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(平成18年度:事例5)株式会社SUMCOによるコマツ電子金属株式会社の株式取得について

(平成18年度:事例5)株式会社SUMCOによるコマツ電子金属株式会社の株式取得について

第1 本件の概要

 本件は,半導体用シリコンウェーハ(以下「ウェーハ」という。)の製造販売事業を営む株式会社SUMCO(以下「SUMCO」という。)が,コマツ電子金属株式会社(以下「コマツ電子金属」という。)の株式を取得することを計画したものである。
 関係法条は,独占禁止法第10条である。

第2 一定の取引分野

1 製品の概要

 ウェーハは,単結晶のシリコンインゴット(注)を切断した円形の薄板であり,ダイオードやトランジスタ,集積回路といった半導体デバイスの回路を作りこむための基板として使用される。
 なお,半導体素材には,シリコンの他に,ガリウム砒素,ガリウムリン,インジウムリンなどの化合物半導体があるが,これらはいずれもシリコンに比べて価格が高いことから,シリコンでは実現が難しい高速高周波デバイス,受発光デバイスとして使用されており,シリコンと化合物半導体との間には競合関係はない。

 (注) 結晶がすべて同じ方向を向いており,全体で一つの大きな結晶を形成しているものを「単結晶」といい,一つ一つの結晶がバラバラの方向を向いているものを「多結晶」という。通常,結晶は多結晶の状態で存在しているが,多結晶では結晶本来の性質を示せないため,シリコンウェーハを製造する際には,多結晶シリコンを原料に単結晶シリコンの鋳塊(インゴット)を生成する。

2 ウェーハの種類

(1) 口径

 現在量産されているウェーハの口径には,125ミリメートル,150ミリメートル,200ミリメートル,300mm等の各サイズがある。大規模集積回路の高集積化が進み,また,半導体デバイスの製造コストの低減が求められる中で,ウェーハの大口径化が進んでいるところであり(注),現在,主力の口径サイズは200ミリメートルであるが,平成13年に商用生産が始まった300mmウェーハの供給量が急増しており,かつ,ウェーハメーカー各社が一層の増産を計画していることから,200ミリメートルウェーハから300mmウェーハへの移行は急速に進むとみられている。

 (注) 高集積化が進むにつれ,半導体デバイスのチップのサイズが大きくなる傾向にある。サイズの大きいチップを切り出す場合,ウェーハサイズが大きい方がウェーハエッジ近傍でのロスが少なくなるため,大口径のウェーハの方が生産コストを低く抑えることができる。また,小さなチップを切り出す場合でも,半導体回路の焼き付け工程などはウェーハ1枚ごとに行われるため,1枚のウェーハから切り出せるチップが多い方が生産コストを低く抑えることができる。

 口径の大きさが違っても,半導体デバイスの基板としての機能は同じであることから,ユーザーである半導体メーカーにとっては,基本的には,いずれの口径のウェーハも使用可能であり,保有設備の状況(口径によって半導体の生産設備は異なる。)や半導体デバイスの予定生産量に応じて,いずれの口径のウェーハを使用するかを決定する。ただし,超高集積度半導体を製造する場合においては,ナノメートル(1メートルの10億分の1の長さ)レベルの微細な回路を作成するため,通常の半導体デバイス製造で求められる水準よりも高い平坦度及び低結晶欠陥が求められる。このため,半導体メーカーが超高集積度半導体用の生産ラインを新規に建設する場合,ウェーハ1枚から切り出せるチップの量が多く,生産コストの低減が可能な300mmウェーハで生産ラインを建造することを志向することから,超高集積度半導体の製造で使用可能な高品質なウェーハを製造するための技術は,300mmの生産設備に導入されることになる。また,半導体製造装置メーカーも,超高集積度半導体の製造装置は300mmウェーハ対応のものしか供給していないため,300mm以外の口径のウェーハで超高集積度半導体を製造することは事実上不可能である。したがって,超高集積度半導体を製造する場合には,300mmウェーハしか使えない状況にある。

 (注) 超高集積度半導体の製造に使用できる品質のウェーハを200ミリメートルで製造することは技術的には可能であり,ウェーハメーカーによっては,当該品質のウェーハの開発段階までは200ミリメートル口径で行っている者もいる。しかしながら,当該品質の200ミリメートルウェーハの需要そのものがないため,量産段階では200ミリメートルでの当該品質のウェーハの製造は行われていない。

(2) 加工内容

 ウェーハは,ユーザーである半導体メーカーの求める仕様に合わせて生産される。加工内容の違いにより,下表のような各種製品があるが,ウェーハメーカーはいずれの製品も製造することができる技術力を有している。

各種シリコンウェーハ製品
名称 内容
ポリッシュド・ウェーハ 単結晶シリコンをスライスし,鏡面研磨したもの。
《用途》MOS-IC,バイポーラIC,各種メモリー
アニールド・ウェーハ ポリッシュド・ウェーハを水素やアルゴンで熱処理して,表面の結晶完全性を高めたもの。
《用途》フラッシュメモリー,DRAM,SRAM,各種ロジック
エピタキシャル・ウェーハ ポリッシュド・ウェーハの表面に単結晶シリコンを気相成長させたもの。
《用途》CPU,MPU,CCD,フラッシュメモリー

 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

3 ウェーハの取引

 全世界におけるウェーハの主要メーカーは,当事会社のほか5社存在し,これらメーカーの市場シェアは,全世界のウェーハ需要の大半を占めている。
 いずれの国籍のメーカーであっても地域性による性能差・品質差がないこと,輸送コストがウェーハ調達先の選定に影響を及ぼすようなものでないことから,ユーザーは世界中のウェーハメーカーから調達を行っている。特に,大手半導体メーカーは,世界各地の工場の納入分について,半導体メーカーの本社が一括して取りまとめ,各ウェーハメーカーと取引を行うのが一般的であり,こうした取引実態は,日本のウェーハメーカーや半導体メーカーでも,同様にみられるものである。
 また,ウェーハの本体価格は,世界各地の生産拠点向けに納入されるものであっても,同一価格である。

4 一定の取引分野の画定

(1) 商品の範囲

 ウェーハには,口径の大きさの異なる製品が存在しているところ,超高集積度半導体を製造する場合においては,その用途に耐え得るような品質(高平坦度,低結晶欠陥等)のウェーハは300mmウェーハでしか供給されておらず,また,その製造に用いられる半導体製造装置も300mmウェーハ対応の製品しか供給されていない。このため,ユーザーとしては,超高集積度半導体の製造に当たっては,300mm以外のウェーハを代替的に使用することができないため,300mmウェーハについて一定の取引分野を画定した。
 他方,超高集積度半導体以外の半導体の製造においては,半導体の生産量,生産コストに応じて,300mmウェーハも含めて,多様な口径のウェーハから選択している実態にあることから,ウェーハ全体について一定の取引分野を画定した。

(2) 地理的範囲

 ウェーハについては,いずれの国籍のメーカーであっても地域性による性能・品質面での差はなく,また,輸送コストがウェーハの調達先の選定に影響を及ぼすようなものではないことから,ユーザーは国籍を問わず,世界各地のウェーハメーカーから調達を行っている。また,ウェーハメーカーは,製品の本体価格について,いずれの地域向けのものであっても同一価格で販売している。これらのことから判断すると,ウェーハについて,実態として日本市場を含む世界全体で一つの市場が形成されていると考えられる。したがって,以下では,本件企業結合がウェーハメーカーと半導体メーカーとの間の世界レベルでの取引に与える影響を分析することとした。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 市場規模

 平成12年のITバブル崩壊後,ウェーハの生産量は40億平方インチまで落ち込んだが,パソコン,携帯電話の伸張による半導体需要の拡大に伴い,平成16年にはITバブル崩壊前の水準にまで生産量を戻した。平成17年以降も,BRICs市場でのパソコンや携帯電話の販売が伸びたことから,ウェーハ市場は順調に推移している。
 口径別の状況をみると,300mmウェーハについては,超高集積度半導体が本格的な立ち上がりを見せ始めたことから,ウェーハメーカー側も急速に増産を進めており,量産化が本格化した平成14年以降,毎年30%を超える伸びで生産量が増えている。200ミリメートルウェーハも,デジタル機器の拡大に伴い,集積回路などのデバイスが増産されていること,従来,150ミリメートルウェーハで製造されていたパワーデバイス(直流から交流への変換,電圧変換などを行う電力用デバイス)の200ミリメートルへの移行が顕著であること等から,拡大してきている。

2 市場シェア・HHI

(1) 300mmウェーハ

 全世界における300mmウェーハの市場における当事会社のシェアは,下表のとおりである。
 本件企業結合により,当事会社の合算販売数量シェアは約35%となる。
 なお,300mmウェーハの製造販売市場における競争事業者のシェアは不明であるが,300mmウェーハの主要メーカーとなり得る事業者は,当事会社のほかに3社存在する。

順位 会社名 シェア
-
SUMCO 約30%
-
コマツ電子金属 約5%
-
当事会社合算 約35%

 (注)平成17年度実績。
 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

(2)ウェーハ全体

 全世界におけるウェーハ全体の市場における各メーカーのシェアは,下表のとおりである。
 本件企業結合により,当事会社の合算販売数量シェア・順位は約35%・第1位となる。
 また,本件企業結合後のHHIは約2,300,HHIの増加分は約400である。

順位 会社名 シェア
1 A社 約30%
2 SUMCO 約25%
3 B社 約10%
4 C社 約10%
5 コマツ電子金属 約10%
6 D社 約5%
7 E社 約5%
  その他 約5%
(1) 当事会社合算 約35%
  合計 100%

 (注)平成16年度実績。
 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

3 考慮要因の検討

(1) 競争事業者の存在

 300mmウェーハ,ウェーハ全体のいずれについても,競争事業者が複数存在する。
 なお,300mmウェーハの製造販売の分野におけるこれら競争事業者のシェアは不明であるが,生産能力から推定すると,いずれも有力な競争事業者であると認められる。

(2) 取引先変更の容易性

 ウェーハメーカー間には,ユーザーが取引先を変更することを妨げるような技術差はない。また,ユーザーが複数購買を行っていること,半年又は四半期ごとに行われる交渉において調達比率の変更を行っていることにもみられるとおり,ユーザーは容易に取引先を変更することができる。

(3) 供給余力

 ウェーハメーカー各社とも,今後のウェーハの需要増を見込んで生産能力の増強を予定しており,当事会社に代わって,ウェーハを供給することは可能である。

(4) 需要者からの競争圧力

 複数購買を行っているユーザーは,四半期ごとに行われる取引交渉において価格の見直し,調達比率の変更を行っており,非常に強い価格交渉力を有していると認められる。
 また,SUMCOは300mmウェーハを主力とし,コマツ電子金属は200ミリメートル以下のウェーハを主力としていることから,両社は補完関係にあり,統合後も,ユーザーの強い価格交渉力は維持されると認められる。

(5) 技術革新の動向

 ウェーハメーカーは,大口径化,高平坦度化,結晶欠陥(結晶の配列に狂いが生じたもの)の低減などの技術開発でしのぎを削っており,技術革新は,高品質化と生産コストの低減を求めるユーザーの要求に応えるものであり,シェアや価格を変動させる要因となっている。

(6) 競争事業者の行動の予測の困難性

 ウェーハメーカーは,需要の拡大期に,投下した設備投資を回収し,かつ,次世代ウェーハのための設備投資に回すべく,積極的に販売を行っていかざるを得ず,他方,各メーカーが積極的な販売を行うための設備投資が市場全体における供給過剰を招くという構造になっており,このような状況においては,各競争事業者の行動を予測することは困難である。

(7) まとめ

 世界市場における競争は上記のとおりであり,日本において価格が引き上げられたとしても,日本の需要者が海外の供給者からのウェーハの購入に代替し得るために,日本における価格引上げは行えない状況が認められる。

第4 独占禁止法上の評価

1 単独行動による競争の実質的制限についての検討

 ユーザーにとって取引先の変更が容易であること,有力な競争事業者が複数存在しており,競争事業者は供給余力を有していること,半導体メーカーであるユーザーは非常に強い価格交渉力を有していることから,当事会社の単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 半導体メーカーは,複数購買を行うとともに,調達比率の変更を頻繁に行っており,価格の引下げがシェアの拡大につながりやすい状況にあること,技術革新が頻繁に起こっており,ウェーハメーカー間で製品の品質や生産技術,生産コストに差異が生じていること等から競争事業者の行動を予測することは困難であり,当事会社と競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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