令和7年9月30日
改正 令和8年1月1日
内閣官房
公正取引委員会
はじめに ※本ページは注釈を省略しています。
アニメ・音楽・放送番組・映画・ゲーム・漫画といったコンテンツは、我が国の誇るべき財産であり、技術進展により、コンテンツの競争力の源泉は、クリエイター個人に移りつつある。他方で、多くのコンテンツはクリエイター個人のみで生み出されるものではなく、クリエイターと関連する事業者との協働もコンテンツの創造やコンテンツの競争力の増大にとって引き続き重要であると考えられる。とりわけ、後述のように我が国では日本型プロダクションシステムが独自の発展を遂げたとの指摘があり、その特徴にも留意する必要がある。
この観点を踏まえ、コンテンツ産業関係者間の公正な競争を確保するとともに、我が国のクリエイター個人の創造性が最大限発揮される環境を整備するため、クリエイターへの適切な収益還元やコンテンツ産業関係者の健全な活動等を促進する取引関係等の推進に着手する必要がある。
これまで、コンテンツ産業活性化戦略(令和6年6月21日閣議決定「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」において策定・明記)に基づき、音楽・放送番組等の実演家(アーティスト、俳優、タレント等)とその所属する芸能事務所との契約等について、公正取引委員会において「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査(クリエイター支援のための取引適正化に向けた実態調査)」(以下「実態調査」という。)を行い、令和6年12月に実態調査報告書を公表したところである。
そして、上記コンテンツ産業活性化戦略において、実演家と芸能事務所との間の契約等を適正化する観点から指針の作成を図るとされたことも踏まえ、今般、実態調査報告書の内容を基に、実演家への適切な収益還元やコンテンツ産業関係者の健全な活動等を促進する取引関係等の推進の観点及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)等に照らして具体的な考え方を示す「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(以下「本指針」という。)を内閣官房及び公正取引委員会の連名で策定した。
第1 総論
1 現状及び基本的な考え方
芸能事務所と実演家の契約の内容は様々であり、その法的性質も業務提携契約や業務委託契約など様々なものがあるが、その呼称としても専属実演家契約や専属マネジメント契約などと呼ばれるものがある(以下「専属マネジメント契約」という。)。一般的な専属マネジメント契約において、芸能事務所は、実演家に対し、レッスンによる育成やスケジュール管理等の役務を提供するとともに、必要なプロモーション活動等多方面にわたる広範なプロダクション業務を行い、これらに掛かる費用やリスクを負担する一方で、放送事業者又は番組制作会社(以下「放送事業者等」という。)から実演家による実演の対価を受け取り、その一部等を実演家に報酬として支払うこととすることにより、業務を継続することが可能となる。一方、実演家は、契約している芸能事務所のみと取引をしなければならないという専属義務や、芸能事務所の取引先である放送事業者等から提供を受けた場などにおいて実演する義務を負い、その対価として芸能事務所から報酬を受け取る。
我が国では、日本型プロダクションシステムが独自の発展を遂げたとの指摘があるが、歴史的に、芸能事務所がリスクを取って、実演家を発掘し、育成し、さらには実演家を売り出し、パブリシティ(当該実演家の氏名や肖像等の有する顧客吸引力)の価値を高める等の役割(以下「育成等」という。)を担っており、米国に比べれば、実演家が自ら投資を行う場合は限られているという傾向がある点に特徴がある。
このため、芸能事務所には、高品質なコンテンツを提供するために、個々の実演家が持つ潜在能力を踏まえて、適切な期間、継続的に実演家を育成し、視聴者から高い評価を得ることができるような状況にするという役割がある。芸能事務所による育成等に係る費用と適切な水準の収益の確保回収ができなければ、日本型プロダクションシステムの下では高品質な実演による競争によって高いレベルのコンテンツ提供が実現しないという点に留意が必要である。
その上で、その高水準の実演が行われるためには、実演家の能力が発揮される必要があり、芸能事務所と実演家の間で、良い実演を実現できる状況を確保するため、双方が納得して適切な取引関係が整備される必要がある。
放送番組の制作においては、放送事業者等が放送番組の企画立案を行い、その内容に応じて出演する実演家が検討される。番組への出演に当たっては、芸能事務所が放送事業者等と番組出演契約を締結することで、所属する実演家が実演の機会を得る場合が多い。実演家が芸能事務所に所属していない場合等においては実演家が放送事業者等と契約を直接締結することもある。放送事業者等は、その後、撮影、編集などの各工程において、様々な事業者、関係者と必要な調整や契約等を行い、完成した放送番組を放送事業者が放送する。さらに、放送事業者等は放送番組をより多くの視聴者に届けるために、自社の放送媒体等での番組広報などを実施するとともに、近年は、放送番組のインターネット同時配信等も実施している。このほか、放送後においては、国内外の放送事業者等に対して番組販売を行う等放送番組の二次利用の促進も行っている。
また、音楽の分野においては、レコード会社と芸能事務所若しくはレコード会社と実演家の二者間又はこれらの三者間で専属実演家契約が締結されることが一般的である。専属実演家契約においては、契約期間中、実演家が、所属するレコード会社の販売するCDやDVD等のためにのみ実演(歌唱・演奏)を提供しなければならないとする専属義務が定められ、レコード会社は独占的に原盤の制作等を行う権利を有する。レコード会社は、この専属実演家契約の下で原盤の制作を行い、CD等や音楽配信としてリリースし、得られる収益から主に印税の形で実演家又は実演家が所属する芸能事務所に報酬を支払う。原盤制作費、CD等の製造費や物流費、配信諸経費、これらの広告宣伝など、発売元及び製造業者としてのリスクは専らレコード会社が負うこととなるほか、新人については、実演家としての技能を高めまた活動実績を積み上げさせるべく、レコード会社単独で又は芸能事務所と協力して実演家の育成等も行う。レコード会社には、リリース前後での国内外向けの各種プロモーション、リリースに際しての各種のタイアップ獲得、リリースから一定期間経過した後の楽曲の多様な利活用等の役割がある
このように、実演家は、芸能事務所、放送事業者等、レコード会社などの事業者と協働し、創造性を発揮する環境を得ることにより、我が国の誇るべきコンテンツの創造活動を行っている。
図表1 各取引主体間の契約

実態調査においては、典型的には上記のような
ⅰ 芸能事務所と実演家の取引
ⅱ 放送事業者等と芸能事務所・実演家の取引
ⅲ レコード会社と芸能事務所・実演家の取引
の3つの取引それぞれについて調査を行い、その一部について独占禁止法上の観点から問題となり得る行為を確認し、同法上の考え方等を整理している。例えば、芸能事務所と実演家の取引においては芸能事務所が、放送事業者等と芸能事務所・実演家の取引においては放送事業者等が、レコード会社と芸能事務所・実演家の取引においてはレコード会社が、それぞれの取引相手に対して優越的地位にある場合があり、このような状況では取引相手は優越的地位に基づく濫用行為等を受け入れざるを得ない場合がある 。
これらの行為が是正される必要があることはいうまでもないが、実演家の創造性や能力が最大限発揮され、実演家に適切に収益を還元する環境を整備するためには、芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社において積極的な対応が求められる。
2 本指針の性格
本指針は、実態調査報告書を踏まえ、前記1のⅰ~ⅲの取引における一方当事者である芸能事務所、放送事業者等又はレコード会社の事業者側が採るべき行動について、17の行動指針として取りまとめたものである。そのような観点から、「取引の適正化のために参考となる行動例」を取り上げることとしている。また、17の行動指針のそれぞれについて、実態調査報告書を踏まえ、独占禁止法上の観点から問題となり得る行為を「問題となり得る行動例」として列挙している。
芸能事務所等においては、実演家の創造性や能力が最大限発揮され、実演家に適切に収益を還元する環境を整備する観点から、実演家との共通認識の醸成を図りつつ、本指針に示された17の行動指針に沿った対応が期待される。
なお、実演家が若年層の場合は、若年であることによる特段の配慮が必要であり、本指針の行動指針に沿って対応することが特に重要である。
特に、芸能事務所等が本指針に記載の17の採るべき行動に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがあり、独占禁止法に違反する場合には、公正取引委員会において独占禁止法に基づき厳正に対処していく。
なお、本指針は独占禁止法上の観点から問題となり得る行為を整理したものであるが、実演家が特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号。以下「フリーランス・事業者間取引適正化等法」という。)の「特定受託事業者」又は製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号。以下「取適法」という。)の「中小受託事業者」に該当する場合には、下表の行為については、独占禁止法だけでなくフリーランス・事業者間取引適正化等法又は取適法に違反する可能性もある。そのような場合には、各事業者においては、この点についても留意が必要である。例えば、フリーランス・事業者間取引適正化等法上、業務委託をした事業者は、直ちに、報酬の額、支払期日等の取引条件を明示する義務を負う点に留意が必要である(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項)。独占禁止法と同様に、これらの法律に違反する場合には、公正取引委員会において厳正に対処していく。
図表2 フリーランス・事業者間取引適正化等法や取適法上の主な適用条文
| 主な適用条文 | |
|---|---|
| 芸能事務所と実演家の取引 | |
| 移籍・独立に係る金銭的給付の要求 (後記第2の3(1)) |
不当な経済上の利益の提供要請(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第1号、取適法第5条第2項第2号) |
| 報酬に関する一方的決定 (後記第2の5(1)) |
買いたたき(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第4号、取適法第5条第1項第5号)、協議に応じない一方的な代金決定(取適法第5条第2項第4号) |
| 業務等の強制 (後記第2の5(2)) |
不当な経済上の利益の提供要請(フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第1号、取適法第5条第2項第2号) |
| 契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと (後記第2の6(1)) |
取引条件の明示義務(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条)、発注内容等の明示義務(取適法第4条) |
| 実演家に対する実演等に係る取引内容の明示 (後記第2の6(2)) |
取引条件の明示義務(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条)、発注内容等の明示義務(取適法第4条) |
| 放送事業者等と芸能事務所・実演家の取引 | |
| 契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと、交渉に応じないこと (後記第3の1) |
取引条件の明示義務(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条)、発注内容等の明示義務(取適法第4条) |
第2 芸能事務所が採るべき行動
1 契約期間等
(1) 専属義務に係る契約期間の設定
芸能事務所が採るべき行動
✓ 専属義務の期間を一定期間確保する必要がある場合には、あらかじめ契約上その期間を明確に規定すること
✓ 専属義務を定める契約期間は、契約締結の段階(又は更新の段階 )において、実演家の要望も踏まえつつ双方合意の上定めることとし、実演家が芸能事務所提示の期間より短い契約期間を求める場合には、芸能事務所が育成等のための投資費用 (以下「育成等費用」という。)を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保 するために必要な期間について、実演家に十分説明し、協議すること
✓ 契約期間を定めない場合は、通例、両当事者による解除が可能であることを踏まえ、実演家が希望するタイミングで、実演家の退所 を認めること
✓ 契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家に対して、専属義務の内容及び専属義務を定める契約期間について、十分に説明し、実演家と協議すること
専属義務は、一般的には、芸能事務所が実演家に対する育成等を行うインセンティブにつながり、実演家の能力を向上させるなどの競争促進効果を有し得るものであるが、一方で、専属義務による拘束期間が長期間になると、当該実演家により良い育成や活躍の場等を提供できる他の芸能事務所が、そのような育成等の機会を提供できなくなる可能性があり、実演家にとっては、より活躍できる可能性がある他の芸能事務所を見いだした場合などの適切なタイミングに移籍等を行うことができなくなる可能性がある。そのため、実演家がより良い育成や活躍の場等を提供できる芸能事務所を適切なタイミングで選択できることを確保するという観点から、契約締結時に実演家が専属義務によって拘束される期間を予期できるよう、芸能事務所は、専属義務の期間を一定期間確保する必要がある場合には、あらかじめ契約において当該期間を明確に規定すべきである。
また、専属義務を定める契約期間は、実演家の要望を踏まえつつ双方合意の上定めるべきであり、実演家が芸能事務所提示のものより短い契約期間を求める場合には、その契約期間は、育成等費用を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間とし、実演家に当該契約期間を定める必要性について十分説明し、協議すべきである。
なお、上記の育成等費用の合理的な範囲での回収及び合理的な範囲での収益確保については、
ⅰ 実演家が大成しなかった場合等、芸能事務所が、常に実際に生じた当該実演家の育成等費用の全額を回収できるとは限らないこと
ⅱ 実演家の能力・顧客吸引力は、実演家個人の努力や才覚と芸能事務所側の企業努力の総和によりもたらされるものであり、全て芸能事務所からの育成等による成果と考えることができない場合もあることにも留意する必要がある。
さらに、実態調査において、契約期間を定めないとする芸能事務所も一定数 みられた。契約期間を定めていないにもかかわらず、実演家が退所を希望した際に芸能事務所がこれを認めないということになれば、実演家は移籍・独立に向けて、契約締結時に予期できなかった困難に直面することとなる。そのため、実演家が移籍・独立の判断を自由にできるようにするという観点からは、契約期間を定めていない芸能事務所は、実演家が退所を希望すれば、これを認めるべきである。
加えて、実態調査の結果、契約期間があるとする芸能事務所のうちほとんどは専属契約を自動更新としており、当初の契約期間と同じ期間を更新期間としている場合もみられた。契約を(複数回)更新している実演家などであって、それまでの契約期間を通じて、既に合理的な範囲での育成等費用の回収や合理的な範囲の収益の確保が終了していると考えられる場合において、実演家の意思に反する形で契約更新に当たって延長する期間を当初の育成段階の契約期間のように相当の長期とする場合は、実演家を不当に拘束し得ることとなる。そのため、実演家がより良い育成や活躍の場等を提供できる芸能事務所を適切なタイミングで選択できることを確保する観点から、契約更新後の契約期間については、実演家が芸能事務所提示の期間より短い契約期間を求める場合には、当初の契約期間にかかわらず、それまでに芸能事務所が投じた育成等費用及び今後投ずべき育成等費用のほか契約存続期間中の収益の確保の状況、並びに今後の収益の確保の見通し等を総合的に考慮した上で、合理的な範囲で育成等費用を回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間とすべきである。また、実演家に当該更新期間を定める必要性について十分説明し、協議した上で、双方合意の上で更新期間を定めるべきである。
そして、実態調査におけるアンケート調査では、約3割の芸能事務所が実演家に対して「契約期間(自動更新の有無)」を明示的に説明していないとしており、十分な説明を行っていない芸能事務所が一定数存在することがうかがわれた。一般的に、実演家が芸能事務所と専属義務を含む契約を締結するに際して、契約期間は重要な事項と考えられることから、契約締結の段階(又は更新の段階)において、芸能事務所は、専属義務の内容及び契約期間について、実演家に対して、十分に説明し、実演家と協議すべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 実演家から長期の契約をしたいという要望がない場合には、契約期間は新人も含めて短期間の契約としている。
(イ) 契約上、契約期間を定めていないが、実演家が退所を希望する場合は、いつでも退所できるようにしている。
(ウ) 契約更新後の契約期間は、当初の契約期間よりも短くしている。
(エ) 未成年の実演家に対する契約内容の説明の際には、必ず親権者(法定代理人)に同席してもらっている。さらに、その場で署名させることはせず、初回は契約期間を含む契約内容の説明にとどめ、契約書案を持ち帰って確認してもらう。
問題となり得る行動例 ( )内は独占禁止法上の該当条項
(ア) 育成中の若年層の実演家だけでなく、業界経験も長く既に著名である実演家も区別せず、入所する全ての実演家と、十分に協議した上での合意をすることなく、長期間の契約期間を定める契約書のひな形を一律に用いて契約を締結している。(優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)、排他条件付取引又は拘束条件付取引(不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)第11項又は第12項))
(イ) 契約上、契約期間を定めていないが、芸能事務所側が合意しない限り退所は認めない。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(ウ) 当初契約の専属義務の期間を相当の長期間としているが、契約更新によって延長する期間についても、実演家のそれまでの在籍期間にかかわらず、十分に協議した上での合意をすることなく、機械的に、当初契約と同じ期間としている。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(エ) 契約期間(又は契約期間が無いこと)について、実演家に説明しない。契約内容について協議の場を設けることもない。(欺瞞(ぎまん)的顧客誘引(一般指定第8項))
(2) 期間延長請求権
芸能事務所が採るべき行動
✓ 期間延長請求権(芸能事務所からの請求により契約を更新できる権利)を契約上規定する場合には、育成等費用を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲で収益の確保の必要性があると認められる場合において、1回に限る等合理的な範囲で行使できるものとし、契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家に対して、その必要性や行使できる範囲も含め、十分に説明し、実演家と協議すること
✓ 期間延長請求権を行使する際は、金銭的補償による代替を検討した上で、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間とし、その理由について実演家に対して十分に説明すること
実態調査において、芸能事務所と実演家との間の契約満了時に、実演家が退所(更新しない旨)を申し出た場合でも、芸能事務所のみの判断で契約を一方的に更新できる権利として期間延長請求権が規定される場合がみられた。
期間延長請求権は、一般的には、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲での収益を確保するという目的のために規定・行使されるのであれば、上記の専属義務と併せて実演家に対する育成・投資を行うインセンティブにつながり、実演家の能力を向上させるなどの競争促進効果を有し得るものである一方で、契約期間が満了し、実演家が退所の意思を示しているにもかかわらず、専属マネジメント契約を一方的に延長し拘束するものでもあり、実演家が被る不利益の程度は相当に大きい。
実態調査においては、期間延長請求権の目的として、育成等費用の回収のほかに、実演家の移籍・独立の「けん制のため」、「悪徳な引き抜き行為の防止のため」との回答がみられたが、合理的な範囲での育成等費用の回収や収益の確保の必要がないのであれば、実演家の移籍・独立のけん制や引き抜き防止といった目的は、期間延長請求権を規定・行使する合理的な目的として認めることは困難である。
期間延長請求権の規定は、金銭的補償による代替の可能性なども考慮した上で、合理的な範囲で育成等費用の未回収分の回収と収益を確保する必要性があると認められる場合に、飽くまで例外的にしか許容されないものであり、当該必要性があると認められる場合において、1回に限る等合理的な範囲で行使できるものとし、契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家に対して、その必要性、行使できる範囲も含め、十分に説明し、実演家と協議すべきである。
また、期間延長請求権を行使する際は、金銭的補償による代替を検討した上で、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間とし、その理由について実演家に対して十分に説明すべきである。
なお、合理的な範囲で確保される収益として、実演家を育成等することにより生じる将来の利益のうち芸能事務所が貢献した部分については、著名な実演家の場合には著しく高額となり得ることが想定されるが、合理的に見込まれる将来の利益を算定し、芸能事務所が費やした労力、金銭や企業努力などの貢献度に加えて、実演家の業績、所属年数等も考慮した上で、合理的と認められる範囲とされるべきである。
また、これらは通常は金銭的補償により十分に対応し得ることに留意する必要がある。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 期間延長請求権を行使するケースは芸能事務所と実演家との関係性が悪い状況であると想定され、そのような状況では契約期間を延長しても互いにメリットがないため、期間延長請求権を規定していない。
(イ) 当事務所の契約書のひな型では期間延長請求権は規定しておらず、費用を掛けて育成等する予定の実演家が入所することとなった際に、育成プラン(育成等費用)や見込まれる利益を想定した上で検討し、契約書に規定することとしている。また、契約締結時に実演家に対して十分に説明し、実演家と協議している。
(ウ) 実演家と締結する契約書で期間延長請求権を規定する場合は、行使する回数を契約の存続期間を通じて1回に限るとしている。
(エ) 契約上規定している期間延長請求権を実際に行使する場合は、退所する実演家について育成等費用を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲で確保する必要がある収益を算出した上で、必要な期間分としている。
問題となり得る行動例
(ア) 投資する育成等費用の多寡や、合理的な範囲での当該費用の回収又は収益の確保とは無関係に、一律に、所属する実演家との契約で期間延長請求権を規定している。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(イ) 契約期間中に育成等費用の回収や芸能事務所の貢献度に相当する収益を既に確保しているが、期間延長請求権を行使した。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(ウ) 契約書に期間延長請求権を規定しているが、契約締結前に実演家に対して期間延長請求権について全く説明せず、契約を締結した。(欺瞞(ぎまん)的顧客誘引)
2 競業避止義務等の規定
芸能事務所が採るべき行動
✓ 原則として、契約上、競業避止義務等を規定しないこと(既存の契約で定められている場合は競業避止義務等を定める条項を削除すること)
✓ 仮に、保護すべき営業秘密を実演家が把握するような場合には、より競争制限的でない他の手段として、まずは秘密保持契約の締結を検討すること
実態調査において、契約終了後の一定期間又は無期限で、退所した実演家が一切の芸能活動を行わない、他の芸能事務所に対して役務提供を行わない、フリー(特定の芸能事務所に所属せずに活動すること)として活動する等の活動制限が課される場合がみられた(以下、これらの活動制限を総称して「競業避止義務等」という。)。
競業避止義務等は、退所後において実演家の実演という事業活動を直接に制約するものであり、実演家の自由かつ自主的な判断による取引・活動を阻害するものとして、実演家が被る不利益の程度は相当に大きい。
また、競業避止義務等は、一般的には、営業秘密等の漏えい防止の目的の達成のために合理的な必要性かつ手段の相当性が認められる範囲で課されるのであれば、契約相手に対する営業秘密等に相当する情報の共有への懸念を払拭し、契約相手の能力を十分に活用できるなどの競争促進効果を有し得るものであるが、芸能分野においては、基本的に実演のみを行い、芸能事務所の運営そのものには関わることがない実演家が保護されるべき営業秘密等を知ることは例外的な場合であると考えられることなどを踏まえると、そもそもこれらの活動制限を課すこと自体の必要性・相当性が認められない可能性が高い。
そのため、芸能事務所は、原則として、契約上、競業避止義務等を規定すべきではない。また、既存の契約で定められている場合は競業避止義務等を定める条項を削除すべきである。
また、実演家が営業秘密等を知ることとなった場合であっても、営業秘密等の漏えいを防止する手段としては、競業避止義務等の他に、実演家の活動をより制限しないものとして、営業秘密等の漏えいを直接的に禁止することができる秘密保持契約の締結も考えられる。
そのため、仮に保護されるべき営業秘密を実演家が把握するような例外的な場合であっても、まずは秘密保持契約の締結を検討すべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 所属する実演家が営業秘密を知ることはないため、競業避止義務を課すことはない。
(イ) 競業避止義務は規定していないが、実演家が保護すべき営業秘密を知る際に、秘密保持義務を課すことがある。
問題となり得る行動例
(ア) 実演家の移籍や独立をけん制するため、競業避止義務等を課している。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(イ) 競業避止義務を課すことはないが、退所する実演家には、一定期間フリーとなることを求める。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
3 移籍・独立に係る妨害行為
(1) 移籍・独立に係る金銭的給付の要求
芸能事務所が採るべき行動
✓ 実演家が退所する際に金銭的給付の要求を行うことがある場合には、あらかじめ契約上規定しておくことが望ましい。
✓ 特に、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲での収益を確保するため金銭的給付を要求する場合に、要求する金銭の額が高額となり得るときは、どのような場合に金銭的給付が求められるか等の考え方や算定方法等を契約上規定し、契約締結の段階(及び更新の段階)において、実演家に対して、その必要性も含め、十分に説明し、協議すること
✓ 金銭的給付の要求は、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲での収益を確保するため、必要かつ相当と認められる範囲に限るものとすること
✓ 退所する際に実際に金銭的給付の要求を行う場合は、実演家に対して、要求する金額の算定根拠を示すとともに、その必要性・相当性を十分に説明し、実演家と協議すること
✓ 金銭的給付の要求を行う場合は、実演家の移籍又は独立後の収入を考慮しサンセット条項 とすることや、移籍先の事務所との間で合理的な範囲で金銭的給付について協議することも検討すること
実態調査において、実演家が退所する際に、芸能事務所から当該実演家に対して、金銭的給付の要求を行う場合がみられた。
芸能事務所に対するアンケート調査においては、金銭的給付の要求を行ったとする回答はほぼなかったが、実演家に対するヒアリング調査においては、芸能事務所に退所を申し出た際に合理的な理由のない高額な金額の要求を行われたとするなど、退所時の金銭的給付の要求が、移籍・独立を妨害する目的で利用される場合もあることがうかがわれた。
芸能事務所が退所する実演家に対して金銭的給付を要求することは、当該実演家に要した育成等費用の未回収分を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲での収益を確保するため必要な範囲で要求するのであれば、芸能事務所が育成・投資を確保することを可能とすることで実演家に対する育成等のインセンティブにつながり、実演家の能力を向上させるなどの効果を有し得るものである。他方で、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲で利益を確保するという目的に比して不相当に高額な金銭的給付を要求することは、実演家の移籍・独立を躊躇(ちゅうちょ)させるなど、実演家の自由かつ自主的な判断による取引を阻害する効果等も有する。
そのため、金銭的給付の要求は、この目的の達成のために合理的な必要性かつ手段の相当性が認められる範囲に限って行われるべきである。
また、芸能事務所が実演家に対して、実演家が退所する際に金銭的給付を要求することをあらかじめ十分に明らかにしないまま、実演家が退所を希望した際に芸能事務所により金銭的給付の要求を行う場合、実演家の自由かつ自主的な移籍・独立を阻害する効果が生じ得る。そのため、芸能事務所は、実演家が退所する際に金銭的給付の要求を行うことがある場合には、あらかじめ契約上規定しておくことが望ましい。特に、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するため金銭的給付を要求する場合に、要求する金銭の額が高額となり得るときは、実演家との契約締結時及び契約更新時等において、その考え方(どのような場合に金銭的給付が求められるか等)や算定方法等について、あらかじめ契約上規定した上で、実演家に対して、その必要性も含め、十分に説明・協議しておくべきである。
実際に退所する実演家に対して金銭的給付の要求を行う場合は、実演家において金額の適正性を確認することができるよう、芸能事務所は、当該金額の算定根拠を実演家に示すとともに、その必要性・相当性を十分に説明し、実演家と協議すべきである。
なお、上記の目的達成のための合理的な範囲での要求であっても、一括での高額の支払となると実演家個人にとって負担が大きいことも想定される。そのため芸能事務所は、退所後の収入に対して漸減していく比率を乗じた金額(ただし、上記で算定した金額を超えないこと)を所属していた芸能事務所に支払う、いわゆるサンセット条項とすることや、実演家の代わりに当該実演家の移籍先の芸能事務所との間で合理的な範囲での金銭的給付について協議することも検討すべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 実演家の退所に際して、金銭的給付の要求は行っていない
(イ) 実演家に育成等費用の未回収分や確保する収益の算定根拠を提示した上で協議・請求した。
(ウ) 実演家に育成等費用の未回収分や確保する収益の算定根拠を説明した上で、当該額に相当するサンセット条項を提示し、協議した。
(エ) 未回収分の育成等費用や確保する収益の額が高額となったため、当該実演家の移籍先芸能事務所に対して、算定根拠を示して協議した。
問題となり得る行動例
(ア) 実演家との契約上では金銭的給付の要求を行うことを定めていなかったが、当該実演家が独立することとなったので、独立を妨害するために高額の金銭的給付の要求を行った。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(イ) 合理的な範囲での育成等費用の回収や収益の確保が既に十分に行われたと考えられる実演家に対し金銭的給付の要求を行った。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(2) 移籍・独立を希望する実演家に対する妨害
芸能事務所が採るべき行動
✓ 実演家が契約を満了するに当たって移籍・独立の申出を行った際は、円滑に移籍・独立できるよう、移籍後の活動に際して必要となる連絡先、留意事項等を移籍先の事務所に伝達するなど、適切に対応すること
✓ 実演家の移籍・独立を妨害するような言動をしないこと
実態調査において、実演家から、芸能事務所から以下の行為を受けたとする回答がみられた。
ⅰ 芸能事務所が実演家の入所時にした説明と異なり、契約期間満了時に退所させないこと
ⅱ 芸能事務所を移籍・独立するとその後の芸能活動を一切行えなくなる旨脅すこと
ⅲ 契約上、契約期間中に他の事務所と移籍の交渉を行うことを禁じること
ⅳ 実演家の悪評を移籍予定先の事務所やマスコミ等に流布すること
ⅴ 実演家を担当していたマネージャーが実演家とともに退所の意思を有しているにもかかわらず、当該マネージャーの競合する芸能事務所等への転職を禁止すること又は実演家の退所後に当該マネージャーが退所したとしても当該実演家に関与しないこと等を実演家の移籍・独立の条件とすることによって、実演家が当該マネージャーと共に移籍・独立することを妨げること
これらの行為は、いずれも、芸能事務所に退所を申し出た実演家の移籍・独立を妨害することを目的として行われる行為であると考えられ、これら以外の実演家の移籍・独立を妨害する行為も許容されるものではないことはもちろんであるが、芸能事務所は、実演家が契約を満了するに当たって移籍・独立の申出を行った際は、円滑に移籍・独立できるように適切に対応すべきである。
また、実演家に比して芸能事務所の立場が強い場合、移籍・独立しようとする実演家や移籍先の芸能事務所の活動を妨害し得ると考えられる。そのため、芸能事務所は、そのような移籍・独立を妨害するような言動をすべきではない。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 実演家から移籍・独立の申出があった際は、移籍先の芸能事務所に必要となる連絡先、留意事項等を伝達するなど、円滑に移籍・独立できるように対応している。
(イ) 実演家から退所の申出があった場合は、より良い条件を提示するなどして残ってもらうための交渉はするが、実演家の今後の活動に影響を与えるような言動は行わない。
問題となり得る行動例
(ア) 上記ⅰ~ⅴないしこれに類似する行為(優越的地位の濫用、取引妨害(一般指定第14項))
(イ) 実演家から退所の申出があったが、実演家には退所を許諾しつつも、手続がまだ行えないなどと退所を引き延ばした。(優越的地位の濫用、取引妨害)
(ウ) 実演家から退所の申出があった際、退所するなら悪評を外部に流すなどと実演家に伝えた。(優越的地位の濫用、取引妨害)
(3) 移籍・独立した実演家に対する妨害
芸能事務所が採るべき行動
✓ 移籍・独立した実演家が、移籍・独立後に円滑に活動できるよう、活動を妨害するような言動をしないこと
✓ 移籍・独立した実演家について、例えば、放送事業者等に対して円満退所でなかったことやトラブルがあったことを伝えて、起用しないことを放送事業者等に忖度させたり、トラブルの可能性があると思わせたりすることにより、起用を見送らせるというようなことにならないよう言動に留意すること
放送事業者等が採るべき行動
✓ 移籍・独立した実演家について、当該実演家が以前所属していた事務所所属の実演家が出演する場合には出演させない、芸名を改名している等の理由や円満退社でないという評判があるという理由で起用を見送る等、当該実演家が以前所属していた芸能事務所に忖度して当該実演家の起用を控えるようなことはせず、自主的な判断により実演家の起用等を行うこと
実態調査において、実演家から、芸能事務所から移籍・独立した実演家に対して、以下の行為が行われたとする回答がみられた。
ⅰ 放送事業者等に対し、円満退所でなかった、あるいは退所の際にトラブルがあった等、退所した実演家に関する悪評を伝えるなどにより、退所した実演家を出演させないよう働き掛けること
ⅱ 他の芸能事務所、興行先又は関連事業者等に対し、退所した実演家と共に業務を行わないよう働き掛けること
ⅲ 退所した実演家の情報を芸能事務所のウェブサイトに掲載したままとするなどの方法により、放送事業者等に当該実演家がいまだに自所に在籍している旨誤認させ、実演家に対する役務提供の依頼を自所に誘引し、当該実演家の出演を拒否等することによって、退所した実演家の取引機会を奪うこと
これらの行為は、いずれも、退所した実演家が本来行うことができた業務を行えなくさせる行為であり、許容されるものではない。
また、放送事業者等に対するヒアリング調査では、移籍した実演家と元の芸能事務所との間でトラブルがあると聞けば起用しづらい等の回答があり、芸能事務所からの働き掛けがない場合でも、放送事業者等が退所した実演家を以前所属していた芸能事務所とトラブルのある実演家とみなすこと等により、当該実演家が放送番組等へ起用されなくなる場合があることがうかがわれた。
そのため、移籍・独立した実演家が、移籍・独立後に円滑に活動できるよう、芸能事務所は、上記ⅰ~ⅲのように移籍・独立した実演家の活動を妨害するような言動をすべきではなく、また、例えば、放送事業者等に対して円満退所でなかったことやトラブルがあったことを伝えて、起用しないことを放送事業者等に忖度させたり、トラブルの可能性があると思わせたりすることにより、起用を見送らせるというようなことにならないよう言動に留意すべきである。
また、放送事業者等においても、移籍・独立した実演家について当該実演家が以前所属していた芸能事務所所属の実演家が出演する場合には出演させない、芸名を改名している等の理由で円満退社でないという評判があるので起用を見送るというように当該実演家が以前所属していた芸能事務所に忖度せず、自主的な判断により実演家の起用等を行うべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 実演家が移籍・独立する際には、移籍先の芸能事務所に対して適切に引継ぎを行う、取引先である放送事業者等に対して連絡等を行うなど、移籍・独立後に実演家が円滑に活動できるようにしている。
問題となり得る行動例
(ア) 上記ⅰ~ⅲないしこれに類似する行為(取引妨害)
(イ) 実演家の退所後、放送事業者等や関連事業者に対して、円満退所でなかったことやトラブルがあったことを伝えた。(取引妨害)
(3) 移籍・独立した実演家に対する妨害
芸能事務所が採るべき行動
✓ 複数の芸能事務所が共同して、又は事業者団体において実演家の移籍を制限したり、移籍を希望する実演家との契約を拒絶したりせず、各芸能事務所の自主的な判断により実演家と契約すること
✓ 移籍してくる実演家に一定期間フリーとして活動を行うことを求めず、実演家の自由な選択に委ねること
複数の芸能事務所が共同して、又は事業者団体において実演家の移籍を制限することは、実演家が所属する芸能事務所を自由に選択することを妨げ、芸能事務所間の競争を回避・停止するものであることから、強い競争制限効果を有する。
実態調査においては、芸能事務所間の移籍が禁止されていることに業界の共通認識が形成されているとの認識を述べる芸能事務所もみられたほか、専属契約期間満了後に移籍する場合も含めて、移籍を受け入れると厳しい立場に立たされてしまう、引き抜いたと見られないように実演家に一定期間フリー期間を挟ませるとする芸能事務所もみられ、実演家が移籍すること全般について、実態調査においてヒアリング等を行った芸能事務所においては広く忌避感がある状況がうかがわれた。
実態調査では、複数の芸能事務所が共同して、又は事業者団体において明示的に実演家の移籍を制限しているとの実態を把握するには至らなかったものの、芸能事務所が共同して、又は事業者団体において移籍を制限する等してはならないことはもちろんのことであり、各芸能事務所は、自主的な判断により実演家と契約を行うべきである。
また、芸能事務所に対するヒアリング調査では、実演家が移籍してくる場合は、契約終了後であっても他の芸能事務所等に引き抜きと認識されないようにするために、一定期間、芸能事務所には所属しないで活動する、いわゆるフリーの期間を設けさせるとの回答が複数あった。実演家の自由な移籍を妨げないという観点からは、移籍先の芸能事務所等は、実演家に対して一定期間フリーとして活動を行うことを求めず、移籍のタイミングは、実演家の自由な選択に委ねるべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 他の芸能事務所からの移籍を希望している実演家への勧誘の判断は、芸能事務所の自主的な判断で行っている。
(イ) 他の芸能事務所を退所してフリーになっている実演家との契約について、入所を希望しているのであれば、自主的な判断で行っている。
問題となり得る行動例
(ア) 事業者団体の会合等において、直近に行われた実演家の移籍の話を引き合いに出し、批判することなどにより、会合等の参加者内に、今後互いに引き抜きは行わないという認識を共有した。(不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項))
(イ) 複数の芸能事務所間で、最近退所した実演家について、恩知らずであると批判するなどして、当該実演家の移籍を受け入れないという認識を共有した。(共同の取引拒絶(一般指定第1項))
4 実演家の権利に対する行為
(1) 成果物に係る各種権利等の利用許諾
芸能事務所が採るべき行動
✓ 放送事業者等の取引先等から利用の申出があった場合には、各種権利等の利用を許諾しないことに合理的な理由がなければ、各種権利等の利用を許諾すること
✓ 各種権利等の利用を許諾しない場合にはその理由について許諾を求めた者に十分説明すること
著作権法上、実演家固有の権利が法定されており、これらの権利は実演家に帰属するとされているが、実演家が保有・取得する知的財産権(著作権、著作隣接権等)及びパブリシティ権などの各種権利等の帰属は、芸能事務所との契約において定められている場合がある。実態調査では、アンケート調査において、回答の約6割がこの各種権利等を芸能事務所に譲渡・帰属させているとのことであり、さらに、実演家の退所後において当該実演家が所属していた間に発生した成果物に係る各種権利等の取扱いについては、芸能事務所が全て保有し続ける場合があることが確認された。そのような場合は、権利の利用許諾を求める者(放送事業者等の取引先、退所した実演家又は移籍先の芸能事務所等)は、成果物に係る各種権利等を利用するために、当該成果物が作成された時点に実演家が所属していた芸能事務所の許諾を得る必要がある。
実演家の実演により生じる各種権利等を当該実演の時点で所属している芸能事務所に帰属させることは、一般的には、芸能事務所が各種権利等から収益を上げることを可能にするとともに、当該実演家の露出をコントロールすることで、実演家を育成等することを促し、実演家の能力を向上させることへのインセンティブとなり得ることなどからすれば、一定の合理性もあると考えられるが、実態調査においては、実演家から、退所後に利用を申し出たが正当な理由なく許諾されないケースがみられるなどの回答もみられた。
実演家が、移籍・独立した後も自由に活動ができ、過去の各種権利等も活用されるようにするという観点からは、芸能事務所は、各種権利等の利用を許諾しないことに合理的な理由がなければ、各種権利等の利用を許諾すべきである。
また、芸能事務所は、合理的な理由により各種権利等の利用を許諾しない場合には、その理由について許諾を求めた者に対して十分に説明すべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 退所後の実演家に関する権利の利用の許諾申請があった場合は、名誉毀損的に使用されるおそれがある等合理的な理由がある場合を除き、全て許諾している。
(イ) 退所した実演家の成果物に係る許諾申請に対しては、基本的に許諾している。例外として、第三者からの利用の申出に対し、過去の映像の利用が実演家のイメージを損なうおそれがあるなどの場合は、これを実演家等に対して説明した上で、許諾をしていない。
(ウ) 退所した実演家が所属していた時に作成された成果物の許諾の可否については、その都度、退所した実演家等に確認している。
問題となり得る行動例
(ア) 退所した実演家に係る成果物の使用について、特段の合理的な理由なく、許諾しなかった。(単独の取引拒絶(一般指定第2項))
(2) 芸名・グループ名の使用制限
芸能事務所が採るべき行動
✓ 芸名又はグループ名(以下「芸名等」という。)に関する権利を芸能事務所に帰属させる場合には、あらかじめ契約上に明確に規定した上で、実演家に対して十分に説明し、実演家と協議すること
✓ 合理的な理由が無い限り芸名等の使用の制限を行わず、制限する場合においてもその制限の方法は合理的な範囲の使用料の支払等の代替的な手段も含めて合理的なものとし、その理由について実演家に十分に説明し、実演家と協議すること
実態調査において、実演家の芸名等に関する権利は、当該実演家の退所後も所属していた芸能事務所に帰属する場合があり、芸能事務所が、退所する実演家に対して、それまで使用していた芸名等の使用を制限することがあることが確認された。
契約期間中、芸名等に関する権利を芸能事務所に帰属させることは、芸能事務所が、芸名等の管理を行うことを容易にし、芸名等に係る顧客吸引力などの価値の向上に投資することを促すなど競争促進効果を有し得るものである。他方で、芸能事務所が退所する実演家に対して芸名等の使用を制限する行為は、退所後に顧客吸引力を有する芸名等が使用できず、その実演家の認知度が低下することにもつながり、その後の実演家の活動に大きな支障が生じ、収益が減少するなどの深刻な不利益が生じ得るものである。
実態調査においては、実演家から、契約書において明記されていないのに退所後の芸名等の使用が制限されたとの回答がみられたが、芸名等に関する権利の帰属が不明確なまま退所後に芸名等の使用が制限されるとすれば実演家に移籍・独立を躊躇(ちゅうちょ)させることとなり得るため、芸名等に関する権利を芸能事務所に帰属させる場合には、あらかじめ契約上に明確に規定した上で、実演家に対して十分に説明し、実演家と協議すべきである。
また、実演家が、移籍・独立した後も同一の芸名等を使用して自由に活動ができるようにするという観点からは、芸能事務所は、合理的な理由 が無い限り、退所後の芸名等の使用の制限を行わず、制限する場合においてもその制限の方法は合理的な範囲の使用料の支払等の代替的な手段も含め、合理的なものとし、その理由を示して、実演家に十分に説明し、実演家と協議すべきである。
なお、実態調査において、実演家が本名を用いて活動を行う場合(本名を「芸名」とする場合)や入所する前から使用していた芸名等を使用する場合には、一般的には、芸能事務所にその「芸名」に関する権利が帰属するとはされていないとみられたが、仮に、実演家が芸能事務所に入所する前から使用していた芸名等について、芸能事務所が芸名等の価値の向上に特段の投資をしないにもかかわらず、芸能事務所に帰属するとする(退所後の使用を認めない)場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となると考えられる。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 芸能事務所に所属していた際に使用していた芸名等について、実演家が退所後も制約なく自由に使うことができる。
(イ) 実演家の希望を踏まえて芸名を商標登録し、その費用を芸能事務所が負担した場合において、登録期間の途中に当該実演家が退所する際に、残りの期間分の費用の一部について実演家に支払を求めた上で、双方合意の上で商標の登録者を実演家に変更し、芸名を継続利用させた。
問題となり得る行動例
(ア) 契約書には芸名等の扱いについて何ら記載がなかったにもかかわらず、芸名等が芸能事務所に帰属するとして、実演家の退所時に芸名等の使用を制限した。(単独の取引拒絶、取引妨害)
(イ) 契約上実演家個人の芸名が芸能事務所に帰属するとされているが、相当の長期間在籍し、芸名等の価値の向上のために芸能事務所が合理的な範囲での育成等費用の回収や収益確保ができていないというような事情がないとみられるにもかかわらず、当該実演家の退所時に、何らの協議もなく一方的に芸名等の使用を制限した。(単独の取引拒絶、取引妨害)
(ウ) 契約書には退所後における芸名等の権利の扱いを記載しておらず、十分な説明もしなかったが、実演家の退所後に芸名等を変更するよう求めた。(欺瞞(ぎまん)的顧客誘引)
5 実演家の待遇に関する行為
(1) 報酬に関する一方的決定
芸能事務所が採るべき行動
✓ 契約締結時、契約更新時、又は相当期間ごとに、実演家と十分な協議を行った上で、報酬(二次使用料、SNSやファンクラブ運営、グッズ販売による収益等の配分を含む。)の額・歩合の率、実演家が負担することとなる経費(報酬から控除する経費)等の条件について、できる限り契約上明記すること
✓ 契約上規定していなかった経費を実演家に請求する又は実演家の報酬額から控除する場合においては、当該経費について十分説明し、実演家と協議の上、合意された場合にのみ行うこと
実態調査においては、実演家から、芸能事務所が、実演家の報酬に関して、実演家からの交渉に応じてくれない、事前に説明されていないにもかかわらず経費等が差し引かれる、二次使用料、SNSやファンクラブ運営、グッズ販売による収益等の扱いについて実演家と協議せず、配分しないなどの回答がみられた。
実演家に適切に収益が還元されるようにするためには、報酬の条件等をできる限り明確化し、芸能事務所と実演家の間で十分な協議が行われる必要がある。
具体的には、芸能事務所は、契約締結時、契約更新時又は一年ごとなどの相当期間ごとに、実演家と十分な協議を行った上で、報酬の額・歩合の率、実演家が負担することとなる経費(報酬から控除する経費)等の条件について、できる限り契約上明記すべきである。
また、芸能事務所は、契約上規定していなかった経費を実演家に請求する又は実演家の報酬額から控除する場合においては、当該経費について十分説明し、実演家と協議の上、合意された場合のみ行うべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 報酬の分配比率や支払方法は、契約期間にかかわらず、基本的に毎年、実演家と協議する。
(イ) 各種権利等の二次利用により発生する二次使用料についても、実演に対する報酬と同じ分配比率で実演家に支払う。
(ウ) レコード会社等から支払われる契約金は、実演家を拘束する対価であるため、広告費、レッスン料、スタイリング料等の費用を差し引いた上で、実演家に分配する。
(エ) 契約上規定されていなかった経費が掛かった場合には、芸能事務所は、当該経費について実演家と十分な協議を行い、双方で合意した額について、実演家に請求する又は実演家の報酬額から控除する。
問題となり得る行動例
(ア) 契約更新において、実演家と交渉することなく一方的に報酬額を決定する。(優越的地位の濫用)
(イ) 報酬を固定制にした上で、長期間報酬額を据え置き、歩合制への移行も認めない。(優越的地位の濫用)
(ウ) 実演家が出演した放送番組の二次使用料の取扱いについて、契約に規定せず、実演家には、二次使用料のうちの対価相当額を分配しない。(優越的地位の濫用)
(エ) デビューまでに生じたレッスン費用や交通費等の経費について、十分な協議をせずに実演家に負担させる。(優越的地位の濫用)
(2) 業務の強制
芸能事務所が採るべき行動
✓ 取引先から依頼を受けた業務の具体的内容について事前に実演家に提示し、その意向を確認すること
✓ 実演家が希望しない可能性がある内容の業務の依頼を取引先から受け、実演家の将来を見据えた育成やプロモーションなどの観点からその業務を引き受けようとする場合には、その必要性などを実演家に十分に説明し、実演家と協議した上で、実演家本人が納得した場合に限り引き受けること
✓ 実演家が特定の業務を拒否した場合に、当該実演家について合理的な理由なくその他の業務も含めて一律に営業活動を行わないというような報復等を行ってはならず、実演家の自由な選択を尊重すること
実態調査においては、実演家から、「業務の内容や報酬は、判明した時点で伝えられている」、「NG業務を指定することができる」という回答がある一方で、望んでいない業務を強制されることもあるなどの回答があった。
本来、実演家と芸能事務所は、それぞれ独立した事業者であり、雇用関係にはないことから、芸能事務所が実演家に指揮命令をするものではなく、一般的には、芸能事務所が実演家に対して、提案・説得をすることはあっても、強制することはできず、実演家の意に反するものであれば、実演家は芸能事務所の提案した業務を断ることもできる 。
特に育成段階の実演家については、当該実演家が自らの能力・特質を必ずしも自覚しているとは限らない場合があり、将来を見据えた育成やプロモーションなどの観点で、芸能事務所が、実演家が希望していない業務を受けるように促す場合もあるとみられ、希望していない業務を通じて業務の幅が広がるなど実演家にとって利益がある場合も考えられる。そのため、芸能事務所の育成やプロモーションの戦略などに基づき実演家に業務を行わせるべく、芸能事務所が実演家に対して相当の提案・説得を行うことは問題となるものではない。ただし、前記のとおり、本来、実演家は独立した事業者として業務を選択することができるのであることから、強制まではしてはならない。
それにもかかわらず、芸能事務所が実演家に対して業務を強制すれば、実演家の自由な業務の選択が阻害され、その結果、実演家の意に反した一定の方向付けがなされてしまい、本来望む方向の実演依頼が来なくなるなどにより実演家本人に不利益が生じるおそれもある。特に若年層の場合、芸能事務所との力関係から業務の強制が起きやすいと考えられ、特に留意が必要である。そのため、実演家が自由に活動できるようにするという観点からは、取引先から依頼を受けた業務の内容を事前に実演家に提示し、その意向を確認すべきである。
以上のことから、芸能事務所は、実演家が希望しない可能性がある業務の依頼を取引先から受けようとする場合には、その業務を引き受ける必要性などを実演家に十分に説明し、実演家と協議した上で、実演家本人が納得した場合に限り引き受けるべきである。
実態調査においては、実演家から、特定の業務をやらないと他は受けさせないなどとマネージャーから言われ、やりたくない業務をさせられる場合もあるとの回答がみられた。芸能事務所は実演家が特定の業務を拒否した場合に、当該実演家について合理的な理由なくその他の業務も含めて一律に営業活動を行わないなどというような報復等を行ってはならず、実演家の自由な選択を尊重すべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 実演家がNGの業務内容を指定することができる。
(イ) 業務の内容や報酬は、判明した時点で実演家に伝え、意向を確認している。
(ウ) 芸能事務所が営業活動等を行ったことで取引先から依頼を受けた業務であっても、実演家が拒否した場合にはその選択を尊重する。
問題となり得る行動例
(ア) 実演家が望んでいない業務を強制し、実演家が本来望む方向の業務依頼が来なくなるようにさせた。(優越的地位の濫用)
6 契約の透明性を妨げる行為
(1) 契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと
芸能事務所が採るべき行動
✓ 契約内容(業務の内容、報酬額の算出方法等)を明確化した上で、契約を書面で行うこと(※)
※文化庁の「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」での検討結果として公表された「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」は、専属マネジメント契約に言及していないが、芸能事務所は、契約の書面化の推進や取引の適正化の促進など同ガイドラインの参考にできるところは考慮すべきである。
✓ 実演家(特に若年の実演家)との契約締結時に、実演家が取得する各種権利や芸名の帰属に係る条項、報酬に係る条項、実演家の活動(退所後を含む。)を制約し得る条項などの重要な契約内容については、積極的に、その目的を含め十分に説明すること
✓ 契約更新時に、重要な契約内容について、実演家の意向を十分に確認すること
✓ 実演家が、弁護士等に相談しつつ契約内容を十分に検討できるよう、契約の案の提示から合意・締結まで一定の期間を設けること(その場での契約の締結を強要しないこと)
✓ 実演家(特に若年の実演家)が、契約内容等について弁護士等の第三者に相談できるよう配慮すること
✓ 実演家からの契約内容に係る質問や協議の申出に対して、いつでも真摯に対応すること
実演家が採るべき行動
✓ 契約内容の不明点を芸能事務所や弁護士等に確認、質問するなどして、契約内容を十分に理解した上で契約の締結又は更新をすること
実態調査においては、実演家から、芸能事務所が所属を希望する実演家と契約を行う際に、書面を取り交わさず口頭で行う、芸能事務所が契約内容を十分に説明しないとの回答がみられた。
一般的には、実演家は、芸能事務所と比べて、経験や知識、情報が少なく、交渉力も弱い場合が少なくないと考えられ、例えば、将来的(退所時等)に効力を生じ得る重要な条項に意識が向かない、年長者である芸能事務所経営者等に対して質問すること自体が難しいといったことにより、契約内容を十分に理解しないまま契約を締結してしまうというような状況に陥りやすくなると考えられる。特に、若年の実演家は、このような状況に陥りやすいと考えられる。
そのため、契約締結時において、芸能事務所は、契約内容を明確化した上で契約を書面により行うべきである。また、専属マネジメント契約は、期間延長請求権、実演家の各種権利や芸名に関する権利の帰属に係る条項など、必ずしも一般的な商慣習とはいえない芸能分野特有の条項が設定される場合があることから、このような条項も含め重要な契約内容について、特に芸能事務所の側から積極的に、実演家(特に若年の実演家)に対して、その目的を含め十分に、かつ分かりやすく説明すべきである。
また、契約更新時においても、重要な契約内容について、実演家の意向を十分に確認すべきである。
さらに、芸能事務所は、実演家が弁護士等に相談しつつ契約内容を十分に検討できるよう、契約の案の提示から合意・締結まで一定の期間を設けるべきであり、その場での契約の締結を強要すべきでない。
加えて、契約締結の前後を問わず、芸能事務所は、実演家等からの契約内容に係る質問や協議の申出に対しては、いつでも真摯に対応すべきである。
一方、実態調査において、実演家が契約書をよく読んでいないなど契約内容を十分に認識していない場合もあることがうかがわれた。
そのため、実演家においても、契約内容をよく確認し、不明点を芸能事務所や弁護士等に確認、質問するなどして、契約内容を十分に理解した上で契約の締結又は更新をすべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 実演家と初めて契約を締結する際(実演家が入所をする際)は、契約書の読み合わせをした上で、特に報酬及び損害賠償については、重点的に説明している。
(イ) 未成年者である実演家との契約は、必ず親権者(法定代理人)に同席してもらっている。その場で署名させることはせず、初回は契約内容の説明にとどめ、契約書案を持ち帰って確認してもらう。十分に理解・納得してもらった上で署名したものを提出してもらうこととしている。
(ウ) 実演家と初めて契約を締結する際に、契約書への署名に当たって実演家から弁護士等第三者に相談することが可能となるよう、締結までに一定の期間を空けている。
(エ) 実演家と契約締結後も、実演家から契約内容についての質問があれば相談に応じている。
(オ) 実演家との契約は、契約更新時であっても書面を取り交わしている。契約更新時には、実演家に対して、報酬等の契約条件も含めて説明・協議も行っている
問題となり得る又は問題を誘発する原因となり得る行動例
(ア) 実演家との間で契約書は存在しない。(優越的地位の濫用を誘発する行為、欺瞞(ぎまん)的顧客誘引)
(イ) 作品の二次使用料の分配比率等については契約書に記載しておらず、実演家に説明もしていない。(優越的地位の濫用を誘発する行為、欺瞞(ぎまん)的顧客誘引)
(ウ) 書面で契約を締結しているが、書面の文言を詳しく説明することはない。(優越的地位の濫用を誘発する行為、欺瞞(ぎまん)的顧客誘引)
(エ) 契約更新時に、契約内容の説明や協議を一切せず契約を自動更新し続けた。(優越的地位の濫用を誘発する行為)
(オ) 実演家と初めて契約を締結する際に、実演家に契約内容を説明し、十分に理解してもらうことは困難であり、その場で確認させて契約書に署名させるだけで、契約書の副本も交付しない。(優越的地位の濫用を誘発する行為)
(2) 実演家に対する実演等に係る取引内容の明示
芸能事務所が採るべき行動
✓ 放送事業者等の取引先からの依頼を受けようとして、実演家へ業務を依頼する際には、実演家が自身の判断により業務を選択できるよう、芸能事務所がその時点で知り得る実演等に係る取引内容の詳細を明らかにすること
✓ (実演家が当該業務を引き受けることに反対の意思表示をした場合については、「5(2)業務の強制」を参照。)
実態調査において、実演家から、実演等に係る取引内容(業務の内容や報酬等の条件等)を事前に知らされなかったことにより、実演家自身が想定していなかった業務、報酬の低い業務などを行わざるを得なかったとの回答がみられた。
一般的には、芸能事務所から取引内容を事前に伝えられないことにより、本来、個人事業主として業務を選択することができる立場にある実演家は、自由に業務を選択できない状況に陥りやすくなると考えられる。
そのため、実演家が自身の判断により業務を選択できるようにするという観点から、芸能事務所は、放送事業者等の取引先からの依頼を受けようとして、実演家へ業務を依頼する際には、芸能事務所がその時点で知り得る実演等に係る取引内容の詳細を明らかにすべきである。
(実演家が当該業務を引き受けることに反対の意思表示をした場合については、「5(2)業務の強制」を参照。)
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 放送事業者から業務の依頼を受けようとする場合には、実演家に対して、早めに、実演家が業務を選べるよう放送番組の内容等を伝えている。
問題を誘発する原因となり得る行動例
(ア) 放送番組等の内容を把握しているが、実演家から質問があっても面倒なので直前まで伝えない。(優越的地位の濫用を誘発する行為)
(イ) 若手実演家には、いろいろな経験を積んでほしいので、あえて直前まで業務の内容を知らせず、仕事を断らせないようにしている。(優越的地位の濫用を誘発する行為)
(3) 実演家報酬に係る明細等の明示
芸能事務所が採るべき行動
✓ 実演家に歩合制により報酬を支払う場合には、
① 実演家の業務ごと(芸能事務所と取引先との契約ごと)の契約金額の総額
② ①のうち芸能事務所及び実演家それぞれへの分配額又は比率
③ ②の実演家への報酬額から差し引く費用等がある場合は、その項目及び金額
について、明示すること
実態調査においては、実演家から、芸能事務所が実演家に対して報酬を支払う際に、明細等を十分に示さないとの回答がみられた。芸能事務所が実演家に対し、当該実演家が受け取る報酬額のみを示すなど、放送事業者等との契約金額の総額、芸能事務所への分配金額、報酬額から差し引く費用等を明らかにしない場合は、当該実演家がその報酬の妥当性を確認することが困難となり得る。
そのため、実演家が報酬の妥当性を確認することができるようにするという観点からは、芸能事務所は、実演家に歩合制で報酬を支払う場合には、以下の項目について明示すべきである。
① 実演家の業務ごと(芸能事務所と取引先との契約ごと)の契約金額の総額
② ①のうち芸能事務所及び実演家それぞれへの分配額又は比率
③ ②の実演家への報酬額から差し引く費用等がある場合は、その項目及び金額
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 放送事業者から業務の依頼を受けようとする場合には、実演家に対して、早めに、実演家が業務を選べるよう放送番組の内容等を伝えている。
問題を誘発する原因となり得る行動例
(ア) 毎月の支払総額だけを実演家に伝えている。個別の業務ごとの項目や金額といった内訳は示していない。(優越的地位の濫用を誘発する行為)
(イ) 実演家への報酬額から費用を差し引いた金額のみを実演家に伝えており、費用の項目や金額を示していない。(優越的地位の濫用を誘発する行為)
第3 放送事業者等が採るべき行動
1 業務依頼時の十分な交渉、契約条件の書面等での明示
放送事業者等が採るべき行動
✓ 芸能事務所・実演家に対して、業務依頼時に、可能な限り具体的な契約条件(報酬の金額や支払条件、業務内容、拘束期間など)を書面(※)等(メールや電子ファイル等を含む。)で示すこと
※契約の書面化については、文化庁が、文化芸術の担い手である芸術家等における契約慣行の改善の方向性等を示すことを目的に、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」での検討結果として、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」(令和4年7月27日公表、令和6年10月29日改訂)を公表しており、このガイドラインにおいて、「実演家の出演に関する契約書のひな型例及び解説」が示されている。放送事業者等は、このようなひな型も参考にして、契約の書面化を進めるべきである。
✓ 芸能事務所・実演家に対して、契約条件(報酬の金額や支払条件、業務内容、拘束期間など)等を一方的に提示・変更するのではなく、交渉の機会を設ける等により、芸能事務所・実演家からの意見を確認し、十分に説明し、協議すること
実態調査において、放送事業者等と芸能事務所・実演家との契約が書面で行われていないことが多く、また、書面の有無にかかわらず、個々の実演の条件面が事前に放送事業者等と芸能事務所・実演家との間で決定(又は調整)されずに業務が一方的に発注されていることが多いことがうかがわれた。
放送事業者等が、事前に契約書を取り交わさない又は芸能事務所・実演家に契約内容を十分に説明しないことは、契約内容が明確でない状態で芸能事務所・実演家が役務を提供することとなり、芸能事務所・実演家の自由かつ自主的な判断による取引を阻害し得る。
そのため、芸能事務所・実演家が自身の判断により業務を選択できるようにするという観点からは、放送事業者等は、芸能事務所・実演家に対して、業務依頼時に、可能な限り具体的な契約条件(報酬の金額や支払条件、業務内容、拘束期間など)を書面等(メールや電子ファイル等を含む。)で示すべきである。
このように契約の書面化が進んでいないことについては、文化庁が、文化芸術の担い手である芸術家等における契約慣行の改善の方向性等を示すことを目的に、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」での検討結果として、「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」(令和4年7月27日公表、令和6年10月29日改訂)を公表しており、このガイドラインにおいて、「実演家の出演に関する契約書のひな型例及び解説」が示されている。放送事業者等は、このようなひな型も参考にして、契約の書面化を進めるべきである。
また、実態調査において、芸能事務所・実演家からは、放送事業者等に対して契約条件に意見を言うと業務が無くなるため、交渉ができない(交渉を求めても応じてくれない)などの回答があった。
そのため、放送事業者等と芸能事務所・実演家が交渉することで取引の適正化を実現するという観点からは、放送事業者等は、芸能事務所・実演家に対して、契約条件等を一方的に提示するのではなく、交渉の機会を設ける等により、芸能事務所・実演家からの意見を確認し、十分に説明し、協議すべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 個別の番組ごとに芸能事務所と契約書を取り交わす。特にドラマの場合は、脇役を含む実演家(エキストラは除く。)について、撮影開始前に契約書を取り交わす。
(イ) 出演料は、番組の時間帯、番組の長さ、実演の形態、実演家の実績(過去出演した時の出演料)などを基に、芸能事務所と交渉して決める。
(ウ) 継続的に放送番組に出演がある実演家については、芸能事務所・実演家からの要望が無くとも定期的に交渉の機会を設けており、芸能事務所・実演家からの意見を確認し、十分な説明及び協議を経た上で報酬の金額等を決定する。
問題となり得る又は問題を誘発する原因となり得る行動例
(ア) 主演級の実演家の場合は芸能事務所と契約書を取り交わすが、主演級以外の実演家や、主演級の実演家であっても連続する番組以外への出演の場合は契約書を取り交わさず、具体的な契約条件を書面等で明示することもしていない。(優越的地位の濫用を誘発する行為)
(イ) 契約書を取り交わす場合のタイミングは、撮影の後に行われることが多い。番組が放送された後に契約書を取り交わすこともある。(優越的地位の濫用を誘発する行為)
(ウ) 過去に出演した番組の報酬の金額から一律に決めた金額(社内で実演家のランクに基づき価格を設定)について、芸能事務所・実演家からの個別の交渉に応じない。(優越的地位の濫用)
第4 レコード会社が採るべき行動
1 実演収録禁止条項の規定
レコード会社が採るべき行動
✓ 契約終了後に一定期間の実演の収録を禁止する実演収録禁止条項を定める目的を確認し、契約上実演収録禁止条項を規定することだけでなく規定しないことを含め、当該規定の必要性・相当性を検証し、規定する場合には、必要性・相当性を含め実演家等に十分説明し、協議すること
✓ 実演収録禁止条項を定める目的から必要性等があると認められる場合であっても、禁止する対象や期間を、当該目的のために必要かつ相当な範囲に限定すること
実態調査において、レコード会社と芸能事務所・実演家との専属実演家契約において、契約終了後の一定期間、実演家による当該レコード会社以外における収録のための実演(原盤制作、配信等を目的とする実演)を行うことを禁止するものとして実演収録禁止条項が規定される場合がみられた。
実演収録禁止条項を規定する目的として、レコード会社からは、専属期間中に人的及び金銭的な投資をしていることへの「フリーライドの防止」及び「専属期間中に他のレコード会社のために収録することを防ぐため」(専属義務違反の予防)が挙げられたが、フリーライドの防止を目的とすることについては、契約終了後に実演家の収録のための実演を禁止することで投資を回収することはできないため、専属期間中に人的及び金銭的な投資をしていることへのフリーライドの防止等を目的として契約終了後に実演家の収録のための実演を禁止することは合理的な理由がないことから許容されない。また、専属義務違反の予防を目的とすることについては、専属義務違反に対応する法的手続に係る時間・労力・費用等のコストを勘案して専属期間中に他のレコード会社のためにレコーディングすることを予防する必要があるというような場合が想定されるが、そのような専属義務違反が頻繁に起こり得るかは不明である こと、仮に専属義務違反があるのであれば、より競争制限的ではない他の手段として金銭的補償等により解決する手段も検討し得る(契約上の専属義務に違反すれば、債務不履行となる。)ことを踏まえると、実演収録禁止条項の必要性・相当性が認められるかについては疑義がある。
以上を踏まえ、専属実演家契約終了後の実演家の自由な活動を実現するという観点からは、実演収録禁止条項を定めるレコード会社においては、今一度、当該条項を定める目的を確認し、契約上実演収録禁止条項を規定することだけでなく規定しないことを含め、当該規定の必要性・相当性を検証し、規定する場合には、必要性・相当性を含め実演家等に十分説明し、協議すべきである。
また、実態調査においては、テクノロジーの発展に伴い、録音・録画され得るもの一切が対象、とレコード会社が解釈するようになり、解釈の範囲が、話し合いもされないまま一方的に広げられているとの回答もみられた。一方で、レコード会社からは、テクノロジーの発展と共に実演の収録を伴うものが増加していることにより、実演収録禁止条項の対象となり得る実演が増加しているのであり、レコード会社が一方的に解釈や範囲を「『拡大』したわけではない」との指摘がある 。
以上を踏まえ、実演収録禁止条項の目的から必要性等が認められる場合であっても、禁止する対象や期間を当該目的の達成のために必要かつ相当な範囲に限定すべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 近年は、実演家の楽曲を継続して配信し、ファンを離れさせないことが重要なため、実演収録禁止条項は規定していない。
(イ) 実演収録禁止条項を設けているが、単なるインタビュー(会話)等、音楽の実演を伴わないストリーミング配信は禁止の範囲から除外するなど、当該条項を必要かつ相当な範囲に限定して設定している。
(ウ) 実演収録禁止条項を設けているが、契約終了時点の事情を考慮し、実演収録禁止条項の範囲を必要かつ相当な範囲に限定して適用するようにしている。
問題となり得る行動例
(ア) 音楽の実演のみならず、例えば、配信での対談のようなものも含めて、芸能事務所から相談があっても一切の実演を認めていない。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(イ) 実演収録禁止条項の期間内の収録であれば、例えば、契約終了後相当の期間経過後に芸能事務所等から個別に相談があり、専属義務違反とは認められないとみられる実演であっても、交渉には応じず、一律に実演を認めない。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
2 再録禁止条項
レコード会社が採るべき行動
✓ 再録禁止条項を定めるに当たり、長期間の契約期間中にリリースされた楽曲について一律に契約終了時点から再録を禁止するのではなく、合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保という目的のために必要な楽曲についてのみ再録禁止条項の対象とし、当該目的のために必要かつ相当な期間を設定すること
✓ 再録禁止条項の効力発生の起算点について、契約終了時点とするだけでなく個別の楽曲のリリース時点とすることを含め、必要性・相当性が認められる方法で設定すること
✓ 再録禁止条項について、複数回の契約更新を経てリリースから長期間が経過している楽曲について、芸能事務所・実演家から交渉された場合には、合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保ができているのであれば再録を認めるというように柔軟に対応すること
✓ 再録禁止条項は、既にリリースした楽曲等について他のレコード会社で同一楽曲をリリースするための収録のみならず、収録を伴うライブ、コンサートなども対象の範囲に含み得るものであるが、楽曲のリリース後の合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保という目的のために必要かつ相当な範囲に限定すること
実態調査において、レコード会社と芸能事務所・実演家との専属実演家契約において、契約終了後の一定期間、実演家が当該レコード会社において既にリリースした楽曲等に係る収録のための実演(原盤制作、配信等を目的とする実演)を行うことを禁止する条項(再録禁止条項)が規定される場合がみられた。
実態調査においては、再録禁止条項について、レコード会社から、移籍先のレコード会社に同一楽曲をカバーされると、前のレコード会社の同一楽曲の売上げに影響があるために規定しているなどといった回答があり、再録禁止条項は楽曲のリリース後の売上げを確保することを目的として規定していることがうかがわれた。そのような目的を逸脱しない範囲で再録禁止条項を規定すること自体は、一定の合理性があると考えられる。他方で、実態調査においては、芸能事務所等からは、再録禁止条項の期間は3~5年の場合が多いが、その起算点を一律に契約終了時点としている場合が多くみられ、複数回更新した長期間の契約期間中にリリースした楽曲等リリースから長期間経過したものを含め一律に適用される場合があり、上記目的と比べて強い制限であるなどとする回答があった。
そのため、専属実演家契約終了後の実演家の自由な活動を実現するという観点からは、レコード会社は、合理的な投資の回収や合理的な収益の確保の必要性・相当性がある楽曲についてのみ再録禁止条項の対象として、その目的のために必要かつ相当な期間を設定するとともに、起算点についても、個別の楽曲のリリース時点とすることを含め、必要性・相当性が認められる方法で設定すべきである。
また、レコード会社は、芸能事務所・実演家から、契約終了後の再録禁止期間内に、複数回の契約更新を経てリリースから長期間が経過している楽曲について交渉された場合には、合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保ができているのであれば再録を認めるというように柔軟に対応すべきである。
さらに、実態調査においては、有識者から、再録禁止条項は、実演家がレコード会社において既にリリースした楽曲等について、他のレコード会社で同一楽曲をリリースするための収録のみならず、同一楽曲に係る収録を伴うライブ・コンサートなども含む実演家による全ての収録のための実演も禁止する重い制約であるとの回答があった。
以上を踏まえ、レコード会社は、再録禁止条項の対象は、個別の楽曲のリリース後の合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保という目的のために必要かつ相当な範囲に限定すべきである。
取引の適正化のために参考となる行動例
(ア) 再録禁止条項において、リリースしてから相当の期間が経過した楽曲は対象外としている。
(イ) 再録禁止条項を設定はしているが、契約終了時点での協議に基づき、適用対象を、競合他社となる他のレコード会社での収録のための実演など、楽曲のリリース後の合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保という目的のために必要な範囲に限定しており、例えば他のレコード会社以外で配信されるライブ演奏(アーカイブ配信を伴う場合を含む)は禁止条項の適用対象から除外している。
(ウ) 合理的な範囲での投資の回収や合理的な範囲での収益の確保のために必要な範囲・期間で再録禁止条項を適用しており、例えば、再録禁止期間中に、移籍先のレコード会社が発売するライブ映像商品における同一楽曲の再録についての許諾を求められた際は、当該楽曲を収録して発売済みの自社商品(ライブ映像商品、スタジオ録音商品等のいずれとも)との競合性や売上げへの悪影響が生じ得るかを検討し、悪影響が生じないと判断した場合は再録を認めている。
問題となり得る行動例
(ア) 複数回契約を更新し、契約が相当の長期間にわたった実演家について、最初の契約期間中に収録した楽曲も含めて全ての楽曲を再録禁止条項の対象とし、近年では楽曲の価値を維持・向上させるための追加支出等を特段行っていないにもかかわらず、一律に契約終了後からの相当の長期間にわたり再録を禁止し、交渉にも応じていない。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
(イ) 芸能事務所から、再録禁止条項の期間中であるものの、相当以前にリリースし、近年ではほとんど売上げのない楽曲について再録したいとの交渉を受けたが、再録を認めない。(優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引)
第5 今後の対応
1 内閣官房及び公正取引委員会は、関係府省庁・関係事業者団体等の協力を得て、今後、本指針の周知を徹底する。
2 公正取引委員会は、芸能事務所等が本指針に記載の採るべき行動に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがある等の場合には、独占禁止法等に基づき厳正に対処していく。