第1 本件の概要
本件は,通信カラオケ事業(通信カラオケ機器の製造,販売,賃貸並びに楽曲及び映像の配信業をいう。以下同じ。)を営む株式会社エクシング(以下「エクシング」という。)が,同業を営む株式会社BMB(以下「BMB」という。)の発行済株式のすべてを取得し,子会社とするものである。関係法条は独占禁止法第10条である。
第2 一定の取引分野
1 商品範囲
通信カラオケ事業には業務用と民生用の2種類があるが,業務用と民生用では楽曲数,音源等の品質,性能や流通経路が異なり,両者間には代替性が認められないことから,「業務用通信カラオケ事業」及び「民生用通信カラオケ事業」をそれぞれ商品範囲として画定した。
2 地理的範囲
業務用及び民生用の通信カラオケ事業者は,日本全国で当該事業を行っていることから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。
第3 本件行為が競争に与える影響
1 民生用通信カラオケ事業
民生用通信カラオケ事業については,本件行為後のHHIの水準及び本件行為によるHHIの増分が水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当することから,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
2 業務用通信カラオケ事業
(1)市場シェア
平成20年度における業務用通信カラオケ事業の国内市場規模は約800億円であり,このうち約6割が業務用通信カラオケ機器の販売及び賃貸の対価で,約4割が楽曲等の配信の対価(以下「情報提供料」という。)となっている。
業務用通信カラオケ市場においては,新品の業務用通信カラオケ機器のほか,商社や代理店と呼ばれる販売業者等が供給する中古品の業務用通信カラオケ機器が流通しており,業務用通信カラオケ事業者は,業務用通信カラオケ機器の製造,販売及び賃貸を行うことに加え,新品及び中古品を問わず,自社製の業務用通信カラオケ機器に対して楽曲等の配信を継続的に行い,情報提供料による恒常的な収益を得ることを含めて事業を行っている。このため,業務用通信カラオケ事業者は,業務用通信カラオケ機器の出荷台数ではなく,楽曲等を配信している稼働台数により業務用通信カラオケ事業者間の競争状況を確認している状況にある。このようなことから,市場シェアについては,新品及び中古品を含めた業務用通信カラオケ事業者別の業務用通信カラオケ機器の稼働台数シェアにより検討することが適当であると考えられる。
本件行為により,業務用通信カラオケ機器の稼働台数における当事会社の合算市場シェア・順位は約40%・第2位となる。また,本件行為後のHHIは約5,200,HHIの増分は約750であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。
(2)競争事業者の状況
A社は,業務用通信カラオケ市場において常に過半のシェアを有し,商品力,知名度,ブランド力,営業拠点数等の販売網において,いずれも当事会社よりも高い地位にある。
業務用通信カラオケ機器について,各業務用通信カラオケ事業者は,新品の業務用通信カラオケ機器の販売が減少傾向にあることから,供給余力を有していると考えられる。また,下記(3)のとおり,多くのユーザーが新品のほか,新品と品質差がほとんどない中古品を選択肢に含めて業務用通信カラオケ機器を調達している状況にあるところ,中古品の供給は増加傾向にあり,業務用通信カラオケ機器は,恒常的に供給過剰な状態にある。
したがって,競争事業者等の供給余力が十分存在すると認められる。
(3)需要者からの競争圧力
業務用通信カラオケ機器のスペックや楽曲配信など基本的性能に関する技術はほぼ成熟しており,搭載楽曲数等に業務用通信カラオケ事業者間の品質,性能の格差はほとんどないことから,品質面において,ユーザーは取引先の業務用通信カラオケ事業者を変更することが容易である。また,業務用通信カラオケ機器を業務用通信カラオケ事業者から仕入れてユーザーに販売する代理店においては,新品だけでなく中古品の業務用通信カラオケ機器もユーザーに販売しており,新品の代わりに中古品に代替できるユーザーも多く存在することから,ユーザーが価格交渉を優位に進めている。
したがって,需要者からの競争圧力が一定程度存在すると認められる。
(4)当時会社グループの経営状況
BMBは,2009年8月期連結決算等によると,その親会社も含めて,著しく業績の悪化が進んでいるものと認められる
(5)独占禁止法上の評価
上記(2)から(4)までの状況にかんがみれば,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
第4 結論
以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。