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(平成18年度:事例11)株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズとジェイサット株式会社の経営統合について

(平成18年度:事例11)株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズとジェイサット株式会社の経営統合について

第1 本件の概要

 本件は,通信衛星による放送(以下「CS放送」という。)に係るプラットフォーム事業等を営む株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(以下「SKP」という。)と通信衛星による伝送事業を営むジェイサット株式会社(以下「JSAT」という。)が,持株会社の100%子会社となる形態で経営統合することを計画したものである。
 関係法条は,独占禁止法第10条である。

第2 一定の取引分野

1 放送と通信の概要

 我が国におけるコンテンツ提供の形態としては,放送と通信がある。放送には,例えば,衛星放送・ケーブルテレビ放送(以下「CATV」という。)・地上放送等があり,通信には,例えば,インターネットや電話等がある。さらに,放送と通信は,顧客に対して無料でコンテンツを提供するものと顧客に対して有料でコンテンツを提供するものに分けられる。前者は,広告収入を主たる収入源とするものであり,後者は,顧客からの視聴料を主たる収入源とするものである。
 放送においては,平成8年にCS放送が初めてデジタル放送を開始した後,各放送・通信事業はアナログ方式(映像をアナログ変調方式により伝送する方式)からデジタル方式(映像をデジタル信号により伝送する方式)への移行を進めているところ,現在,アナログによるCS放送は行われておらず,放送衛星による放送(以下「BS放送」という。)についても,アナログによる放送が平成23年までに終了する予定である。また,平成22年に予定されている全国ブロードバンド化,翌年7月24日に予定されている地上アナログ放送から地上デジタル放送への完全移行など,ここにきてデジタル化への動きが急速に進んでいる。通信においては,インターネット網のブロードバンド化やワンセグの普及発展により放送に類似した通信サービスが実現されつつあり,現在では放送と通信の境目がなくなりつつある。以下では,放送に類似した通信サービスも含めて「放送事業」と呼ぶ。

2 CSデジタル放送

(1) 仕組みについて

 当事会社は,CSデジタル放送に係る事業を行っている。日本のCSデジタル放送は,番組を提供する「委託放送事業者(注1)」と,通信衛星から電波で番組を届ける「受託放送事業者(注2)」,さらに両者の仲立ちをする「プラットフォーム事業者」により構成されている。3者間における取引関係をみると,委託放送事業者は受託放送事業者にトランスポンダ(衛星に搭載された電波の中継器)使用料を支払い,プラットフォーム事業者には放送信号のデジタル化委託料を支払っている。また,受託放送事業者はプラットフォーム事業者にデジタル化した放送信号の多重化からアップリンクまでの作業委託料を支払っている。現在,プラットフォーム事業者はSKPのみであり,受託放送事業者はJSATを含めて2社である。SKPを通じて,東経124度及び128度上のJSATの通信衛星を利用した「スカパー!」,東経110度上のJSATを含めた2社共同の通信衛星を利用した「スカパー!110」(注3)などの多チャンネル放送が提供されている。

(注1) 放送法上の名称。また,電気通信役務利用放送法上の名称は電気通信役務利用放送事業者であるが,すべてを総称して「番組供給事業者」と呼ぶこととする。
(注2) 放送法上の名称。また,電気通信事業法上の名称は電気通信事業者であるが,すべてを総称して「伝送事業者」と呼ぶこととする。
(注3) 平成19年2月に「e2 by スカパー!」と名称を変更している。

(2) 送受信の流れ

 CSデジタル放送においては,地上放送と同様に,番組供給事業者によって放送番組が供給されるが,放送番組の多くはアナログ信号によって制作されるため,通信衛星を通じて放送するためには,アナログ信号をデジタル化する必要がある。デジタル化された放送信号は更に多重化(複数のチャンネルの放送信号を1つの電波に束ねて搬送する目的で,複数のチャンネルの放送信号を1つの信号にまとめること)され,多重化して1つになった信号は,衛星まで送信可能な高周波の信号に変調された上で,大型のパラボラアンテナによって地上36,000キロメートルで静止している通信衛星に向けて送られる(こうした行為を「アップリンク」という。)。放送信号を受け取った通信衛星は,搭載されているトランスポンダによって,放送信号を地上に向けて送る(こうした行為を「ダウンリンク」という。)。この放送信号を各家庭に設置された小型パラボラアンテナが受け止め,専用の受信機等を通して通常のテレビで視聴可能となる。

3 有料放送デジタル配信事業

(1) 有料放送デジタル配信事業の概要

 当事会社が事業を行うCSデジタル放送は,有料デジタル放送の一形態である。有料デジタル放送には,CSデジタル放送のほかに,BSデジタル放送,CATV及びIP放送(ブロードバンド回線上の専用のIP網により多チャンネル放送を提供するもので,専用の機器を介してテレビ受信機に接続して視聴するもの)がある。

(2) 市場の動向

 過去5年間のCSデジタル放送における「スカパー!」と「スカパー!110」の総登録件数は毎年増加しており,5年前と比べて約100万件増加している。一方で,CATVやIP放送は映像配信・高速インターネット・電話の「トリプルプレイ」セット料金を提供してCSデジタル放送と差別化を図っており,3者間での視聴者獲得競争を背景に,1加入者当たりの平均視聴料は年々低下している。

(3) 視聴者獲得の取組

 平成23年の地上デジタル放送への完全移行を迎えるに当たり,各放送事業者は視聴者獲得に向けて様々な方策を展開している。
 衛星放送事業者は,一台の受信機で地上デジタル放送・BS放送・110度CS放送が視聴可能な3波共用機の利用者拡大を図っており,CATV事業者は,多チャンネル放送及びコミュニティー放送の一層の充実を図っている。IP放送事業者は,期間限定の無料お試しキャンペーンを実施するとともにチャンネル数拡大を図っている。
 また,CATV事業者の中には,天候が悪いと画像が乱れる「降雨減衰」といったデメリットがある衛星から,天候に左右されない安定した伝送を可能とする地上系光回線に伝送ルートを変更する事業者も出てきている。
 IP放送については,VOD(利用者が見たいときに見たい映像を見ることができるシステム)からスタートした事業者が多チャンネル放送も行う動きがみられる。

4 一定の取引分野の画定

 当事会社が事業を行うCSデジタル放送は,有料デジタル放送事業の一形態であり,視聴者の立場からすると,各放送形態により提供されるコンテンツの内容や画質に特段の相違はなく,同種の機能及び効用を有しており,また有料放送事業者間で視聴者の獲得をめぐる競争を行っていることから,有料放送デジタル配信事業を検討対象事業とした。
 有料放送デジタル配信事業において,番組供給事業者はプラットフォーム事業者に番組供給を行い,プラットフォーム事業者がデジタル処理等を行った後,衛星若しくは地上系光回線を用いて伝送を行っている伝送事業者経由で,最終的に視聴者に向けて番組が配信される。当事会社のうち,SKPはプラットフォーム事業を,JSATは伝送事業を行っており,両社の企業結合は垂直型企業結合に該当するところ,プラットフォーム事業を川上市場,伝送事業を川下市場として一定の取引分野を画定した。
 また,これらの事業活動は全国を対象としており,特段の事情も認められないことから,地理的範囲は全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 有料放送における受信世帯数と市場規模の推移

 データ上の制約から,アナログを含む有料放送の受信世帯数の推移をみると,過去5年間において,年々増加しており,平成17年度の受信世帯数は2500万世帯弱となっている。アナログからデジタルへの移行が急速に進んでおり,また,CSデジタル放送,CATV及び今後の需要拡大が見込まれているIP放送間で視聴者の獲得をめぐって激しい競争が繰り広げられている状況にある。

2 プラットフォーム事業

(1) プラットフォーム事業について

 有料放送デジタル配信においてプラットフォーム事業者が有する基本的な機能は,(1)デジタル処理,(2)コンテンツ配信,(3)EPG(電子番組ガイド)データ配信及び(4)視聴制御である。これらはいずれもデジタル配信に不可欠な機能である。

(2) 市場シェア・HHI

 プラットフォーム事業分野における各社のシェア(受信世帯数ベース)は,下表のとおりである。HHIは,約3,400である。

順位 会社名 シェア
1 SKP 約45%
2 A社 約35%
3 B社 約15%
4 C社 約5%%
5 その他 0~5%
  合計 100%

 (注) 審査時点での受信世帯数の実績。
 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

(3) 競争事業者の存在

 10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在する。

(4) 多数の番組供給事業者の存在

 番組供給事業者は約100社と多数存在している中,より多くの視聴者による番組視聴を望むことから,どのプラットフォーム事業者に対しても全方位的に番組を供給している。例えば,人気・名作アニメが楽しめる番組やスポーツ全般が楽しめる番組など,加入世帯数の多い人気番組は,いずれも複数のプラットフォーム事業者に配信されている。

(5) 取引先変更の容易性

 SKPと取引関係のあるCATV局の中には,SKPから他のプラットフォーム事業者への切替えもみられる等,CATV局等にとっては,プラットフォーム事業者を容易に変更できる。

(6) IP放送の拡大に伴う新規参入

 FTTHの加入者増を背景に,IP放送の拡大とそれに伴う新規参入が予想される。

3 伝送事業

(1) 伝送事業について

 伝送事業は,衛星又は地上系光回線を用いて行われ,デジタル化されたコンテンツを視聴者に向けて伝送する事業である。
 伝送ルートに地上系光回線を利用すると,伝送コストは衛星を利用するよりも低く抑えることができるといわれている。
 プラットフォーム事業者ごとに伝送ルートは異なるが,当事会社であるSKPは,JSATを通してコンテンツを配信している。

(2) 市場シェア

 伝送事業分野における各社のシェア(受信世帯数ベース)は,下表のとおりである。

順位 会社名 シェア
1 JSAT 約50%
2 F社 約10%
3 G社 約10%
  地上系光回線提供会社計 約30%
  合計 100%

 (注) 審査時点での受信世帯数の実績。
 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

(3) 競争事業者の存在

 10%以上のシェアを有する競争事業者が存在する。

(4) 取引先変更の容易性

 プラットフォーム事業者の切替えが行われると同時に,伝送事業者も自動的に変更される場合がある。

(5) 地上系光回線の優位性

 地上系光回線は衛星に比べて伝送コストを低く抑えることができることから安価な番組配信が可能となる。

第4 独占禁止法上の評価

1 単独行動による競争の実質的制限についての検討

(1) JSATによるSKP以外の事業者からの伝送業務の受託の拒否

 川下市場である伝送事業には,JSAT以外にも有力な競争事業者が存在していること,JSATのような衛星を利用した伝送と比較して,地上系光回線を利用した伝送の方がコスト的に優位性があること等から,仮にJSATがSKP以外の事業者からの伝送業務の受託を拒否したとしても,SKP以外の事業者の事業活動が困難となるとは考えられず,当事会社の単独行動により,プラットフォーム事業における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(2) SKPによるJSAT以外の事業者への伝送業務の委託の拒否

 川上市場であるプラットフォーム事業について,当事会社以外にも番組事業者から幅広く番組の提供を受けている有力な競争事業者が存在すること,IP放送の拡大によりプラットフォーム事業に新規参入が予想されること等から,仮にSKPがJSAT以外の事業者への伝送業務の委託を拒否したとしても,JSAT以外の事業者の事業活動が困難となるとは考えられず,当事会社の単独行動により,伝送事業における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 川上市場であるプラットフォーム事業について,IP放送の拡大により新規参入が予想されるなど,競争は活発に行われている。また,川下市場である伝送事業についても,衛星と比較してコスト的に優位性のある地上系光回線が存在し,衛星と地上系光回線との間で競争が活発に行われている。このことから,当事会社と競争事業者の協調的行動により,川上及び川下のいずれについても,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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