第1 本件の概要
本件は,北陸地方と北海道に営業基盤を置く地方銀行の株式会社北陸銀行(以下「北陸銀行」という。)と北海道に経営基盤を置く同じ地方銀行の株式会社北海道銀行(以下「北海道銀行」という。)が,共同営業戦略の展開による経営の効率化と営業力の強化を図ることを目的として,平成16年9月に北陸銀行の親会社である持株会社の株式会社ほくぎんフィナンシャルグループの傘下に北海道銀行が入る形での統合を予定しているものである。
本件の関係法条は,独占禁止法第9条及び第10条である。
第2 独占禁止法上の考え方
1 一定の取引分野
(1) 役務の範囲
本件については,銀行業を営む事業者間の統合であることから,預金業務及び貸出業務のそれぞれについて,一定の取引分野が成立すると判断した。
(2) 地理的範囲
北陸銀行は富山県,石川県,福井県,北海道を主な営業地域とし,北海道銀行は主に北海道を営業地域としていることから,両行の競合する北海道内全域について一定の取引分野が成立すると判断した。
また,両行の営業地域,地域経済の実態等からみて,北海道内の地域別にも一定の取引分野が成立すると判断した。
2 競争への影響
(1) 預金業務
本件統合後の北海道全体における両行の合算シェアは約10%,その順位は第3位となる。
北海道内の地域別にみると,預金業務については,利用者側の事情として利用者の経済的活動の範囲内に支店等が所在する金融機関を利用する傾向にあると認められ,そのような経済圏の範囲で一定の取引分野が成立すると考えられる。
しかしながら,両行の合算シェアが第1位となる経済圏は存在せず,最もシェアが高くなる札幌市を中心とする経済圏においてもシェアが約15%で,その順位も第3位であって,両行を上回るシェアを有する有力な競争事業者が存在するほか,都市銀行,信用金庫,農業協同組合等の競争事業者も多数存在しており,これらの金融機関による活発な競争が認められる。
(2) 貸出業務
ア 北海道全体の市場の状況
北海道全体の両行の合算シェアは約20%,その順位は第2位となる。
順位 | 会社名 | シェア |
---|---|---|
1 | A社 | 約30% |
2 | 北海道銀行 | 約15% |
3 | B社 | 約10% |
4 | 北陸銀行 | 約 5% |
5 | C社 | 約 5% |
その他の金融機関 | 約35% | |
(2) | 両行の合算シェア | 約20% |
合計 | 100% |
(出所:両行の提出資料を基に当委員会にて作成)
しかしながら,北海道全体における貸出業務については,両行を上回るシェアを有する有力な競争事業者のほか,都市銀行,信用金庫,信用組合,農業協同組合等の競争事業者も多数存在しており,これらの金融機関による活発な競争が認められる。
イ 北海道内の地域市場の状況
北海道内の地域別にみると,貸出業務については,借り手側の事情として借り手の経済的活動の範囲内に支店等が所在する金融機関から借入れをする傾向があると認められ,そのような経済圏の範囲で一定の取引分野が成立すると考えられる。
そのうち,両行の合算シェアが高くなる函館市を中心とする経済圏(以下「函館経済圏」という。)及び釧路市を中心とする経済圏(以下「釧路経済圏」という。)について,重点的に検討を行った。
(ア) 函館経済圏
函館経済圏における両行の合算シェアは約30%,その順位は第1位となるが,以下のような状況が認められる。
(1) シェア約25%・第2位の有力な競争事業者が存在するほか,他の地方銀行,信用金庫,農業協同組合等の競争事業者も多数存在しており,これらの金融機関による活発な競争が認められること
(2) 通常,借入れを行う事業会社は,複数の金融機関と取引しており,他の金融機関への借換えが可能な状況にあること
(3) 競争する金融機関の規模や資金調達手段が異なる等,経営の業態に違いがみられ,また,取引先事業者との個別交渉による顧客獲得競争が行われていることなどから,これらの金融機関の間において協調的な行動をとることが困難であると認められること
順位 | 会社名 | シェア |
---|---|---|
1 | A社 | 約25% |
2 | 北海道銀行 | 約20% |
3 | 北陸銀行 | 約10% |
4 | B社 | 約10% |
5 | C社 | 約10% |
その他の金融機関 | 約25% | |
(1) | 両行の合算シェア | 約30% |
合計 | 100% |
(出所:両行の提出資料を基に当委員会にて作成)
(イ) 釧路経済圏
釧路経済圏における両行の合算シェアは約25%,その順位は第2位となるが,以下のような状況が認められる。
(1) シェア約25%・第1位の有力な競争事業者が存在するほか,他の地方銀行,信用金庫,農業協同組合等の競争事業者も多数存在しており,これらの金融機関による活発な競争が認められること
(2) 通常,借入れを行う事業会社は,複数の金融機関と取引しており,他の金融機関への借換えが可能な状況にあること
(3) 競争する金融機関の規模や資金調達手段が異なる等,経営の業態に違いがみられ,また,取引先事業者との個別交渉による顧客獲得競争が行われていることなどから,これらの金融機関の間において協調的な行動をとることが困難であると認められること
順位 | 会社名 | シェア |
---|---|---|
1 | A社 | 約25% |
2 | 北海道銀行 | 約15% |
3 | 北陸銀行 | 約10% |
4 | B社 | 約10% |
5 | C社 | 約10% |
その他の金融機関 | 約30% | |
(2) | 両行の合算シェア | 約25% |
合計 | 100% |
(出所:両行の提出資料を基に当委員会にて作成)
3 結論
以上の状況から,両行の提出資料等を前提とすれば,本件統合により,北海道全体及び北海道の各地域における預金業務分野及び貸出業務分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。