第1 当事会社
株式会社ユアサコーポレーション(以下「ユアサ」という。)は,蓄電池等の製造販売業を営むものである。
日本電池株式会社(以下「日本電池」という。)は,蓄電池等の製造販売業を営むものである。
第2 統合の概要及び関係法条
当事会社は,平成16年4月に,持株会社(株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション)を設立することにより,両社の経営統合を計画している。
本件統合の関係法条は,独占禁止法第10条である。
第3 統合の目的
当事会社は,主力としている鉛蓄電池が需要低迷,価格下落により厳しい事業環境にあるため,製造及び開発コストの削減等を図るとともに次世代電池の分野における技術開発力を高めるために本件統合を行うとしている。
第4 一定の取引分野
本件においては,当事会社の製造販売する製品のうち,競合する鉛蓄電池について検討した(注1)。
1 製品の概要
電池には使い切りの一次電池と繰り返し使用できる二次電池があり,鉛蓄電池は二次電池に該当する。
鉛蓄電池は,電極原料の鉛が安価である,蓄電容量を容易に設定できるなどの特徴があり,用途によって,自動車用鉛蓄電池,産業用鉛蓄電池,小型シール鉛蓄電池に分かれている(各製品の概要は別紙のとおり。)。
2 一定の取引分野
鉛蓄電池について,ユーザーからみて機能・効用が同種であるか否かなどの観点から検討を行ったところ,我が国における次の6種類の鉛蓄電池の製造販売分野を,それぞれ一定の取引分野として画定した。すなわち,用途別に,産業用鉛蓄電池,小型シール鉛蓄電池,そして,主要な用途である自動車用鉛蓄電池については,規格,ユーザー層,販売価格帯等が異なり代替性が認められないことから,四輪車用及び二輪車用に分け,更に,両者について新車用及び補修用に区分して,一定の取引分野を画定した。
なお,地理的市場は,全国市場として画定した。
1 | 四輪車用鉛蓄電池(新車用) |
---|---|
2 | 四輪車用鉛蓄電池(補修用) |
3 | 二輪車用鉛蓄電池(新車用) |
4 | 二輪車用鉛蓄電池(補修用) |
5 | 産業用鉛蓄電池 |
6 | 小型シール鉛蓄電池 |
(注1) 同様にして,当事会社で製造販売している電源装置については,統合後の合算シェアが小さいことなどから,詳細な検討は必要ないと判断した。
第5 取引分野ごとの検討
1 四輪車用鉛蓄電池(新車用,補修用)
(1) 市場の状況
四輪車用鉛蓄電池の国内需要は,ほぼ横ばいで推移しており,平成14年度における国内市場規模は,約890億円となっている。
本件統合により,当事会社の合算販売数量シェア・順位は,新車用については約30%,補修用については約40%を占め,それぞれ第1位となる。
(新車用) | (補修用) | ||||
---|---|---|---|---|---|
順位 | メーカー | シェア | 順位 | メーカー | シェア |
1 | A社 | 約30% | 1 | 日本電池 | 約25% |
2 | 日本電池 | 約20% | 2 | 輸入品 | 約20% |
3 | B社 | 約20% | 3 | ユアサ | 約20% |
4 | C社 | 約20% | 4 | D社 | 約15% |
5 | ユアサ | 約10% | 5 | E社 | 約10% |
6 | 輸入品 | 0~5% | 6 | F社 | 約10% |
(1) | 当事会社合算 | 約30% | (1) | 当事会社合算 | 約40% |
合計 | 100% | 合計 | 100% |
※ 四捨五入をしているため,合計は必ずしも一致しない。
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
(2) 考慮事項
ア 取引先変更の容易性
四輪車用鉛蓄電池(新車用)の分野においては,A社,B社及びC社,四輪車用鉛蓄電池(補修用)の分野においては,D社,E社及びF社という販売数量シェア10%超を有する有力な競争事業者が複数存在するとともに,製品差別化が難しく,国内外メーカー間に品質差はみられないことから,ユーザーによる取引先変更は容易であると認められる。
イ ユーザーの調達方針
前記アのとおり,ユーザーにとって取引先変更が容易であることから,ユーザーの多くは競争見積り,複数購買等を行うことによりメーカーを競争させ,より低い価格を提示したメーカーから調達するなどの調達方針を採っていることが認められる。
ウ 川下市場からの競争圧力
(ア) 四輪車用鉛蓄電池(新車用)の市場については,四輪自動車市場において販売競争が活発に行われ車両販売価格が低下傾向にあって,コスト削減を迫られていることから,部品調達を通じた川下市場からの競争圧力が働いていると認められる。
(イ) 四輪車用鉛蓄電池(補修用)の市場については,最終ユーザーである一般消費者が自動車部品量販店で鉛蓄電池を購入することが多く,そのため,自動車部品量販店間において他社の販売価格を考慮した価格設定が行われており,ガソリンスタンドや自動車ディーラー等の販売価格も自動車部品量販店の価格動向に左右される傾向があることが認められる。したがって,川下市場である小売段階からの競争圧力が働いていると認められる。
エ 輸入圧力の存在
四輪車用鉛蓄電池(補修用)の分野において,輸入品は,価格面での優位性から増加傾向にあり,海外メーカーの供給余力にも問題がないことが認められる。また,輸入品を採用しているユーザーは,品質,デリバリー上の制約はない旨を説明している。したがって,輸入品は,国内市場への競争圧力として機能していると認められる。
(3) 独占禁止法上の評価
有力な競争事業者が複数存在して製品の品質差もないため,ユーザーは取引先を容易に変更することができる。また,ユーザーである自動車メーカー,自動車部品量販店等の価格交渉力は強く,川下からの競争圧力も認められる。さらに,四輪車用鉛蓄電池(補修用)の市場においては,輸入品が国内市場への競争圧力として機能している。こうした考慮事項を踏まえると,本件統合によって競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
2 二輪車用鉛蓄電池(新車用,補修用)
(1) 市場の状況
二輪車用鉛蓄電池の国内需要は,ほぼ横ばいで推移しており,平成14年度における国内市場規模は,約85億円となっている。
本件統合により,当事会社の合算販売数量シェア・順位は,新車用については約85%,補修用については約70%を占め,それぞれ第1位となる。
(新車用) | (補修用) | ||||
---|---|---|---|---|---|
順位 | メーカー | シェア | 順位 | メーカー | シェア |
1 | ユアサ | 約65% | 1 | ユアサ | 約50% |
2 | 日本電池 | 約20% | 2 | 日本電池 | 約20% |
3 | A社 | 約15% | 3 | B社 | 約20% |
4 | 輸入品 | 0~5% | 4 | 輸入品 | 約10% |
- | - | - | 5 | C社 | 0~5% |
(1) | 当事会社合算 | 約85% | (1) | 当事会社合算 | 約70% |
合計 | 100% | 合計 | 100% |
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
(2) 考慮事項
ア 二輪車用鉛蓄電池(新車用)のユーザーは,いずれも大手二輪車メーカーであり,競争見積りの実施,改善提案の評価等を行うことによりメーカーを競争させた上で購入シェア等を決定している。したがって,ユーザーの価格交渉力は強いと考えられる。
イ 二輪車用鉛蓄電池(補修用)については,ユーザーのうち自動車部品量販店については,四輪車用鉛蓄電池と同様に競争見積りを実施して調達していることから,小売段階からの競争圧力がある程度働いていることは認められる。また,輸入品についても,自動車部品量販店を中心に一定数量採用されていることが認められる。
(3) 独占禁止法上の評価
ア 二輪車用鉛蓄電池(新車用)市場については,本件統合により競争事業者がA社のみとなるため,当事会社のシェアが大きい複占となる一方,同市場の利益状況から判断して,参入していない鉛蓄電池メーカーが,新規に参入する蓋然性は乏しいと考えられる。また,輸入品については,採用がわずかなため有効な牽制力とは認められないと考えられる。
したがって,ユーザーの価格交渉力は認められるものの代替的な供給を求めることが困難なことから,本件統合により競争を実質的に制限することとなるおそれがあると考えられる(注2)。
イ 二輪車用鉛蓄電池(補修用)市場については,本件統合により競争事業者が実質的にB社のみとなるため,当事会社のシェアが大きい複占となる一方,新車用市場と同じく,新規参入の蓋然性は乏しい状況にある。また,当該市場においては,主として小規模な二輪車販売店が一般消費者への販売の約7割を占めているため,小売段階からの競争圧力は必ずしも十分とはいえず,また,輸入品の圧力もこうした流通構造を踏まえると限定的なものであり,十分な牽制力となっているとはいえないと考えられる。
したがって,本件統合により,当事会社の市場シェアが大きい複占となる上,新規参入や川下市場からの競争圧力が期待できないことから,競争を実質的に制限することとなるおそれがあると考えられる(注2)。
(注2) 二輪車用鉛蓄電池に関して,当事会社から対応策の申出がある(後記第6参照)。
3 産業用鉛蓄電池
(1) 市場の状況
産業用鉛蓄電池の国内需要は,横ばいで推移しており,平成14年度における国内市場規模は,約410億円となっている。
本件統合により,当事会社の合算販売数量シェア・順位は約55%を占め,第1位となる。
順位 | メーカー | シェア |
---|---|---|
1 | 日本電池 | 約35% |
2 | ユアサ | 約20% |
3 | A社 | 約20% |
4 | B社 | 約10% |
5 | C社 | 約10% |
6 | 輸入品 | 約5% |
(1) | 当事会社合算 | 約55% |
合計 | 100% |
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
(2) 考慮事項
ア 取引先変更の容易性
有力な競争事業者であるA社のほか,同市場には競争事業者としてB社及びC社も存在している。これらの競争事業者は,現有設備のままでも増産に対応可能であることが認められることから,競争事業者の供給力には余裕があると考えられる。また,産業用鉛蓄電池の更新需要に対しては,品質面で差異はないことから既納メーカーかどうかの区別なく取引されているため,ユーザーによる取引先の変更は容易であることが認められる。
イ ユーザーの価格交渉力
主たるユーザーは,電源装置を製造する重電機器メーカーやビル建設を請け負う大手建設業者である。これらユーザーの多くは,最終ユーザー(電気・運輸・ 通信関係)の電気設備全部の設置を手掛けるため,強い交渉力を有している。さらに,ユーザーは,競争見積りを実施して調達先を決めていることから,ユーザーの価格交渉力は強いと認められる。
ウ 川下市場からの競争圧力
最終ユーザーの設備投資や建築需要の動きに対応して,重電機器メーカーや大手建設業者の受注競争は激しく,調達コスト削減を目的とした部品調達を通じて川下市場からの競争圧力が働いていると認められる。
(3) 独占禁止法上の評価
競争事業者は,現有設備のままで当事会社の供給量の合計の過半を供給することが可能なため,比較的短期間で供給代替は可能と考えられる。また,ユーザーは,電気設備全体を請け負う中で産業用鉛蓄電池の調達を行っており,調達コスト削減を目的として鉛蓄電池メーカーを競争させている。こうした考慮事項を踏まえると,本件統合によって競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
4 小型シール鉛蓄電池
(1) 市場の状況
小型シール鉛蓄電池の国内需要は,減少傾向にあり,平成14年度における国内市場規模は,約120億円となっている。
本件統合により,当事会社の合算販売数量シェア・順位は約30%を占め,第2位となる。
順位 | メーカー | シェア |
---|---|---|
1 | A社 | 約35% |
2 | 輸入品 | 約25% |
3 | 日本電池 | 約20% |
4 | ユアサ | 約10% |
5 | B社 | 約5% |
6 | C社 | 約5% |
(2) | 当事会社合算 | 約30% |
合計 | 100% |
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
(2) 考慮事項
ア 輸入圧力及び川下市場からの競争圧力の存在
輸入品のシェアは増加しており,また,海外メーカーは供給余力があると認められることから,輸入品が国内市場への競争圧力として機能していることが認められる。
また,小型シール鉛蓄電池を使用した小型の交流無停電電源装置(以下「UPS」という。)の製品輸入が行われており,これは,小型シール鉛蓄電池の需要を代替すると同時に川下市場であるUPSメーカー間の競争を促進している。したがって,川下市場からの競争圧力が働いていると認められる。
イ 取引先変更の容易性
有力な競争事業者であるA社のほか,同市場には競争事業者としてB社及びC社も存在している。また,小型シール鉛蓄電池は汎用品であり,国内外メーカー間に品質差はみられないから,ユーザーによる取引先の変更は容易であると認められる。
ウ ユーザーの価格交渉力
ユーザーであるUPSメーカー等は,競争見積り,複数購買等を行うことによりメーカーを競争させ,より低い価格を提示したメーカーから調達するなどの調達方針を採っていることから,ユーザーの価格交渉力は強いと考えられる。
(3) 独占禁止法上の評価
有力な競争事業者が存在するとともに,輸入品が増加しており,取引先の変更が容易である上,川下市場である小型UPSの製品輸入も多くみられることから,こうした考慮事項を踏まえると,本件統合によって競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
5 競争者間の協調
いずれの一定の取引分野においても,これまで鉛蓄電池メーカー間では活発な競争が行われていること,統合後も競争的な価格設定が行われると見込まれることが,ヒアリング調査の結果認められることから,統合後に協調的な行動を採るようになるおそれは少ないと考えられる。
第6 二輪車用鉛蓄電池(新車用,補修用)について当事会社が申し出た対応策と評価
1 当事会社が申し出た対応策
本件の検討過程において,当事会社は,二輪車用鉛蓄電池(新車用,補修用)について,おおむね次のような対応策を申し出てきた。
ア 二輪車用鉛蓄電池について,新会社発足後2年以内に,二輪車用鉛蓄電池市場で製造又は販売を営もうとする事業者(競争事業者や販売のみを行う商社も含む。)に対して,二輪車用鉛蓄電池の国内市場における当事会社の平成14年度の販売数量のうちいずれか少ない方に相当する量を上限として,コストベースでの引受権(長期的供給権)を付与する。
イ 引受権者からの求めがあれば,主要取引先,当該市場の概要等の情報を提供する。
ウ 引受権者からの求めに応じ,当事会社が保有する物流サービスを実費で提供する。
エ 上記の対応策が適正に実行されるよう,措置の具体的条件及び運用について,逐次,事前に当委員会に報告する。
また,当委員会からの求めに応じて,すべての対応策の実施状況について報告を行う。
2 対応策を踏まえた当委員会の判断
本件統合の問題点を解消するための対応策としては,統合スキームからの二輪車用鉛蓄電池事業の分離,同事業の一部譲渡も考えられるが,二輪車用鉛蓄電池の採算性が悪く,単独では事業として成り立たない可能性があり,当該事業を譲り受ける事業者が容易に出現する状況にはないものと考えられる。このため,当事会社の講じ得る措置としては,第三者にコストベースでの引受権を設定するという方法は,実現可能性という点で妥当な措置と考えられる。
こうした措置が実施された場合には,(1)本件統合により減殺されることとなる競争単位に相当する供給が独立して行われること,(2)製造設備等への投資を行うことなく容易に市場へ参入することが可能となることから,当事会社の販売価格の設定に有意な影響を及ぼし得る競争単位を生み出すことが可能になり,統合後,当事会社への牽制力が働くこととなる。このため,前記対応策が着実に実施されれば,本件統合により,二輪車用鉛蓄電池市場における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
なお,今後,当事会社が申し出た対応策の履行を確実なものとするため,必要に応じて,当事会社から報告を受けること等により,対応策の履行状況を監視するとともに,問題点を指摘した取引分野における競争状況についても十分に把握・監視していくこととする。
第7 結論
以上の状況を勘案すると,本件統合により四輪車用鉛蓄電池(新車用),同(補修用),産業用鉛蓄電池,小型シール鉛蓄電池の各取引分野については,競争を実質的に制限するとはいえず,独占禁止法上問題ないものと考えられる。
また,二輪車用鉛蓄電池については,新車用,補修用ともに,当事会社の申し出た対応策が着実に実施された場合には,競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。