第1 本件の概要
本件は,ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)と日本電気株式会社(以下「NEC」という。)が,平成18年4月を目途に,共同新設分割の方法による光ディスクドライブ事業に係る合弁会社を設立することを計画したものである。
本件の関係法条は,独占禁止法第15条の2である。
第2 一定の取引分野
1 製品概要
光ディスクドライブは,光ディスク(レーザー光によってデジタル情報を記録した記録盤)に情報の記録・読み取りを行うための装置である。光ディスクは,高耐久性・大容量等の特徴から,音楽,映画,写真,コンピュータのデータ等の記録媒体として広く用いられている。
光ディスクには,ディスクの直径,ピット(情報を記録するためにディスクに刻まれる凹凸)の作り方などの違いにより様々な種類があり,それぞれについて記録方式(フォーマット)が設定されている。光ディスクドライブは,フォーマットへの対応状況から,CD-ROMドライブ,CD-RWドライブ,DVD-ROMドライブ,COMBOドライブ,DVD±RWドライブ等に分類される。
光ディスクドライブは,その種類ごとに物理的な仕様・記録方式が定められているため,一般的には同じ種類の光ディスクドライブであれば,メーカーは異なってもその機能・効用に大差はない。
ドライブの種類 | 対応フォーマット | 特徴 |
---|---|---|
CD-ROM ドライブ |
CD-ROM |
|
CD-RW ドライブ |
CD-ROM CD-R/RW |
|
DVD-ROM ドライブ |
CD-ROM DVD-ROM |
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COMBO ドライブ |
CD-ROM CD-R/RW DVD-ROM |
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DVD±RW ドライブ |
CD-ROM CD-R/RW DVD-ROM DVD-R/RW DVD+R/RW DVD-RAM |
|
(注) CD-R,CD-RWは,共に書き込みができるが,CD-Rは一度書き込んだら上書きできないのに対し,CD-RWは何度でも上書きができるという違いがある。
DVDの「+」と「-」は,フォーマットの策定組織の違いに起因するものであり,記録と再生の基本的な仕組みは同じであるが,書き込みの場合には,それぞれの規格に対応した機器を使用する必要がある。
2 光ディスクドライブメーカー
世界には光ディスクドライブメーカーは多数存在しているが,世界規模で事業を行っている主要メーカーは,当事会社を含めて10社程度存在する。主要光ディスクドライブメーカーは,生産拠点を主にアジア地域に置き,全世界に光ディスクドライブを供給している。
3 光ディスクドライブの取引
光ディスクドライブのユーザーとしては,パソコンの内蔵ドライブ搭載用に使用するパソコンメーカーのほか,自社ブランドの外付け・取替用ドライブに使用する周辺機器メーカーなどが存在する。
(1) 大手パソコンメーカー向けの販売
大手パソコンメーカー向けについては,光ディスクドライブメーカーが直接販売を行う。大手パソコンメーカーは,世界各地に所在する生産拠点で必要とする光ディスクドライブを本社で一括して調達しているところが多く,光ディスクドライブの本体価格は,世界のどの生産拠点向けに納入されるものであっても同一であるのが基本である。
光ディスクドライブメーカーは,納入する製品に高い品質が求められ,かつ,大手パソコンメーカーの世界各地の生産拠点に自ら納入することが求められる。他方,主要な光ディスクメーカーであればいずれもこのような条件を満たしていることから,大手パソコンメーカーは世界各地の複数の主要光ディスクドライブメーカーから見積りを取り,価格・品質・納期などの取引条件を競わせた上で調達先を選定している。
(2) ディストリビューター経由の取引
周辺機器メーカー等向けの光ディスクドライブは,ディストリビューターを通じて販売されている。ディストリビューターは,小口ユーザーの需要を取りまとめる役割を果たしている。
4 当事会社間の取引関係
光ディスクドライブの核となるデバイスには,データの記録や再生を行うためのレーザー光源と受光部から構成される記録再生部品である「光ピックアップ」と,光ピックアップの制御やディスクの記録再生に必要な信号処理システムの核となる電子回路である「フロントエンドLSI」の2つがある。
光ディスクドライブメーカーには,これらの部品を内製しているものと,他の光ディスクドライブメーカー(その関連会社を含む。)から購入しているものとがいるところ,ソニーはNECからのフロントエンドLSI購入を検討しており,NECはソニーから光ピックアップを購入していたこともある。
5 一定の取引分野の画定
当事会社は,光ディスクドライブメーカーである一方,光ディスクドライブ用部品のメーカーでもある。したがって,本件は,光ディスクドライブメーカー同士の水平型企業結合の側面と,光ディスクドライブメーカーと部品メーカーとの垂直型企業結合の側面を併せ持つことから,それぞれについて検討を行った。
(1) 水平型企業結合
ア 大手パソコンメーカー向けとディストリビューター向け
第2の3でみたとおり,大手パソコンメーカー向けの販売形態とディストリビューター向けの販売形態は異なることから,それぞれの販売形態ごとに一定の取引分野は異なると判断した。
イ 商品範囲
本格的な量産・販売が行われており,当事会社が共に事業を行っている光ディスクドライブは,CD-ROM,CD-R/RW,DVD-ROM,COMBO及びDVD±RWの5種類である。この5種類は,それぞれ使用できる光ディスクの種類や機能の面で異なっていることから,5種類の光ディスクドライブそれぞれについて一定の取引分野を画定した。
ウ 地理的範囲
当事会社を含む光ディスクドライブメーカーの取引の実態は第2の3のとおりであり,国内の市場を更に細分化する特段の事情も認められないことから,大手パソコンメーカー向け及びディストリビューター向けともに,地理的範囲は全国で画定した。
ただし,上記3(1)のとおり,大手パソコンメーカー向けの市場について,大手パソコンメーカーは全世界における需要を本社で一括して調達しており,光ディスクドライブメーカーが設定する製品価格は,世界的に統一価格で設定されている。また,大手パソコンメーカーは,世界各地の複数の主要光ディスクドライブメーカーから見積りを取り,価格・品質・納期などの取引条件を競わせた上で調達先を選定している。これらのことから判断すると,大手パソコン向け販売市場については,実態として世界全体で一つの市場が形成され,世界における競争の状況が国内における競争に反映されていると判断した。
したがって,以下では,大手パソコンメーカー向けについては,本件企業結合が光ディスクドライブメーカーと大手パソコンメーカーとの間の世界レベルでの取引に与える影響を分析し,それに基づき国内の取引に与える影響を判断した。
(2) 垂直型企業結合
光ディスクドライブメーカーは,光ピックアップとフロントエンドLSIを調達して,光ディスクドライブの製造販売を行っている。よって,光ピックアップの製造販売市場及びフロントエンドLSIの製造販売市場が川上市場,光ディスクドライブの製造販売市場が川下市場となる。
また,光ディスクドライブメーカー,光ピックアップメーカー,フロントエンドLSIメーカーの国内における事業活動は日本全国を対象としていることから,一定の取引分野の地理的範囲は全国で画定した。
ただし,川下市場の光ディスクドライブメーカー並びに川上市場の光ピックアップメーカー及びフロントエンドLSIメーカーのいずれも実質的な製造拠点はアジア地域にあり,取引先の選定の過程で輸送コストが問題になることはないこと等から,2つの光ディスクドライブ部品の販売及び調達は世界的に行われており,実態として世界全体で一つの市場が形成され,世界における競争の状況が国内における競争に反映されていると判断した。
したがって,本件企業結合が光ピックアップメーカー,フロントエンドLSIメーカーと光ディスクドライブメーカーとの間の世界レベルでの取引に与える影響を分析し,それに基づき国内の取引に与える影響を判断した。
第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討
1 市場の動向
光ディスクドライブ市場は,パソコン向け需要の拡大に伴い,大幅に拡大してきた。パソコンへの光ディスクドライブの搭載は一般化したことから,今後,光ディスクドライブ全体では大幅な成長は期待できないが,製品の種別,構成を大きく変化させながら,全体として堅調な成長が持続するとみられている。
ドライブの種類ごとにみると,DVD±RWドライブが急速な伸びを示している。これは,パソコンのテレビ化が進み,ハードディスクに保存した映像データをDVDに移すという使用法が定着してきたことや,複数フォーマット対応に対するユーザーの安心感,価格低下・付加価値を求めるパソコンメーカー側の要求等がかみ合った結果によるものとみられる。
他方,CD-RWドライブは,DVD±RWドライブ等の台頭により,市場が縮小してきている。また,CD-ROMドライブやDVD-ROMドライブといった再生専用機は,用途が限定的になりつつあるため出荷数量は減少しているが,情報管理の観点からオフィス用パソコン向けの需要は安定的に存在しており,また,中国や東欧など新興市場への浸透などを背景に,市場規模の縮小は緩やかに進むものとみられている。
2 水平型企業結合
(1) 大手パソコンメーカー向けの光ディスクドライブの製造販売市場への影響
ア 市場シェア
大手パソコンメーカー向けの光ディスクドライブ5製品の世界レベルでの当事会社の合算シェアをみると,10%を超えることとなるのは,以下の「CD-R/RWドライブ」と「DVD±RWドライブ」の2製品である。
その他の製品は,いずれも当事会社の合算シェアが10%以下であり,本件企業結合により,直ちに競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。
ソニー | 約10% |
---|---|
NEC | 約0~5% |
当事会社合算 | 約10% |
NEC | 約30% |
---|---|
ソニー | 約5% |
当事会社合算 | 約35% |
(出所:いずれも当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
(注) 当事会社は光ディスクドライブ各製品の製造販売市場における競争事業者のシェアは不明であるとしている。
イ 競争事業者の存在
競争事業者のシェアは不明であるものの,有力な光ディスクドライブメーカーは複数存在する。
ウ 取引先変更の容易性
第2の1のとおり,同じ種類の光ディスクドライブであれば,光ディスクドライブメーカーの製品間に機能面での差はない。大手パソコンメーカーは,光ディスクドライブに記録品質の悪さ等の問題が発生すると,パソコン自体の性能評価にかかわることになるため,光ディスクドライブの性能・品質について厳しくチェックを行っている。光ディスクドライブメーカーは,パソコンメーカーの性能・品質に対する厳しい要求に対応するため,性能・品質の向上に努めており,主要光ディスクドライブメーカー間には,ユーザーが取引先を変更することを妨げるような大きな技術差はない。
エ ユーザーの価格交渉力
第2の3(1)のとおり,大手パソコンメーカーは複数のディスクドライブメーカーから見積りを取って取引条件を競わせた上で調達先を選定しており,非常に強い価格交渉力を有している。
(2) ディストリビューター向けの光ディスクドライブの製造販売市場への影響
日本国内のディストリビューター向け市場における本件行為後の当事会社の合算シェアは,光ディスクドライブ5製品いずれについても10%以下であり,本件企業結合により,直ちに競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。
3 垂直型企業結合
川上市場である光ディスクドライブ向け光ピックアップの製造販売市場における全世界レベルでのソニーのシェアは約5%,フロントエンドLSIの製造販売市場における全世界レベルのNECのシェアは約10%にすぎない。また,川下市場である光ディスクドライブの全製品でみた本件行為後の当事会社の合算シェアは,全世界レベルでみて約10%と小さい。
[川上市場]
順位 | 会社名 | シェア |
---|---|---|
1 | A社 | 約35% |
2 | B社 | 約15% |
3 | C社 | 約10% |
4 | ソニー | 約5% |
5 | D社 | 約5% |
その他 | 約30% | |
合計 | 100% |
順位 | 会社名 | シェア |
---|---|---|
1 | E社 | 約45% |
2 | F社 | 約15% |
3 | NEC | 約10% |
4 | G社 | 約5% |
5 | H社 | 約5% |
その他 | 約20% | |
合計 | 100% |
(出所:いずれも当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
[川下市場]
メーカー名 | シェア |
---|---|
ソニー | 約5% |
NEC | 約5% |
当事会社合算 | 約10% |
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
第4 独占禁止法上の評価
1 水平型企業結合
(1) 単独行動による競争の実質的制限について
検討対象とした2製品について,シェアの増分は小さい。また,有力な競争事業者が複数存在していること,取引先である大手パソコンメーカーは非常に強い価格交渉力を有していることから,当事会社の単独行動により世界レベルでみた競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
したがって,一定の取引分野(日本国内)においても,当事会社の単独行動により競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
(2) 協調的行動による競争の実質的制限について
光ディスクドライブメーカーは多数存在すること,大手パソコンメーカーは,複数の光ディスクドライブメーカーから見積りを出させた上で調達先を選定するなど非常に強い価格交渉力を有していること等から,当事会社と競争事業者の協調的行動により,世界レベルでみた競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
したがって,一定の取引分野(日本国内)においても,当事会社と競争事業者の協調的行動により,競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
2 垂直型企業結合
川上市場及び川下市場のいずれについても,当事会社のシェアが10%程度と小さく,本件行為により市場の閉鎖性・排他性等の問題は生じないと認められる。このため,本件行為によって,世界レベルでみた競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
したがって,一定の取引分野(日本国内)においても,競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。
第5 結論
以上の状況から,本件行為により,上記第2の5で画定した一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。