第1 本件の概要
本件は,株式会社東芝(以下「東芝」という。)が,共同出資者2社とともに,Westinghouseグループ(以下「WHグループ」という。)の持株会社2社の株式を取得することを計画したものである。
関係法条は,独占禁止法第10条である。
第2 一定の取引分野
1 製品の概要
原子炉を制御するための冷却材,減速材に軽水(普通の水)を使用する原子炉を「軽水炉」といい,さらに,冷却方式の違いにより,「沸騰水型」と「加圧水型」に大別される。原子炉内で冷却水が沸騰して生じた蒸気が直接タービンに供給される方式の原子炉を沸騰水型といい,原子炉内を循環する加圧された冷却水(一次冷却材)の熱が蒸気発生器を介して二次冷却材に伝えられ,二次冷却系の冷却水が沸騰して生じた蒸気がタービンに供給される方式の原子炉を加圧水型という。
2 当事会社の事業内容
東芝は,我が国において,沸騰水型原子炉に係る原子力発電設備の設計・供給事業(以下「プラント供給事業」という。)及び原子力発電設備の保守事業(以下「保守事業」という。)を営んでいる。また,東芝は,沸騰水型原子炉に係る核燃料の製造販売事業(以下「核燃料供給事業」という。)について,競争事業者2社とGlobal Nuclear Fuel社(本社米国。以下「GNF社」という。)を設立して事業を統合しており,GNF社を通じて核燃料供給事業を世界的に営んでいるところ,我が国でも,GNF社の日本法人を通じて,その製品が販売されている。
他方,WHグループは,世界各地において,加圧水型及び沸騰水型原子炉に係るプラント供給事業,保守事業及び核燃料供給事業を営んでいる。ただし,WHグループは,我が国においては,沸騰水型原子炉に係るプラント供給事業,保守事業及び核燃料供給事業並びに加圧水型原子炉に係る核燃料供給事業は営んでいない。
3 一定の取引分野の画定
沸騰水型と加圧水型では,冷却水系の構造,原子炉出力の制御方式など基本的な構造が異なっており,原子炉の運転や保守等に必要な技術,核燃料の構造等も異なる。したがって,ユーザーである電力会社等にとって,いったん採用した炉型を変更することは容易ではなく,当初採用したいずれか一方の炉型を継続して採用している状況にある。
プラント供給事業,保守事業及び核燃料供給事業において当事会社らと取引関係にある電力会社等にとって機能・効用が同種であるか否かなどの観点から検討した結果,次の6つの分野を,それぞれ本件における一定の取引分野と画定した。
(1) 沸騰水型原子炉に係るプラント供給事業(以下「沸騰水型プラント供給事業」という。)
(2) 沸騰水型原子炉に係る保守事業(以下「沸騰水型向け保守事業」という。)
(3) 沸騰水型原子炉に係る核燃料供給事業(以下「沸騰水型用核燃料供給事業」という。)
(4) 加圧水型原子炉に係るプラント供給事業(以下「加圧水型プラント供給事業」という。)
(5) 加圧水型原子炉に係る保守事業(以下「加圧水型向け保守事業」という。)
(6) 加圧水型原子炉に係る核燃料供給事業(以下「加圧水型用核燃料供給事業」という。)
第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討及び独占禁止法上の評価
上記一定の取引分野のそれぞれについて,本件が競争に与える影響についてみると,以下のとおりである。
1 沸騰水型プラント供給事業,沸騰水型向け保守事業及び沸騰水型用核燃料供給事業
我が国において,東芝(沸騰水型用核燃料供給事業についてはGNF社)は,沸騰水型プラント供給事業,沸騰水型向け保守事業及び沸騰水型用核燃料供給事業を営んでいるのに対し,WHグループは,我が国ではこれらの事業を営んでいない。このため,いずれの取引分野についても,本件によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
また,WHグループは,海外ではこれら沸騰水型原子炉に係る各事業を営んでいるため,我が国においては,いずれの事業についても潜在的競争者の立場にあるが,
(1) 沸騰水型原子炉に係る各事業の分野においては,いずれも有力な事業者が存在していること
(2) 沸騰水型プラント供給事業及び沸騰水型向け保守事業については,我が国のユーザーは,技術の継続性等の観点から既存の取引先との間における取引の継続性を重視していること
(3) 沸騰水型用核燃料供給事業については,我が国のユーザーは,トラブル発生時の対応の迅速さ等の観点から国内事業者からの調達を優先していること
から,潜在的競争者としてのWHグループの競争圧力は限定的なものにとどまると考えられる。
このため,いずれにしても,本件によって競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。
2 加圧水型プラント供給事業及び加圧水型向け保守事業
WHグループは,現にこれらの事業を営んでいるのに対し,東芝は現在これらの事業を営んでおらず,また,東芝が今後新たに単独でこれらの事業を営むことも考え難いため,両社の間には競合関係は存在しない。
このため,いずれの取引分野についても,本件によって競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。
3 加圧水型用核燃料供給事業
東芝及びGNF社は,いずれも,加圧水型用核燃料供給事業を営んでおらず,また,WHグループも,我が国では加圧水型用核燃料供給事業を営んでいないため,現時点では両社の間に競合関係はない。このため,当該取引分野については,本件によって競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
また,WHグループは,海外では加圧水型用核燃料供給事業を営んでいるため,WHグループは我が国の市場において潜在的競争者の立場にある。しかしながら,我が国のユーザーは国内事業者からの調達を優先しているため,我が国においては,潜在的競争者としてのWHグループの競争圧力は限定的なものにとどまると考えられる。
このため,いずれにしても,当該取引分野については,本件によって競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。
第4 結論
以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
(参考)欧州委員会の判断
欧州委員会は,本件によりGNF社の出資者である東芝がWHグループを傘下にもつこととなり,これによって,加圧水型用核燃料供給事業分野における潜在的競争が妨げられるおそれがあることを指摘したところ,当事会社から,東芝のGNF社に対する出資に関する契約内容の一部を修正する旨の申出があったことから,最終的には,当該問題解消措置の履行を前提とすれば,本件が競争法上問題となることはない旨判断した。