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「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」の運用基準

「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」の運用基準

令和8年6月18日

事務総長通達第10号

はじめに

1 同業者間で行われる製造等の委託取引やこれと同視し得る委託取引(実質的に再委託と同等の構造にある取引)においては、委託が反復継続的となり受注者の発注者に対する取引依存度が高くなる傾向にあるなど、取引先変更の可能性が低くなりやすい構造にあるため、代金の支払者である発注者が、支払条件を自己の都合で一方的に設定し、受注者に対して支払の繰延べによる負担を押し付けやすいと考えられる。発注者のこのような行為により、受注者は、取引における自由かつ自主的な判断をゆがめられるとともに、その競争者との関係で競争上不利となる一方、当該行為による利益を享受する発注者は、その競争者との関係で競争上有利となるなど、公正な競争が阻害される。

また、発注者によるこのような行為は、受注者の合理的な支払条件の設定を妨げ、受注者において資金繰りの円滑化を図ろうとする合理的な経営行動に逆行するものである。さらに、この結果、市場メカニズムに基づく公正な取引が阻害されることにより市場の効率性が損なわれ、効率化のメリットが消費者に還元されなくなる場合も考えられる。

簡易迅速に取引の公正化及び製造等を受託する中小事業者の利益保護を図ることとする「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号。以下「取適法」という。)では、このような製造等の委託取引を「製造委託等」と定義し(取適法第2条第6項)、規模に係る要件を満たす事業者(取適法第2条第8項及び第9項)間の製造委託等の取引において行われる不当な行為を規制しているが、支払条件の一方的な設定に係る問題については、規模に係る要件を満たさない事業者間であっても、代金の支払者という地位を前提に支払の繰延べによる負担を押し付けやすい状況が見られ、一部の事業者にその負担を生じさせている。

そこで、このような発注者による優越的地位の濫用行為を効果的に規制するため、製造委託等の取引の実態に即した取引上の地位の不当利用を規制する新たなルールとして、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」(令和8年公正取引委員会告示第3号。以下「告示」という。)を指定したところであるが、告示に規定する禁止行為に関する具体的な解釈や考え方を明らかにするため、本運用基準を策定する。


2 本運用基準は、まず、第1において、告示の適用対象となる発注者及び受注者の範囲を明らかにし、第2において、告示で規定する禁止行為の内容を、問題となる行為事例とともに明らかにしている。

本運用基準は、どのような行為が告示の規定に該当するか判断するため、第2に問題となる行為事例を掲げているが、これらはあくまで例示であって、本運用基準に取り上げられていない行為が告示の規定に該当するか否かは、同規定に照らして個別具体的に判断されるものである。なお、発注者が製造委託等に係る代金の支払に関して自己の取引上の地位を不当に利用して受注者と取引する行為については、告示のほか、

・ 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)

・ 取適法第5条第1項第2号

・ 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第4条第5項

・ 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合等の特定の不公正な取引方法(平成16年公正取引委員会告示第1号)

の適用もあるため、留意する必要がある。

(注)告示と取適法又は特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律のいずれにも違反する行為については、原則としてこれらの法律の規定を優先して適用する。

なお、優越的地位の濫用に該当する行為に対して、独占禁止法第2条第9項第5号の規定を適用してその排除が図られる場合には、当該行為に重ねて告示の規定を適用してその排除に係る措置をとることはない。

第1 適用対象について

1 委託事業者

告示は、取適法第2条第6項に規定する製造委託等をした事業者(国及び政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和24年法律第256号)第14条に規定する者を除く。以下「委託事業者」という。)に対して適用される。

2 受託事業者

告示は、委託事業者から製造委託等を受けた事業者(その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者を除く。以下「受託事業者」という。)に対する委託事業者の行為について適用される。「取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる」かどうかの具体的な判断に当たっては、(1)受託事業者の当該委託事業者に対する取引依存度、(2)当該委託事業者の市場における地位、(3)受託事業者にとっての取引先変更の可能性、(4)その他当該委託事業者と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に勘案することとなる。

(1)の取引依存度については、一般に、当該委託事業者との取引の額を受託事業者の売上高で除して算出されるが、受託事業者の取り扱う商品又は役務が多様な場合には、各商品群又は各役務群ごとに取引依存度をみる必要が生ずることもある。

(2)の当該委託事業者の市場における地位としては、例えば、当該委託事業者の市場におけるシェアの大きさ、その順位等が考慮されることとなる。

(3)の受託事業者にとっての取引先変更の可能性としては、他の事業者との取引開始や取引拡大の可能性、当該委託事業者との取引に関連して行った投資等が考慮される。

また、(4)のその他当該委託事業者と取引することの必要性を示す具体的事実としては、当該委託事業者と受託事業者の事業規模の相違、当該委託事業者にとって取引の対象となる商品又は役務を取り扱うことの重要性、当該委託事業者の今後の成長可能性、当該委託事業者との取引の額、当該委託事業者と取引することによる受託事業者の信用の確保、受託事業者の取り扱う商品又は役務の需給関係等が考慮されることとなる。例えば、受託事業者の取り扱う商品又は役務の需給関係等については、受託事業者の取り扱う商品又は役務が、独自の技術に基づき希少性を有するなど需要が高い場合には、取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないことを示す要素として考慮されることとなる。

したがって、当該委託事業者に比して事業規模が小さい事業者が、当該委託事業者による告示に規定する行為を受け入れている場合には、その取り扱う商品又は役務が高い希少性を有するなどの具体的事実を総合的に勘案して特段の事情が認められる場合を除いて、一般に当該事業者は告示の受託事業者に該当する。また、当該委託事業者と事業規模が同等以上の事業者であっても、直ちに「取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていない」と認められるものではなく、その他の具体的事実を総合的に勘案して判断されることとなり、例えば、当該委託事業者に対する取引依存度が高いことや、当該委託事業者を取引先とすることが重要であることなどは、取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていることを示す要素として考慮される。

第2 禁止行為について

1 禁止行為の内容

(1)告示は、委託事業者が、正当な理由がある場合を除き、受託事業者による製造委託等に係る給付(取適法第2条第4項に規定する役務提供委託又は同条第5項に規定する特定運送委託の場合にあっては、役務の提供。以下同じ。)に対し支払うべき代金を、その給付を受領した日(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、受託事業者からその委託に係る役務の提供を受けた日。以下同じ。)から起算して60日の期間経過後なお支払わないこと(支払遅延)を禁止するものである。

代金は、現金又はこれに準ずる支払手段で支払う必要があり、現金に準ずる支払手段としては、例えば、電子記録債権、ファクタリング等が該当する。

なお、禁止行為に該当しない場合であっても、告示の趣旨に照らし、支払期日は、給付を受領した日から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められることが望ましい。

(2)代金を当該期間内に支払わないことについて「正当な理由がある場合」の例としては、次のような場合が挙げられる。

ア 受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合

イ 製造委託等をするに当たって受託事業者との合意により支払条件を定め、その条件に従って代金を支払う場合(当該製造委託等の取引における合理的な理由に基づき支払条件を定める場合に限る。)

ウ あらかじめ受託事業者の同意を得て、かつ、代金の支払の遅延によって当該受託事業者に通常生ずべき損失を委託事業者が負担する場合

2 「正当な理由がある場合」の例の考え方

(1)「正当な理由がある場合」について、前記1(2)アの「受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合」とは、給付の内容が委託内容と異なることがある等の場合をいう。

(2)前記1(2)イの「製造委託等をするに当たって受託事業者との合意により支払条件を定め」る場合とは、製造委託等をするに当たってあらかじめ受託事業者との間で支払期日に係る条件について定めている場合をいう。「製造委託等をするに当たって」であるから、製造委託等をした後に受託事業者と合意した場合には、前記1(2)イに該当するとは認められない。

ここでいう「合意」とは、当事者の実質的な意思が合致していることであって、受託事業者との十分な協議の上に受託事業者が納得して合意しているという趣旨であり、合意という形式的な形さえ整えればよいというものではない。

また、「製造委託等の取引における合理的な理由に基づき支払条件を定める場合」とは、取引の実態に即した合理的な理由があり、給付を受領した日から起算して60日を経過する日の翌日以降の日を支払期日と定める場合をいい、この場合は、その事由に応じた期間を斟酌して支払期日を定め、定められた支払期日に代金を支払うことが認められる。この例としては、次のような場合が挙げられる。

ア 給付の完了の確認又は検査に時間を要する場合(注) 給付の完了の確認又は検査に通常必要とする期間

(注)例えば、給付の性質上、高度の精度検査を要する場合や取り付け後に検査が可能となる場合、給付の目的物である情報成果物が一定の水準を満たしているかにつき確認を要する場合、代金の額を算定するために受託事業者による給付の完了に係る通知を受けることを要する場合が該当する。

イ 支払期日が金融機関の休業日に当たる場合 当該金融機関の翌営業日までの順延に係る期間

ウ 給付を受領した日から起算して60日を経過する日の翌日から支払期日までの受託事業者の資金調達コスト等を踏まえて代金の額を定める場合 代金の額に反映された調達に係る利息等の額の算定の基礎となった期間

(3)前記1(2)ウでは「あらかじめ受託事業者の同意を得て」いることが必要であるが、ここでいう「受託事業者の同意を得て」とは、受託事業者から了承という意思表示を得ることであって、受託事業者が納得して同意しているという趣旨であり、同意という形式的な形さえ整えればよいものではないことは、前記2(2)と同じである。また、給付を受領した日から起算して60日を経過する日の直前になって同意を得るのではなく、受託事業者が同意の是非を検討できるだけの十分な時間的余裕を設けた上で、同意を得る場合をいう(委託事業者が受託事業者に対して事実上同意を余儀なくさせていると認められる場合には、「受託事業者の同意を得て」いるとは認められない)。

「通常生ずべき損失」とは、給付を受領した日から起算して60日を経過する日の翌日以降に代金を支払うことにより発生する相当因果関係の範囲内の損失をいい、法定利率又は受託事業者との合意により定められた利率(法定利率を超えるものに限る。)による遅延利息が該当する。

なお、委託事業者が客観的に相当と認められる損失を負担していない場合には、たとえ受託事業者が同意したときであっても、「通常生ずべき損失を委託事業者が負担する場合」とはいえず、前記1(2)ウに該当するとは認められない。

3 問題となる行為事例

例えば、次のような場合は、正当な理由がある場合を除き、支払遅延に該当する。

ア 受託事業者との間で支払期日が定められておらず、給付を受領した日から60日目までに代金を支払わないとき。

イ 受託事業者との間で支払期日が定められていたが、給付を受領した日から60日目までに代金を支払わないとき。例えば、次の①又は②がこれに該当する。

① 「毎月末日納品締切、翌々月10日支払」等の月単位の締切制度(支払期日が締切後30日を超えて定められているもの)を採っていることにより、給付を受領した日から60日目まで(2か月以内)に代金を支払わないとき。

② 「毎月末日検収締切、翌月末日支払」等の検収締切制度を採っている場合に、社内の検収手続の遅延により、給付を受領した日から60日目まで(2か月以内)に代金を支払わないとき。


附則

この通達は、令和9年4月1日から施行する。

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