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(平成12年度:事例2)日本製紙(株)及び大昭和製紙(株)の持株会社の設立による事業統合

(平成12年度:事例2)日本製紙(株)及び大昭和製紙(株)の持株会社の設立による事業統合

1 本件統合の概要

 本件は,日本製紙(株)(以下「日本製紙」という。)と大昭和製紙(株)(以下「大昭和製紙」という。)が,情報・通信技術の革新に基づく紙需要の変化,経済のグローバル化による国際競争の激化等に対応するため,両社の親会社となる共同持株会社を設立して事業を統合するものである。

2 独占禁止法上の考え方

(1) 一定の取引分野

 紙は,製造設備の面においては,同一の抄紙機で各種の紙を製造できるものの,ユーザー側からすると,個別の品種ごとにそれぞれの用途に合わせた品質・機能を有していることから,本件統合においては,紙全体で一定の取引分野が成立するとともに,上級印刷紙,コート紙といった個別品種ごとにも検討する必要があるものと判断した。

(2) 競争への影響

ア 市場シェア

 本件統合により,当事会社グループ全体のシェアは,紙市場全体において,約32%で,その順位が第1位となり,また,印刷情報用紙全体において,約35%で,その順位が第1位となるところ,上記(1)で画定した市場のうち,本件統合により,新聞巻取紙,上級印刷紙,微塗工印刷用紙,コート紙,軽量コート紙,PPC用紙等の紙の主要品種の分野において,合算の生産数量シェアが30%ないし40%を超え,また,当事会社と第2位メーカーとの2社の累積シェアが6割前後ないしこれを超えることとなる。

イ 価格改定行動

 メーカーの価格改定行動について,これまでの状況をみると,当事会社を含む上位メーカーが値上げを行い,他のメーカーはこれに追随するとの実態がみられる。

ウ ユーザー等の状況

 メーカー・代理店から紙を購入する卸商及びユーザーについてみると,新聞社や大手印刷業者などの大口ユーザーがあるものの,中小の卸商や印刷業者も多く,これら中小の卸商及びユーザーは,購入ロットが小さいことから価格交渉力が強いとはいえない。また,出版社は,定期刊行物等に用いられる定期品については,安定供給を重視する上,一度決まった銘柄を変更することはほとんどなく,価格の変化に応じて取引先を変更するような取引実態にはない。

エ 輸入

 輸入については,例えば,印刷情報用紙についてみると,平成8年頃には需要動向から輸入数量は60万トンを超えたが,その後は減少傾向となり,平成11年には,国内の生産量約1100万トンに対して,21万トン程度にとどまっていたところ,最近の状況では,IT関連の需要が旺盛なことから,インドネシア等からの輸入数量が増加している実態がみられ,国内の需給及び価格の状況によっては,ある程度輸入品が増加するといった一定の相関関係が認められる。

オ 流通

 紙の流通市場においては,当事会社を含め上位メーカーが大手代理店等に出資している実態がみられる。

カ その他

 新聞巻取紙及びPPC用紙については,当事会社以外にも複数の有力メーカーが存在することに加えて,購買力の高いユーザーが複数購買を行っていること,輸入品の競争圧力が働きやすいといった状況が認められる。

(3) 問題点の指摘

 上記の状況を踏まえ,当委員会は,当事会社に対し,以下のとおり問題点の指摘を行った。

ア 本件統合が競争に及ぼす影響

 本件統合により,上級印刷紙,微塗工印刷用紙,コート紙,軽量コート紙等の紙の主要な品種の分野において,当事会社の市場支配力の形成及び市場の寡占化の進展による当事会社を含めた上位メーカーの協調的行動が懸念され,競争が実質的に制限されることとなるおそれがある。

イ 流通分野への影響

 紙の流通市場においては,当事会社を含め上位メーカーが大手代理店に出資している実態がみられることから,流通段階における競争がメーカー段階の競争に影響を及ぼすことが十分に期待できない状況にある。

(4) 当事会社の申し出た措置

 上記の指摘に対し,当事会社からは,本件統合後においても,紙の分野における市場構造が引き続き競争的なものとなるようにするため,第三者に対する事業の譲渡等の抜本的な措置を講じるとして,以下のような問題解消措置の申出があった。

ア 生産分野における問題解消措置

 需要の拡大が見込まれるコート紙,上級印刷紙等の印刷情報用紙の主要品種を対象として,当事会社グループ全体の紙の生産数量590万トンの8%強の年産50万トン相当の生産設備及び営業を3年以内を目途に第三者に譲渡する。

イ 流通分野における問題解消措置

 紙の流通分野において,紙の取扱シェアの大きい大手代理店3社に対する出資比率を引き下げる。

(5) 当委員会の判断

ア 生産分野について

 当事会社から申出のあったコート紙,上級印刷紙等の年産50万トン相当の設備及び営業の第三者への譲渡が実行された場合,両社の印刷情報用紙全体におけるシェアは,約35%から30%程度となるとともに,第2位メーカーとの格差も5%程度となる。
 また,当事会社から譲渡対象として申出のあったコート紙,上級印刷紙等は,今後も市場が拡大すると見込まれるとともに,市況品であり,その価格動向が他の品種の価格動向に及ぼす影響が大きい品種である。
 さらに,最近の市場を取り巻く環境の変化として,大手商社や代理店が輸入紙を取り扱うようになってきており,PPC用紙をはじめインドネシア等からの輸入数量も増加してきている。ユーザー側においても,安定供給が保証されれば輸入品を取り扱いたいとする印刷業者や出版社も多い。
 以上の事情を総合的に勘案した場合,当事会社から申出のあった問題解消措置が着実に実行されれば,一定の取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないものと考えられる。

イ 流通分野について

 流通分野における問題解消措置については,大手代理店への出資比率が引き下げられることとなれば,流通段階における競争がメーカー段階の競争を促進することが期待できるものと考えられる。

3 今後の対応

 上記の当事会社の措置及び最近の市場を取り巻く環境の変化を踏まえた場合,当事会社から申出のあった措置が着実に実行されれば,本件統合により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないものと判断した。
 今後,当委員会は,紙の市場の競争状況を含め,当事会社の問題解消措置の履行状況を十分に把握していくこととする。

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