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(平成19年度:事例4)新日本製鐵(株)による王子製鉄(株)の株式取得

(平成19年度:事例4)新日本製鐵(株)による王子製鉄(株)の株式取得

第1 本件の概要

 本件は,製鉄事業を営む新日本製鐵株式会社(以下「新日鐵」という。)が,平鋼の製造販売事業を営む王子製鉄株式会社(以下「王子製鉄」という。)の株式を取得することを計画したものである。
 関係法条は,独占禁止法第10条である。

第2 一定の取引分野

1 製品概要

 平鋼とは,4面とも圧延された鋼材である。断面形状によって狭義の平鋼,角鋼及び異形平鋼に分類される。
 狭義の平鋼は,断面が長方形の鋼材である。角鋼は,断面が正方形の平鋼である。異形平鋼は,断面が長方形でも正方形でもない形状をした平鋼であり,圧延のままで最終用途に適合するように製造される。
 特殊な合金等の添加,成分調整の有無により,普通鋼(特殊な合金等を添加しないもの)と特殊鋼(特殊な合金等を添加したり,成分調整したもの)に分類される。
 用途としては,普通鋼平鋼・特殊鋼平鋼全体では,土木・建築向けが約50%となっており,その他産業機械,建機,自動車,造船等の多くの分野で使用される。普通鋼平鋼に比べて,特殊鋼平鋼は主に製造業向けに使用される。
 平鋼には様々な断面形状を有する製品が存在するが,これらは圧延ロール替えによって製造することが可能であり,同一の製造ラインで生産されている。
 特殊鋼平鋼は,成分設計(合金の添加等),温度管理,熱処理,検査・手入れ等,普通鋼平鋼とは異なった製造対応が必要となるため,特殊鋼平鋼の製造に当たっては,技術・ノウハウ,設備対応等が不可欠となる。したがって,普通鋼平鋼のみを製造しているメーカーが特殊鋼平鋼を製造するには,相応の設備投資と期間が必要になる。他方,特殊鋼平鋼を製造しているメーカーが普通鋼平鋼を製造することは容易である。

2 一定の取引分野の画定

 特殊鋼平鋼は,普通鋼平鋼に対し,高強度,切削性(加工時の削りやすさ),対磨耗性等の機能,品質特性が求められる場合に使用されていることから,普通鋼平鋼,特殊鋼平鋼のそれぞれについて商品の範囲を画定した。また,地理的範囲は,普通鋼平鋼,特殊鋼平鋼とも全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 特殊鋼平鋼

 特殊鋼平鋼については,水平型企業結合のセーフハーバーに該当することから,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 普通鋼平鋼

(1) 市場規模等

 普通鋼平鋼の市場規模は,平成18年度で約1000億円である。
 なお,平成14,15年度については,公共事業の縮小に加え,民間設備投資も抑制基調であったことなどにより需要が低迷し,数量,価格ともに低水準となった。平成16年度には,製造業の活動が高水準となり,民間設備投資も増加したことなどを受けて需要が拡大し,数量が増加するとともに価格も上昇し,売上高は増収となった。
 平成18年度については,引き続き需要は堅調である。

(2) 市場シェア・HHI

 普通鋼平鋼の市場における各社の販売数量シェアは,下表のとおりである。
 本件企業結合により,当事会社グループの合算販売数量シェア・順位は,約35%・第1位となる。
 また,本件企業結合後のHHIは約2,100,HHIの増分は約500である。

順位 会社名 シェア
1 王子製鉄 約25%
2 A社 約20%
3 B社 約15%
4 C社 約10%
5 新日鐵 約10%
6 D社 約5%
7 E社 約5%
8 F社 約5%
(1) 当事会社グループ合算 約35%
合計 100%

(注1)平成18年度実績
(注2)新日鐵のシェアは,同社と既に結合関係のある普通鋼平鋼メーカーの合算シェアである。
 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

(3) 競争事業者の存在

 10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在する。

(4) 供給余力

 平成19年度前半時点では,生産能力(又はバブル期の最大生産量)に対し,約50~80%程度の生産量である。バブル期と比べ,各社とも操業要員等を削減しているので,直ちに生産能力まで増産することは難しい。また,普通鋼平鋼メーカー各社は需要に見合った操業時間を決め,また操業要員を抱えている。しかし,需要が拡大した場合には,要員について残業・シフトアップを行うなどの対応を採れば,増産することが可能である。生産能力まで生産を拡大するためには,採用・訓練期間を考えると半年ほどで可能となる。
 主要な競争業者の生産能力から供給余力を推定すると,現在でも当事会社グループの販売数量の約1.4倍をカバーするとみられ,競争業者の供給余力は十分にあるとみられる。

(5) 需要者からの競争圧力

 普通鋼平鋼は,各メーカー間で大きな技術差・品質差はないことから,ユーザーがメーカーを変更することは容易である。
 また,流通経路別でみても,店売り(注1)の場合は,購入先(平鋼メーカー)の変更は容易である。紐付き(注2)の場合は,品質,使い慣れ(納期管理等)等があり,購入先の変更にはある程度の期間を必要とする場合があるが,ユーザーの意向次第で変更は可能である。

(注1) 問屋,特約店等がメーカーから購入して自社倉庫に在庫し,最終ユーザー等からの小口注文を受けて販売する形態である。一般的には,1件ずつの最終ユーザーからの注文は小ロットとなる場合が多いことが特徴である。
(注2) 最終ユーザーから商社を経由して平鋼メーカーが注文を受ける形態である。最終ユーザーの注文単位が店売りに比較すると大きいこと等が紐付きの特徴である。

(6) 隣接市場からの競争圧力

 普通鋼平鋼と類似の効用等を有する製品としては,普通鋼厚中板(注)がある。普通鋼厚中板は土木・建築・橋梁・産業機械用,石油タンク,海洋構造物などの一般及び溶接構造用の鋼板をはじめ,造船用,ボイラ・圧力容器用,ラインパイプ用などに幅広く用いられている。
 当事会社によれば,普通鋼平鋼の用途のうち,建築,土木,機械,造船等,多くの分野について同サイズに切断することで,普通鋼厚中板で代替し得るとのことであり,サイズとしては幅100mmレベル以上の広幅の普通鋼平鋼が特に類似の効用等を有する範囲となる。広幅の方が厚中板からの切断が容易であるため,競合しやすい。これは普通鋼平鋼の需要の約3割に相当するとみられる。
 普通鋼厚中板の国内販売量は,普通鋼平鋼のおよそ7倍あり,下表のとおり,当事会社以外に10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在することも踏まえれば,これら事業者が供給する普通鋼厚中板は,普通鋼平鋼市場への競争圧力として機能し得るものと考えられる。

 (注) 厚中板とは,厚さ3mm以上で平鋼よりも幅の広い鋼板のことであり,特に3mm以上6mm未満のものを中板,6mm以上を厚板,150mm以上を極厚板と呼ぶ。

順位 会社名 シェア
1 新日鐵 約35%
2 A社 約30%
3 B社 約10%
4 C社 約10%
5 D社 約5%
6 E社 約5%
7 F社 0~5%
  その他 0~5%
  輸入 0~5%
(1) 当事会社グループ合算 約35%
合計 100%

 (注)平成18年度実績
 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

(7) 輸入

 普通鋼平鋼は,サイズ数が多く,ユーザーからの注文ロットが一般的に小さいことが特徴としてあることから,ユーザーニーズに対するきめ細かな対応が求められる。この点,海外からの輸入材は,こうしたユーザーニーズに対応するには輸送コスト等のハンディキャップがあることから,現状の輸入量はごくわずかである。このため,輸入圧力は働きにくいと考えられる。

(8) 参入

 普通鋼平鋼の製造販売市場への参入が考えられるメーカーとしては,普通鋼棒鋼メーカーがある。普通鋼棒鋼メーカー各社は,ここ数年は一定の収益を確保していること,直近は大幅な供給余力はないこと,また普通鋼平鋼も大きな供給能力不足とはなっていないこと等から,あえて普通鋼棒鋼を生産縮小してまで普通鋼平鋼に新規参入する例は,ここ数年は実績がない。
 しかし,普通鋼棒鋼メーカーの基本的な生産プロセスは普通鋼平鋼メーカーと同じであり,圧延ロールを変更すれば普通鋼平鋼の生産が可能である。メーカーごとに設備仕様の詳細が異なるが,数千万円レベルの投資で容易に普通鋼平鋼の生産が可能になる。
 したがって,普通鋼棒鋼マーケットの縮小に伴う設備の余力化,普通鋼平鋼マーケットの需給大幅タイト化,価格上昇による収益率向上等,参入する魅力の拡 大等があれば,参入するメーカーが容易に出現する可能性が十分にある。

第4 独占禁止法上の評価

1 単独行動による競争の実質的制限についての検討

 10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在すること,メーカー間に品質差・技術差がなく,取引先変更が容易であるところ,競争業者に供給余力が存在すること,隣接市場からの競争圧力が存在すること,参入が容易であることなどから,当事会社グループの単独行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 競争事業者が多数存在すること,取引先変更が容易であること,隣接市場からの競争圧力があること,参入が容易であることなどから,当事会社グループと競争事業者の協調的行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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