令和8年6月22日
内閣府 知的財産戦略推進事務局
公正取引委員会
はじめに ※本ページは注釈を省略しています。
第1 総論
1 制作取引の流れ

※監督、脚本家等の一部の職種は製作委員会等が直接委託する場合もある。
出所:経済産業省・公益財団法人ユニジャパン「コンテンツビジネスにおける各種契約」を基に作成
2 法令の適用関係
| 資本金基準・従業員基準 | ||
|---|---|---|
| 委託事業者 | 中小受託事業者(個人を含む) | |
| 情報成果物作成委託 及び 役務提供委託 |
資本金 5000万円超 | 資本金 5000万円以下 |
| 資本金 1000万円超 5000万円以下 | 資本金 1000万円以下 | |
| 常時使用する従業員 100人超 | 常時使用する従業員 100人以下 | |
3 本指針の性格
映画制作の取引における発注者の立場として 採るべき行動を示し、また、 問題となり得る行動例を列挙するとともに、 取引の適正化のために参考となる行動例を取り上げている。 さらに、競争政策上の観点から、受注者の立場として 採るよう努めるべき行動もまとめている。
製作委員会等又は制作会社が本指針に記載の行動指針に沿わないような行為をすることにより、独占禁止法、取適法又はフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する場合には、公正取引委員会において厳正に対処していく 。
第2 製作委員会(構成事業者)等が採るべき行動
1 発注時点
(1)書面等による取引条件の明示
口頭による発注は、取引条件が不明瞭であることによりトラブルが生じやすく、中小受託事業者が不利益を受けることにつながりかねない。そのため、取適法上、委託事業者は、中小受託事業者に対して情報成果物作成委託をした場合は、書面等により、直ちに具体的な事項(給付の内容、代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項)を明示することが義務付けられている(取適法第4条第1項)
この点、一般社団法人日本映画制作適正化機構は、「映画制作の持続的な発展に向けた取引ガイドライン(映適ガイドライン)」を策定し、標準契約書などを含む取引適正化に向けたルールを定めているが、元請制作会社に対するアンケート調査においては、約96%の元請制作会社が取引条件について、「必ず明示される」又は「おおむね明示される」と回答しており、多くの場合で取引条件の明示は行われているものと考えられる。
一方で、取引条件が明示される時期については、「発注された時点が多い」との回答は限定的であり、相当程度の取引において、制作作業の開始前であっても発注から時間が経過していたり、制作作業に着手した後の段階で明示が行われたりしているとみられる。
通常、製作委員会・元請制作会社間の映画制作の委託取引は、取適法上の情報成果物作成委託(取適法第2条第3項)に該当すると考えられるところ、取適法の適用対象となる取引である場合には、製作委員会(構成事業者)は、元請制作会社に対する情報成果物作成委託に際して、直ちに、明示事項を明示しなければならない。
もっとも、映画制作においては、発注段階では設計図に相当する脚本が確定しておらず、製作委員会の組成も完了していない場合があるなど、具体的な制作委託費 や詳細な取引条件の設定が難しい場合があることにも留意する必要がある。この点、取適法では、明示事項のうちその内容が定められないことについて正当な理由があり記載しない事項(未定事項)がある場合には、これらの未定事項以外の事項を中小受託事業者に明示すること(当初の明示)が認められる。そのような場合であっても、製作委員会(構成事業者)においては、未定事項について十分に協議をした上で可能な限り早期に定め、その後直ちに当該事項を補充書面等により明示(補充の明示)しなければならない(取適法第4条第1項ただし書)。
また、取適法の適用対象ではない場合も、元請制作会社が映画制作を開始する前に書面等により取引条件を明示しないことは、契約内容が不明確な状態で元請制作会社が業務を行うこととなり、映画制作の着手後に不利な条件を提示された場合に元請制作会社が受け入れざるを得なくなる可能性があるなど、製作委員会(構成事業者)の元請制作会社に対する優越的地位の濫用となる行為を誘発する原因となり得る。製作委員会(構成事業者)においては、この点に留意し、確定した事項について直ちに書面等により取引条件を明示し、発注段階で定められなかった取引条件についても十分に協議をした上で可能な限り早期に定め、書面等により明示することが求められる。
問題となり得る製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 発注は口頭のみで行い、取適法で求められる明示事項のうち内容が定まった事項を記載した書面等を交付していない。(発注内容等の明示義務違反(取適法第4条第1項)・優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)を誘発する行為)
(イ) 脚本確定前に発注した際に、脚本が確定するまでは出演者、撮影期間、撮影場所、衣装等の予算に影響する事項が定まらないため、取引条件の多くを未定事項とする発注書を交付せざるを得なかった。その後、具体的な取引条件を定めることが可能となったにもかかわらず、書面等により補充の明示を行わなかった。(発注内容等の明示義務違反(取適法第4条第1項)・優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)を誘発する行為)
取引の適正化のために参考となる製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 発注時点で契約書の全ての内容を確定できない場合、制作委託費の一部をクランクイン前に支払うため、契約書とは別に確定事項に関する覚書を作成して交付している。
(イ) 発注時点では、脚本や出演者が確定しておらず、元請制作会社が制作コストを正確に見積もれないなどとし、制作委託費を定められない場合に、協議の上、発注書に「○○円(仮)」と仮の金額を記載した上で、事後的に、制作の実態に即して制作委託費の金額を変更できるようにしている。
(ウ) プリプロダクション(企画開発)段階 では、脚本の確定前などで取引条件が定まらない場合もあるため、企画開発の委託とプロダクション工程 以降の制作工程に係る制作委託を別契約とし、前者について、企画開発費等の取引条件を定めた契約書を取り交わしている。
(2)取引の対価の交渉・設定
映画制作は、近年、スマートフォンで撮影する作品など低予算から中規模予算の作品も数多く制作されている一方で、視覚効果を多用する作品など予算が比較的高い作品もある。映画制作は、作品ごとに予算規模、要求されるクオリティ等が異なるものの、近年では、一般的に、人件費や資材費等の上昇といった要因により、制作コストが増加する傾向にあるとみられる。この点、元請制作会社に対するアンケート調査では、制作委託費の額について製作委員会と「交渉できたことが多い」との回答が約6割あった。制作委託費の水準については、「上がっている」との回答が約3割、「下がっている」との回答が約2割、「ほぼ変わっていない」との回答が約4割であった。また、元請制作会社に対するアンケート調査においては、制作委託費に「満足していない」との回答が7割を超えたほか、制作委託費のみによる営業損益については元請制作会社の約半数が赤字と回答している。このような結果からは、元請制作会社の収益性は依然として高くない状況にあるとみられる。
そのため、取適法の適用対象となる取引である場合には、製作委員会(構成事業者)は、制作委託費を決定するに当たって、通常支払われる対価に比し著しく低い対価を不当に定めてはならず(買いたたき(取適法第5条第1項第5号))、当該作品において要求されるクオリティの水準、人件費や資材費等に係る物価上昇などの状況の変化といった取引に影響を及ぼす要因を十分に考慮した対価を定めることが求められる。
また、制作委託費を決定するに当たっては、元請制作会社の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、元請制作会社からの価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金の額を決定して元請制作会社の利益を不当に害してはならず(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))、元請制作会社に対し、上記の取引に影響を及ぼす要因を十分に考慮した上で、必要な説明や情報の提供を行いつつ、十分な協議を行うことも求められる。
取適法の適用対象ではない場合も、製作委員会(構成事業者)が、制作委託に際し、優越的地位を利用して、一方的に著しく低い対価を設定することにより、元請制作会社に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならず (優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))、要求されるクオリティの水準、人件費や資材費等に係る物価上昇などの状況を踏まえた協議を十分に行い、対価を定めることが求められる。
元請制作会社においても、見積りの提出や制作コストの変動等に際して、想定される制作工程、必要人員、制作期間及び想定されるリスク要因等の制作委託費に影響のある事項について、可能な範囲で具体的に説明するよう努めることが求められる。
なお、実態調査では、前記(1)のとおり、映画制作においては、発注段階では設計図に相当する脚本が確定しておらず、製作委員会の組成も完了していない場合があるなど、具体的な制作委託費や詳細な取引条件の設定が難しい場合があることから、制作委託費とは別に予備費を設定し、事後的な状況変化に対応しているとの回答がみられた。また、近年では、元請制作会社も制作におけるリスクを負っていることを考慮し、成功報酬を導入する事例が増えているとの回答もみられた。このように、予備費の設定のほか、成功報酬の設定やその料率等を含め、当事者間で十分協議の上、取引ごとの事情に応じた報酬支払方法を設定することも考えられる。
問題となり得る製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 要求クオリティの高度化、物価上昇などの状況を踏まえることなく、通常支払われる対価より著しく低い対価を定めた。(買いたたき(取適法第5条第1項第5号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 元請制作会社から制作委託費や成功報酬等に係る協議の求めがあったにもかかわらず、当該協議に応じず又は必要な説明若しくは情報の提供を行わずに、一方的に制作委託費等を定めた。(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号 )
取引の適正化のために参考となる製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 制作委託費は、元請制作会社が作成するコストマークアップ方式での見積りを基に、元請制作会社と十分な協議を行った上、決定している。
(イ) 元請制作会社から協議の求めがあった場合は、これに応じ、元請制作会社からの要望を踏まえながら取引条件を細かく調整している。
(ウ) 制作委託費について、製作委員会として予備費を設け、事前に元請制作会社との間で予備費を拠出する条件等を協議しておくことにより、当初の想定を超えた元請制作会社の制作コスト増に対応できるようにしている。
(エ) 制作委託費等の元請制作会社との対価の交渉において、交渉の状況等に応じて、成功報酬等についても、料率、料率を乗じる対象等の条件を含めて元請制作会社と十分に協議した上で決定している。
(3)元請制作会社に帰属する著作権が譲渡される場合の譲渡対価の交渉・設定
映画のような「映画の著作物」の著作権の帰属については、著作権法第29条 に基づき、製作委員会や元請制作会社など、どの主体に帰属するかは個別具体の事案に即して判断される。取引実務上は、契約書において発注者である製作委員会に帰属する又は元請制作会社に帰属する著作権を製作委員会に譲渡させる旨を規定することが多いとみられ、多くの場合に製作委員会が著作権の最終的な帰属先とされていることがうかがわれた。
そして、元請制作会社に帰属する著作権が製作委員会に譲渡される場合について、元請制作会社に対するアンケート調査においては、「対価は支払われていることが多い」との回答が約2割あり、その対価の内容については「制作委託費に含まれている」との回答が最も多く、ヒアリング調査においても、製作委員会から「譲渡対価は制作委託費に含まれる」との回答があった一方で、元請制作会社から「著作権を無償譲渡していると想定して取引している」等の回答もあり、元請制作会社は著作権を無償譲渡している又は譲渡対価として不十分と認識している場合があるものと考えられる。
また、元請制作会社に対するアンケート調査において、元請制作会社に帰属する著作権が譲渡される場合における著作権の帰属主体・譲渡対価に関する協議について、「交渉できたことが多い」という回答が約3割あった一方で、「交渉できなかったことが多い」・「そもそも交渉の場が設けられていない」という回答が合わせて約4割あった。また、ヒアリング調査において、製作委員会及び元請制作会社から、「元請制作会社に対して明示的に制作委託費の中に著作権の譲渡対価が入っていることを確認したことはない」(製作委員会)、「交渉の際に、著作権に関して説明を受けることはなく、話題にも上らない」(元請制作会社)との回答があったことから、著作権の帰属主体・譲渡対価について、協議が不十分な場合があるものと考えられる。
このような状況を踏まえると、取適法の適用対象となる場合であって、著作権が元請制作会社に帰属するときに、製作委員会(構成事業者)が、当該著作権を「給付の内容」に含めて製作委員会に譲渡させるに際し、制作委託費に著作権の譲渡対価を含む場合には、通常支払われる対価より著しく低い額を不当に定めてはならず(買いたたき(取適法第5条第1項第5号))、著作権の譲渡対価を含む制作委託費につき十分に協議を行って対価を定めることが求められる。
また、著作権が元請制作会社に帰属する場合であって、製作委員会(構成事業者)が、当該著作権を「給付の内容」に含めて製作委員会に譲渡させるに際しては、著作権の譲渡対価を含む制作委託費の決定に当たって、元請制作会社の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、元請制作会社から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金の額を決定して元請制作会社の利益を不当に害してはならず(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))、元請制作会社に対し、必要な説明や情報の提供を行いつつ、著作権の譲渡対価を含めた制作委託費について十分な協議を行うことも求められる。
なお、著作権の対価を含む形で対価に係る交渉を行っていると認められるためには、製作委員会(構成事業者)及び元請制作会社双方が著作権の譲渡が取引条件であることを認識し、製作委員会(構成事業者)が著作権の譲渡に対する対価が含まれることを明示した制作委託費を提示するなど、取引条件を明確にした上で交渉する必要がある。
取適法の適用対象ではない場合も、製作委員会(構成事業者)が、制作委託に際して、成果物と併せて著作権を自己に譲渡させるときに、優越的地位を利用して、一方的に元請制作会社に著しく低い対価で譲渡させることにより、元請制作会社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
また、著作権の譲渡対価ではないが、前記(2)と同様に、コンテンツの二次利用の対価を元請制作会社へ還元する趣旨で、成功報酬を付しているとの回答もみられ、成功報酬のように取引ごとの事情に応じた報酬支払方法を設定することも考えられる。
問題となり得る製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 制作を委託した映画作品について、元請制作会社に帰属する著作権を製作委員会(構成事業者)に譲渡させることとしたが、その対価を含む制作委託費について、元請制作会社と十分な協議を行わないまま通常支払われる対価を大幅に下回る対価での取引を要請した。(買いたたき(取適法第5条第1項第5号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 制作を委託した映画作品について、元請制作会社に帰属する著作権を製作委員会(構成事業者)に譲渡させることとした。その際、元請制作会社からその対価を含む制作委託費についての協議の求めがあったにもかかわらず、当該協議に応じず又は必要な説明若しくは情報の提供を行わずに、一方的に制作委託費の額を定めた。(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号 )
取引の適正化のために参考となる製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 元請制作会社に帰属する著作権を製作委員会(構成事業者)に譲渡させ、著作権の譲渡対価を制作委託費に含むとしている場合は、その旨を明示した上で、元請制作会社と著作権の譲渡対価を含む制作委託費について交渉している。
2 取引の履行過程
(1)発注取消し
映画制作においては、製作委員会が元請制作会社に映画制作の発注をした後、制作中止等の事情によって、製作委員会が発注を取り消す場合がある。映画制作では、発注後早期に人員(フリーランス等)の確保や下請制作会社への手配等が行われることが多いため、仮に発注取消しがプロダクション工程開始前であったとしても既に費用が生じている場合がある。
元請制作会社に対するアンケート調査において、一部ではあるが、「受注後に発注を取り消されたが、行った作業に対する報酬が支払われなかった」ことがあるとの回答 があった。また、元請制作会社に対するヒアリング調査では「急に取引が中止になった際に、新たな取引をすぐに開始するのは難しい」との回答もあった。このため、発注取消しの際に費用等が支払われないと元請制作会社に不利益となる場合もあるとみられる。
この点、取適法の適用対象となる取引である場合には、製作委員会(構成事業者)が、元請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに発注を取り消し、元請制作会社が行った作業に掛かる費用等を負担せずに、元請制作会社の利益を不当に害してはならない(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号))。
なお、元請制作会社の利益を不当に害したといえるかは、給付内容の変更等によって、元請制作会社が費用を負担することなどにより生じた損失や、これに対して製作委員会(構成事業者)が負担した費用等を総合的に考慮し、元請制作会社に不利益が生じたといえるかで判断する点に留意が必要である。
また、トラブル防止の観点から、発注を取り消す場合に、製作委員会(構成事業者)から元請制作会社に対する金銭の支払の有無及び金額を、(いわゆるキャンセルポリシー等の方法により)あらかじめ定めておくことが考えられる。
取適法の適用対象ではない場合も、製作委員会(構成事業者)が、優越的地位を利用して、正当な理由がないのに、元請制作会社に対して行った発注を取り消すことにより、元請制作会社に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
問題となり得る製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 制作開始後に、元請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに発注を取り消したが、納期前で成果物が納品されていないことを理由として、それまで元請制作会社が制作に要した費用を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 元請制作会社に企画開発から制作を委託していたが、元請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに発注を取り消した。元請制作会社には、既に企画開発費が発生していたほか、制作ラインが空いたことによって損失が生じたが、一切の費用や損失を負担しなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 発注後に制作が中止になり、元請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに発注を取り消した場合は、元請制作会社がスタッフへキャンセル補償費用を支払うための原資等として、元請制作会社と協議した上で、元請制作会社の不利益とならないよう一定額の人件費等を支払うようにしている。
(イ) 企画段階をプロダクション段階とは別の契約としており、企画段階の後に制作中止となっても、契約に基づいて企画料を支払っている。
(ウ) 発注を取り消す場合のトラブル防止のため、契約において、金銭の支払等について定めたキャンセルポリシーを設けている。
(2)制作委託費の追加支払
映画制作は、企画開発から完成に至るまでの制作期間が数年にわたることがあり、天候不良やキャスト・スタッフの傷病等によってスケジュールの変更を余儀なくされることもあるほか、多数の制作工程があるため前の工程が遅れたといった事情で制作期間が延期・延長される場合がある。また、製作委員会の構成事業者、製作委員会が契約・指定する監督、原作者など多数の利害関係人から様々な意見が出されることで、脚本等の変更などによる当初契約と異なる業務が発生したり、編集段階等での作業のやり直し(リテイク)を求められたりする場合がある。これらによって、撮影場所の確保、キャストの日程調整、撮影機材の追加レンタル料、スタッフの人件費といった追加コストが発生し得る。
元請制作会社へのアンケート調査において、追加の制作委託費が「全額支払われたことが多い」との回答があった一方で、追加費用の発生が元請制作会社の責めに帰すものでなくても製作委員会が支払わない場合もある旨の回答もみられた。
この点、取適法の適用対象となる取引である場合には、製作委員会(構成事業者)は、元請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに、元請制作会社に対して、制作期間の延期・延長、当初契約と異なる業務、やり直し(リテイク)などを行わせることにより、元請制作会社に追加の費用が発生したときに、その増加した分の費用等を負担しない等元請制作会社の利益を不当に害してはならない(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号))。
映画制作のような創作活動を伴う業務の委託においては、元請制作会社の給付の内容が当初委託した内容を満たしているかどうかは、製作委員会の価値判断等により評価される面があり、事前に給付を充足する条件を正確に発注書等で明示することが不可能な場合がある。そのように、給付を充足する条件を正確に明示することが困難な中で、例えば、監督等の要求などに端を発する追加費用や制作期間の延長が発生するということもあるとみられるが、製作委員会が監督等と契約をしている場合に、リテイクが繰り返されることのないよう監督等と十分なコミュニケーションが取れていなかったとみられるときもあれば、元請制作会社による品質・スケジュール・予算の管理が十分でなかったとみられるときもあるなど、作品ごとに責任の所在が異なることがあると考えられるほか、製作委員会と元請制作会社との間で責任の所在が明らかでないというような場合等、責任の所在が曖昧なケースもあると考えられる。
このような場合において、製作委員会(構成事業者)が、給付の受領の前後を問わず、必ずしも事前に給付を充足する条件を明確にできなかったが、元請制作会社の給付の内容が当初委託した内容と異なる等とし、やり直し(リテイク)等をさせる際に、その費用について、一方的に負担割合を決定して元請制作会社の利益を不当に害してはならず、製作委員会(構成事業者)がやり直し(リテイク)等をさせるに至った経緯等を踏まえ、元請制作会社と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定する必要がある。
また、取適法の適用対象ではない場合も、製作委員会(構成事業者)が、優越的地位を利用して、正当な理由がないのに、元請制作会社に対して一方的に取引条件を変更したり、やり直し(リテイク)を要請したりすることにより、元請制作会社に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
元請制作会社においても、製作委員会と追加の制作委託費の支払に関する協議を行う場合は、追加で必要となった人員、制作期間等について、可能な範囲で具体的に説明するよう努めることが求められる。
問題となり得る製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 制作会社が撮影スケジュールを組んだ後に製作委員会が追加でキャストを指定したため、撮影期間が延びて追加費用が生じたが、制作期間延長により元請制作会社に生じた追加費用を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 制作委託契約の給付の内容には含まれていなかったが、メイキング映像や字幕の作成が必要となったため、元請制作会社に追加の費用を支払わずに当該作業を行わせた。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(ウ) 元請制作会社に制作委託し、制作委託費を含む取引条件が定まった後に、脚本の内容を変更し、元請制作会社に対して、脚本に合わせたロケ地・キャスト等を追加・変更する要望を出した。当該追加・変更により元請制作会社の費用が増加したが、増加した分の費用を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(エ) 発注時に必ずしも明示されていなかったクオリティの基準について、製作委員会が委託契約を結ぶ監督が十分に協議せずに一方的に高い基準を設定し、クオリティアップのためにやり直しを求めたため、元請制作会社の費用が増加した。元請制作会社から追加費用の支払を求められたが、完成保証義務(制作委託費の範囲内で制作委託業務を完遂させる義務)の範囲内であるとして、一切交渉に応じず、支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 元請制作会社の責めに帰すべき理由がないキャストの事故等により制作委託費の追加が必要になった場合には、元請制作会社と協議の上、追加費用が必要な理由・工程、追加費用の支払をしなければどのような事態が発生するかを確認し、その内容に応じて追加費用の支払額を決定している。
(イ) 天候不良による撮影延期のため制作期間が延長し、人件費等の費用が増加した際に、元請制作会社に追加費用発生の責任がない場合は、当該増加した分の費用を元請制作会社に支払っている。
(ウ) 制作委託契約に含まれていない広告や予告編などの制作を求める場合は、別途発注し、費用を負担している。
(3)減額
元請制作会社に対するアンケート調査では、一部ではあるが、自身に責任がないのに、支払代金を減額された経験があるとの回答があった。
この点、取適法の適用対象となる取引である場合には、製作委員会(構成事業者)が元請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに、代金を減じてはならない (代金の減額(取適法第5条第1項第3号))。
取適法の適用対象ではない場合も、製作委員会(構成事業者)が、優越的地位を利用して、正当な理由がないのに、契約で定めた対価を減額することにより、元請制作会社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
問題となり得る製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 元請制作会社に対してクオリティの基準を明示していなかったにもかかわらず、納品物のクオリティが基準に達していないことを理由に、制作委託費を一方的に減額した。(代金の減額(取適法第5条第1項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 製作委員会内の出資計画や制作委託費の支払等に係る資金計画が整ってから元請制作会社に対して発注することで、出資金不足を理由とする制作中止や減額を行わないようにしている。
(4)支払遅延・不払
元請制作会社に対するアンケート調査においては、一部ではあるが、支払遅延や不払といった行為を受けた経験があるとの回答があった。
元請制作会社は、支払期日までに代金の支払を受けなければ、資金繰りがつかず、従業員やフリーランス等の取引先への報酬の支払等が困難になり、経営の安定が損なわれるおそれがある。
この点、取適法の適用対象となる取引である場合には、製作委員会(構成事業者)は、元請制作会社の給付の内容について検査するかどうかを問わず、代金を、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内において定めた支払期日までに支払う必要がある(支払遅延(取適法第5条第1項第2号))。
なお、製作委員会(構成事業者)が、元請制作会社からの請求書に基づき代金を支払っている場合であっても、元請制作会社からの請求書の提出の有無にかかわらず、受領後60日以内に定めた支払期日までに代金を支払う必要がある。もっとも、元請制作会社からの請求書の提出が遅れると、製作委員会(構成事業者)が支払期日までに代金を支払うことが困難になる場合も考えられることから、元請制作会社にあっては、請求書を速やかに提出するよう努めることが求められる。
取適法の適用対象ではない場合も、製作委員会(構成事業者)が、優越的地位を利用して、正当な理由がないのに、契約で定めた支払期日に制作委託費を支払わないことにより、元請制作会社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
問題となり得る製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 製作委員会(構成事業者)内の支払のための決裁が完了しないなど支払体制が整っていなかったため、支払期日までに支払ができなかった。(支払遅延(取適法第5条第1項第2号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 急遽発注した案件で、取引条件を定めないまま制作に着手してもらい納品を受けたが、制作委託費を支払わなかった。(支払遅延(取適法第5条第1項第2号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる製作委員会(構成事業者)の行動例
(ア) 元請制作会社との契約において、制作期間が長期にわたるため、納品前から制作委託費を分割して段階的に支払うこととしており、それぞれの支払期日までに契約上定めた額を支払っている。
3 動画配信事業者が採るべき行動
(1)取引の対価の交渉・設定
動画配信事業者は、映画作品の著作権者と配信権のライセンス契約を締結し自らのプラットフォームで配信するほか、自らがオリジナル作品を製作し配信する場合もある。現状の動画配信事業者との契約においては前者の場合がほとんどのようであるが、後者の場合、動画配信事業者が、元請制作会社に対して映画制作を委託する。前記1(2)のとおり、近年では、元請制作会社が映画を制作するに当たり、制作コストは増加傾向にあるとみられるが、ヒアリング調査では、動画配信事業者及び元請制作会社から、制作に掛かった実費が支払われるほか、企画開発費が支払われる旨、元請制作会社の一般管理費が別途支払われる旨、追加費用は合理的な根拠を示せば協議の上で支払われる旨の回答が複数あり、動画配信事業者との取引において元請制作会社が黒字となりやすい状況にあることがうかがわれる。
一方で、対価の支払方法については、製作委員会方式でみられる制作印税や成功報酬、レベニューシェア型の仕組みは一般的には採用されていない。オリジナル作品の制作を元請制作会社に委託する場合であって、著作権が元請制作会社に帰属するときには、動画配信事業者が制作委託費の支払をもって著作権の譲渡を受ける「買い切り方式」が一般的であるとみられる。この点、元請制作会社からは、動画配信事業者との取引では、一定の金額の利益が確保されているという点において肯定的な回答がある一方で、大手の元請制作会社としては利益が大きいとはいえない旨の回答もあった。他方で、動画配信事業者からは、「サブスクリプション契約でユーザーから月々の料金をいただくビジネスをしているため、個々の作品が直接収益に紐付くものではなく、収益に連動させる報酬支払方法は難しい」との回答もあった。さらに、フラット型である「買い切り方式」については、制作に関わる利益となる一般管理費を制作に掛かる実費とは分けて支払うことにより元請制作会社が一定の利益を確実に回収できる利点があるとの意見があり、また、制作委託費を成果物の納品前から分割で支払うことが一般的であることから、動画配信事業者が作品の成功・失敗のリスクを負う一方で、元請制作会社が安定的に収益を得られるモデルとなっている旨の回答もあった。
このような状況が直ちに取適法上問題となるものではないが、取適法の適用対象となる取引である場合には、動画配信事業者は、制作委託費を決定するに当たって、元請制作会社の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において元請制作会社から、価格に関する協議の求めがあったときは、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金の額を決定して元請制作会社の利益を不当に害してはならず(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))、元請制作会社に対し、レベニューシェア型等の報酬体系を含め、必要な説明や情報の提供を行いつつ、十分な協議を行うことが求められる。
取適法の適用対象ではない場合も、動画配信事業者が、優越的地位を利用して、協議を十分に行わず、一方的に著しく低い対価を設定することにより、元請制作会社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
問題となり得る動画配信事業者の行動例
(ア) 元請制作会社から、レベニューシェア型等の報酬体系を含め、価格に係る協議の求めがあったにもかかわらず、当該協議に応じず又は必要な説明若しくは情報の提供を行わずに、一方的に価格を定めた。(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる動画配信事業者の行動例
(ア) 制作に掛かる費用を元請制作会社にも算出してもらい、当該見積りを基に数回の予算打合せにおける協議を経て、制作委託費を決定している。
(2)視聴回数等情報の開示
ヒアリング調査では、作品が配信された後の視聴回数等の情報について、製作委員会及び元請制作会社から、「動画配信事業者にとってはデータ自体に価値があるので、相手に交渉余地を与えないよう、データを出さないものと思われる」等の回答があり、次回作品の動画配信事業者との交渉等において有用な場合があることがうかがわれる。
この点、視聴時間が一定の基準以上である一部の作品 については、視聴回数の推計値等の一定程度の情報を年に数回の頻度で公開している動画配信事業者がいるほか、動画配信事業者からは、「制作会社に制作委託をした作品については、配信後に作品の振り返りの場を必ず設けており、同作品がどの程度視聴されたかなどについては、必要に応じて共有し、制作会社が今後の作品制作を含めた様々な場面において、条件交渉を含め活用していると理解している」など、一定程度の情報開示を行っている旨の回答があった一方で、ユーザーの属性や視聴時間帯等の詳細な情報については、「情報提供をするシステム・人的コストを考慮すると、取引先が求める全てのデータを提供することは負担が大きく現実的ではない」、「視聴回数等に関する情報は集計・提供等に人的・物的コスト負担を要するほか、動画配信事業者の重要な営業上の秘密である」と、負担度合いや営業秘密を理由として詳細な情報開示を行うことが困難である旨の回答もあった。
視聴回数等に関する情報は、契約更新時、シリーズ作品、当該制作会社等の類似の作品等の契約に当たり、制作委託費又はライセンスの対価の交渉の基礎となり得るものである。
動画配信事業については、公正取引委員会ではコネクテッドTV及び動画配信サービス等に関する実態調査(令和6年3月公表)においても調査を行ったが、一定程度競争的な環境にあり、制作委託費の水準についてのヒアリング結果等からも、現状、動画配信事業者が著しく低い対価を設定することが多いとまでは評価できないと考えられる。
もっとも、動画配信事業者が、取引の相手方である製作委員会や元請制作会社といった取引先(以下「コンテンツプロバイダー」という。)に対して取引上の地位が優越している可能性があり、そのような場合には、動画配信事業者が一方的に著しく低いコンテンツの対価を設定しているか(優越的地位の濫用に該当するか)否かの判断に当たっては、両者の間で十分な協議が行われたか、動画コンテンツの需給関係等の事情を勘案して総合的に判断されることとなる。独占禁止法違反行為の未然防止の観点からは、コンテンツの対価については、動画配信事業者とコンテンツプロバイダーとの間における十分な交渉を通じて設定されることが望ましく、そのため、レベニューシェア型契約の場合だけでなくフラット型契約の場合にも、動画配信事業者は、契約更新時、シリーズ作品、当該制作会社等の類似の作品等の契約に当たり、コンテンツプロバイダーに対して、対価についての適切な交渉を行うために必要な範囲で、当該コンテンツに係るユーザーによる視聴回数等に係る情報を提供することが望ましい。
取適法の適用対象となる取引である場合には、動画配信事業者は、制作委託費を決定するに当たって、元請制作会社の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、元請制作会社からの価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明や情報の提供をしなかったりするなど、一方的に代金の額を決定して元請制作会社の利益を不当に害してはならず(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))、元請制作会社に対し、視聴回数等に関する情報の提供を含め、必要な説明や情報の提供を行いつつ、十分な協議を行うことが求められる。
問題となり得る動画配信事業者の行動例
(ア) シリーズ作品の委託をする際に、元請制作会社から、前作の視聴回数等に係る情報に基づいて代金を協議したいとの申出があったが、当該協議に応じず又は必要な説明若しくは情報の提供を行わずに、一方的に対価を設定した。(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる動画配信事業者の行動例
(ア) 契約更新時、シリーズ作品、類似の作品等の契約に当たり、対価についての適切な交渉を行うために必要な範囲で、当該コンテンツに係るユーザーによる視聴回数等に係る情報を提供している。
第3 元請制作会社の採るべき行動(下請制作会社に対する取引)
1 発注時点
(1)書面等による取引条件の明示
元請制作会社と下請制作会社との取引では、下請制作会社に対するアンケート調査において、書面等による取引条件の明示状況について、約7割の下請制作会社が必ず又はおおむね明示されると回答しており、多くの場合に取引条件の明示は行われているものと考えられる。
一方で、明示される時期については、製作委員会及び元請制作会社との取引と同様に、発注された時点が多いとの回答は3割弱であり、委託業務の開始前であっても発注から時間が経過していたり、委託業務開始後に明示されたりしている例が相当程度あるとみられる。
元請制作会社・下請制作会社間の映画制作に係る委託取引は、取適法上の情報成果物作成委託(取適法第2条第3項)や役務提供委託(取適法第2条第4項)に該当すると考えられるところ、取適法の適用対象となる取引である場合には、元請制作会社は、下請制作会社に対する委託に際して、直ちに、明示事項を明示しなければならない(発注内容等の明示義務(取適法第4条第1項))。
製作委員会・元請制作会社間の取引と同様に、発注段階では詳細な取引条件を設定することが難しい場合があることにも留意する必要がある。この点、取適法では、明示事項のうちその内容が定められないことについて正当な理由があり記載しない事項(未定事項)がある場合には、これらの未定事項以外の事項を中小受託事業者に明示すること(当初の明示)が認められる。そのような場合であっても、元請制作会社においては、未定事項について十分に協議をした上で可能な限り早期に定め、その後直ちに当該事項を補充書面等により明示(補充の明示)しなければならない(取適法第4条第1項ただし書)。
また、取適法の適用対象ではない場合も、下請制作会社が委託された業務を開始する前に書面等により取引条件を明示しないことは、契約内容が不明確な状態で下請制作会社が業務を行うこととなり、業務の着手後に不利な条件を提示された場合に下請制作会社が受け入れざるを得なくなる可能性があるなど、元請制作会社の下請制作会社に対する優越的地位の濫用となる行為を誘発する原因となり得る。元請制作会社においては、この点に留意し、確定した事項について直ちに書面等により取引条件を明示し、発注段階で定められなかった取引条件についても十分に協議をした上で可能な限り早期に定め、書面等により明示することが求められる。
問題となり得る元請制作会社の行動例
(ア) 秘密保持やデータ保管に関する契約書については取り交わしたが、書面等で制作委託費等の取引条件を明示することはしなかった。(発注内容等の明示義務違反(取適法第4条第1項)・優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)を誘発する行為)
(イ) 事後的に作業が追加されるなど委託内容を変更せざるを得ないことが多く、委託当初の段階で具体的な作業量を推し量ることが困難であり、予算を決めることができなかったため、発注時点で書面等による明示を行わず、その後具体的な作業量の見通しが立った後も、書面等による明示を行わなかった。(発注内容等の明示義務違反(取適法第4条第1項)・優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)を誘発する行為)
(ウ) 発注時点で代金が定められなかったため、書面等による明示を行わず、納品後に、代金を含む取引条件を記載した契約書を取り交わした。(発注内容等の明示義務違反(取適法第4条第1項)・優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)を誘発する行為)
取引の適正化のために参考となる元請制作会社の行動例
(ア) 発注時点では制作委託費、納期などの明示事項等を協議し、決定した事項を記載した発注書を直ちに交付した上で、その後未定事項や細かな各条件を詰め、業務着手前に契約書を取り交わすようにしている。
(イ) 元請制作会社は、製作委員会との制作委託契約において、再委託先の権利に関しても譲渡を受けるなどして権利処理を適切に行う義務を負うことがあり、そのような場合は、下請制作会社への委託に際しては、権利処理を含め取引条件を書面で提示している。
(2)取引の対価の交渉・設定
映画制作は、作品ごとに予算規模、要求されるクオリティ等が異なるものの、近年では、人件費や資材費等の上昇といった要因により、制作コストが増大する傾向にあるとみられるが、この傾向は下請制作会社の業務においても同様であると考えられる。
制作委託費の水準について、下請制作会社に対するアンケート調査では、下請制作会社の2割弱が「上がっている」という回答をした一方で、「下がっている」という回答が3割弱、「ほぼ変わっていない」という回答が約半数であり、制作委託費の水準が上昇傾向にあるとまではいえない状況がうかがわれた。
また、制作委託費の額の交渉状況について、下請制作会社に対するアンケート調査では、「交渉できたことが多い」という回答が過半数あったものの、下請制作会社へのヒアリング調査では、元請制作会社との価格交渉において、予算が無いとのみ返答されるとの回答があるなど、交渉の場があったとしても、協議が不十分な場合もあると考えられる。
そのため、取適法の適用対象となる取引である場合は、元請制作会社は、制作委託費を決定するに当たって、通常支払われる対価に比し著しく低い代金の額を不当に定めてはならず(買いたたき(取適法第5条第1項第5号))、人件費や資材費等に係る物価上昇などの状況の変化といった取引に影響を及ぼす要因を十分に考慮した対価を定めることが求められる。
また、制作委託費を決定するに当たっては、下請制作会社の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、下請制作会社から求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金の額を決定して下請制作会社の利益を不当に害してはならず(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))、下請制作会社に対し、上記の取引に影響を及ぼす要因を十分に考慮した上で、必要な説明や情報の提供を行いつつ、十分な協議を行うことも求められる。
取適法の適用対象ではない場合も、元請制作会社が制作委託に際して、優越的地位を利用して、一方的に著しく低い対価を設定することにより、下請制作会社に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならず(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))、物価上昇などの状況を踏まえた協議を十分に行い、対価を定めることが求められる。
下請制作会社においても、見積りの提出や制作コストの変動等に際して、想定される必要人員、制作期間等の映画の制作に係る委託費に影響のある事項について、可能な範囲で具体的に説明するよう努めることが求められる。
問題となり得る元請制作会社の行動例
(ア) 人件費や資材費等に係る物価上昇などの状況を踏まえることなく、通常支払われる制作委託費より著しく低い制作委託費を定めた。(買いたたき(取適法第5条第1項第5号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 下請制作会社から制作委託費に係る協議の求めがあったにもかかわらず、当該協議に応じず又は必要な説明若しくは情報の提供を行わずに、一方的に制作委託費を定めた。(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる元請制作会社の行動例
(ア) 下請制作会社への制作委託費は、下請制作会社から交渉を求められなくとも、協議の場を設けた上で、近年の物価上昇等を踏まえて、適切な価格設定を行っている。
(イ) 委託契約上、下請制作会社が提示した見積りに基づき対価の額を定めた上で、追加で生じた作業等に応じて、費用負担について都度協議することを定めている。発注時に最終的な制作委託費が正確に算出できない場合には、その理由、最終的な対価を定めることとなる予定期日及び最低限度の対価を発注書に明記した上で、最終的な対価が決まった後は、直ちに当該事項を明示している。
(ウ) 近年、物価高の影響を受け、下請制作会社が提示する見積額も人件費等の増加分を反映するなどして上昇しているところ、当該見積額に基づき、制作委託費を引き上げている。
2 取引の履行過程
(1)発注取消し
映画制作においては、下請制作会社に映画制作の発注をした後、制作中止等により、発注者である元請制作会社が発注を取り消す場合がある。映画制作では、発注後早期の段階から人員の確保や外注先への手配等が行われることが多いため、発注取消しの際に費用等が支払われないと下請制作会社に不利益となる場合もあるとみられる。
下請制作会社に対するアンケート調査では、一部ではあるが、「受注後に発注を取り消されたが、行った作業に対する報酬が支払われなかった」ことがあるとの回答があった。
この点、取適法の適用対象となる取引である場合には、元請制作会社が、下請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに発注を取り消し、下請制作会社が行った作業に掛かる費用等を負担せずに、下請制作会社の利益を不当に害してはならない(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号))。
なお、下請制作会社の利益を不当に害したといえるかは、給付内容の変更等によって、下請制作会社が費用を負担することなどにより生じた損失や、これに対して元請制作会社が負担した費用等を総合的に考慮し、下請制作会社に不利益が生じたといえるかで判断する点に留意する必要がある。
また、トラブル防止の観点から、発注を取り消す場合に、元請制作会社から下請制作会社に対する金銭の支払の有無及び金額を、(いわゆるキャンセルポリシー等の方法により)あらかじめ定めておくことが考えられる。
取適法の適用対象ではない場合も、元請制作会社が、優越的地位を利用して、正当な理由がないのに、元請制作会社の行った発注を取り消すことにより、下請制作会社に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
問題となり得る元請制作会社の行動例
(ア) 下請制作会社の業務開始後に、下請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに発注を取り消したが、それまで下請制作会社が要した費用を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる元請制作会社の行動例
(ア) 下請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに、発注を取り消す場合は、製作委員会から当社(元請制作会社)に支払われるキャンセル補償金も利用しつつ、下請制作会社に対してキャンセル補償金を支払っている。
(イ) 発注がキャンセルとなった場合のトラブル防止のため、契約において、金銭の支払等について定めたキャンセルポリシーを設けている。
(2)制作委託費の追加支払
製作委員会・元請制作会社間の取引と同様に、制作期間の延期・延長、当初契約内容と異なる追加作業の発注、やり直し(リテイク)等によって、下請制作会社に、追加費用が生じる場合がある。
元請制作会社に対するヒアリング調査においては、昨今では対価を低くするといったことはできないとして、下請制作会社に発生した追加作業の対価を支払っている旨の回答があった一方で、下請制作会社からは、指示が変わってリテイクを延々と出される場合もある旨や、継続的な取引や別案件の受注を望む立場であるので契約内容と異なる追加の業務を受け入れることもある旨の回答もあった。
この点、取適法の適用対象となる取引である場合には、元請制作会社が、下請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに、下請制作会社に対して、制作期間の延期・延長、当初契約と異なる業務、やり直し(リテイク)などを行わせることによって、下請制作会社に追加の費用が発生した場合に、その増加した分の費用等を負担しない等下請制作会社の利益を不当に害してはならない(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号))。
映画制作のような創作活動を伴う業務の委託においては、下請制作会社の給付の内容が当初委託した内容を満たしているかどうかは、元請制作会社の価値判断等により評価される面があり、事前に給付を充足する条件を正確に発注書等に明示することが不可能な場合がある。そのように、給付を充足する条件を正確に明示することが困難な中で、コミュニケーションが不十分で作業内容の理解が異なった結果、下請制作会社の給付の内容のクオリティが要求水準から乖離(かいり)している場合がある等、責任の所在が曖昧なケースもあると考えられる。
このような場合において、元請制作会社が、給付の受領の前後を問わず、必ずしも事前に給付を充足する条件を明確にできなかったが下請制作会社の給付の内容が当初委託した内容と異なる等とし、やり直し(リテイク)等をさせる際に、その費用について一方的に負担割合を決定して下請制作会社の利益を不当に害してはならず、元請制作会社がやり直し(リテイク)等をさせるに至った経緯等を踏まえ、下請制作会社と十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定する必要がある。
また、取適法の適用対象ではない場合も、元請制作会社が、優越的地位を利用して、正当な理由がないのに、下請制作会社にやり直し(リテイク)を要請したり、一方的に取引条件を変更したりすることにより、下請制作会社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
下請制作会社においても、元請制作会社と追加の制作委託費の支払に関する協議を行う場合は、追加で必要となった人員、制作期間等について、可能な範囲で具体的に説明するよう努めることが求められる。
問題となり得る元請制作会社の行動例
(ア) 下請制作会社に対して、当初の契約内容には含まれない作業を追加で依頼した。その際、追加で必要となる費用を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 発注時点でクオリティの基準を明示できなかったところ、納品物のクオリティに満足できないとして、抽象的な指示で繰り返しやり直し(リテイク)を求め、下請制作会社に生じた追加の費用の負担割合について、やり直し(リテイク)に至った経緯等を踏まえて協議することなく、当該追加費用を一切負担しなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる元請制作会社の行動例
(ア) 撮休日に撮影と関係なく俳優が怪我をし、下請制作会社に責任のない理由によって制作期間が延長した結果、追加費用が生じたとして下請制作会社から協議の申入れがあった。追加費用について製作委員会との協議を行った後、下請制作会社とも協議を行い、追加費用を支払った。
(イ) 発注時に、下請制作会社に見積額を概算で算出してもらい制作委託費を決定しているが、実際に概算よりも費用が掛かった場合は、下請制作会社からの求めに応じて交渉を行っている。
(ウ) 委託内容の明確化のために、発注時に作業内容を一覧化した作業シートを作成した上で、追加の作業が発生した場合は、当該作業が必要となったことの責任の所在等について協議した上で、下請制作会社に責任がなければ追加費用を支払っている。
(3)減額
下請制作会社に対するアンケート調査では、一部ではあるが、「自身に責任がないのに、支払代金を減額された」ことがあるとの回答があった。
下請制作会社へのヒアリング調査においては、発注内容が曖昧であったにもかかわらず、納品物のクオリティが要求に達していないという理由で一方的に減額された旨の回答があった。
この点、取適法の適用対象となる取引である場合には、元請制作会社が下請制作会社の責めに帰すべき理由がないのに、代金を減じてはならない (代金の減額(取適法第5条第1項第3号))。
取適法の適用対象ではない場合も、元請制作会社が、優越的地位を利用して、正当な理由がないのに、契約で定めた対価を減額することにより、下請制作会社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
問題となり得る元請制作会社の行動例
(ア) 下請制作会社から受領した納品物について、下請制作会社と協議して決定したクオリティの基準を満たしており、下請制作会社の責めに帰すべき理由がなかったにもかかわらず、当初合意した代金を一方的に減額した。(代金の減額(取適法第5条第1項第3号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 当初定めた制作委託費から下請制作会社の銀行口座に振り込む際の振込手数料を差し引いた。(代金の減額(取適法第5条第1項第3号))
取引の適正化のために参考となる元請制作会社の行動例
(ア) 下請制作会社に対しては、クオリティの水準等、給付を充足する条件を事前に明らかにした上で、クオリティの水準等を満たした成果物の納品後、直ちに制作委託費を全額支払っている。
(4)支払遅延・不払
下請制作会社に対するアンケート調査では、一部ではあるが、支払遅延や不払といった行為を受けた経験があるとの回答があった。
元請制作会社と同様に、下請制作会社についても、支払期日までに代金の支払を受けなければ、資金繰りがつかず、従業員や取引先であるフリーランス等への報酬の支払等が困難になるなど、経営の安定が損なわれるおそれがある。
この点、取適法の適用対象となる取引である場合には、元請制作会社は、下請制作会社の給付の内容について検査するかどうかを問わず、代金を、給付を受領した日(役務提供委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内において定めた支払期日までに支払う必要がある(支払遅延(取適法第5条第1項第2号))。
取適法の適用対象ではない場合も、元請制作会社が、優越的地位を利用して、正当な理由がないのに、契約で定めた支払期日に制作委託費を支払わないことにより、下請制作会社に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えてはならない(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))。
問題となり得る元請制作会社の行動例
(ア) 資金が不足したため、支払期日に支払わなかった。(支払遅延(取適法第5条第1項第2号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
(イ) 当社内での承認を得てから代金を支払いたいという趣旨で、作業の進捗状況に応じて代金を支払うという支払条件を定め、具体的な支払期日を定めないまま下請制作会社から成果物を受領していたが、社内での承認を得るのに時間を要したため、代金の支払が遅れた。(支払遅延(取適法第5条第1項第2号)、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号))
取引の適正化のために参考となる元請制作会社の行動例
(ア) 下請制作会社との契約において、制作期間が長期にわたるため、納品前から納品までの間に制作委託費を分割して段階的に支払うこととしており、それぞれの支払期日までに契約上定めた額を支払っている。
第4 制作会社の採るべき行動(フリーランスに対する取引)
1 発注時点
(1)書面等による取引条件の明示
制作会社及びフリーランスに対するヒアリング調査では、令和6年11月にフリーランス・事業者間取引適正化等法が施行された影響もあり、契約書、発注書、メール等で取引条件を明示している(明示されている)といった回答があった。一方で、取引条件を明示していない制作会社もあるとの回答(フリーランス)や、フリーランスは契約書等の書面に関する知識等が十分でない旨の回答(制作会社)もあった。
フリーランスに対するアンケート調査では、フリーランス・事業者間取引適正化等法上の明示義務のある取引条件(明示事項)の書面等による明示状況について、「事前に書面等で伝えられている」との回答が3割を下回っていることからも明示事項の明示がいまだ不十分な場合も多くあるとみられる。
また、明示事項が明示される時期についても、製作委員会及び元請制作会社との取引並びに元請制作会社及び下請制作会社との取引と同様に、委託業務の開始前であっても発注から時間が経過していたり、委託業務開始後に明示されたりしている例が多いとみられる。
制作会社は、フリーランスに対して業務委託をした場合は、直ちに、明示事項を書面等により明示しなければならない(取引条件の明示義務(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項))。
もっとも、映画制作においては、製作委員会・元請制作会社間及び元請制作会社・下請制作会社間の取引と同様に、発注段階では詳細な取引条件を設定することが難しい場合があることにも留意する必要がある。この点、フリーランス・事業者間取引適正化等法では、明示事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるもの(未定事項)については、業務委託をした場合に直ちに明示することを要しないが、未定事項以外の事項のほか、未定事項の内容が定められない理由及び未定事項の内容を定めることとなる予定期日を直ちにフリーランスに明示(当初の明示)しなければならない。加えて、制作会社においては、当該未定事項について十分に協議をした上で速やかに定め、その後直ちに当該未定事項を補充書面等により明示(補充の明示)しなければならない(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項ただし書)。
フリーランスにおいても、制作会社から発注書等で示される取引条件を十分に確認し、契約書への署名、その契約書の返送等必要な対応がある場合は速やかに行うよう努めることが求められる。
問題となり得る制作会社の行動例
(ア) 脚本や撮影スケジュールは流動的なことが多いため、稼働期間、稼働場所、業務内容、報酬の額等の取引条件をあらかじめ定めても変更となる可能性が高いことから、口頭のみで取引条件を伝えた。(取引条件の明示義務違反(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項))
(イ) 制作費全体の使い道が具体的に確定するまで人件費に充てられる予算額が分からなかったことから、発注時点ではフリーランスとの間で報酬の額等を含む取引条件の協議及び明示を行わず、フリーランスの稼働後に協議を経て契約書を取り交わした。(取引条件の明示義務違反(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項))
取引の適正化のために参考となる制作会社の行動例
(ア) フリーランスに対しては、発注時点で明示事項をメール等により明示した上で、遅くともクランクインの前までにはその他詳細な取引条件の協議を終え、契約書を取り交わすようにしている。
(2)取引の対価(報酬の額)の交渉・設定
制作会社・フリーランス間の取引においては、フリーランス側の交渉力が劣る場合が少なくないとみられ、ヒアリング調査では、○○監督・○○技師と名の付く上位のスタッフの報酬は上がっていないとの回答がある一方で、映画業界全体で人手不足の状況にある中で、特に制作進行やサード助監督といった比較的経験年数の浅い若手が就く職種の報酬は上がっているとの回答もあるなど、フリーランスによって状況が異なるとみられる。
報酬水準について、フリーランスに対するアンケート調査では、フリーランスの約15%が報酬水準について「上がっている」と回答した。一方で、物価の上昇に追いついていない、そもそもの報酬/単価が低いなどの理由により、現在の報酬水準に満足していないとの回答が約9割あった。
制作会社に対するヒアリング調査では、フリーランスの報酬水準は全体的に上昇している旨の回答があった一方で、制作委託費が増加しなければフリーランスの報酬水準を上げることが難しい旨の回答もあり、製作委員会・元請制作会社間、元請制作会社・下請制作会社間の取引条件がフリーランスの報酬水準に影響を及ぼしている可能性もあるとみられる。
報酬に係る交渉状況については、アンケート調査からは多くの制作会社が交渉には応じているとみられる一方で、制作会社及びフリーランスへのヒアリング調査からは、「予算の枠内に収まるかが不明なため、早い段階で報酬の額を約束することができない」(制作会社)、「次の仕事の声が掛からないおそれがあるため、明らかに相場から外れた低い報酬額を提示された場合でなければ交渉しづらい」(フリーランス)などの回答があり、交渉の場があったとしても、協議が不十分な場合もあるとみられる。
この点、フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象となる取引である場合には、制作会社は、フリーランスの報酬の額を決定するに当たって、通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めてはならず(買いたたき(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第4号))、物価上昇などの取引に影響を及ぼす要因を十分に考慮した対価を定めることが求められる。
フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象ではない場合も、取適法の適用対象となる取引であるときは、制作会社は、制作委託費を決定するに当たって、通常支払われる対価に比し著しく低い代金の額を不当に定めてはならず(買いたたき(取適法第5条第1項第5号))、物価上昇などの取引に影響を及ぼす要因を十分に考慮した報酬の額を定めることが求められる。
また、取適法の適用対象となる取引である場合には、フリーランスへの委託の代金を決定するに当たっては、フリーランスの給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、フリーランスから求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金の額を決定してフリーランスの利益を不当に害してはならず(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))、フリーランスに対し、物価上昇などの取引に影響を及ぼす要因を十分に考慮した上で、必要な説明や情報の提供を行いつつ、十分な協議を行うことも求められる。
フリーランスにおいても、報酬の額の交渉に際して、想定される作業時間等の報酬の額に影響のある事項について、可能な範囲で具体的に説明するよう努めることが求められる。
問題となり得る制作会社の行動例
(ア) ある部門について、技師1名・助手3名の構成とし、それぞれのフリーランスとの間で業務委託契約を締結する際に、その部門に対する報酬の予算上限がある中で、助手の報酬の額を上げる代わりに技師の報酬の額を下げざるを得ないとして、技師に対して、通常支払われる報酬の額より著しく低い報酬の額を定めた。(買いたたき(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第4号、取適法第5条第1項第5号))
(イ) 継続的に取引があるフリーランスから、物価の上昇によりフリーランスが負担する資機材費、メンテナンス費等が上昇しているとして報酬の額の引上げを求められていたが、明示的に協議することなく、従来どおりに報酬の額を据え置くことで、通常支払われる報酬の額より著しく低い報酬の額を定めた。(買いたたき(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第4号、取適法第5条第1項第5号))
(ウ) フリーランスから代金の額に係る協議の求めがあったにもかかわらず、当該協議に応じず又は必要な説明若しくは情報の提供を行わずに、一方的に代金の額を定めた。(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))
取引の適正化のために参考となる制作会社の行動例
(ア) フリーランスとは本人の技術力・経験等を考慮しつつ協議し、報酬の額等の取引条件を定めている。
(イ) フリーランスから協議の求めがあった場合は、これに応じた上で、物価上昇等の状況を踏まえて報酬の額等の取引条件を定めている。
(3)短納期発注
フリーランスに対するアンケート調査からは、映画制作において、制作会社がフリーランスに対して通常よりも短納期の発注を行い、割増料金が支払われない場合が一定程度あるとみられる。
また、フリーランスへのヒアリング調査では、制作会社から急いで仕上げ業務を行うようにとの指示があり、短期間で業務を終わらせたが、特急料金が支払われなかった旨の回答もあった。
この点、フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象となる取引である場合であって、制作会社が、通常よりも短納期の発注をフリーランスに行うに当たり、短納期の発注のためにフリーランスに発生する費用が増加する場合には、当該費用の増加を考慮した通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めてはならず(買いたたき(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第4号))、フリーランスに発生する費用の増加を考慮した報酬の額を定めることが求められる。
フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象ではない場合も、取適法の適用対象となる取引であるときであって、制作会社が通常よりも短納期の発注をフリーランスに行うに当たり、短納期の発注のためにフリーランスに発生する費用が増加する場合には、当該費用の増加を考慮した通常支払われる対価に比し著しく低い代金の額を不当に定めてはならない(買いたたき(取適法第5条第1項第5号))。
また、取適法の適用対象となる取引である場合には、通常よりも短納期の発注をフリーランスに行うに当たり、フリーランスの給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、フリーランスからの求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金の額を決定してフリーランスの利益を不当に害してはならず(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))、フリーランスに発生する費用の増加を十分に考慮した上で、必要な説明や情報の提供を行いつつ、十分な協議を行うことも求められる。
問題となり得る制作会社の行動例
(ア) 短納期の発注を行うに際して、フリーランスに発生する費用の増加を考慮することなく、当該費用の増加を考慮した通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を定めた。(買いたたき(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第4号、取適法第5条第1項第5号))
(イ) 短納期の発注を行うに際して、フリーランスから特急料金を含む価格協議を求められたにもかかわらず、当該協議に応じず又は必要な説明若しくは情報の提供を行わずに、一方的に代金の額を定めた。(協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号))
取引の適正化のために参考となる制作会社の行動例
(ア) 短納期の発注を行うに際して、発注元とも交渉して追加の制作委託費を発注元が負担することにより資金を確保した上で、フリーランスには通常よりも割増しした報酬の額を支払うこととした。
2 取引の履行過程
(1)発注取消し
映画制作においては、フリーランスに映画制作に係る発注をした後、制作中止等により、発注者である制作会社が発注を取り消す場合がある。フリーランスに対するアンケート調査によると、依頼された後に案件がなくなったが、既に作業した範囲に対する報酬が支払われない場合が一定程度あるとみられる。
制作会社及びフリーランスに対するヒアリング調査によれば、映画制作を中断・中止した際は、フリーランスに対して契約額の6割程度の補償をすることが多い、直前での発注取消しは全額を補償している旨の回答(制作会社)があった一方で、「映画制作が直前で中止等となったとしても、制作会社によっては補償をしてくれないことがあり、そうなるとすぐに仕事も見つからないので無報酬になる」(フリーランス)との回答もあり、発注取消しの際に費用等が支払われないとフリーランスに不利益となる場合もあるとみられる。
この点、フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象となる取引である場合には、制作会社が、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに発注を取り消し、フリーランスが行った作業に掛かる費用等を負担せずに、フリーランスの利益を不当に害してはならない(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第2号))。
なお、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに稼働直前で業務委託をキャンセルしたことにより、フリーランスが別の業務を実施することを不可能にさせたときは、制作会社は、直前までにフリーランスが行った作業分の費用を負担するだけではなく、フリーランスに対し、当該業務委託の「報酬の額」相当額の支払を行わなければ、給付内容の変更によりフリーランスの利益を不当に害したとしてフリーランス・事業者間取引適正化等法上問題となるおそれがある点に留意が必要である。
フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象ではない場合も、取適法の適用対象となる取引であるときには、フリーランスの責めに帰すべき理由がないのに発注を取り消し、フリーランスが行った作業に掛かる費用等を負担せずに、フリーランスの利益を不当に害してはならない(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号))。
なお、フリーランスの利益を不当に害したといえるかは、発注取消しによって、フリーランスが費用を負担することなどにより生じた損失や、これに対して制作会社が負担した費用等を総合的に考慮し、フリーランスに不利益が生じたといえるかで判断する点に留意が必要である。
問題となり得る制作会社の行動例
(ア) 企画段階でフリーランスに対してシナリオやプロットの制作を依頼したが、当該作品が企画倒れとなり、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに発注を取り消した。フリーランスからは既に行った作業に相当する報酬の支払を求められたが、一切報酬を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第2号、取適法第5条第2項第3号))
(イ) 撮影開始直前に制作が中止となり、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに発注を取り消した。フリーランスが既に行った準備作業に掛かる費用のほか、急に空いたスケジュールを穴埋めできずに生じた損失を一切考慮せず、何らの費用等の支払をしなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第2号、取適法第5条第2項第3号))
取引の適正化のために参考となる制作会社の行動例
(ア) 映画制作が中止となった場合は、制作会社からフリーランスに対して契約金額の相当程度の割合を補償金として支払っており、直前の取消しの場合は全額補償している。
(イ) フリーランスと取り交わす契約書に、キャンセルポリシーを記載することとしており、制作が中止になった際にはキャンセルポリシーに基づいて、フリーランスの不利益とならないように費用等を支払うこととしている。
(2)制作委託費の追加支払
製作委員会・元請制作会社間、元請制作会社・下請制作会社間の取引と同様に、制作期間の延期・延長、当初契約内容と異なる追加作業の発注、やり直し(リテイク)等によって、フリーランスに追加の稼働が発生する場合がある。
フリーランスに対するヒアリング調査では、月額固定報酬の場合は延長した期間分の報酬も支払われる旨の回答があった一方で、実際の稼働期間が契約上の期間より長くなっても、追加で報酬が支払われないことがある旨の回答もあった。
この点、フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象となる取引である場合には、制作会社が、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、フリーランスに対して、制作期間の延期・延長、当初契約と異なる業務、やり直し(リテイク)などを行わせ、フリーランスに追加の稼働が発生した際に、制作会社が追加報酬を支払わない等、フリーランスの利益を不当に害してはならない(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第2号))。
また、フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象ではない場合も、取適法の適用対象となる取引であるときには、制作会社がフリーランスの責めに帰すべき理由がないのに、制作期間の延期・延長、当初契約と異なる業務、やり直し(リテイク)などを行わせることによって、フリーランスに追加の稼働が発生した際に、制作会社が追加の代金を支払わない等、フリーランスの利益を不当に害してはならない(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(取適法第5条第2項第3号))。
なお、映画制作のような創作活動を伴う業務の委託においては、フリーランスの給付の内容が当初委託した内容を満たしているかどうかは、制作会社の価値判断等により評価される面があり、事前に給付を充足する条件を正確に発注書等で明示することが不可能な場合がある。そのように、事前に給付を充足する条件を正確に明示することが困難な中で、コミュニケーションが不十分で作業内容の理解が異なった結果、フリーランスの給付の内容のクオリティが要求水準から乖離(かいり)している場合がある等、責任の所在が曖昧なケースもあると考えられる。
このような場合において、制作会社が、給付の受領の前後を問わず、必ずしも事前に給付を充足する条件を明確にできなかったがフリーランスの給付の内容が当初委託した内容と異なる等とし、やり直し(リテイク)等をさせる際に、その費用について一方的に負担割合を決定してフリーランスの利益を不当に害してはならず、制作会社がやり直し(リテイク)等をさせるに至った経緯等を踏まえ、フリーランスと十分な協議をした上で合理的な負担割合を決定する必要がある。
フリーランスにおいても、制作会社と追加の報酬の支払に関する協議を行う場合は、追加で必要となった制作工程、制作期間等について、可能な範囲で具体的に説明するよう努めることが求められる。
問題となり得る制作会社の行動例
(ア) 出演者の体調不良により、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに撮影期間が数か月延長となった。その際、当初の撮影期間に加えて延長した期間についても作業をしていたフリーランスに対し、延長した期間分に相当する追加報酬を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第2号、取適法第5条第2項第3号))
(イ) フリーランスへの発注後、当初の委託内容には含んでいなかった本来別の職種のフリーランスが行う作業を追加で担当させたが、追加報酬を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第2号、取適法第5条第2項第3号))
(ウ) 編集を担当したフリーランスに対し、編集作業を終え、試写会を行った後に、発注時に必ずしも明示していなかったクオリティの基準に達していないことを理由として編集作業のやり直しを指示した。当該フリーランスから編集作業のやり直しに要した追加報酬の支払を求められたが、一切交渉に応じず、支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第2号、取適法第5条第2項第3号))
(エ) 撮影スケジュールの遅延により、編集工程を担当するフリーランスに対し、委託当初に定めた作業期間を短縮するよう求めた。これによりフリーランスに追加の費用が生じたが、割増料金等の追加報酬を支払わなかった。(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第2号、取適法第5条第2項第3号))
取引の適正化のために参考となる制作会社の行動例
(ア) 撮影期間が延長される理由としては、俳優の体調不良、天候、監督の撮影方針など様々なものがあるが、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、契約で定めた拘束期間後まで撮影期間を延長した場合は、追加で報酬を支払うようにしている。
(イ) 予定していた撮影は全て終了したものの、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのにリテイク(再撮影)が発生した場合は、追加で報酬を支払っている。
(3)減額
フリーランスに対するアンケート調査及びヒアリング調査では、一部ではあるが、納品後に当初合意のあった金額から減じて支払われたことがある、振込手数料分を減額されたことがあるとの回答があった。
この点、フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象となる取引である場合には、制作会社がフリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、業務委託時に定めた報酬の額を減じてはならない(報酬の減額(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第2号))。
フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象ではない場合も、取適法の適用対象となる取引であるときには、制作会社がフリーランスの責めに帰すべき理由がないのに、代金の額を減じてはならない(代金の減額(取適法第5条第1項第3号))。
問題となり得る制作会社の行動例
(ア) 制作会社の予算が不足してしまい、フリーランスと当初合意していた額の報酬が支払えなくなったため、報酬の額を引き下げた。(報酬の減額(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第2号)、代金の減額(取適法第5条第1項第3号))
(イ) 当初から、制作会社は、フリーランスの技師に対し助手を付けることとしていたところ、交渉によって助手の報酬の額を引き上げることとした代わりに、既に契約していた技師の報酬の額から助手への増額相当額を一方的に差し引いて支払った。(報酬の減額(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第2号)、代金の減額(取適法第5条第1項第3号))
取引の適正化のために参考となる制作会社の行動例
(ア) 報酬を支払う際に、振込手数料を報酬から差し引くこと はせず、当社が負担している。
(4)支払遅延・不払
フリーランスに対するアンケート調査では、一部ではあるが、支払遅延や不払といった行為を受けた経験があるとの回答があった。
この点、フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象となる取引である場合には、制作会社は、フリーランスの給付の内容について検査するかどうかを問わず、報酬を、給付を受領した日(役務提供委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内において定めた支払期日までに支払わなければならない(期日における報酬支払義務(フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項))。
フリーランス・事業者間取引適正化等法の適用対象ではない場合も、取適法の適用対象となる取引であるときには、制作会社は、フリーランスの給付の内容について検査するかどうかを問わず、代金を、給付を受領した日(役務提供委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内において定めた支払期日までに支払う必要がある(支払遅延(取適法第5条第1項第2号))。
なお、制作会社が、フリーランスからの請求書に基づき報酬を支払っている場合であっても、フリーランスからの請求書の提出の有無にかかわらず、受領後60日以内に定めた支払期日までに報酬を支払う必要がある。もっとも、フリーランスからの請求書の提出が遅れると、制作会社が支払期日までに報酬を支払うことが困難になる場合も考えられることから、フリーランスにあっては、請求書を速やかに提出するよう努めることが求められる。
問題となり得る制作会社の行動例
(ア) 資金繰りの悪化を理由に、報酬の支払を支払期日から遅らせ、フリーランスからの催促を受けて支払った。(期日における報酬支払義務違反(フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項)、支払遅延(取適法第5条第1項第2号))
取引の適正化のために参考となる制作会社の行動例
(ア) 月額払いのフリーランスに対しては、役務提供の日から60日以内の支払となるように、翌月末日を支払期日とするなど、毎月の特定日を報酬の支払期日として設定し、同期日までに報酬を支払っている。
第5 今後の対応
1 内閣府知的財産戦略推進事務局及び公正取引委員会は、関係府省庁・関係事業者団体等の協力を得て、今後、本指針の周知を徹底する。
2 公正取引委員会は、製作委員会(構成事業者)、動画配信事業者及び制作会社が本指針に記載の採るべき行動に沿わないような行為をすることにより、独占禁止法、取適法又はフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する場合には、厳正に対処していく。