平成22年11月30日
公正取引委員会
改正 平成29年 6月16日
改正 令和 8年 1月 1日
改正 令和 8年 6月17日
はじめに
優越的地位の濫用は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)において、不公正な取引方法の一つとして禁止されている(注1)。
(注1)独占禁止法の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)によって、独占禁止法第2条第9項第5号として法定化された。同号のほか、同項第6号の規定により公正取引委員会が指定する、①全ての業種に適用される「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号)第13項(取引の相手方の役員選任への不当干渉)、及び②特定の事業分野にのみ適用される不公正な取引方法(以下「特殊指定」という。)にも、優越的地位の濫用の規定が置かれている。
なお、優越的地位の濫用の規定がある特殊指定は次のとおりである。
○ 新聞業における特定の不公正な取引方法(平成11年公正取引委員会告示第9号)
○ 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合等の特定の不公正な取引方法(平成16年公正取引委員会告示第1号)
○ 大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(平成17年公正取引委員会告示第11号)
○ 製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(令和8年公正取引委員会告示第3号)
独占禁止法第2条第9項第5号の規定は、次のとおりである。
自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み,取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ,若しくはその額を減じ,その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施すること。
ロ 継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み,取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ,若しくはその額を減じ,その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施すること。
独占禁止法第2条第9項第5号の優越的地位の濫用であって、一定の条件を満たすものについて、公正取引委員会は、課徴金の納付を命じなければならない(注2)。そこで、優越的地位の濫用に係る法運用の透明性、事業者の予見可能性を向上させる観点から、公正取引委員会は、独占禁止法第2条第9項第5号の優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方を明確化するため、この「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を策定する(注3)(注4)。
(注2)独占禁止法第20条の6。
なお、優越的地位の濫用に該当する行為に対して、独占禁止法第2条第9項第5号の規定を適用してその排除が図られる場合には、当該行為に重ねて同項第6号の規定を適用してその排除に係る措置をとることはない。
(注3)公正取引委員会は、特定の業種等における優越的地位の濫用等の独占禁止法違反行為の未然防止を図るため、次のガイドライン等を策定・公表してきている。
<優越的地位の濫用に係る主なガイドライン等>
○ 「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」の運用基準(平成17年事務総長通達第9号)
○ フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について(平成14年4月24日公正取引委員会)
○ 役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針(平成10年3月17日公正取引委員会)
○ 「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」の運用基準(令和8年事務総長通達第10号)
(注4) 以下、第1から第4までにおける「優越的地位の濫用」とは、独占禁止法第2条第9項第5号の優越的地位の濫用を指す。
第1 優越的地位の濫用規制についての基本的考え方
1 事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものである。取引当事者間における自由な交渉の結果、いずれか一方の当事者の取引条件が相手方に比べて又は従前に比べて不利となることは、あらゆる取引において当然に起こり得る。
しかし、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに、当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で、行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものである。このような行為は、公正な競争を阻害するおそれがあることから、不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として、独占禁止法により規制される(注5)。
どのような場合に公正な競争を阻害するおそれがあると認められるのかについては、問題となる不利益の程度、行為の広がり等を考慮して、個別の事案ごとに判断することになる。例えば、①行為者が多数の取引の相手方に対して組織的に不利益を与える場合、②特定の取引の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても、その不利益の程度が強い、又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合には、公正な競争を阻害するおそれがあると認められやすい。
(注5) 当事者間の取引が、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号。以下「取適法」という。)にいう委託事業者と中小受託事業者の取引に該当する場合であって、取適法に規定する①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託又は⑤特定運送委託に該当する場合には、取適法の規制の対象となる。取適法に関しては、運用に当たっての基本的な考え方を定めた「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」(令和7年事務総長通達第13号)を策定・公表している。
2 優越的地位の濫用として問題となる行為とは、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」行われる、独占禁止法第2条第9項第5号イからハまでのいずれかに該当する行為である。
そこで、以下、第2及び第3において、この「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」の考え方を示した上で、次に、第4において、独占禁止法第2条第9項第5号イからハまでのそれぞれに該当する行為の態様ごとに、優越的地位の濫用の考え方を示す。
また、第2以下において、どのような行為が優越的地位の濫用に該当するのかについて具体的に理解することを助けるために、「具体例」及び「想定例」を掲げている。「具体例」とは、過去の審決又は排除措置命令において問題となった行為等の例である。また、「想定例」とは、あくまでも問題となり得る仮定の行為の例であり、ここに掲げられた行為が独占禁止法第2条第9項第5号に該当すれば、優越的地位の濫用として問題となる。
なお、ここに示されていないものを含め、具体的な行為が優越的地位の濫用として問題となるかどうかは、独占禁止法の規定に照らして個別の事案ごとに判断されるものであることはいうまでもない(注6)。
(注6) 親子会社・兄弟会社間の取引が優越的地位の濫用として規制の対象となるかについては、流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(平成3年7月11日公正取引委員会事務局)の「(付)親子会社・兄弟会社間の取引」記載のとおりである。
第2 「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」の考え方
1 取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し、取引上の地位が優越しているというためには、市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。
2 この判断に当たっては、乙の甲に対する取引依存度、甲の市場における地位、乙にとっての取引先変更の可能性、その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に考慮する(注7)。
(注7) 甲が乙に対し、取引上の地位が優越しているかどうかは、次の(1)から(4)までに記載された具体的事実を総合的に考慮して判断するので、大企業と中小企業との取引だけでなく、大企業同士、中小企業同士の取引においても、取引の一方当事者が他方の当事者に対し、取引上の地位が優越していると認められる場合があることに留意する必要がある。
(1) 乙の甲に対する取引依存度
乙の甲に対する取引依存度とは、一般に、乙が甲に商品又は役務を供給する取引の場合には、乙の甲に対する売上高を乙全体の売上高で除して算出される。乙の甲に対する取引依存度が大きい場合には、乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすい。
(2) 甲の市場における地位
甲の市場における地位としては、甲の市場におけるシェアの大きさ、その順位等が考慮される。甲のシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には、甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき、乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすい。
(3) 乙にとっての取引先変更の可能性
乙にとっての取引先変更の可能性としては、他の事業者との取引開始や取引拡大の可能性、甲との取引に関連して行った投資等が考慮される。他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合又は甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合には、乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすい。
(4) その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実
その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実としては、甲との取引の額、甲の今後の成長可能性、取引の対象となる商品又は役務を取り扱うことの重要性、甲と取引することによる乙の信用の確保、甲と乙の事業規模の相違等が考慮される。甲との取引の額が大きい、甲の事業規模が拡大している、甲が乙に対して商品又は役務を供給する取引において当該商品又は役務が強いブランド力を有する、甲と取引することで乙の取り扱う商品又は役務の信用が向上する、又は甲の事業規模が乙のそれよりも著しく大きい場合には、乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすい。
<具体例>
① X社は、チェーン店を全国に6,649店展開しており、その店舗数は我が国におけるコンビニエンス・ストア・チェーン業界において第2位の地位にある。X社のチェーン店の年間売上高の合計は約1兆1000億円であり、これは、コンビニエンス・ストア・チェーン業界においては第2位、小売業界全体においては第5位の地位を占めている。X社チェーン店の店舗数及び売上高は、毎年増加している。また、X社のチェーン店は、消費者から需要の多い商品をそろえているものとして高い信用を得ている。
X社は、全国的に店舗を展開し、それらの売上高が多く、X社チェーン店が取り扱う日用雑貨品の製造販売業者又は卸売業者(以下「日用品納入業者」という。)にとって極めて有力な取引先であるとともに、日用品納入業者は、自己の販売する商品がチェーン店において取り扱われることにより当該商品に対する消費者の信用度が高まること等から、X社との納入取引の継続を強く望んでいる状況にある。このため、X社と継続的な取引関係にある日用品納入業者の大部分は、X社との納入取引を継続する上で、納入する商品の品質、納入価格等の取引条件とは別に、X社からの種々の要請に従わざるを得ない立場にある(平成10年7月30日勧告審決・平成10年(勧)第18号)。
② X銀行は、その年度末の総資産額が約91兆円であり、総資産額につき我が国の銀行業界において第1位の地位にある。
X銀行と融資取引を行っている事業者、特に中小事業者の中には、
・ 金融機関からの借入れのうち、主としてX銀行からの借入れによって資金需要を充足している
・ X銀行からの借入れについて、直ちに他の金融機関から借り換えることが困難である
・ 事業のための土地や設備の購入に当たってX銀行からの融資を受けられる旨が示唆された後、当該土地や設備の購入契約を進めたことから、当該融資を受けることができなければ他の方法による資金調達が困難である
など、当面、X銀行からの融資に代えて、X銀行以外の金融機関からの融資等によって資金手当てをすることが困難な事業者(以下「融資先事業者」という。)が存在する。融資先事業者は、X銀行から融資を受けることができなくなると事業活動に支障を来すこととなるため、融資取引を継続する上で、融資の取引条件とは別に、X銀行からの種々の要請に従わざるを得ない立場にあり、その取引上の地位はX銀行に対して劣っている(平成17年12月26日勧告審決・平成17年(勧)第20号)。
③ X社が自ら経営するコンビニエンスストア(以下「直営店」という。)及びX社のフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者(以下「加盟者」という。)が経営するコンビニエンスストア(以下「加盟店」という。)は、一部の地域を除き全国に所在している。店舗数は、直営店が約800店、加盟店が約1万1200店の合計約1万2000店であり、年間売上額は、直営店が約1500億円、加盟店が約2兆4200億円の合計約2兆5700億円であるところ、X社は、店舗数及び売上額のいずれについても、我が国においてコンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営む者の中で最大手の事業者である。これに対し、加盟者は、ほとんどすべてが中小の小売業者である。
X社は、加盟者との間で、加盟店基本契約を締結しているところ、同契約においては、加盟店基本契約の終了後少なくとも1年間は、コンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営むX社以外の事業者のフランチャイズ・チェーンに加盟することができないこととされている。
X社は、加盟店基本契約に基づき、加盟店で販売することを推奨する商品(以下「推奨商品」という。)及びその仕入先を加盟者に提示している。加盟者が当該仕入先から推奨商品を仕入れる場合はX社のシステムを用いて発注、仕入れ、代金決済等の手続を簡便に行うことができるなどの理由により、加盟店で販売される商品のほとんどすべては推奨商品となっている。
X社は、加盟店が所在する地区に経営相談員を配置し、加盟店基本契約に基づき、経営相談員を通じて、加盟者に対し、加盟店の経営に関する指導、援助等を行っているところ、加盟者は、それらの内容に従って経営を行っている。
以上の事情等により、加盟者にとっては、X社との取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなり、このため、加盟者は、X社からの要請に従わざるを得ない立場にある。したがって、X社の取引上の地位は、加盟者に対し優越している(平成21年6月22日排除措置命令・平成21年(措)第8号)。
3 また、優越的地位にある行為者が、相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば、通常、「利用して」行われた行為であると認められる。
第3 「正常な商慣習に照らして不当に」の考え方
「正常な商慣習に照らして不当に」という要件は、優越的地位の濫用の有無が、公正な競争秩序の維持・促進の観点から個別の事案ごとに判断されることを示すものである。
ここで、「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものをいう。したがって、現に存在する商慣習に合致しているからといって、直ちにその行為が正当化されることにはならない。
第4 優越的地位の濫用となる行為類型
ここでは、優越的地位の濫用につながり得る行為であることが、独占禁止法第2条第9項第5号イからハまでの規定から明らかな行為を中心に、行為類型ごとに、優越的地位の濫用の考え方について明らかにする。
なお、優越的地位の濫用として問題となるのは、これらの行為類型に限られるものではない。優越的地位の濫用として問題となる種々の行為を未然に防止するためには、取引の対象となる商品又は役務の具体的内容や品質に係る評価の基準、納期、代金の額、支払期日、支払方法等について、取引当事者間であらかじめ明確にし、書面で確認するなどの対応をしておくことが望ましい。
1 独占禁止法第2条第9項第5号イ(購入・利用強制)
独占禁止法第2条第9項第5号イの規定は、次のとおりである。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
この規定における「当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務」には、自己の供給する商品又は役務だけでなく、自己の指定する事業者が供給する商品又は役務が含まれる。
また、「購入させる」には、その購入を取引の条件とする場合や、その購入をしないことに対して不利益を与える場合だけではなく、事実上、購入を余儀なくさせていると認められる場合も含まれる(注8)。
(注8) 独占禁止法第2条第9項第5号ロにおける「提供させる」の考え方も、これと同様である。
(1) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務の購入を要請する場合であって、当該取引の相手方が、それが事業遂行上必要としない商品若しくは役務であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。
(2) 他方、取引の相手方に対し、特定の仕様を指示して商品の製造又は役務の提供を発注する際に、当該商品若しくは役務の内容を均質にするため又はその改善を図るため必要があるなど合理的な必要性から、当該取引の相手方に対して当該商品の製造に必要な原材料や当該役務の提供に必要な設備を購入させる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
<想定例>
① 購入しなければ相手方との取引を打ち切る、取引数量を削減するなど、今後の取引に影響すると受け取られるような要請をすることにより、購入させること。
② 購買担当者等取引の相手方との取引関係に影響を及ぼし得る者が購入を要請することにより、購入させること。
③ 取引の相手方に対して、組織的又は計画的に購入を要請することにより、購入させること。
④ 取引の相手方から購入する意思がないとの表明があった場合、又はその表明がなくとも明らかに購入する意思がないと認められる場合に、重ねて購入を要請することにより、又は商品を一方的に送付することにより、購入させること。
⑤ 自己が部品の加工を発注する取引の相手方に対し、自己の取引先であるメーカーの製品の販売先を紹介するよう要請し、販売先を紹介することができなかった取引の相手方に対して、当該製品を購入させること。
⑥ 取引の受発注を電子化するに当たって、取引の相手方はその電子化に対応し得るインターネットサービスを既に別の事業者と契約しその提供を受けているため、新たに同サービスの提供を受ける必要がないにもかかわらず、今後取引を継続しないことを示唆しながら、自己の指定するより高価なインターネットサービスを提供する事業者を利用することを要請し、当該事業者から利用させること。
<具体例>
① X社は、道内6ホテルにおいて、閑散期における稼働率の向上及び収益確保を目的として、一定期間に限り当該ホテルで使用できる宿泊券について、納入業者等に対し、あらかじめ納入業者等ごとに購入を要請する枚数を設定し
・ 文書で宿泊券の購入を要請し、購入の申込みが無いなどの場合には、事業部長ら納入取引等に影響を及ぼし得る者から購入するよう重ねて要請する
・ 宿泊券の購入を要請する文書とともに購入を要請する枚数の宿泊券を納入取引等に影響を及ぼし得る者から手渡す
等の方法により宿泊券を購入するよう要請している。これらの要請を受けた納入業者等の多くは、X社との納入取引等を継続して行う立場上、その要請に応じることを余儀なくされている(平成16年11月18日勧告審決・平成16年(勧)第31号)。
② X銀行は、融資先事業者から新規の融資の申込み又は既存の融資の更新の申込みを受けた場合に、融資に係る手続を進める過程において、融資先事業者に対し、金利スワップの購入を提案し、融資先事業者が同提案に応じない場合に
・ 金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨、又は金利スワップを購入しなければ融資に関して通常設定される融資の条件よりも不利な取扱いをする旨明示する
・ 担当者に管理職である上司を帯同させて重ねて購入を要請するなどにより、金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨、又は金利スワップを購入しなければ融資に関して通常設定される融資の条件よりも不利な取扱いをする旨示唆する
ことにより金利スワップの購入を要請し、融資先事業者に金利スワップの購入を余儀なくさせる行為を行っている(平成17年12月26日勧告審決・平成17年(勧)第20号)。
③ X社は、Y店及びZ店において、毎年開催する販売企画を約1か月間実施するに際し、あらかじめ店舗ごとに設定した販売目標金額を達成するため、Y店及びZ店の仕入担当者から、Y店又はZ店において販売される商品の納入業者及び当該納入業者の従業員に対し、電気製品、衣料品等を購入するよう要請していた。この要請を受けた納入業者及び当該納入業者の従業員の多くは、納入業者がX社との取引を継続して行う立場上、こうした要請に応じざるを得ない状況にあり、当該商品を購入していた(平成21年3月5日排除措置命令・平成21年(措)第3号)。
2 独占禁止法第2条第9項第5号ロ
独占禁止法第2条第9項第5号ロの規定は、次のとおりである。
ロ 継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。
この規定における「経済上の利益」の提供とは、協賛金、協力金等の名目のいかんを問わず行われる金銭の提供、作業への労務の提供等をいう。
(1) 協賛金等の負担の要請
ア 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、協賛金等の名目による金銭の負担を要請する場合であって、当該協賛金等の負担額及びその算出根拠、使途等について、当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、当該取引の相手方が得る直接の利益(注9)等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合(注10)には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。
(注9) 「直接の利益」とは、例えば、広告に取引の相手方の納入する商品を掲載するため、広告を作成・配布する費用の一部を協賛金として負担させることが、取引の相手方にとってその納入する商品の販売促進につながる場合など実際に生じる利益をいい、協賛金を負担することにより将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まない。
(注10) この場合は、協賛金等の負担の条件について取引の相手方との間で明確になっていても優越的地位の濫用として問題となる。
イ 事業者が、催事、広告等を行うに当たり、取引の相手方に対し、その費用の一部として協賛金等の負担を要請することがある。このような要請は、流通業者によって行われることが多いが、流通業者が商品の納入業者に協賛金等の負担を要請する場合には、当該費用を負担することが納入商品の販売促進につながるなど当該納入業者にとっても直接の利益となることがある。協賛金等が、それを負担することによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして、取引の相手方の自由な意思により提供される場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
<想定例>
① 取引の相手方の商品又は役務の販売促進に直接寄与しない催事、売場の改装、広告等のための協賛金等を要請し、これを負担させること。
② 決算対策のための協賛金を要請し、取引の相手方にこれを負担させること。
③ 自己の店舗の新規オープン又は改装オープンに際し、当該店舗の利益を確保するため、事前に負担額、算出根拠、目的等について明確にすることなく、一定期間にわたり、取引の相手方からの当該店舗に対する納入金額の一定割合に相当する額を協賛金として負担させること。
④ 一定期間に一定の販売量を達成した場合にリベートの提供を受けることをあらかじめ定めていた場合において、当該販売量を達成しないのに当該リベートを要請し、負担させること。
⑤ 自己の店舗の新規オープンセール又は改装オープンセールにおける広告について、当該広告を行うために実際に要する費用を超える額の協賛金を取引の相手方に要請し、負担させること。
⑥ 物流センター等の流通業務用の施設の使用料(センターフィー)について、その額や算出根拠等について納入業者と十分協議することなく一方的に負担を要請し、当該施設の利用量等に応じた合理的な負担分を超える額を負担させること。
⑦ 継続して行ってきた取引について、専ら「新規導入協賛金」という名目で金銭を得るために、商品の納入の受入れをいったん取りやめた後、同一の商品につき納入を再開させることにより、取引の相手方に金銭の提供を要請し、これを負担させること。
<具体例>
X社は、自社及び子会社3社の店舗の開店に際し、惣菜等の各仕入部門に係る納入業者に対し、当該店舗の粗利益を確保するため、事前に算出根拠、目的等について明確に説明することなく、「即引き」と称して、開店に当たって当該納入業者に納入させる商品のうち特定のものについて、その納入価格を通常の納入価格に一定割合を乗じた価格等通常の納入価格より低い価格とすることにより、当該価格と通常の納入価格との差額に相当する経済上の利益の提供を要請していた。この要請を受けた納入業者の多くは、X社との納入取引を継続して行う立場上、その要請に応じることを余儀なくされ、経済上の利益を提供していた(平成20年6月23日排除措置命令・平成20年(措)第15号)。
(2) 従業員等の派遣の要請
ア 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、従業員等(注11)の派遣を要請する場合であって、どのような場合に、どのような条件で従業員等を派遣するかについて、当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、従業員等の派遣を通じて当該取引の相手方が得る直接の利益(注12)等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合(注13)には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。
取引の相手方に対し、従業員等の派遣に代えて、これに相当する人件費を負担させる場合も、これと同様である。
(注11) 「従業員等」には、当該取引の相手方が当該要請に応じるために雇用したアルバイトや派遣労働者等が含まれる。
(注12) 「直接の利益」とは、例えば、取引の相手方の従業員等を小売店に派遣して消費者に販売させることが、取引の相手方が納入する商品の売上げ増加、取引の相手方による消費者ニーズの動向の直接把握につながる場合など実際に生じる利益をいい、従業員等の派遣をすることにより将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まない。
(注13) この場合は、従業員等の派遣の条件について取引の相手方との間で明確になっていても優越的地位の濫用として問題となる。
イ メーカーや卸売業者が百貨店、スーパー等の小売業者からの要請を受け、自己が製造した商品又は自己が納入した商品の販売等のためにその従業員等を派遣する場合がある。こうした従業員等の派遣は、メーカーや卸売業者にとって消費者ニーズの動向を直接把握できる、小売業者にとって専門的な商品知識の不足が補われる等の利点を有している場合がある。従業員等の派遣が、それによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして、取引の相手方の自由な意思により行われる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。また、従業員等の派遣の条件についてあらかじめ当該取引の相手方と合意(注14)し、かつ、派遣のために通常必要な費用を自己が負担する場合も、これと同様である。
(注14) 「合意」とは、当事者の実質的な意思が合致していることであって、取引の相手方との十分な協議の上に当該取引の相手方が納得して合意しているという趣旨である。「返品」(第4の3(2))における「合意」の考え方も、これと同様である。
<想定例>
① 取引の相手方に対し、派遣費用を負担することなく、自己の利益にしかならない業務を行うよう取引の相手方に要請し、その従業員等を派遣させること。
② 自己の店舗の新規オープンセール又は改装オープンセールに際し、販売業務に従事させるために納入業者の従業員を派遣させ、当該納入業者の納入に係る商品の販売業務に併せて他の納入業者の商品の販売業務にもその従業員を従事させることにより、その従業員を派遣した納入業者に対して、直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担をさせること。
③ 取引の相手方が従業員等を派遣するための費用を自己が負担するとしながら、派遣費用として一律に日当の額を定めるのみであって、個々の取引の相手方の事情により交通費、宿泊費等の費用が発生するにもかかわらず、当該費用を負担することなく、従業員等を派遣させること。
④ 取引の相手方が従業員等を派遣するための費用を自己が負担する場合において、日当、交通費、宿泊費等の費用を負担するとしながら、日当については、当該従業員等の給与や当該派遣に係る業務の内容に見合った適正な額を下回る額に一律に定めること。
⑤ 自己の棚卸業務のために雇用したアルバイトの賃金を取引の相手方に負担させること。
⑥ 契約上、取引の相手方が自己の倉庫まで運送することのみが契約内容とされている場合において、当該取引の相手方に対して、あらかじめ契約で定められていない自己の倉庫内における荷役等の業務について、無償で従事させること。
<具体例>
X社は、店舗の新規オープン及び改装オープンに際し、納入業者に対し、当該納入業者の納入に係る商品であるか否かを問わず、当該店舗における商品の陳列、商品の補充、接客等の作業(以下「オープン作業」という。)を行わせることとし、あらかじめ当該納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく、オープン作業を行わせるためにその従業員等の派遣を受けることを必要とする店舗、日時等を連絡し、その従業員等を派遣するよう要請している。この要請を受けた納入業者の多くは、X社との納入取引を継続して行う立場上、その要請に応じることを余儀なくされ、その従業員等を派遣しており、X社は、当該派遣のために通常必要な費用を負担していない(平成20年6月30日排除措置命令・平成20年(措)第16号)。
(3) その他経済上の利益の提供の要請
ア 協賛金等の負担の要請や従業員等の派遣の要請以外であっても、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、正当な理由がないのに、取引の相手方に対し、発注内容に含まれていない、金型(木型その他金型に類するものを含む。以下同じ。)等の設計図面、特許権等の知的財産権、従業員等の派遣以外の役務提供その他経済上の利益の無償提供を要請する場合であって、当該取引の相手方が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる(注15)。
(注15) 無償で提供させる場合だけでなく、取引上の地位が優越している事業者が、取引の相手方に対し、正常な商慣習に照らして不当に低い対価で提供させる場合には、優越的地位の濫用として問題となる。この判断に当たっては、「取引の対価の一方的決定」(第4の3(5)ア)に記載された考え方が適用される。
イ 一方、前記アに列記した経済上の利益が無償で提供される場合であっても、当該経済上の利益が、ある商品の販売に付随して当然に提供されるものであって、当該商品の価格にそもそも反映されているようなときは、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
<想定例>
① 取引に伴い、取引の相手方に著作権、特許権等の権利が発生・帰属する場合に、これらの権利が自己との取引の過程で得られたことを理由に、一方的に、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を自己に譲渡させること。
② 発注内容に金型の設計図面を提供することが含まれていないにもかかわらず、取引の相手方に対し、金型の設計図面を無償で提供させること。
③ 補修用部品、金型等自己が保管すべきものについて、自己の一方的な都合により、取引の相手方に無償で保管させ、また、保管に伴うメンテナンス等をさせること。
④ 自己が支給した部品・原材料の不具合、自己が行った設計の不備等自己に責任があるにもかかわらず、最終ユーザーからクレームがあった際、自己は一切責任を負わず、取引の相手方に最終ユーザーに対する損害賠償を含むクレーム対応を無償ですべて行わせること。
⑤ 商品を納入するに当たって、取引の相手方と十分協議することなく一方的に、当該取引の相手方が回収する義務のない産業廃棄物や他の事業者の輸送用具等を取引の相手方に無償で回収させること。
3 独占禁止法第2条第9項第5号ハ
独占禁止法第2条第9項第5号ハの規定は、次のとおりである。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み,取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ,若しくはその額を減じ,その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施すること。
この独占禁止法第2条第9項第5号ハには、「受領拒否」、「返品」、「支払遅延」及び「減額」が優越的地位の濫用につながり得る行為の例示として掲げられているが、それ以外にも、取引の相手方に不利益を与える様々な行為が含まれる。
(1) 受領拒否
ア 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方から商品を購入する契約をした後において、正当な理由がないのに、当該商品の全部又は一部の受領を拒む場合(注16)であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる(注17)。
(注16) 「受領を拒む」とは、商品を納期に受け取らないことである。納期を一方的に延期すること又は発注を一方的に取り消すことにより納期に商品の全部又は一部を受け取らない場合も、これに含まれる。
(注17) 取引の相手方から役務の提供を受ける契約をした後において、正当な理由がないのに、当該役務提供の全部又は一部の受取りを拒む場合については、独占禁止法第2条第9項第5号ハ「その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を(中略)変更し、又は取引を実施すること」として優越的地位の濫用の問題となり得る(第4の3(5)ウ参照)。
イ 他方、①当該取引の相手方から購入した商品に瑕疵(かし)がある場合、注文した商品と異なる商品が納入された場合、納期に間に合わなかったために販売目的が達成できなかった場合等、当該取引の相手方側の責めに帰すべき事由がある場合、②商品の購入に当たって当該取引の相手方との合意により受領しない場合の条件を定め、その条件に従って受領しない場合(注18)、③あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て(注19)、かつ、商品の受領を拒むことによって当該取引の相手方に通常生ずべき損失(注20)を負担する場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
(注18) 当該商品について、正常な商慣習の範囲内で受領を拒む条件を定める場合に限る。
(注19) 「同意を得て」とは、了承という意思表示を得ることであって、取引の相手方が納得して同意しているという趣旨である。「返品」(第4の3(2))、「支払遅延」(第4の3(3))及び「やり直しの要請」(第4の3(5)イ)における「同意を得て」の考え方も、これと同様である。
(注20) 「通常生ずべき損失」とは、受領拒否により発生する相当因果関係の範囲内の損失をいう。例えば、①商品の市況の下落、時間の経過による商品の使用期限の短縮に伴う価値の減少等に相当する費用、②物流に要する費用、③商品の廃棄処分費用が挙げられる。「返品」(第4の3(2))、「支払遅延」(第4の3(3))及び「やり直しの要請」(第4の3(5)イ)における「通常生ずべき損失」の考え方も、これと同様である。
<想定例>
① 取引の相手方が、発注に基づき商品を製造し、当該商品を納入しようとしたところ、売行き不振又は売場の改装や棚替えに伴い当該商品が不要になったことを理由に、当該商品の受領を拒否すること。
② あらかじめ定められた検査基準を恣意的に厳しくして、発注内容と異なること又は瑕疵があることを理由に、当該商品の受領を拒否すること。
③ 特定の仕様を指示して商品の製造を発注した後であるにもかかわらず、自己の顧客から当該商品の注文が取り消されたことや、自己の販売計画を変更したことを理由に、当該商品の受領を拒否すること。
④ 取引の相手方が仕様の明確化を求めたにもかかわらず、正当な理由なく仕様を明確にしないまま、取引の相手方に継続して作業を行わせ、その後、取引の相手方が商品を納入しようとしたときになって、発注内容と異なることを理由に、当該商品の受領を拒否すること。
⑤ 発注した後になって、あらかじめ合意した納期を、取引の相手方の事情を考慮せず一方的に短く変更し、その納期までに納入が間に合わなかったとして商品の受領を拒否すること。
⑥ ロット単位で商品の検査を行い、不良品があったロットのみ受領しない契約であるにもかかわらず、あるロットで不良品が見つかった際、他のロットの検査をせず、すべてのロットの受領を拒否すること。
⑦ 取引の相手方に対し、特定の仕様を指示して継続的に部品の製造を発注しているところ、従来の納入時には仕様を満たしているとして検査に合格させていた部品と同水準の部品について、自己の一方的な都合により不要になったことから、耐久性、耐靱性等の部品の性能に全く影響を及ぼさない微細な傷、打痕等を理由に、当該部品の受領を拒否すること。
⑧ 天災や道路事情等、納入業者に責任のない事情により納期や検査基準を満たすことができないものの、賞味期限には十分余裕がある商品の受領について納入業者から協議を求められたにもかかわらず、飲食料品の製造年月日から賞味期限までの期間のうち、製造年月日から最初の3分の1に当たる日までに商品を納品しなければならないという商慣行(いわゆる3分の1ルール)や、既に納品した商品の賞味期限等より1日でも前の賞味期限等の商品を納品することは認められないという商慣行(いわゆる日付逆転品の納品禁止)のみを理由として、一方的に商品の受領を拒否すること。
⑨ あらかじめ納入業者と合意していた発注ロットを守らずに発注し、これに一方的に応じさせ、製造日付順の納品管理を困難にさせておきながら、一方的に、賞味期限等の異なる商品を混合した商品は納品することは認められないという商慣行(いわゆる日付混合品の納入禁止)を理由に、商品の受領を拒否すること。
(2) 返品
ア 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、当該取引の相手方から受領した商品を返品する場合であって、どのような場合に、どのような条件で返品するかについて、当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合、その他正当な理由がないのに、当該取引の相手方から受領した商品を返品する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。
イ 他方、①当該取引の相手方から購入した商品に瑕疵がある場合、注文した商品と異なる商品が納入された場合、納期に間に合わなかったために販売目的が達成できなかった場合等、当該取引の相手方側の責めに帰すべき事由により、当該商品を受領した日から相当の期間内に、当該事由を勘案して相当と認められる数量の範囲内(注21)で返品する場合、②商品の購入に当たって当該取引の相手方との合意により返品の条件を定め、その条件に従って返品する場合(注22)、③あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て、かつ、商品の返品によって当該取引の相手方に通常生ずべき損失を自己が負担する場合、④当該取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出があり、かつ、当該取引の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方の直接の利益(注23)となる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
(注21) 「相当の期間」については、個々の事情により判断されるべきであるが、例えば、直ちに発見できる瑕疵がある場合や注文品と異なっている場合には、商品の受領後、検品に要する標準的な期間内に速やかに返品する必要がある。「減額」(第4の3(4))における「相当の期間」の考え方も、これと同様である。
また、相当の期間内に返品する場合であっても、無制限に返品することは認められない。例えば、瑕疵のある商品や注文と異なる商品であれば、その商品を返品することは認められるが、これに併せて他の商品も(セットでなければ販売の用をなさないものを除く。)返品することは、「相当と認められる数量の範囲内」の返品とは認められない。
(注22) 当該商品について、その受領の日から一定の期間内における一定の数量の範囲内での返品又は受領した商品の総量に対して一定の数量の範囲内での返品が、正常な商慣習となっており、かつ、当該商慣習の範囲内で返品の条件を定める場合に限る。
(注23) 「直接の利益」とは、例えば、取引の相手方の納入した旧商品であって取引先の店舗で売れ残っているものを回収して、新商品を納入した方が取引の相手方の売上げ増加となるような場合など実際に生じる利益をいい、返品を受けることにより将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まない。
<想定例>
① 展示に用いたために汚損した商品を返品すること。
② 小売用の値札が貼られており、商品を傷めることなくはがすことが困難な商品を返品すること。
③ メーカーの定めた賞味期限とは別に独自にこれより短い販売期限を一方的に定める場合において、この販売期限が経過したことを理由に返品すること。
④ 自己のプライベート・ブランド商品を返品すること。
⑤ 月末又は期末の在庫調整のために返品すること。
⑥ 自己の独自の判断に基づく店舗又は売り場の改装や棚替えを理由に返品すること。
⑦ セール終了後に売れ残ったことを理由に返品すること。
⑧ 単に購入客から返品されたことを理由に返品すること。
⑨ 直ちに発見できる瑕疵であったにもかかわらず、検品に要する標準的な期間をはるかに経過した後になって、瑕疵があることを理由に取引の相手方に返品すること。
<具体例>
X社は、店舗の閉店又は改装に際し、当該店舗の商品のうち、当該店舗及び他の店舗において販売しないこととした商品について、当該商品の納入業者に対し、当該納入業者の責めに帰すべき事由がなく、あらかじめ当該納入業者との合意により返品の条件を定めておらず、かつ、当該商品の返品を受けることが当該納入業者の直接の利益とならないにもかかわらず、当該商品の返品に応じるよう要請している。この要請を受けた納入業者の多くは、X社との取引を継続して行う立場上、その要請に応じることを余儀なくされ、当該商品の返品を受け入れており、X社は、当該商品の返品によって当該納入業者に通常生ずべき損失を負担していない(平成21年6月19日排除措置命令・平成21年(措)第7号)。
(3) 支払遅延
ア 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、正当な理由がないのに、契約で定めた支払期日に対価を支払わない場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。
また、契約で定めた支払期日より遅れて対価を支払う場合だけでなく、取引上の地位が優越している事業者が、一方的に対価の支払期日を遅く設定する場合や、支払期日の到来を恣意的に遅らせる場合にも、当該取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題となりやすい。
イ 他方、あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て、かつ、対価の支払の遅延によって当該取引の相手方に通常生ずべき損失を自己が負担する場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
<想定例>
① 社内の支払手続の遅延、製品の設計や仕様の変更などを理由として、自己の一方的な都合により、契約で定めた支払期日に対価を支払わないこと。
② 分割して納入を受ける取引において、初期納入分の提供を受けた後に対価を支払うこととされているにもかかわらず、一方的に支払条件を変更し、すべてが納入されていないことを理由として対価の支払を遅らせること。
③ 商品の提供が終わっているにもかかわらず、その検収を恣意的に遅らせることなどにより、契約で定めた支払期日に対価を支払わないこと。
④ 取引に係る商品又は役務を自己が実際に使用した後に対価を支払うこととされている場合に、自己の一方的な都合によりその使用時期を当初の予定より大幅に遅らせ、これを理由として対価の支払を遅らせること。
⑤ 非常に高額な製品・部品等の納入を受けている場合において、当初、契約で一括払いとしたにもかかわらず、支払の段階になって自己の一方的な都合により数年にわたる分割払いとし、一括払いに応じないこと。
(4) 減額
ア 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、商品又は役務を購入した後において、正当な理由がないのに、契約で定めた対価を減額する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。
契約で定めた対価を変更することなく、商品又は役務の仕様を変更するなど対価を実質的に減額する場合も、これと同様である。
イ 他方、①当該取引の相手方から購入した商品又は提供された役務に瑕疵がある場合、注文内容と異なる商品が納入され又は役務が提供された場合、納期に間に合わなかったために販売目的が達成できなかった場合等、当該取引の相手方側の責めに帰すべき事由により、当該商品が納入され又は当該役務が提供された日から相当の期間内に、当該事由を勘案して相当と認められる金額の範囲内(注24)で対価を減額する場合、②対価を減額するための要請が対価に係る交渉の一環として行われ、その額が需給関係を反映したものであると認められる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
(注24) 相当の期間内に対価を減額する場合であっても、無制限に対価を減額することは認められない。例えば、商品に瑕疵がある場合であれば、その瑕疵かしの程度に応じて正当に評価される金額の範囲内で減額を行う必要があるが、これを超えて減額を行うことは、「相当と認められる金額の範囲内」の対価の減額とは認められない。
<想定例>
① 商品又は役務の提供を受けた後であるにもかかわらず、業績悪化、予算不足、顧客からのキャンセル等自己の一方的な都合により、契約で定めた対価の減額を行うこと。
② あらかじめ定められた検査基準を恣意的に厳しくして、発注内容と異なる又は瑕疵があることを理由に、納入価格の値引きをさせること。
③ 自己の一方的な都合により取引の対象となる商品若しくは役務の仕様等の変更、やり直し又は追加的な提供を要請した結果、取引の相手方の作業量が大幅に増加することとなるため、当該作業量増加分に係る対価の支払を約したにもかかわらず、当初の契約で定めた対価しか支払わないこと。
④ セールで値引販売したことを理由に、又は当該値引販売に伴う利益の減少に対処するために、値引販売した額に相当する額を取引の相手方に値引きさせること。
⑤ 毎月、一定の利益率を確保するため、当該利益率の確保に必要な金額を計算して、それに相当する額を取引の相手方に値引きさせること。
⑥ 商品の製造を発注した後であるにもかかわらず、自社で策定したコスト削減目標を達成するために必要な金額を計算して、それに相当する額を取引の相手方に値引きさせること。
⑦ 自己の要請に基づいて設備投資や人員の手配を行うなど、取引の相手方が自己に対する商品又は役務の提供の準備のための費用を負担しているにもかかわらず、自己の一方的な都合により、当該商品又は役務の一部の取引を取りやめ、契約で定めた対価から取引の減少分に係る対価の減額を行うこと。
⑧ 同一商品が他店で安く販売されていることを理由に、納入業者と協議することなく、自店と他店の販売価格の差額分を納入価格から差し引いた対価しか支払わないこと。
⑨ 消費税・地方消費税相当額を支払わないことにより、又は支払時に端数切捨てを行うことにより、契約で定めた対価の減額を行うこと。
⑩ 自己の一方的な都合による設計変更、図面提供の遅延等があったにもかかわらず、取引の相手方の納期延長を認めず、納期遅れのペナルティの額を差し引いた対価しか支払わないこと。
<具体例>
X社は、食品、菓子及び雑貨の各仕入部門が取り扱っている商品について、商品回転率が低いこと、店舗を閉店することとしたこと、季節商品の販売時期が終了したこと又は陳列棚からの落下等により商品が破損したことを理由として、商品の割引販売を行うこととし、割引販売を行うこととした商品の納入業者に対し、その納入価格から当該割引販売前の価格に100分の50を乗じるなどの方法により算出した額の値引きをするよう要請していた。この要請を受けた納入業者の多くは、X社との納入取引を継続して行う立場上、その要請に応じることを余儀なくされ、値引きをしていた(平成20年5月23日排除措置命令・平成20年(措)第11号)。
(5) その他取引の相手方に不利益となる取引条件の設定等
前記第4の1、第4の2及び第4の3(1)から(4)までの行為類型に該当しない場合であっても、取引上の地位が優越している事業者が、取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合には、優越的地位の濫用として問題となる。
一般に取引の条件等に係る交渉が十分に行われないときには、取引の相手方は、取引の条件等が一方的に決定されたものと認識しがちである。よって、取引上優越した地位にある事業者は、取引の条件等を取引の相手方に提示する際、当該条件等を提示した理由について、当該取引の相手方へ十分に説明することが望ましい。
ア 取引の対価の一方的決定
(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、一方的に、著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる(注25)。
この判断に当たっては、対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか、他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか、取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか、通常の購入価格又は販売価格との乖離(かいり)の状況、取引の対象となる商品又は役務の需給関係等を勘案して総合的に判断する。
(注25) 取引の対価の一方的決定は、独占禁止法第2条第9項第5号ハの「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定(中略)すること。」に該当する。
(イ) 他方、①要請のあった対価で取引を行おうとする同業者が他に存在すること等を理由として、低い対価又は高い対価で取引するように要請することが、対価に係る交渉の一環として行われるものであって、その額が需給関係を反映したものであると認められる場合、②ある品目について、セール等を行うために通常よりも大量に仕入れる目的で、通常の購入価格よりも低い価格で購入する場合(いわゆるボリュームディスカウント)など取引条件の違いを正当に反映したものであると認められる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
<想定例>
① 多量の発注を前提として取引の相手方から提示された単価を、少量しか発注しない場合の単価として一方的に定めること。
② 納期までの期間が短い発注を行ったため、取引の相手方の人件費等のコストが大幅に増加したにもかかわらず、通常の納期で発注した場合の単価と同一の単価を一方的に定めること。
③ 通常の発注内容にない特別の仕様を指示したり、配送頻度の変更を指示したりするなどしたため、取引の相手方の作業量が増加し、当該取引の相手方の人件費等のコストが大幅に増加したにもかかわらず、通常の発注内容の場合の単価と同一の単価を一方的に定めること。
④ 自己の予算単価のみを基準として、一方的に通常の価格より著しく低い又は著しく高い単価を定めること。
⑤ 一部の取引の相手方と協議して決めた単価若しくは不合理な基準で算定した単価を他の取引の相手方との単価改定に用いること、又は取引の相手方のコスト減少を理由としない定期的な単価改定を行うことにより、一律に一定比率で単価を引き下げ若しくは引き上げて、一方的に通常の価格より著しく低い若しくは著しく高い単価を定めること。
⑥ 発注量、配送方法、決済方法、返品の可否等の取引条件に照らして合理的な理由がないにもかかわらず特定の取引の相手方を差別して取り扱い、他の取引の相手方より著しく低い又は著しく高い対価の額を一方的に定めること。
⑦ セールに供する商品について、納入業者と協議することなく、納入業者の仕入価格を下回る納入価格を定め、その価格で納入するよう一方的に指示して、自己の通常の納入価格に比べて著しく低い価格をもって納入させること。
⑧ 原材料等の値上がりや部品の品質改良等に伴う研究開発費の増加、環境規制への対策などにより、取引の相手方のコストが大幅に増加したにもかかわらず、従来の単価と同一の単価を一方的に定めること。
⑨ ある店舗の新規オープンセールを行う場合に、当該店舗への納入価格のみならず、自己が全国展開している全店舗への納入価格についても、著しく低い納入価格を一方的に定めること。
⑩ 取引の相手方から、社外秘である製造原価計算資料、労務管理関係資料等を提出させ、当該資料を分析し、「利益率が高いので値下げに応じられるはず」などと主張し、著しく低い納入価格を一方的に定めること。
⑪ 量産期間が終了し、補給品として僅かに発注されるだけで発注数量が減少し、製造に要する費用が大幅に上昇していることを理由に、取引の相手方が量産時の大量発注を前提とした従前の単価の引上げに係る協議を求めたにもかかわらず、これを拒否し、又は無視して、従前の単価と同一の単価を一方的に定めること。
⑫ 取引の相手方に対し、通常の価格より著しく低い又は著しく高い対価での取引を要請し、要請に応じない場合には取引を減らしたり打ち切ったりすることを示唆することにより、取引の相手方と協議することなく、一方的に通常の価格より著しく低い又は著しく高い対価の額を定めること。
⑬ 労務費、原材料費、エネルギーコスト等が上昇し、取引の相手方のコストが大幅に増加したため、取引の相手方が当該コストの増加に関する資料に基づき単価の引上げに関する協議を求めたにもかかわらず、理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、従前の単価と同一の単価を一方的に定めること。
⑭ 取引の相手方が発注される前にあらかじめ発注数量を予測して生産しなければ納品期日に間に合わないような短納期発注に応じることを前提とした発注を行い、取引の相手方である納入業者の生産コスト等が大幅に増加したにもかかわらず、通常の納期で発注した場合と同一の単価を一方的に定めること。
<具体例>
X社は、年2回行われる特別感謝セール及び年間約50回行われる火曜特売セールに際し、一部の店舗において、売上げ増加等を図るため、当該店舗の仕入担当者から、仲卸業者に対し、当該セールの用に供する青果物について、あらかじめ仲卸業者との間で納入価格について協議することなく、例えば、火曜特売セールの前日等に、チラシに掲載する大根、きゅうり、トマト等の目玉商品を連絡し、同商品について仲卸業者の仕入価格を下回る価格で納入するよう一方的に指示する等して、当該セールの用に供する青果物と等級、産地等からみて同種の商品の一般の卸売価格に比べて著しく低い価格をもって通常時に比べ多量に納入するよう要請している。この要請を受けた仲卸業者の多くは、X社との納入取引を継続して行う立場上、その要請に応じることを余儀なくされている(平成17年1月7日勧告審決・平成16年(勧)第34号)。
イ やり直しの要請
(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が、正当な理由がないのに、当該取引の相手方から商品を受領した後又は役務の提供を受けた後に、取引の相手方に対し、やり直しを要請する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる(注26)(注27)。
(注26) 「やり直し」は、独占禁止法第2条第9項第5号ハの「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を(中略)変更し、又は取引を実施すること。」に該当する。
(注27) 取引の相手方から商品を受領する前又は役務の提供を受ける前に、給付内容を変更し、当初の給付内容とは異なる作業をさせる場合については、「減額」(第4の3(4)参照)又は「その他取引の相手方に不利益となる取引条件の設定等」(第4の3(5)ウ参照)として優越的地位の濫用の問題となり得る。
(イ) 他方、①商品又は役務の内容が発注時点で取り決めた条件に満たない場合、②あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て、かつ、やり直しによって当該取引の相手方に通常生ずべき損失を自己が負担する場合、③具体的な仕様を確定させるために試作品を作製することを含む取引において、当該試作品につきやり直しを要請し、かつ当該やり直しに係る費用が当初の対価に含まれていると認められる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。
<想定例>
① 商品又は役務の受領前に、自己の一方的な都合により、あらかじめ定めた商品又は役務の仕様を変更したにもかかわらず、その旨を取引の相手方に伝えないまま、取引の相手方に継続して作業を行わせ、納入時に仕様に合致していないとして、取引の相手方にやり直しをさせること。
② 委託内容について取引の相手方に確認を求められて了承したため、取引の相手方がその委託内容に基づき製造等を行ったにもかかわらず、給付内容が委託内容と異なるとして取引の相手方にやり直しをさせること。
③ あらかじめ定められた検査基準を恣意的に厳しくして、発注内容と異なること又は瑕疵があることを理由に、やり直しをさせること。
④ 取引の相手方が仕様の明確化を求めたにもかかわらず、正当な理由なく仕様を明確にしないまま、取引の相手方に継続して作業を行わせ、その後、取引の相手方が商品を納入したところ、発注内容と異なることを理由に、やり直しをさせること。
ウ その他
(ア) 前記第4の3(1)から(4)まで並びに第4の3(5)ア及びイの行為類型に該当しない場合であっても、取引上の地位が優越している事業者が、一方的に、取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合に、当該取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となる。
(イ) 次に掲げる想定例は、通常、これまでに述べた行為類型のいずれにも当てはまらないものと考えられるが、独占禁止法第2条第9項第5号ハに該当すれば、優越的地位の濫用として問題となる。
<想定例>
① 取引の相手方が取引に係る商品を実際に使用し、又は役務の提供を実際に受けた後に対価の支払を受けることとされている場合において、自己の一方的な都合により、当該取引の相手方がまだ実際に商品を使用していない又はまだ役務の提供を実際に受けていないにもかかわらず、当該取引の相手方に対価を前倒しして支払わせること。
② 特定の仕様を指示して部品の製造を発注し、これを受けて取引の相手方が既に原材料等を調達しているにもかかわらず、自己の一方的な都合により、当該取引の相手方が当該調達に要した費用を支払うことなく、部品の発注を取り消すこと。
③ 取引の相手方に対し、新たな機械設備の導入を指示し、当該機械設備の導入後直ちに一定数量を発注することを説明して発注を確約し、当該取引の相手方が当該機械設備の導入等の取引の実現に向けた行動を採っているのを黙認していたにもかかわらず、自己の一方的な都合により、発注数量を著しく減少する又は発注を取り消すこと。
④ 取引の相手方に対し、債務超過等業績が不振な会社の発生記録による電子記録債権、満期日までのサイトが著しく長い電子記録債権等の支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難な電子記録債権を使用して対価を支払い、通常よりも割高な割引料を負担させること。
⑤ 取引の相手方に対し掛け売りに伴う債権保全のために必要な金額を超えた、著しく高額な保証金を一方的に定め、当該保証金を預託させること。
⑥ 取引の相手方が納期までに納品できなかった場合又は取引の相手方が納入した商品に瑕疵があった場合に、当該取引の相手方に対して課すペナルティについて、その額や算出根拠等について当該取引の相手方と十分協議することなく一方的に定め、納品されて販売していれば得られた利益相当額又は当該瑕疵がなければ得られた利益相当額を超える額を負担させること。
(ウ) なお、次のとおり、フランチャイズ・チェーンの本部が、加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて自己の負担を軽減する機会を失わせている行為が、優越的地位の濫用として問題となったことがある(注28)。
(注28) このような行為も、独占禁止法第2条第9項第5号ハに該当する行為である。なお、フランチャイズ取引における優越的地位の濫用についての考え方の詳細については、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について(平成14年4月24日公正取引委員会)」を参照されたい。
<具体例>
X社は、自己のフランチャイズ・チェーンの加盟者が経営するコンビニエンスストアで廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で、
ア 経営相談員は、加盟者がデイリー商品(品質が劣化しやすい食品及び飲料であって、原則として毎日店舗に商品が納入されるものをいう。以下同じ。)の見切り販売を行おうとしていることを知ったときは、当該加盟者に対し、見切り販売を行わないようにさせる
イ 経営相談員は、加盟者が見切り販売を行ったことを知ったときは、当該加盟者に対し、見切り販売を再び行わないようにさせる
ウ 加盟者が前記ア又はイにもかかわらず見切り販売を取りやめないときは、経営相談員の上司に当たる従業員らは、当該加盟者に対し、加盟店基本契約の解除等の不利益な取扱いをする旨を示唆するなどして、見切り販売を行わないよう又は再び行わないようにさせる
など、見切り販売を行おうとし、又は行っている加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、もって、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている(平成21年6月22日排除措置命令・平成21年(措)第8号)。
以上