約者の領域内における行動又は取引と他方の締約者の領域内における行動又は取引とのそれぞれが有する相対的な重要性
(b) 当該反競争的行為がそれぞれの締約者の重要な利益に及ぼす相対的な影響
(c) 執行活動を行う締約者の領域内における消費者,供給者又は競争相手を害する旨の当該反競争的行為に関する者の意思についての証拠の存否
(d) 当該反競争的行為が日本国及び欧州共同体それぞれの市場における競争を実質的に減殺する程度
(e) 一方の締約者による執行活動と他方の締約者の法令,政策又は重要な利益とが抵触し又は競合する程度
(f) 私人(自然人であるか法人であるかを問わない。)が両締約者による相反する要求の下に置かれる可能性
(g) 関連する資産及び取引の当事者の所在地
(h) 締約者の当該執行活動により当該反競争的行為に対する効果的な制裁その他の排除に係る措置が確保される程度
(i) 同一の者(自然人であるか法人であるかを問わない。)に関する他方の締約者の執行活動が影響を受ける程度

第7条

1 両締約者は,必要に応じ,この協定の規定の適用に関して生ずることのあるいかなる事項についても,外交上の経路を通じて協議することができる。
2 この条の規定に基づく協議の要請は,外交上の経路を通じて行われる。

第8条

1 両締約者の競争当局は,いずれか一方の締約者の競争当局の要請に応じて,この協定の実施に当たって生ずることのあるいかなる事項についても,相互に協議する。
2 両締約者の競争当局は,少なくとも年一回,次の目的のために会合する。
(a) 各締約者の競争法に関連する執行努力及び重点事項の現状に関する情報を交換すること。
(b) 共通の関心を有する経済分野に関する情報を交換すること。
(c) それぞれの競争当局が検討中の政策の変更に関して討議すること。
(d) その他各締約者の競争法の適用に係る事項であって相互に関心を有するものに関して討議すること。

第9条

1 この協定の他のいかなる規定にもかかわらず,いずれの締約者も,当該締約者の法令によって禁止されている場合又は自己の重要な利益と両立しない場合には,他方の締約者に情報を提供することを要しない。
2(a) この協定に従って一方の締約者から他方の締約者に提供された情報(公開情報を除く。)は,当該他方の締約者により,第1条1に定める目的のためにのみ使用される。
(b) 一方の締約者がこの協定の下で秘密として情報を提供した場合には,他方の締約者は,当該他方の締約者の法令に従い,その秘密を保持する
3 一方の締約者は,この協定に従って提供される情報について,自己の定める条件に従ってこれを使用するよう要求することができる。当該情報の提供を受けた締約者は,当該一方の締約者の事前の同意なしに,当該条件に反する方法で当該情報を使用してはならない。
4 各締約者は,秘密の保持,自己が定める条件又は情報の使用目的の制限に関して自己が要請する保証を他方の締約者から得ることができない場合には,当該他方の締約者に提供する情報を限定することができる。
5 この条の規定は,情報(公開情報を除く。)の提供を受けた締約者が次に掲げる範囲において当該情報を使用し又は開示することを妨げるものではない。
(a) 情報を提供した締約者が,その使用又は開示について予め同意を与える範囲
(b) 情報の提供を受けた締約者の法令に基づき,その使用又は開示が義務付けられる範囲。ただし,当該締約者が次の条件に従うことを条件とする。
(i) この協定に従って秘密として提供された情報を当該情報を提供した締約者の事前の同意なく第三者又は他の当局による利用に供することが法的に義務付けられることにつながる行動を自らとってはならないこと。
(ii) 可能な限り,当該情報を提供した締約者に対しその使用又は開示について事前に通報し,かつ,要請に応じ当該締約者と協議し,その重要な利益に妥当な考慮を払うこと。
(iii) 当該情報を提供した締約者の同意が得られる場合を除くほか,当該情報に係る第三者又は他の当局による開示請求に対し,当該情報の秘密を保持するために関係法令の下で利用可能なすべての措置をとること。
6 欧州共同体の競争当局は,
(a) 日本国の競争当局への通報の後に,日本国の競争当局から受けた通報の内容について,重要な利益が影響を受ける構成国の権限のある当局に通報する。
(b) 日本国の競争当局との協議の後に,執行活動の協力及びその調整について,重要な利益が影響を受ける構成国の権限のある当局に通報する。
(c) (a)及び(b)の規定に従って構成国の権限のある当局に提供された情報(公開情報を除く。)が,第1条1に定める目的以外のいかなる目的のためにも使用されないこと及び当該情報が開示されないことを確保する。

第10条

1 この協定は,両締約者により,日本国及び欧州共同体のそれぞれにおいて効力を有する法令に従って,かつ,それぞれの競争当局の利用可能な資源の範囲内で実施される。
2 この協定を実施するための詳細な取決めは,両締約者の競争当局間で行うことができる。
3 この協定のいかなる規定も,両締約者の間で有効な他の二国間及び多数国間の協定又は取決めに従って両締約者が相互に支援を求め又は与えることを妨げるものではない。
4 この協定のいかなる規定も,管轄権に関連するすべての問題に関する各締約者の政策的な又は法的な立場を害するものと解してはならない。
5 この協定のいかなる規定も,他の国際協定又は日本国若しくは欧州共同体の法律の下における各締約者の権利及び義務に影響を及ぼすものと解してはならない。

第11条

 この協定に別段の定めがある場合を除くほか,この協定に基づく連絡は,両締約者の競争当局間において直接これを行うことができる。ただし,第1条2(b)の規定による一覧表の提供,第2条の規定による通報及び第5条1の規定による要請は,外交上の経路を通じ,書面によって確認されなければならない。その確認は,該当する連絡が両締約者の競争当局間において行われた後できる限り速やかに行う。

第12条

1 この協定は,署名の日の後30日目の日に効力を生ずる。
2 この協定は,いずれか一方の締約者が他方の締約者に対し,この協定を終了させたい旨を外交上の経路を通じて文書により通告した日の後60日目の日まで効力を有する。
3 両締約者は,この協定が効力を生ずる日から5年以内に,この協定の運用について検討する。

以上の証拠として,下名は,正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 2003年7月10日にブリュッセルで,日本語,イタリア語,英語,オランダ語,ギリシャ語,スウェーデン語,スペイン語,デンマーク語,ドイツ語,フィンランド語,フランス語及びポルトガル語により本書2通を作成した。相違がある場合には,英語及び日本語の本文による。

日本国政府のために

欧州共同体のために

合意された議事録

 下名は,本日署名された反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定(以下「協定」という。)の交渉において到達した次の了解を記録する。
 両締約者は次の了解を確認する。

(1) 日本国政府は,関係事業者の同意を得て,かつ,協定第4条4の規定に従って提供される情報を除き,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)第39条の規定の対象である「事業者の秘密」を協定の下で欧州共同体に提供することを要しない。

(2) 欧州共同体は,協定第4条4の規定に従って提供される情報を除き,閣僚理事会則17・1962の第20条の規定の対象である秘密情報を協定の下で日本国政府に提供することを要しない。

 2003年7月10日にブリュッセルで

 日本国政府のために

 欧州共同体のために

関連ファイル

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