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(平成17年度:事例1)ユニ・チャーム株式会社による株式会社資生堂からの生理用品事業の譲受けについて

(平成17年度:事例1)ユニ・チャーム株式会社による株式会社資生堂からの生理用品事業の譲受けについて

第1 本件の概要

 本件は,ユニ・チャーム株式会社(以下「ユニチャーム」という。)が,株式会社資生堂(以下「資生堂」という。)から生理用品事業を譲り受けることを計画したものである。
 本件の関係法条は,独占禁止法第16条である。

第2 一定の取引分野

1 製品概要

(1) ナプキン

 ナプキンは,女性の月経の際に使用する製品であり,経血量,使用時間帯,価格帯等により下表の5種類に分かれる。

種類 使い分け 平均価格
(円/個)
(1)軽い日用 生理日前後(始まりかけ等)の経血量の少ない期間に使用。快適性を重視し,できるだけ小さく違和感のない薄いものを使用。 約10円




(2)薄型以外 主に生理日の4~5日目に使用。漏れない安心感,快適性及び価格のバランスを重視。 約6円
(3)薄型 主に生理日の4~5日目に使用。携帯性や快適性を最も重視。 約13円
(4)長時間用 主に経血量が多い生理日の1~3日目に使用。外出時や旅行時等,長時間交換できないときにも使用される。 約17円
(5)夜用 生理日内の夜間に使用。漏れない安心感と違和感の無さなどを重視。 約23円

 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

(2) ライナー

 ライナーは,主におりものを吸収するために使用する製品であり,形状や構造はナプキンとほぼ同様であるが,ナプキンに比べて吸収量が少なく小型で薄い。
 ライナーにも形状等により数種類の製品ラインナップが存在するが,最終消費者が使用するに際して,機能・効用に大きな違いがあるわけではなく,各製品間の代替性は高いと認められる。

2 代替品について

(1) ナプキンの代替品

 女性の月経時に使用する製品として,タンポンがある。タンポンは,ナプキンに比べて使用方法が難しいこと等から,すべての女性が使用できるわけではない。また,ナプキンとタンポンを併用している最終消費者であっても,水泳や入浴時等,ナプキンが使用できない場合にタンポンを使用しているケースも多いと認められることから,タンポンは,ナプキンの代替品とは認められない。

(2) ライナーの代替品

 ライナーには,他に代替が可能な製品は存在しない。

3 一定の取引分野の画定

(1) ナプキン

 ナプキンは,経血量,使用時間帯,価格帯等によって5種類の製品に使い分けられており,各種類間の代替性は低い。また,ナプキンに代わる代替品は存在しないと認められることから,(1)軽い日用,(2)普通の日用・薄型以外,(3)普通の日用・薄型,(4)長時間用,(5)夜用のそれぞれについて一定の取引分野を画定した。
 また,当事会社を含むナプキンの製造販売業者は全国を事業地域としており,商品の特性や輸送費用等からみて特段の事情も認められないことから,地理的範囲は全国で画定した。

(2) ライナー

 形状等により数種類のラインナップが存在するが,最終消費者は明確な使い分けを行っていない。また,ライナーに代わる代替品は存在しないと認められることから,ライナー全体について一定の取引分野を画定した。
 また,当事会社を含むライナーの製造販売業者は全国を事業地域としており,商品の特性や輸送費用等からみて特段の事情も認められないことから,地理的範囲は全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 ナプキン

(1) 市場の状況

 ナプキン全体の市場規模は平成17年度見込みで約886億円となっており,生理用品対象人口の減少等の影響により市場は減少傾向にある。
 各取引分野におけるシェアの状況(平成16年度販売金額ベース)は下表のとおりである。
 いずれの製品についても,資生堂のシェアはそれほど大きくはなく,特にユニチャームが65%程度のシェアを占める「軽い日用」では,資生堂のシェアが小さいため,本件行為に伴うシェアの増加分やHHIの増加分は小さくなっている。

(1) 軽い日用
順位 会社名 シェア
1 ユニチャーム 約65%
2 A社 約30%
3 B社 約5%
4 資生堂 0~5%
(1) 当事会社合算 約65%
  合計 100%
HHI 約5,100
HHI増加分 約150
(2) 普通の日用・薄型以外
順位 会社名 シェア
1 ユニチャーム 約35%
2 C社 約30%
3 D社 約15%
4 E社 約10%
5 資生堂 約5%
6 F社 0~5%
  その他 0~5%
(1) 当事会社合算 約40%
  合計 100%
HHI 約3,000
HHI増加分 約300
(3) 普通の日用・薄型
順位 会社名 シェア
1 G社 約35%
2 H社 約30%
3 ユニチャーム 約15%
4 資生堂 約10%
5 I社 約10%
  その他 0~5%
(3) 当事会社合算 約25%
  合計 100%
HHI 約3,000
HHI増加分 約300
(4) 長時間用
順位 会社名 シェア
1 ユニチャーム 約40%
2 J社 約25%
3 K社 約20%
4 L社 約15%
5 資生堂 約5%
  その他 0~5%
(1) 当事会社合算 約45%
  合計 100%
HHI 約3,000
HHI増加分 約400
(5) 夜用
順位 会社名 シェア
1 ユニチャーム 約40%
2 M社 約30%
3 N社 約15%
4 O社 約10%
5 資生堂 約5%
  その他 0~5%
(1) 当事会社合算 約45%
  合計 100%
HHI 約3,000
HHI増加分 約400

 (出所:いずれも当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

 以下の考慮要因は,各取引分野共通の内容であるため,まとめて検討を行う。

(2) 競争事業者の存在

 各取引分野には,10%以上のシェアを有する有力な競争事業者が存在する。

(3) 各メーカーによる新製品の発売状況

 パッケージデザイン等のリニューアルを含めて,各メーカーにおける新製品の発売頻度は高く(半年~1年),大手メーカーの製品アイテム数は多い。また,メーカー各社は新たなコンセプトを打ち出し,独自の商品展開を行うことによって商品の差別化を図っているが,競争事業者による対抗製品の投入については,約1年以内に素早く行われている。

(4) 競争事業者の供給余力

 製造設備の一部の部品付け替え等を行うことによって,同一製造ラインで長さ等の異なる複数の製品を製造することが可能であることから,いずれの取引分野についても,ナプキン全体の稼働率によって供給余力の有無を判断することが適当と考えた。
 各社の販売数量実績等を考慮すると,各社とも稼働率は低いと考えられる。

(5) 価格設定方法

 (1)取引先との間では様々なリベートがあり,複数の種類のリベートを組み合わせて支給しているところ,リベートの種類が各メーカーで異なっていること,(2)基本的な商流が異なるため当事会社とは価格決定方法が異なるメーカーが存在すること等から,各メーカーが競争事業者の実質的な販売価格について推測することが困難な状況となっている。

(6) 取引先の価格交渉力

 (1)需要の大幅な伸びが見込めない市場であること,(2)売上の多くを占める大手ドラックストア等の大規模小売店では,小売店間の競争が激しいため,当該小売店からの仕入価格の引下げの圧力が強いこと等から,取引先である卸・小売店の価格交渉力が強い。

(7) 当事会社間の製品の代替性

 各メーカーは売上を伸ばすため,自社製品に特徴や付加価値を付与してきた結果,ナプキンは差別化の程度の強い製品となっている。
 当事会社の商品間の代替性をみると,(1)一方の当事会社の商品を使用している最終消費者は,今後使用する意向のあるブランド等として,他方の当事会社の商品よりも競争事業者の商品を挙げていること,(2)一方の当事会社のシェアが上昇した場合に他方の当事会社のシェアが下落する傾向(あるいはその逆の動き)はみられないこと,(3)各商品の価格・数量データを用いて,各メーカーの商品間の需要の交差弾力性を計測したところ,当事会社間の交差弾力性よりも当事会社と他事業者との間の交差弾力性の方が大きいとの結果が得られたことから,両当事会社の商品間の代替性は相対的に低いと認められる。

(注)1 商品がブランド等により差別化されている場合,代替性の高い商品を販売する会社(例えば,A社とB社)の間で企業結合が行われ,他の事業者が当該商品と代替性の高い商品を販売していないときには,A社商品の価格引上げにより当該商品の需要者の多くはB社に流れることとなるから,企業結合後のA+B社全体では値上げによる顧客流出が起きず,売上高が減少しないことになる。このため,当事会社による単独の価格引上げが可能となり,競争を制限することとなるおそれがあることから,当事会社の商品間の代替性の程度が問題となる。

(注)2 需要の交差弾力性とは,A商品の価格が1%上昇した場合に,A商品と競合関係にあるB商品の需要が何%増加するかを示す指標であり,需要の交差弾力性が正の大きな値になるほど,A商品とB商品の代替性は大きいと評価される。

2 ライナー

(1) 市場の状況

 ライナーの市場規模は平成17年度見込みで約118億円となっており,緩やかな拡大傾向で推移している。
 本件行為後の当事会社合算金額シェア・順位(平成16年度)は,約30%・第2位(行為後HHI 約2,900,HHI増加分 約30)となる。

順位 会社名 シェア
1 P社 約40%
2 ユニチャーム 約30%
3 Q社 約15%
4 R社 約15%
5 資生堂 0~5%
(2) 当事会社合算 約30%
  合計 100%

 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

(2) シェア推移

 過去数年間のシェア推移をみると,メーカー間におけるシェアの変動が頻繁に起きている状況が認められる。ただし,資生堂については,常に低いシェアで推移している。

第4 独占禁止法上の評価

1 ナプキン

(1) 単独行動による競争の実質的制限について

 5種類の製品のいずれについても,資生堂のシェアはそれほど大きくはなく,特にユニチャームが65%程度のシェアを占める「軽い日用」では,資生堂のシェアが小さいため,本件行為に伴うシェアの増加分やHHIの増加分は小さくなっている。また,ナプキンは,各メーカーの製品ごとに差別化が生じているが,当事会社間の製品の代替性は低く,ユニチャームに対しては,資生堂以外のメーカーが強い代替性を有していると認められる。さらに,各取引分野には有力な競争事業者が存在し,各メーカーは供給余力を有していると認められる。
 したがって,当事会社の単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(2) 協調的行動による競争の実質的制限について

 5種類の製品のいずれについても,資生堂のシェアはそれほど大きくはなく,特にユニチャームが65%程度のシェアを占める「軽い日用」では,資生堂のシェアが小さいため,本件行為に伴うシェアの増加分やHHIの増加分は小さくなっている。また,新製品の発売頻度は高く,競争事業者からは当該新製品への対抗製品も約1年以内に投入されている。さらに,様々なリベートが存在すること等から競争事業者の実質的な販売価格を推定することは難しく,各メーカーの製品ごとに差別化が生じていることから,競争事業者の行動を予測することも困難であると認められる。
 したがって,当事会社と競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 ライナー

(1) 単独行動による競争の実質的制限について

 資生堂のシェアが小さいため,本件行為に伴うシェアの増加分やHHIの増加分は小さいこと,有力な競争事業者が複数存在することから,当事会社の単独行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(2) 協調的行動による競争の実質的制限について

 各メーカー間でのシェア変動が頻繁に生じている状況が認められること等から,当事会社と競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,上記第2の3で画定した取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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