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(平成21年度:事例4)共英製鋼(株)と東京鐵鋼(株)の経営統合

(平成21年度:事例4)共英製鋼(株)と東京鐵鋼(株)の経営統合

第1 本件の概要

 本件は,電炉品の製造販売業を営む共英製鋼株式会社(以下「共英製鋼」という。)と同業を営む東京鐵鋼株式会社(以下「東京鐵鋼」という。)が経営統合するものである。関係法条は独占禁止法第10条である。
 なお,本件については,当事会社から事前相談の申出があり,公正取引委員会が,第1次審査を行った結果,更に詳細な審査(第2次審査)が必要であると判断し,その旨当事会社に対して通知したところ,当事会社から,本件行為を取り止める旨の申出があったものである。

第2 第1次審査における検討

 当事会社間で競合する8品目のうち,市場規模が大きいなどと考えられる品目は,一般鉄筋及びねじ節鉄筋である。

1 一定の取引分野

(1)商品範囲

ア 建築土木構造の一つである鉄筋コンクリート構造とは,鉄筋を内部に配して引っ張り力を補強したコンクリートの柱,梁及び壁によって構造を支えるものである。遮音性や機密性に優れ,居住性が良いこと等から,特に集合住宅を始めとする建築土木の多くの用途において広く採用されている。
 鉄筋は一定の長さで製造販売されているため,建造物の施工に当たっては,鉄筋を接合して所要の長さにする必要がある。鉄筋は,ガス圧接資格を有する職人が端部を突き合わせて圧力を加えながら炎で加熱し,ふくらみを形成して接合することが一般的であるが,近年では,接合をより容易にするために,あらかじめ表面をねじ状に加工した特殊な鉄筋(以下「ねじ節鉄筋」という。その他の鉄筋を「一般鉄筋」という。)が開発されており,かん合性(注1)を有する同一のねじ形状に加工された筒状の部品(以下「ねじ節鉄筋継手」という。)を用いて効率的に接合することができる。ねじ節鉄筋継手を始めとする機械式継手は,職人の技能に依存せずに継手としての一定の信頼性が確保でき,高強度鉄筋の接合の安全性が確認されており,縮みがなく,雨天時の作業が可能で工期が短縮できるといった長所を有することから,近年では,使用が増加している。
 ユーザー(建設業者)に対するヒアリング調査によれば,ユーザーは,高層の鉄筋コンクリート建造物を施工する際には,工期や品質,安全性等を考慮して,プレキャストコンクリート工法や先組み鉄筋工法等の工法を選択し,これらの工法に適する機械式継手,特にねじ節鉄筋継手とねじ節鉄筋を採用する割合が高い。
 また,一般鉄筋にはJIS規格で定められる4種類の鋼種が存在するが,ねじ節鉄筋には,JIS規格の4鋼種に加えて,より強度を高めたJIS規格外の超高強度鋼種も存在する。高層の建造物を施工する場合など超高強度の鉄筋を必要とする場合は,ねじ節鉄筋のみが用いられる。
 このため,現在,ねじ節鉄筋を選択し,使用しているユーザーは,ねじ節鉄筋の必要性が高い場合に使用しており,一般鉄筋との需要の代替性は限定的である可能性が高い。
 また,競争事業者等に対するヒアリングによれば,ねじ節鉄筋を新たに製造販売するには,かん合性を有する同一のねじ形状のねじ節鉄筋継手と組み合わせて開発する必要があるところ,ユーザーは小型で薄く,施工しやすいねじ節鉄筋継手を好むことから,こうした特性と安全性とを両立させることのできるねじ節鉄筋継手を開発するには一定の時間を要する。メーカーがねじ節鉄筋及びねじ節鉄筋継手に十分な安全性が確保されることを実験で証明し,公的な性能証明を獲得するまでには2年程度を要するといわれている。このように,競争事業者等に対するヒアリングによると,ねじ節鉄筋市場への参入には相応の技術力・ノウハウ等が求められることから,新たにねじ節鉄筋の製造販売を開始するためには,数年程度はかかるとされている。
 したがって,現在ねじ節鉄筋を製造していない会社が,直ちに製造販売することは困難であり,一般鉄筋とねじ節鉄筋の間の供給の代替性は十分ない可能性が高い。

イ これに対して当事会社からは,ねじ節鉄筋の販売数量,価格,当事会社の利潤等を基にして,ねじ節鉄筋の仮想的独占者が,現行価格よりも5%価格を引き上げた場合には利潤を減少させることとなるとのSSNIPテスト(注2)の考え方に基づいた経済分析結果が提出され,ねじ節鉄筋のみで商品範囲を画定することが適当ではないこと等から,一般鉄筋とねじ節鉄筋は同一の商品範囲として画定することができる旨の意見が提出された。

(注2)商品範囲及び地理的範囲の確定に係る考え方について企業結合ガイドラインにおいては,「ある事業者が,ある商品を独占して供給しているという仮定の下で,当該独占事業者が,利潤最大化を図る目的で,小幅ではあるが,実質的かつ一時的ではない価格引上げをした場合に,当該商品及び地域について,需要者が当該商品の購入を他の商品又は地域に振り替える程度を考慮する。他の商品又は地域への振替の程度が小さいために,当該独占事業者が価格引上げにより利潤を拡大できるような場合には,その範囲をもって,当該企業結合によって競争上何らかの影響が及びうる範囲ということになる」としている(いわゆるSSNIP(Small but Significant and Non-transitory Increase in Price)テスト)。

ウ しかしながら,当事会社が提出した経済分析結果については,これに用いられたねじ節鉄筋に関するデータが,SSNIPテストにおける一般的前提から大きく離れている可能性があり,当該経済分析結果を基に商品範囲について判断することは必ずしも適当ではないこと,また,ユーザー及び競争事業者のヒアリング結果等を前提とすれば,「一般鉄筋」と「ねじ節鉄筋」は,別々の商品範囲として画定される可能性が高いと考えられる。

(2)地理的範囲

ア 一般鉄筋
 各メーカーは,地区単位で営業を行っていること,価格は各地区における需給バランスによって決定されており,地区間で価格差があること等から,当事会社間で競合している「関東地区」を地理的範囲として画定する。

イ ねじ節鉄筋
 当事会社を始めとする多くのメーカーが全国的に事業を展開しており,輸送費等の制約を受けず地区をまたいで取引が行われていること等から,「日本全国」を地理的範囲として画定する。

2 本件行為が競争に与える影響

 上記1のとおり,「一般鉄筋」と「ねじ節鉄筋」を別々の商品範囲として画定した場合,以下のとおりとなる。

(1)ねじ節鉄筋に関する市場シェア

 平成19年度におけるねじ節鉄筋の国内市場規模は約430億円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約80%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約6,100,HHIの増分は約2,500であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

本件の概要図

(2)ねじ節鉄筋に関するその他の考慮要素

 ユーザーに対するヒアリング結果によれば,ねじ節鉄筋のメーカーによって,品揃え,品質等が異なっているところ,当事会社は品揃えが多く最も有力なメーカーとしてユーザーに認識されており,多くのユーザーにおいて,全調達額に占める当事会社からの調達額の割合がおおむね80%から100%に達していた。このためユーザーは,これまでは,当事会社を競わせることで価格の引下げを求めてきたことが窺われたが,本件行為後は,当事会社間で競わせることができず,ユーザーが価格交渉力を失う可能性がある。
 ユーザーに対するヒアリングにおいては,このような事情を踏まえ,複数のユーザーから,本件行為によってねじ節鉄筋の価格が上昇することを懸念する意見が出された。

(3) 一般鉄筋

 本件行為後の当事会社の合算市場シェア・順位は約35%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約1,900,HHIの増分は約600であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。
 一方,市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が複数存在すること,需要者からの競争圧力が一定程度存在すると認められること等から,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断される。

第3 当事会社に対する更に詳細な審査(第2次審査)が必要な旨の通知

 本件行為について,上記第2のとおり,「ねじ節鉄筋」の取引分野について,本件行為後の当事会社のシェアが約80%・第1位となり,複数のユーザーから,本件行為によってねじ節鉄筋の価格が上昇することを懸念する意見が出されたことにもかんがみ,更に詳細な審査(第2次審査)が必要であると判断し,その旨当事会社に対して通知した。
 また,併せて当事会社に対して,ねじ節鉄筋の製造販売業(全国)等について,ねじ節鉄筋を商品範囲として画定すること(上記第2)を含め具体的な独占禁止法上の論点を説明し,第2次審査を行うために必要と判断される具体的な資料の提出を要請した。

第4 当事会社の対応

 本件行為について,上記第4のとおり通知したところ,当事会社から,本件行為を取り止める旨の申出があり,併せてその旨当事会社から公表された。

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