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(平成18年度:事例10)Boston Scientific Corporation によるGuidant Corporation の株式取得について

(平成18年度:事例10)Boston Scientific Corporation によるGuidant Corporation の株式取得について

第1 本件の概要

1 本件は,医療機器製造販売業者であるBoston Scientific Corporation(本社米国。以下「米国ボストン」という。)が,同じく医療機器製造販売業者であるGuidant Corporation(本社米国。以下「米国ガイダント」という。)の株式を取得することを計画したものである。

2 当事会社は,世界各地において医療機器の販売を行っており,我が国においても,当事会社の日本法人及び医療機器製造販売業者を通じて,当事会社の製品が販売されている。
 米国ガイダントの主たる事業は以下の4分野であり,このうち(3)及び(4)については,米国ボストンと競合関係にある。

(1) 「心臓外科手術(以下「CS」という。)用医療機器」

(2) 「心臓律動管理(以下「CRM」という。)用医療機器」

(3) 「経皮的冠動脈形成術(以下「PTCA」という。)用医療機器」

(4) 「経皮的血管形成術(以下「PTA」という。)用医療機器」

3 米国ボストンは,本件株式取得に伴い,米国ガイダントの営む上記2(3)及び(4)の2分野について,その全世界向け事業のすべてを,医療機器製造販売業者であるAbbott Laboratories(本社米国。以下「米国アボット」という。)に売却する予定である。
 なお,米国アボットは,上記2(3)及び(4)の事業のうちのごく一部について,米国ガイダントと競合関係にある。

4 また,米国ガイダントの日本法人である日本ガイダント株式会社(以下「日本ガイダント」という。)が営むPTCA用医療機器及びPTA用医療機器の販売事業については,米国アボットの日本法人であるアボットジャパン株式会社(以下「日本アボット」という。)の子会社であるアボット・ヴァスキュラー・デバイシス・ジャパン株式会社(以下「AVDJ」という。)に譲渡されることとなっている(ただし,米国ガイダントは,現在,我が国において,PTA用医療機器を販売していない。)。

5 なお,米国ガイダントのPTCA事業のうち,同社が現在開発中のPTCA用薬剤溶出ステント(以下「DES」という。)については,米国ボストンは,米国アボットに対する事業譲渡が行われた後においても,米国ボストンから,事業譲渡前に米国ガイダントが開発した製造技術に係るライセンスを受ける権利及び同技術を利用した製品の供給を一定期間受ける権利を保有することができるものとされている。

6 本件については,米国ボストンによる米国ガイダントの株式取得及び米国アボットによる米国ガイダントが営む事業の譲受けのそれぞれについて,競争に与える影響を検討する必要がある。
 したがって,関係法条は,前者については独占禁止法第10条,後者については独占禁止法第16条である。

第2 一定の取引分野

 当事会社間の競合関係についてみると,我が国において,米国ボストン,米国ガイダント及び米国アボットの3社が現に競合関係にある又は潜在的な競合関係にある医療機器は,「PTCA用バルーンカテーテル」,「PTA用バルーンカテーテル」,「PTA用ステント」,「胆管用ステント」及び「DES」の5製品分野であり,これらについては,ユーザーである医師にとっての機能・効用等の観点からみて,それぞれ,一定の取引分野と画定した。(各製品の概要は,別紙参照。)

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討及び独占禁止法上の評価

 第2で画定した一定の取引分野のそれぞれについて,本件が競争に与える影響についてみると,以下のとおりである。

1 PTCA用バルーンカテーテル

 我が国では,米国ガイダントと米国アボットの両社の製品が販売されており,両社は現に競合関係にあるが,結合後における合算シェアの増分はわずかであり,また,10%を超えるシェアを有する競争事業者が複数存在している。
 このため,米国アボットが米国ガイダントの事業を譲り受けたとしても,それによって我が国の市場における競争が実質的に制限されることとはならないと考えられる。

2 PTA用バルーンカテーテル,PTA用ステント及び胆管用ステント

 我が国では,米国アボットの製品は販売されているが,米国ガイダントの製品は,欧米では販売されているものの我が国では販売されていない。
 このため,米国アボットが米国ガイダントの事業を譲り受けたとしても,それによって我が国の市場における競争が実質的に制限されることとはならないと考えられる。

3 DES

(1) 現在,我が国において,厚生労働省の承認を得てDESを販売しているものは1社しかおらず,同社は,我が国における唯一のDESの供給者である。
 また,米国ボストン,米国ガイダント及び米国アボットの本件当事会社3社は,いずれも日本のDES市場への参入に向けて承認申請又は治験を行っており,我が国のDES市場において潜在的競合関係にある。

(2) 本件当事会社3社のうち,まず,米国アボットが米国ガイダントのDESを含むPTCA用医療機器事業を譲り受けることについてみると,米国アボットは,自ら開発中の製品に加えて,米国ガイダントが開発中の製品も得ることとなる。

(3) また,米国ボストンが,米国アボットから,米国ガイダントが保有する技術ライセンスの供与及び同技術を利用した製品の供給を受けることができることについてみると,米国ボストンは,自己が製造販売する製品の外に米国ガイダントの技術も利用できるようになることから,本件統合により,同社のDESに係る潜在的事業能力が高まることとなる。

(4) しかし,我が国において唯一DESを供給している事業者の製品は医師から高い評価を受けていることから,同社のDESは引き続き高いシェアを維持する見込みであること,今後,他のメーカーも次々と我が国の市場に参入してくる見込みであること等にかんがみれば,我が国のDES市場では,今後,各メーカー間で活発な競争が行われる蓋然性が高いと考えられ,このため,本件統合により同市場における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

第4 結論

 以上のことから,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

別紙1 PTCAについて

 PTCAは,心臓冠動脈の狭窄部にカテーテルを通すことにより血管を拡張する手術である。PTCAの基本的な手術方法は,(1)患者の手首又は太股の動脈から筒状になっているガイディングカテーテルを心臓冠動脈の入口部まで挿入し,(2)ガイディングカテーテルの中にガイドワイヤーを挿入し,(3)バルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿って挿入し,(4)バルーンを拡張することにより患部の血流を確保し,(5)必要に応じステントを患部に留置することにより血流を確保し,(6)バルーンカテーテル,ガイドワイヤー及びガイディングカテーテルを引き抜くことにより終了する。
 従来,(5)の過程で薬剤を塗布していないステント(BMS)が使用されていたが,ステントが心臓冠動脈の血管壁を傷つけた場合,傷を修復するために内膜細胞が増殖して血管が再び狭くなる再狭窄が起こり,再治療が必要となることがあった。近年,ステントに薬剤を塗布することによって,再狭窄の原因となる細胞の増殖を抑制するDESが開発されており,これを使用した場合には,再狭窄の発生を極めて低く抑えることができることから,現在では,DESを用いた治療が主流となっている。

2 PTAについて

 心臓冠動脈以外の血管に係る疾患について,PTCAとほぼ同様に,血管内の狭窄部にカテーテルを通すことにより血管を拡張する手術(PTA)が行われている。PTAでは,PTCAと同様,ガイディングカテーテル,ガイドワイヤー,バルーンカテーテル,ステント等が用いられるが,PTA用機器とPTCA用機器の間に互換性はない。
 また,胆管又はその周辺部に発生した悪性腫瘍などによって,胆管が狭窄した場合にも,PTCAとほぼ同様に,胆管内の狭窄部にカテーテルを通すことにより胆管を拡張する手術が行われるが,その際に使用されるステントは胆管用ステントと呼ばれている。

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