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(平成21年度:事例2)新日本石油(株)と新日鉱ホールディングス(株)の経営統合

(平成21年度:事例2)新日本石油(株)と新日鉱ホールディングス(株)の経営統合

第1 本件の概要

 本件は,石油製品の製造販売業を営む新日本石油株式会社(以下「新日石」という。)と,同業を営む株式会社ジャパンエナジー等を子会社とする新日鉱ホールディングス株式会社(以下「新日鉱」という。)が,持株会社を設立し経営統合するものである。関係法条は独占禁止法第15条の3である。

第2 一定の取引分野

 当事会社間で競合する29品目のうち,市場規模が大きい,競争に及ぼす影響が大きいなどと考えられる品目は,ガソリン,ニードルコークス,パラキシレン及びナフサである。

1 ガソリン

(1)商品範囲

 ガソリンは,オクタン価の高低により,ハイオクガソリンとレギュラーガソリンの2種類に分類されるところ,需要及び供給の代替性が一定程度認められることから,両者を合わせた「ガソリン」を商品範囲として画定した。

(2)地理的範囲

 当事会社を含む石油元売会社各社は,実態として全国にガソリンを供給できる仕組み・能力を有している一方,ガソリンの仕切価格の決定に当たり,現在でも都道府県ごとの小売市況を考慮している石油元売会社がいること等から,本件においては,ガソリンの元売市場における地理的範囲として「日本全国」及び「各都道府県」を重層的に画定した(注)。

 (注)旧日本石油と旧三菱石油との合併(平成10年度・事例7)及びエクソン・コーポレーションとモービル・コーポレーションの統合(平成11年度・事例10)においても,ガソリンの仕切価格が各都道府県の小売市況を参考に設定されていること等を理由に,ガソリンの地理的範囲は,日本全国のほか,都道府県ごとに画定していた。

2 ニードルコークス

(1)商品範囲

 ニードルコークスとは,炭素の固形物である生コークスをか焼(かしょう)(蒸し焼き)したもののうち,炭素が縦方向に発達し針状性(針状の組織)を有するものをいう。ニードルコークスには,石油精製工程で発生する重質油を原料とした石油系ニードルコークスと,石炭を乾留(熱分解)する際に発生するコールタール等を蒸留した際の残渣(ざんさ)であるピッチを原料とした石炭系ニードルコークスがあるところ,両者は,その用途,価格・数量の動き及びユーザーの認識・行動が,基本的に同一又は類似しており,需要の代替性が一定程度認められる。
 したがって,石油系ニードルコークス及び石炭系ニードルコークスを合わせた「ニードルコークス」を商品範囲として画定した。

(2)地理的範囲

 ニードルコークスのメーカーは,海外に2社いるところ,(1)海外のメーカーは,供給能力の問題から日本のユーザーにニードルコークスを供給していないこと,(2)日本のユーザーは,品質の問題により輸入品が国内品の代替品にならない,日本国内への供給能力が不足している等の理由により,海外のメーカーから調達していないことなどから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

3 パラキシレン

(1)商品範囲

 パラキシレンは,高純度テレフタル酸(以下「PTA」という。)及びジメチルテレフタレート(以下「DMT」という。)の原料となる液体の炭化水素である。PTA及びDMTは,共に,ポリエステル繊維及びポリエチレンテレフタレート樹脂の原料である。パラキシレンは,いわゆる汎用的な基礎化学品であり,単一の化学構造の物質から成ることから,種類やグレードは存在しない。一方,PTA及びDMTの原料となる基礎化学品は,パラキシレン以外には存在しない。
 したがって,「パラキシレン」を商品範囲として画定した。

(2)地理的範囲

 (1)アジア地域においては,パラキシレンの統一の指標価格が存在しており,当該指標価格に基づき販売価格が決定されること,(2)日本を含むアジア地域のパラキシレンのユーザーは,制度面及び実質面において輸入の障壁は低いことから,比較的容易にパラキシレンを輸入できること,(3)アジア地域のパラキシレン製造会社がアジア域内の各国にパラキシレンを供給できる仕組み及び能力を有していることから,「アジア地域」を地理的範囲として画定した。

4 ナフサ

(1)商品範囲

 ナフサは,分留範囲が30℃~230℃の軽質の炭化水素の総称であり,主に石油化学製品の原料として用いられる。ナフサは留分の違いにより重質ナフサ,軽質ナフサ及びホールナフサに分類されるが,市場に流通しているのは軽質ナフサのみであるため,「ナフサ(軽質ナフサ)」を商品範囲として画定した。

(2)地理的範囲

 石油元売会社はタンカーによって,ナフサを日本全国のユーザーに供給することが可能であり,また,ユーザーにおいても,多くは近隣の製油所からパイプラインによって供給を受けているものの,タンカーを用いれば,日本全国から商品を調達することは可能である。また,ナフサの卸売価格は,日本全国で統一的な方法で決定している。
 したがって,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

第3 本件行為が競争に与える影響

1 ガソリン

(1)日本全国

ア 市場シェア
 平成20年度におけるガソリンの国内市場規模は約7兆9000億円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約35%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約2,100,HHIの増分は約500であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

本件の概要図

イ 競争事業者の状況
 市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が複数存在する。
 ガソリンの市場規模は,平成16年度までは拡大傾向にあったものの,原油価格の高騰,環境問題への意識の高まり等の影響を受け,ガソリンのユーザーである一般消費者の自動車離れや乗り控えが進むとともに,ハイブリッド自動車や低燃費車の普及が拡大したことから,平成17年度以降,縮小傾向に転じている。
 今後は,ハイブリッド車が更に普及することが予想されることや,電気自動車の普及が徐々に進んでいること等から,ガソリンの需要減退傾向はより顕著になっていくことが予想される。
 したがって,競争事業者の供給余力は十分存在すると認められる。

ウ 輸入
 海外で生産されたガソリンは,揮発油等の品質の確保等に関する法律(昭和51年法律第88号)等の規定に基づき定められた品質を満たさないものが多く,当該ガソリンを日本国内で販売するに当たっては品質調整が必要とされる。輸入ガソリンの日本市場におけるシェアは,近年減少傾向にあり,平成20年度時点において0-5%にとどまっている。しかしながら,一部には,日本国内で販売可能な品質を有するガソリンを生産する能力を有する海外事業者が存在しており,石油元売会社以外でも,こうした品質のガソリンを当該海外事業者から輸入し,日本国内で販売することも可能であり,国内外のガソリン価格の状況次第では,今後輸入数量が増大する可能性もあると考えられる。さらに,アジア・太平洋地域及び中東地域において,製油所の新設計画が相次いでおり,海外におけるガソリンの供給能力は今後拡大すると見込まれる。
 したがって,輸入圧力が一定程度存在すると認められる。

エ 需要者からの競争圧力
 ガソリンについては,当事会社を含む石油元売会社各社間でほぼ品質差がないところ,下記(ア)及び(イ)の理由から,需要者からの競争圧力が一定程度存在すると認められる。

(ア) 特約店間の価格競争
 当事会社のガソリンの販売先は90%以上が特約店であるところ,特約店は,自己又は販売店が運営するサービスステーションにおいて,一般消費者に対してガソリンを販売している。そして,一般消費者は,価格を意識してガソリンを購入する傾向にあるため,ガソリンの小売販売においては,特約店の間で活発な価格競争が行われており,特約店は当事会社からできるだけ低い価格でガソリンを購入しようとしている。

(イ) 直売相手先による取引先変更の容易性
 当事会社は,運送会社に対しては,特約店を経由せず直接ガソリンを販売しているところ,運送会社等の直売相手先との取引において,元売会社の商標は関係なく,そのため運送会社は,価格等の取引条件に応じて取引先を自由に切り替えることができる。

オ 独占禁止法上の評価
 上記イからエまでの状況にかんがみれば,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(2)競争事業者の状況

 各都道府県の中には,本件行為後のHHIの水準及び本件行為によるHHIの増分が,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない都道府県があり,当事会社の合算市場シェア・順位が上昇するが,各都道府県において,有力な競争事業者等が複数存在することに加え,上記(1)イからエまでの状況にかんがみれば,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 ニードルコークス

(1)市場シェア

 平成19年度におけるニードルコークスの国内市場規模は約200億円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約55%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約4,200,HHIの増分は約1,500であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

本件の概要図

(2)競争事業者の状況

 市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が複数存在するが,市場における事業者数は4社から3社に減少する。
 ニードルコークスの大部分は,電気炉製鋼法において用いられる電気炉の陰極である人造黒鉛電極の原料となる。電気炉製鋼法は,電気炉の電極に超高圧の電流を流すことにより,炉の中で雷に似た放電(アーク放電)を人工的に発生させ,その放電熱によって鉄スクラップを融解し,酸素や硫黄などの不純物を取り除いた上で,製鉄を行う。このアーク放電熱は超高温に達するため,人造黒鉛電極に使用可能な原料はニードルコークスのみである。
 今後,世界的に電炉鋼の需要拡大が予想される一方で,ニードルコークス製造販売市場への新規参入は容易ではないことから,中長期的には,人造黒鉛電極の原料としてのニードルコークスの需給がひっ迫した状態が続くことが予想されており,競争事業者の供給余力は十分には存在しないものと認められる。

(3)輸入

 電炉鋼を生産する電炉メーカーに対して人造黒鉛電極を供給する電極メーカーにとって当事会社の製品と代替し得るニードルコークスを製造できる海外メーカーは1社だけであるところ,同社は供給能力の問題から,現在及び近い将来にわたって,日本の電極メーカーへの供給を行うことはないものと考えられることから,輸入圧力は弱いものと認められる。

(4)参入

 ニードルコークスの市場に参入するためには,(1)ニードルコークスの生産設備の設置,(2)原料となる重質油(以下「原料油」という。)の調達,(3)製造ラインの操業条件等の製造ノウハウの獲得,(4)販路の開拓といったことが必要になると考えられる。このうち,生産設備の新設は可能であるものの,良質な原料油の安定調達,製造ノウハウの獲得,国内ユーザーに対する販路開拓は容易ではないことから,国内のニードルコークスの市場への参入障壁は高く,参入圧力は存在しないものと認められる。

(5)隣接市場からの競争圧力

 ニードルコークスは生コークスをか焼(かしょう)したもののうち針状性を有するものをいうが,通常のか焼コークス(針状性を有しないもの)を原料として人造黒鉛電極を製造することも物理的には可能である。しかし,通常のか焼コークスから製造した人造黒鉛電極は品質的に劣ることから,国内電極メーカーは,人造黒鉛電極の原料として,ニードルコークス以外の通常のか焼コークスは使用していない。そのため,国内電極メーカーにとって,通常のか焼コークスはニードルコークスの競合品とはならない。
 したがって,競争圧力は存在しないものと認められる。

(6)独占禁止法上の評価

ア 競争上の懸念
 上記(2)から(5)までの状況にかんがみれば,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。
イ 問題解消措置
 上記アの競争上の懸念を解消するため,当事会社から問題解消措置の申出があった。
(ア) 内容
 いずれかの当事会社のニードルコークス事業を当事会社とは別の会社(以下「ニードルコークス製造会社」という。)に分離した上で,当事会社が保有するニードルコークス製造会社の議決権を第三者に譲渡し,当該第三者が保有するニードルコークス製造会社の議決権保有比率を90%以上とする(以下「本件譲渡」という。)。議決権の譲渡先は,現在,ニードルコークスを,当事会社又はその関連会社のいずれかから購入し,国内外のユーザーに対して販売を行っている大手商社(以下「譲受会社」という。)とする。
 本件行為について当委員会から問題ない旨の回答を得た後6か月以内に,譲受会社と本件譲渡に係る契約を締結し,当該契約締結後6か月以内に本件譲渡を完了する。
 また,譲渡完了までの間,当事会社は,本件行為の前後を問わず,譲渡対象事業の事業価値を維持するよう努めるとともに,毎月,当委員会に対して,当該事業に係る販売数量を報告する。

(イ) 問題解消措置の実効性を担保する措置
(1) ニードルコークス製造会社が希望する場合,製油所全体の操業上,合理的に供給可能な品質及び数量の生コークス(ニードルコークスの原料)を,適切な価格で供給すること

(2) 譲受会社が希望する場合,ニードルコークスの製造を適切な条件で受託すること

(3) ニードルコークス製造会社との間で,ニードルコークス事業における競争上有意な情報が交換されることがないよう,適切な情報遮断措置を採ること

(4) 譲受会社が希望する場合,本件譲渡実行時点までに,ニードルコークス事業に関連して培ってきた研究開発成果やノウハウについて,適切な条件で提供すること

(ウ) 評価
 ニードルコークスを含む石油製品は,同一原料(原油)から同時に生産される連産品であり,当事会社の石油製品全体の生産計画に基づいて生産されていること,また,ニードルコークス製造設備が当事会社の製油所の製造設備全体の一部として運営されていることから,ニードルコークス事業のみを切り離すことは困難である。
 しかし,問題解消措置及びその実効性を担保する措置により,ニードルコークス事業の譲渡先が,主体的にニードルコークス事業を行うことができるものと考えられる。
 したがって,当事会社が申し出た問題解消措置が確実に履行されれば,譲受会社は,有力な競争事業者となり得るものと評価できる。
ウ 独占禁止法上の評価
 当事会社が申し出た問題解消措置が確実に実施された場合には,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

3 パラキシレン

(1) 市場シェア

 平成19年度におけるパラキシレンのアジア地域の市場規模は約2兆4500億円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約20%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約1,000であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当する。
 なお,平成19年度のパラキシレンの日本市場における当事会社の合算市場シェアは,約40%・第1位である。

本件の概要図

(2)独占禁止法上の評価

 水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当することから,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

4 ナフサ

(1)市場シェア

 平成19年度におけるナフサの国内市場規模は約2兆9800億円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約30%・第1位となる(平成20年度)。また,本件行為後のHHIは約2,100,HHIの増分は約400であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

本件の概要図

(2)競争事業者の状況

 市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が複数存在する。
 ナフサの需要量は,その最高量を記録した平成18年度と比較して,平成25年度においては10%程度減少することが見込まれる。
 また,石油元売会社は,ナフサを自社で製造するほか,海外から輸入して,国内の需要家に供給している。今後,海外において需給が緩む見通しであるため,石油元売会社は,輸入により自らのナフサの供給能力を増大させることができると考えられる。
 したがって,競争事業者の供給余力は十分存在すると認められる。

(3)輸入

 ナフサは,国内品と海外品に品質差がないところ,ユーザーは自らナフサを海外から輸入することが容易であり,輸入圧力が存在すると認められる。実際,輸入ナフサの日本国内におけるシェアは,平成20年度において約25%である。

(4)隣接市場からの競争圧力

 ユーザーは,昨今の原油価格の乱高下を受け,石油化学原料を,ナフサから,ブタン,重質天然ガス液といった非ナフサ系化学原料に置き換え始めている。平成9年度当時,石油化学原料に占めるナフサの割合が約98%だったところ,平成19年度においては,約93%に減少しており,非ナフサ系化学原料は,ナフサの競合品となりつつある状況があり,隣接市場からの競争圧力が一定程度存在すると認められる。

(5)需要者からの競争圧力

 主要なユーザーは,大規模な化学メーカーであり,当事会社以外の石油元売会社からのスポット品や海外からの輸入によりユーザー自ら調達することが容易であることから,ユーザーは,価格等の取引条件に応じて取引先を自由に切り替えることができ,需要者からの競争圧力が存在すると認められる。

(6)独占禁止法上の評価

 上記(2)から(5)までの状況にかんがみれば,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第4 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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