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(平成20年度:事例1)キリングループと協和発酵グループの資本提携

(平成20年度:事例1)キリングループと協和発酵グループの資本提携

第1 本件の概要

 本件は,酒類事業,医薬品事業,食品事業等を営むキリングループの持株会社であるキリンホールディングス株式会社(以下「キリンHD」という。)が,同種の事業を営む協和醗酵工業株式会社(以下「協和発酵」という。)の株式を50%を超えて取得するとともに,キリンHDの100%子会社であり,医薬品事業を営むキリンファーマ株式会社(以下「キリンファーマ」という。)を協和発酵の100%子会社とした上で,協和発酵とキリンファーマの合併を行ったもの(合併後,商号変更により協和発酵キリン株式会社(以下「協和発酵キリン」という。)が発足。)である。なお,キリングループと協和発酵グループには,医薬品事業以外にも共通する事業分野が多いことから,今後,順次,事業の統合・連携を進める予定としている。,
 関係法条は,独占禁止法第10条及び第15条である。

第2 競合する分野

 当事会社グループ間で競合する分野は多数に上るが,競争に及ぼす影響が大きいと考えられる以下の4つの製品分野について,詳細な検討を行った。
(1)遺伝子組換え型ヒト顆粒球コロニー形成刺激因子製剤(以下「G-CSF」という。)
(2)発酵アルコール
(3)本みりん・発酵調味料(業務用・加工用)
(4)うまみ調味料等(業務用・加工用)

第3 G-CSF

1 市場規模

(1)医療用医薬品

 当事会社グループでは,キリンファーマ及び協和発酵の2社において医薬品事業を営んでおり,医療用医薬品の製造販売を行っている。医療用医薬品とは,医師若しくは歯科医師により使用され,又は,これらの者の処方せん若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品をいい,医薬品卸売業者を通じて,医療機関・保険薬局に販売されている。当事会社グループが製造販売している医療用医薬品のうち,製品の薬効(機能・効用)が同種であり,競合関係にあるものはG-CSFの1品目である。
 保険医療に使用可能な医薬品の価格は,「薬価基準」として厚生労働大臣によって定められており,薬価基準は,医療機関等が使用した医薬品について,診療報酬等を請求する際の基準となる価格である。
 一方,製薬会社が医薬品卸売業者に販売する価格や,医薬品卸売業者が医療機関等に販売する価格(以下「市場実勢価格」という。)については,特段の規制は行われておらず,同種の効能・効果を持つ医薬品が複数の事業者によって販売されているなど競争の激しい医薬品においては,製薬会社が医薬品卸売業者に対する販売価格を引き下げて競争している実態にあり,市場実勢価格も下がる傾向にある。
 厚生労働省では市場実勢価格を調査し,この調査結果に基づいて医薬品の薬価を原則として2年に1度改定している。このため,薬価は基本的に医薬品の競争を反映したものとなっている。

(2)製品概要

 G-CSFは,白血球の一種である好中球の分化・増殖を促進する効果を有する薬剤であり,抗がん剤投与による好中球減少症や,造血幹細胞移植時の好中球数の増加促進などに用いられる。
 現在,日本で製造販売されているG-CSFは,「グラン」(製造販売元:キリンファーマ),「α」(同:A社)及び「ノイアップ」(同:協和発酵)の3剤である。これら3剤には,それぞれ分量の異なる3~4種類の製品がある。

(3)医療用医薬品の分類法

 医療用医薬品の分類方法は,「ATC分類法」(「Anatomical Therapeutic Chemical Classification System」の略称。(注1))が広く採用されている。ATC分類法では医薬品にレベル1からレベル4までの記号(コード)を付して分類しており,当該記号はATCコードと呼ばれる。
 過去の医療用医薬品に関する企業結合事例においては,ATC分類レベル3による分類に基づき競合する商品を特定し,レベル3において機能・効用が同種であるとはいえない場合に,レベル4や更に細分化された分類に基づいて商品の範囲を画定しており,本件においても,同様の検討を行った。
 G-CSFは,ATC分類法に基づくと,レベル3では「L03A 免疫賦活剤」に分類され,レベル4では「L03AA コロニー刺激因子」に分類される。レベル3では,G-CSFのほか,C型肝炎等の腫瘍治療に使用される「L03AB インターフェロン」等が同一の分類に含まれるところ,これらの医薬品はG-CSFと効能・効果が異なり,代替的に使用されることはない。レベル4における分類の「L03AA コロニー刺激因子」には,G-CSFのほか,顆粒球単球コロニー刺激因子製剤(以下「GM-CSF」という。)やマクロファージコロニー刺激因子製剤(以下「M-CSF」という。)も含まれているところ,GM-CSFは日本では販売されていないが,M-CSFについては,協和発酵から「ロイコプロール」として販売されている。M-CSFはG-CSFと適応症(注2)が一部重複しているが,平成19年のM-CSFの売上高はG-CSFの市場規模の約2%にとどまり,M-CSFによる好中球増加の効果はG-CSFに比べて著しく小さいことから,両者は十分に代替的に使用されている状況にはない。
 したがって,M-CSFはG-CSFとは異なる商品範囲と評価される。

(注1) ATC分類法は,医薬品の市場調査の基礎となる統一的分類法を確立する目的で,ヨーロッパ医薬品市場調査協会(EphMRA: European pharmaceutical Market Research Association)によって1974年から設定されている。当該分類法による医薬品の分類の主な基準は,医薬品の解剖学上の作用部位,適応症及び用途,科学的組成並びに作用機序となっている。(注2)適応症とは,当該医薬品を用いた治療方法による有効性が確認され,厚生労働省によって投与が許可された疾患をいう。

(4)製品差別化の状況

ア 適応症の違い
 G-CSF3剤に認められた適応症はおおむね重複しているものの,下表のとおり,ノイアップは急性骨髄性白血病に適応症を有さないなど,一部の適応症において3剤の重複がない。適応症に差が生じているのは,各社が異なる開発方針に基づいて臨床試験を実施したことから,有効性の範囲及び厚生労働大臣に認められた効能・効果に差が生じたためである。
当事会社グループによれば,G-CSFの適応症のうち,グラン,α及びノイアップの3剤をいずれも処方可能なのは,売上ベースでG-CSF市場全体の約70%程度と推定される。

イ 製薬会社の営業方針の違い
 G-CSFの適応症は,大きく,外科領域と血液内科領域とに区分できるところ,外科領域においてはα及びノイアップが比較的多く処方されるのに対し,血液内科領域においてはグラン及びαが比較的多く処方されている。これは,ノイアップの適応症の範囲が狭いことや製造販売元である3社の営業方針が異なり,重点営業先が異なることによるものと考えられる。

ウ 需要者の認識
 医師へのヒアリング結果によれば,外科・血液内科の医師ともに,どのG-CSFを使用するかを選択するに当たっては,剤形の違い,認知度の高さ,電子カルテ上の表示の順番等を考慮しており,医師の好みによる差はあるものの,G-CSF3剤の効能・効果に大きな差はなく,適応症を有する範囲において,3剤を同等の薬とみなしている。

エ 製品差別化の程度
 G-CSF3剤の適応症に一部差があり,製薬会社側の重点営業先や診療科による使用状況において差がみられる。しかしながら,G-CSF全体の販売額の約70%を占める販売額に当たる適応症に対する処方において,各剤は無差別に使用可能であり,医師も適応症の範囲においては,同一の効能・効果を持つ薬として認識していることから,差別化の程度は大きくないものと評価される。

(5)一定の取引分野の画定

ア 商品の範囲
 医療用医薬品については,需要者である医療機関等からみて医薬品の機能・効用が同種であるものごとに商品範囲が成立すると考えられるところ,以上の検討から,G-CSFにおいて商品範囲を画定することとした。

イ 地理的範囲
 G-CSFは全国で販売され,地域ごとに販売を制約する要因は特段存在しないことから,地理的範囲は全国で画定することとした。

2 本件企業結合が競争に与える影響の検討

(1)市場規模

 平成19年度におけるG-CSFの市場規模は約372億円である。

(2)市場シェア・HHI

 本件企業結合により,当事会社グループの合算市場シェア・順位は約60%・第1位となる。
 また,本件企業結合後のHHIは約5,200,HHIの増分は約1,200である。

(3)輸入

 海外で開発された医薬品を輸入し,国内で販売するには,品目ごとに厚生労働大臣の製造販売承認が必要となる。医薬品の製造販売承認は,名称,成分・分量,構造,用法・用量,効能・効果,副作用等に関する審査を行った上で与えられる。当該承認を得るためには,海外での臨床試験データに加えて,国内での臨床試験が必要となるため,実質的に日本市場への新規参入とみることができることから,本件における輸入圧力の検討は,下記(4)の参入において行った。

(4)参入

ア 新規化合物による参入の容易性
 医薬品を製造販売するためには,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「医薬品機構」という。)に承認申請を行い,医薬品機構及び厚生労働省による審査を経て,厚生労働大臣の承認を得る必要がある。通常,新規化合物の探索を開始してから一つの医薬品が誕生するまでに9~17年程度の期間がかかり,1成分当たりの薬の開発費用は約500億円に上るといわれる。そのため,新規化合物によりG-CSF市場に参入する障壁は極めて高いと評価される。

イ 後発医薬品
 新医薬品(先発医薬品)の再審査期間(注)が終了し,かつ,特許期間が満了した後に,当該医薬品と有効成分,投与経路,分量,用法・容量及び効能・効果が同一性を有するものを他社が製造販売することが可能となる。このような方法によって開発された医薬品は,後発医薬品(ジェネリック医薬品)と呼ばれる。後発医薬品は先発医薬品に比べ,研究開発費及び開発期間による負担が小さいことから,通常,申請してから1~2年で承認が得られる。上市(医薬品の製造販売が承認され,実際に販売が開始されることをいう。以下同じ。)するまでの後発医薬品の準備期間は2~3年とされている。

 (注) 新医薬品の再審査期間とは,新医薬品等について製造販売承認取得後一定期間(4~10年,原則として6年),使用成績等に関する調査を実施することを製造販売業者等に義務付け,その結果に基づいて有効性及び安全性等について再確認が行われる期間である。先発医薬品の再審査期間中は後発医薬品を販売することはできない。

ウ バイオ医薬品とバイオ後続品
 G-CSFはバイオテクノロジー応用医薬品(以下「バイオ医薬品」という。)(注1)に該当する。バイオ医薬品は,有効成分の複雑な化学的構造,有効成分の不安定性等の特性から,低分子化合物を成分とする通常の化学合成医薬品と異なり,完全に同一の有効成分の後発医薬品を開発することは不可能となっている。完全に同一の有効成分ではないものの同一の効能・効果を持つバイオ医薬品の後発医薬品は,通常の化学合成医薬品の後発医薬品と区別し,「バイオ後続品」(注2)と呼ばれる。厚生労働省は,バイオ後続品の承認基準を整備しつつあり,平成20年9月に「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針(案)」を公表し,10月中旬にパブリックコメントの募集が締め切られた(注3)。同案によれば,バイオ後続品の開発においては,基本的に?@品質特性解析,?A非臨床試験,?B臨床試験が必要とされる。

(注1) 遺伝子組換え技術や細胞培養技術等の遺伝子工学を用いて製造されたポリペプチドやタンパク質を有効成分とする医薬品をいう。
(注2) 国内で既に新有効成分含有医薬品として承認されたバイオテクノロジー応用医薬品と同等・同質の品質,安全性,有効性を有する医薬品として,異なる製造販売業者により開発される医薬品をいう。
(注3) 本件審査終了後,平成21年3月4日付けで,厚生労働省医薬食品局審査管理課長から「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」(薬食審査発第034007号)が通知されている。

エ バイオ後続品による参入の容易性
 G-CSF3剤の再審査期間は終了している。また,関係する特許は,現在存続中であるが,今後数年のうちに満了する。
 特許満了後のバイオ後続品によるG-CSF市場への参入は,上述のように臨床試験を必要とするため,臨床試験のノウハウが必要であること,長期間にわたる高コストの開発投資を負担するだけの財務力が必要であること,バイオ医薬品の開発・製造に係る高度なバイオ技術力が必要であること等から,開発可能と考えられる事業者は多くはない。今後,G-CSFのバイオ後続品の開発を行う事業者が出てきたとしても,当該バイオ後続品について厚生労働大臣の承認が得られるのは,相当程度先のこととなり,当面,上市されるとは考えがたい。
 したがって,G-CSF市場におけるバイオ後続品による参入圧力は小さいと評価される。

(5) 隣接市場からの競争圧力

 G-CSFは,好中球の分化・増殖の促進を通じて,好中球の減少に伴って発症する感染症の予防・治療をする効果があるところ,抗生物質(抗菌薬,抗真菌薬等)も同様の効果を有する。そのため,同一の感染症に用いられる医薬品としてはG-CSFと抗生物質の2つが存在していることとなるが,

[1] G-CSFの投与は,主として「造血因子製剤の使用に関するガイドライン」(米国臨床腫瘍学会)の投与推奨基準に基づいて行われており,個々の医師が薬価を考慮してG-CSFと抗生物質のいずれかを選択する状況にはないこと
[2] G-CSFの投与は,好中球減少症に伴う感染症に対する「予防的投与」と,好中球減少症に伴う感染症が生じた場合の「治療的投与」があるところ,抗生物質は予防的投与としては原則として使用されていない一方,治療的投与に関しては,G-CSFと抗生物質の両方の投与が前提とされていること
[3] 医師は治療法や投与する薬剤を検討する際に,原則として医療上の目的に照らして最適な治療法・薬剤を選定しており,価格によって投与する薬剤を変更する状況にはないこと

から,G-CSFと抗生物質は補完的に使用されており,薬剤の価格に応じて代替的に使用されている状況にはない。
 したがって,抗生物質が,G-CSFの価格引上げに対して十分な牽制力となり得るとは評価されない。

(6) 需要者からの競争圧力

 G-CSFは,製薬会社から医薬品卸売業者に,また,医薬品卸売業者から主に大規模医療機関に販売されている。製薬会社は,MRと呼ばれる自社の医薬情報担当者を通じて,医療機関に対して医薬品の品質,有効性及び安全性に関する情報提供を行うとともに,医療機関に自社製品を採用するよう働きかけている
 医薬品の最終的な使用者は患者であるが,G-CSFのような医療用医薬品の処方権は医師にあるため,患者が薬価に応じて使用する医薬品を変更することは難しく,患者から製薬会社に対する競争圧力は働きにくい状況にある。一方,医師は,医療用医薬品の処方権を有しているが,薬剤費の負担は患者側にあるため,医師の側には,安価な医薬品を選択するインセンティブが働きにくく,価格に応じて使用量や銘柄を変化させる可能性は低い。
 また,医療機関の購買担当部署は,医療機関において使用される医薬品を医薬品卸売業者から入札等の方法で調達しているが,G-CSFのような医療用医薬品の場合には,既に発注する薬剤の銘柄が指定されており,入札価格に応じて銘柄を変更させることはできないため,製薬会社に対する競争圧力は働きにくい。
 さらに,医薬品卸売業者は,通常,複数の製薬会社の医薬品を取り扱っており,医療機関等からの銘柄の指定がなければ,同種の効能・効果を持つ異なる製薬会社の医薬品に切り替えることは可能であるが,G-CSFのような医療用医薬品については医療機関等が銘柄を指定した上で医薬品を発注することが多いため,卸売業者が仕入先製薬会社を選択する余地はない。
 したがって,G-CSFの価格引上げに対する需要者からの競争圧力は小さいと評価される。

(7)当事会社グループ間の従来の競争の状況等

 ノイアップは,グラン及びαに2年半遅れてG-CSF市場に参入したが,他の2剤に比べて実勢価格が低く推移してきており,薬価改定時の引下げ幅は他の2剤に比べて大きく,市場シェアを拡大してきている。平成8年以降はG-CSF3剤の中で最も安い薬価が設定されており,ノイアップ参入後は,他の2剤の薬価引下げ率も若干大きくなっている。
 医療用医薬品は,薬価改定後の期間が経つにつれて,医療機関に納入される実勢価格が低下する傾向にあるが,キリングループと協和発酵グループの統合計画が公表された平成19年10月以降,ノイアップの実勢価格の低下に歯止めがかかる傾向がみられた。
 医療用医薬品については,薬価が定められているため,当事会社グループが自由に薬価を引き上げられる状況にはないが,薬価は,医薬品の実勢価格の調査に基づいて改定されるところ,実勢価格は製薬会社が設定する仕切価格や製薬会社間の競争を反映して決まることから,医薬品間の競争状況が間接的に反映されることとなる。
 これまで,ノイアップがG-CSF3剤間の競争を一定程度牽引してきたと考えられることから,本件行為によって,ノイアップからの競争圧力が失われることにより,G-CSFの実勢価格の下落傾向に歯止めがかかり,薬価の高止まりにつながるおそれがあると評価される。

(8)潜在的競争

 キリンファーマは,KRN125と称する新世代のG-CSFを開発中であるところ,KRN125はグランに比べて一回の投与による効果が長く持続するとされており,既に開発・販売されている欧米ではかなりの売上規模に達しており,日本においても,一定の市場シェアを占めることが予想される。
 特に,KRN125の有用性を最も享受できるのは外来がん化学療法患者であることから,KRN125が上市された場合には,外科領域において強みを有するノイアップに対する直接的な競合品になると考えられ,高い確度で上市が予測されていることから,将来的には,グラン,ノイアップ及びKRN125の3剤の競合が生じる可能性が高い。
 したがって,当事会社グループ間のこうした潜在的競合の可能性も考慮すれば,本件行為によって,当事会社グループのシェアが将来的に更に高まる可能性が大きいと評価される。

3 独占禁止法上の評価

(1)単独行動による競争の実質的制限についての検討

 本件企業結合後,当事会社グループの市場シェア・順位は約60%・第1位,行為後HHIは約5,200となり,G-CSFの製造販売業者は当事会社グループとA社のみとなる。さらに,当事会社グループが開発中のKRN125による潜在的な競合も考慮すれば,当事会社グループのシェアは将来的に更に高まる可能性が大きい。
 また,ノイアップは,これまで,G-CSF市場における競争を一定程度牽引してきたところ,本件行為によって,ノイアップからの競争圧力が失われ,薬価の低下傾向に歯止めがかかるおそれがある。
 さらに,G-CSFのバイオ後続品の開発は,通常の化学合成医薬品の後発医薬品の開発に比べて容易ではなく,参入圧力は認められないことに加え,隣接市場からの競争圧力も認められないほか,需要者からの競争圧力も働きにくい。 したがって,当事会社グループの単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

(2)協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 本件企業結合により,上記3(1)で挙げた事項に加えて,競争事業者が3社から2社へと減少することから,当事会社グループと他の事業者との協調的行動によって一定の取引分野における競争が実質的に制限されることとなるおそれがある。

第4 発酵アルコール

1 一定の取引分野

(1)製品概要

 アルコールは,製法によって「発酵アルコール」と「合成アルコール」に大別され,さらに,発酵アルコールは,規制上の区分から,「酒類原料用アルコール」と「工業用発酵アルコール」とに分けられる(注)。
 酒類原料用アルコールは,酒税法上の「原料用アルコール」であり,「アルコール含有物を蒸留したもので,アルコール分が45度を超えるもの」と定義されている。酒類原料用アルコールは,酒税法上の原料用アルコール製造免許を保有する製造業者が製造し,清酒や甲類焼酎等の酒類の原料として用いられている。
 工業用発酵アルコールは,アルコール事業法の規制の下で流通するアルコールであり,食品用途や化学用途に用いられている。工業用発酵アルコールは,経済産業大臣の許可を受ければ酒類用途に使用することも可能であるが,現在のところ酒類用途にはほとんど使用されていない。

 (注) 現在,酒類原料用アルコールとして流通しているものは,すべて95度アルコール(含水)である。また,工業用発酵アルコールの約90%が95度アルコール(含水)である。工業用発酵アルコール(95度)と酒類原料用アルコールとは,物質的に同一のものである。

(2)アルコール製造に係る規制

 酒類原料用アルコールを製造するためには,製造場ごとに酒税法第7条に基づく,原料用アルコール製造免許が必要であるところ,酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達によれば,原料用アルコールの製造免許の新規付与は原則として行わないとの解釈が示されている。
 工業用発酵アルコールは,平成13年のアルコール専売法の廃止及びアルコール事業法の制定によって,経済産業大臣の許可を受ければ一定の条件の下にアルコールの製造・輸入・販売・使用を自由に行うことができることとなった(注1)。これに伴い,酒類原料用アルコールの製造業者は,工業用発酵アルコールの製造許可を取得して工業用発酵アルコール市場に参入している(注2)。
 当事会社グループのうち,協和発酵とメルシャン株式会社(キリンHDの議決権保有比率50.12%。以下「メルシャン」という。)はともに,酒税法上の原料用アルコール製造免許及びアルコール事業法上のアルコール製造許可を有しており,酒類原料用アルコール及び工業用発酵アルコールの双方を製造・販売している。

(注1) 従前は,アルコール専売法の下で国による専売制が敷かれており,昭和57年に国営工場がNEDO(現在の独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構)に移管されて以来平成13年までは,NEDOが独占的に工業用発酵アルコールの製造・輸入・販売を行っていた。
(注2) 平成13年からの5年間の暫定期間中は,民間の製造業者の製造した工業用発酵アルコールをNEDOが一手購入・販売することとされていた。平成18年にNEDOのアルコール製造部門が株式会社化され,日本アルコール産業株式会社が設立されるとともに,暫定期間が終了し,NEDOによる一手購入・販売制度は廃止され,工業用発酵アルコールの製造業者及び輸入業者は,直接,販売事業者や使用業者に販売することが可能となっている。

(3)一定の取引分野の画定

ア 商品範囲
 需要者から見た場合,食品用途や化学品用途においては工業用発酵アルコールしか使用できず,工業用発酵アルコールと酒類原料用アルコールとの間に代替性はない。酒類製造用途に工業用発酵アルコールの使用は認められているものの,酒類製造用途に使用する場合の手続等における酒類原料用アルコールと工業用発酵アルコールの間の切替えの困難性があることから,現時点では完全に代替性を有するものとはいえない。
 供給の代替性については,工業用発酵アルコールの一部のメーカーは酒税法上の原料用アルコール製造免許を保有していないこと,また,酒類原料用アルコールと工業用発酵アルコールの製造には同一の製造設備が用いられるものの両者は異なるものとしての管理が義務付けられていることから,工業用発酵アルコールと酒類原料用アルコールとの間で十分な供給の代替性は認められない。
 以上から,酒類原料用アルコール市場と工業用発酵アルコール市場は,それぞれ異なる商品範囲として画定することとした。
 なお,酒類原料用アルコールの生産量のうち,約3分の2は,酒類原料用アルコールの製造業者が自ら行う酒類製造のために自家消費しており,残りの約3分の1が,他の酒類製造業者に外販されているところ,酒類原料用アルコール製造業者は,自家消費分を外部から調達しておらず,また,外販価格に応じて外販量を調節するために自家消費数量を増減させていないこと,及び,他の酒類製造業者は酒類原料用アルコールを内製しておらず,完全に外部調達に依存している(注)ことから,酒類原料用アルコールについて,自家消費分と外販分との間には十分な代替性が認められず,酒類原料用アルコールの外販分のみによって取引分野を画定した。

 (注) こうしたユーザー企業の中には,かつては自社で酒類原料用アルコールを製造していたが,現在は製造を中止し,外部からの調達に切り替えたところも含まれるが,いったん製造を中止した酒類原料用アルコール製造設備を再稼動させることは事実上不可能であり,仮に外部調達の価格が高騰したとしても,内製を再開する可能性はない。

イ 地理的範囲
 いずれのアルコールメーカーも全国規模で営業を行っており,特段の地域的な制約もないことから,地理的範囲は全国で画定することとした。

2 本件企業結合が競争に与える影響の検討

(1)工業用発酵アルコール

 工業用発酵アルコールについては,水平型企業結合のセーフハーバーに該当することから,本件企業結合により,当該取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

(2)酒類原料用アルコール

ア 市場規模
 平成18年度の酒類原料用アルコールの市場規模は約77億円と推計される。

イ 市場シェア・HHI
 本件企業結合により,当事会社グループの合算シェア・順位は約65%・第1位となる。また,本件企業結合後のHHIは約4,800,HHIの増分は約2,200である。

ウ 地理的範囲
 いずれのアルコールメーカーも全国規模で営業を行っており,特段の地域的な制約もないことから,地理的範囲は全国で画定することとした。

エ 供給余力
 現時点では,当事会社グループ及び競争事業者の稼働率は高いが,ある有力な競争事業者が工場設備を新設中であり,これが稼動すれば,十分な供給余力が見込まれる。

オ 輸入
 高率の関税が課されていること,かつ,汚染を回避するために専用タンカーを用意する必要があること等の輸入上の障壁があることから,酒類原料向けの製品アルコールは,これまでのところ,ほとんど輸入が行われていない。
 しかしながら,製品アルコールの関税率は平成18年度以降段階的に引き下げられており,製品アルコールを輸入する企業も出現してきていることから,今後,更なる関税の引下げを受けて,製品アルコールを輸入しようとする動きが増加する可能性はあると評価される。

カ 参入
 酒類原料用アルコールを製造するには,酒税法上の原料用アルコール製造免許が必要であるところ,上記1(2)のとおり,原料用アルコールの製造免許が新規に交付されることはないとみられることから,新規参入の可能性はないと評価される。

キ 隣接市場からの競争圧力
 上記1(3)のとおり,酒類の製造用途に酒類原料用アルコールの代わりに工業用発酵アルコールを使用することは可能であるが,酒類原料用アルコールのユーザーである酒類製造業者は,長期的な取引関係を重視する傾向が強いことや,酒類原料用アルコールと工業用発酵アルコールの間で大きな価格差がないことなどから,現時点では,酒類製造用途として工業用発酵アルコールが多く使用される状況にはない。
 しかしながら,清酒製造業者の一部には,共同で工業用発酵アルコールを仕入れることを検討する動きがあることなどから,工業用発酵アルコールについては酒類原料用アルコールの価格引上げに対する将来的な牽制力として評価できる。

ク 需要者からの競争圧力
 需要者の大半は中小の清酒製造業者等であり,長期的な取引関係の継続を重視する傾向が強く,需要者による競争圧力は小さいと評価される。

3 独占禁止法上の評価

(1)単独行動による競争の実質的制限についての検討

 本件企業結合により,酒類原料用アルコールの市場における当事会社グループの市場シェアは約65%に達することとなる。また,需要者の大半は中小の清酒製造業者等であり,メーカーとの長期的な取引関係の継続を重視する傾向が強いことから,需要者による競争圧力も小さい。
 しかしながら,有力な競争事業者が複数存在すること,競争事業者に一定程度の供給余力が認められ,かつ,その増大が見込まれること,今後,工業用発酵アルコールが酒類の製造用途にも普及する可能性が認められること,今後,関税の更なる低下により製品アルコールの輸入が増える可能性が認められることから,当事会社グループの単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(2)協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 上記3(1)に掲げた要因に加え,新工場建設を計画している競争事業者及び大きな供給余力を有する工業用発酵用アルコール製造事業者が存在し,事業者間の利害が共通しないと考えられることから,当事会社グループと競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 本みりん・発酵調味料等

1 一定の取引分野

(1)製品概要

ア 本みりん
 みりんは,酒税法において「米,米こうじにしょうちゅう又はアルコール,その他政令で定める物品を加えてこしたもの」と定義され,1リットル当たり20円の酒税が賦課される「酒類」の一種である。みりん(他の類似の調味料と区別するため,本文中では以下「本みりん」という。)は,その糖分,アルコール分やもち米,米こうじに由来する特有の風味成分により,料理を行う際に食材に甘みを付ける,照り・つやを付ける,生臭さを消す,煮崩れを防止する,味の浸透を良くするといった効果がある。
 本みりんは酒類に該当するため,製造するためには,酒税法上のみりん製造免許が必要となり,小売販売を行う場合には,酒類販売業免許が必要となる。従来,酒類販売業免許の新規取得は困難であったところ,規制緩和が,順次,行われた結果,現在では多くのスーパーマーケット,コンビニエンスストア等が一般酒類小売業免許を取得し,本みりんを含む全酒類を販売することが可能となっている。

イ 発酵調味料
 発酵調味料は,米,でんぷん,糖類などを発酵,熟成させ,酒税法上の「不可飲処置」(注)として加塩することにより製造される,料理酒とも呼ばれる液体調味料である。
 発酵調味料は,アルコール濃度が高く,本みりんや清酒の効果をそのまま保持しつつも,不可飲処置が施されていることから酒類に該当せず,酒税が課税されない。発酵調味料を製造するには酒税法上のもろみ製造免許が必要であるが,発酵調味料の販売に当たっては酒税法上の販売免許は必要ない。
 発酵調味料には多様なものが存在している。代表的なものとして,「清酒タイプ」,「みりんタイプ」及び「ワインタイプ」の発酵調味料がある。
 清酒タイプ発酵調味料は,清酒の代替品として,料理への風味付与を目的として使用される。一方,みりんタイプ発酵調味料は,糖度がより高く,本みりんの代替品として水産関連品の魚臭さ・生臭さ改良,焼き色改良,惣菜におけるコク・風味の付与,つゆ・たれにおける甘味・風味の付与に用いられる。ワインタイプ発酵調味料は,ワインの代替品として洋風料理の風味付与を目的として使用される。

 (注) 不可飲処置とは,食塩を加塩することによって,酒税法第44条第2項及び第3項に基づき「酒母又はもろみに酒類として飲用することができない処置を施す」ことをいう。

ウ みりん風調味料
 みりん風調味料は,糖を主成分として,アルコール含有量が酒税対象外となる1%未満の本みりん類似の味を有する調味料である。
 みりん風調味料は,本みりん及び発酵調味料と比較するとアルコール分が少ないため生臭みを消す効果はないが,甘味だけでなく,照り・つやの付与,味の浸透,煮崩れの防止といった点で本みりんに近い調理効果を有している。
 みりん風調味料は,米から造られた発酵調味料をブレンドして製造されるところ,みりん風調味料を製造するに当たって,他社から発酵調味料を調達して自社で糖類等とブレンドする場合には,もろみ製造免許は必要としない。また,みりん風調味料の販売に当たって,発酵調味料と同様に酒税法上の販売免許は必要としない。

エ ユーザー
 本みりん,発酵調味料及びみりん風調味料は,家庭用及び業務用(飲食店,弁当・惣菜業者等)・加工用(加工食品メーカー)として販売されている。
 家庭用の調味料と業務用・加工用の調味料とでは,荷姿や流通経路が異なるため,家庭用の調味料を製造販売しているメーカーと業務用・加工用の調味料を製造販売しているメーカーは必ずしも同一ではなく,容器の開発・製造及び流通・販売網の整備が必要となることから,業務用・加工用の調味料メーカーの家庭用の調味料市場への参入は必ずしも容易ではない。

(2)一定の取引分野の画定

 キリングループは,メルシャン及びキリンフードテック株式会社(キリンHDの議決権保有比率100%。以下「キリンフードテック」という。)の2社において,本みりん,みりん風調味料,発酵調味料(清酒タイプ,みりんタイプ,ワインタイプ)を販売している一方,協和発酵グループは,協和発酵フーズ株式会社(協和発酵の議決権保有比率100%。以下「協和発酵フーズ」という。)において,本みりん,発酵調味料(清酒タイプ,みりんタイプ,ワインタイプ)を販売していることから,みりん風調味料については,競合関係になく,検討対象とはしなかった。
 両当事会社グループとも,本みりん及び発酵調味料を業務用・加工用に供給しており,家庭用には供給していないところ,これらを業務用・加工用に製造・販売する場合と家庭用に製造・販売する場合とでは,必要とされる製造工程や広告活動が異なり,流通・販売網も異なることから,需要の代替性,供給の代替性は十分には認められず,業務用・加工用と家庭用は別個の取引分野として画定することとした。

ア 商品範囲
 清酒タイプ発酵調味料,みりんタイプ発酵調味料,ワインタイプ発酵調味料は,それぞれ,清酒・合成清酒,本みりん,ワインの代替的調味料として使用されているところ,酒類とこれらの調味料との間には酒税の有無等による価格差が存在し,保存方法や調理上の効果が若干異なる場合もあり,需要者の側も異なる製品として認識していることから,酒類と当該調味料との間での需要の代替性は限定的である。また,清酒タイプ発酵調味料,みりんタイプ発酵調味料,ワインタイプ発酵調味料は,それぞれ,異なる調理目的に使用されており,相互に需要の代替性はない。
 また,供給面については,本みりん,発酵調味料の製造工程及び製造のために必要とされる酒税法上の免許が異なることから,これらの間の供給の代替性は低いが,清酒タイプ発酵調味料とみりんタイプ発酵調味料については,原材料,製造工程がほとんど同じであり,同一の設備を用いて製造されていることから,供給の代替性が高いと認められる。他方,ワインタイプ発酵調味料は,清酒タイプ・みりんタイプ発酵調味料とは原材料,製造工程が異なり,供給の代替性が高いとは認められない。
 したがって,需要の代替性の観点及び供給の代替性の観点から,[1]本みりん,[2]清酒タイプ・みりんタイプ発酵調味料,[3]ワインタイプ発酵調味料のそれぞれにおいて商品範囲を画定することとした。

イ 地理的範囲
 本件対象商品はいずれも物流面による制約はなく,全国で販売されていることから,地理的範囲は全国で画定することとした。

2 本件企業結合が競争に与える影響の検討

(1)本みりん

 本みりん(業務用・加工用)については,水平型企業結合のセーフハーバーに該当することから,本件行為により,一定の取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

(2)清酒タイプ・みりんタイプ発酵調味料

ア 市場規模
 本みりん(業務用・加工用)については,水平型企業結合のセーフハーバーに該当することから,本件行為により,一定の取引分野における競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

イ 市場シェア・HHI
 本件企業結合により,当事会社グループの合算市場シェア・順位は約45%・第1位となる。また,本件企業結合後のHHIは約2,100,HHIの増分は約900である。

ウ 競争事業者の存在
 シェア10%以上の有力な競争事業者1社を含む20社以上の競争事業者が存在する。

エ 競争事業者の供給余力
 近年,競争事業者の撤退が相次いだ結果,現在のところ,各社の稼働率は高まっているとみられ,十分な供給余力はない。

オ 輸入
 発酵調味料の輸入に当たっては制度的な障壁はない。みりんタイプ発酵調味料については,原材料に関わる地理的な費用要因が存在するため輸入の可能性は低い一方,清酒タイプの発酵調味料については輸入の可能性が認められる。

カ 参入
 発酵調味料の市場に参入するには,製造設備,ノウハウ及びもろみ製造免許が必要であるところ,清酒製造業者及び酢の製造業者にとって,発酵調味料と製造設備やノウハウが共通しており,もろみ製造免許を取得することも可能とみられることから,発酵調味料市場への参入障壁は高くない。また,最近では,これまで発酵調味料の生産のみを行い販売を他社に委託をしていた競争事業者が,発酵調味料の自社販売を開始するなど,新たな販売事業への参入事例がある。

キ 隣接市場からの競争圧力
 清酒,合成清酒及び本みりんは酒税が課されるため,発酵調味料との間に価格差が存在するものの,近年はこれらの酒類と発酵調味料との間で競争が激しくなっており,両者の間の価格差は,縮小傾向にある。
 したがって,清酒,合成清酒及び本みりんは,清酒タイプ発酵調味料やみりんタイプ発酵調味料の価格上昇に対する一定程度の牽制力として評価することができる。また,みりん風調味料は,みりんタイプ発酵調味料とほぼ同価格帯にあることから,清酒タイプ発酵調味料やみりんタイプ発酵調味料の価格上昇に対する一定程度の牽制力として評価することができる。

ク 需要者からの競争圧力
 加工食品において発酵調味料が使用される際,発酵調味料が加工食品のレシピに一度組み込まれると,異なるメーカーの発酵調味料に変更する場合には手間・コストがかかるものの,加工食品メーカーは多数の商品を随時開発しており,そのたびに複数社の発酵調味料を比較検討する傾向にあり,使い慣れ等による取引の固定性は特段存在しないこと,外食産業は,卸売業者を経由した取引が一般的であるところ,こうした卸売問屋は,複数のメーカーの複合調味料を取り扱っており,メーカーに対する価格交渉力が強いと評価されることから,発酵調味料メーカーに対する一定程度の競争圧力を有していると評価される。

(3)ワインタイプ発酵調味料

ア 市場規模
 業務用・加工用のワインタイプ発酵調味料の平成18年度の市場規模は約10億円である。

イ 市場シェア・HHI
 本件企業結合後,当事会社グループの合算市場シェア・順位は約55%・第1位となる。
また,本件企業結合後のHHIは約3,900,HHIの増分は約600である。

ウ 競争事業者の存在
 シェア10%以上の有力な競争事業者が存在する。

エ 輸入
海外から酒類とみなされない塩入ワインを輸入することが可能である。現在のところは,市場規模が小さいため,塩入ワインの輸入はほとんどないが,ワインタイプ発酵調味料の価格が高騰すれば,塩入ワインの輸入が拡大する可能性が認められる。

オ 参入
 現在のところ,ワインタイプ発酵調味料市場は小規模であることから,新規参入が生じる可能性は高くないが,清酒タイプ等の発酵調味料の製造業者及びワイン製造業者にとっては,ワインタイプ発酵調味料の製造における製造設備,ノウハウ等が当該業者製品と共通しており,比較的参入が容易である。

カ 隣接市場からの競争圧力
 ワインタイプ発酵調味料は安価なワインと競合しており,安価なワインの価格がワインタイプ発酵調味料の上限価格として機能している傾向がある。したがって,安価なワインは,ワインタイプ発酵調味料に対する一定程度の競争圧力を有していると認められる。

キ 需要者からの競争圧力
 上記2(2)クに同じ。

3 独占禁止法上の評価

(1)清酒タイプ・みりんタイプ発酵調味料

ア 単独行動による競争の実質的制限についての検討
 本件企業結合により,当事会社グループのシェアは約45%・第1位となるものの,シェア10%以上の有力な競争事業者が存在すること,清酒タイプの発酵調味料については輸入の可能性が認められること,参入に当たって清酒製造業者又は酢の製造業者であれば既存の製造設備及びノウハウを活用して参入することが比較的容易であること,隣接市場として,清酒,合成清酒,本みりん及びみりん風調味料があること,ユーザーである加工食品メーカーや外食産業は一定程度の競争圧力を有していることから,当事会社グループの単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

イ 協調的行動による競争の実質的制限についての検討
 本件企業結合により,当事会社グループを含めた上位3社の累積市場シェアは約60%となり集中度が高まるものの,上記3(1)アの状況のほか,発酵調味料については,メーカーごとに原材料やその配合,製法の違い,風味等によって数十種類にも及ぶ多様な製品を製造しており,さらに,顧客ごとのカスタムメイド品も存在することから,各事業者の製造する製品が同質的ではないこと,業務用・加工用ユーザーに対しては相対取引で価格交渉されており,競争事業者の取引条件に関する情報が容易に入手できる状況にはないことから,当事会社グループと競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野の競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(2)ワインタイプ発酵調味料

ア 単独行動による競争の実質的制限についての検討
イ 協調的行動による競争の実質的制限についての検討
 本件企業結合により,上位2社の累積市場シェアは約85%と集中度が高まるものの,上記3(2)アの状況のほか,発酵調味料については,メーカーごとに原材料やその配合,製法の違い,風味等によって数種類の製品を製造しており,さらに,顧客ごとのカスタムメイド品も存在することから,各事業者の製造する製品が同質的ではないこと,業務用・加工用ユーザーに対しては相対取引で価格交渉されており,競争事業者の取引条件に関する情報が容易に入手できる状況にはないことから,当事会社グループと競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野の競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

イ 協調的行動による競争の実質的制限についての検討
 本件企業結合により,上位2社の累積市場シェアは約85%と集中度が高まるものの,上記3(2)アの状況のほか,発酵調味料については,メーカーごとに原材料やその配合,製法の違い,風味等によって数種類の製品を製造しており,さらに,顧客ごとのカスタムメイド品も存在することから,各事業者の製造する製品が同質的ではないこと,業務用・加工用ユーザーに対しては相対取引で価格交渉されており,競争事業者の取引条件に関する情報が容易に入手できる状況にはないことから,当事会社グループと競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野の競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第6 うまみ調味料等

1 一定の取引分野

(1)製品概要

ア 各種調味料
 うまみ調味料の原料は,「だし」の中に含まれるうまみ成分を発酵や酸分解により製造したものや,各種エキス類を抽出したものから成り,これらのうまみ成分,エキス類は,単体調味料として使用される一方で,複数の成分を混合した複合調味料としても生産されている。さらに,こうした単体調味料及び複合調味料を使用して,マヨネーズ,ソース,ドレッシング等の最終調味料製品が製造されている。
単体調味料,複合調味料及び最終調味料製品の関係は,下図のとおりである。

イ 単体調味料
 各種調味料の原料となる単体調味料には,グルタミン酸ナトリウム(以下「MSG」という。),リボヌクレオタイドナトリウム,酵母エキス,蛋白加水分解物,畜肉・魚介エキス等がある。MSGは昆布のうまみ成分であるのに対して,リボヌクレオタイドナトリウムは煮干・かつお節等のうまみ成分である「イノシン酸ナトリウム」及びしいたけのうまみ成分である「グアニル酸ナトリウム」を同量ずつ含む混合体である(以下,リボヌクレオタイドナトリウム,イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムをまとめて「核酸系調味料」という。)。
 MSGは核酸系調味料と組み合わせることによって,著しくうまみが増大するという特徴を有しているため,これらを混合した「複合うまみ調味料」が家庭用や業務用・加工用に広く販売されているが,業務用・加工用ユーザーに対しては,混合せずにMSGや核酸系調味料単体のまま供給されることもある。
 また,MSG及び核酸系調味料に,酵母エキス,蛋白加水分解物,畜肉・魚介エキス等を加えることによって味にコクや深みを与えられる。
 単体調味料は業務用・加工用に販売されているが,加工用への販売が多い。

ウ 複合調味料
 MSG,核酸系調味料,酵母エキス,蛋白加水分解物等の単体調味料を複数配合したものを複合調味料といい,MSGを9割程度,核酸系調味料を1割程度配合した複合うまみ調味料が家庭用及び業務用・加工用に広く販売されている。
その他の複合調味料は,総称して天然複合調味料(注)と呼ばれており,これらの複合調味料は,最終調味料製品に対する中間原料という位置付けとなっている。
複合うまみ調味料を除く複合調味料は業務用・加工用に販売されており,複合うまみ調味料は家庭用に販売されている。複合うまみ調味料を除く複合調味料は特に業務用への販売が多い。

 (注) 天然複合調味料は「アミノ酸系調味料」,「酵母エキス系調味料」,「エキス系調味料」という3つのカテゴリーに分類される。「アミノ酸系調味料」は蛋白加水分解物を主体として,「酵母エキス系調味料」は酵母エキスを主体として,「エキス系調味料」は畜肉・魚介エキスを主体として,様々な単体調味料を複数配合したものである。

エ 最終調味料製品
 麺つゆ,風味調味料(注),ラーメンスープ,しょうゆ,だし入り味噌,ドレッシング,マヨネーズ等の最終調味料製品には,原料として,単体調味料や複合調味料が配合して用いられている。
 最終調味料製品は,業務用・加工用及び家庭用に販売されている。

 (注) だしをとる手間を省いて短時間で簡単に天然だしに近い風味を得るための調味料をいう。

(2)当事会社グループの競合製品

 当事会社グループは,以下の単体調味料,複合調味料及び最終調味料製品において競合している。

(3) 一定の取引分野の画定

ア 商品範囲

(ア) 単体調味料
 MSG,核酸系調味料,酵母エキス及び畜肉・魚介エキスといった単体調味料は,異なるうまみ成分であることから,互いに代替的に使用されてはおらず,補完的に使用されている。また,これらの単体調味料はそれぞれ異なる製造設備・製造ノウハウが必要であり,実際に製造・販売している企業は異なっている。
 したがって,需要の代替性と供給の代替性の観点から,MSG,核酸系調味料,酵母エキス及び畜肉・魚介エキスは,いずれも異なる商品範囲として画定することとした。
 ただし,蛋白加水分解物は,単体調味料のまま取引されることはほとんどなく,通常,ユーザーである加工食品メーカーに他の単体調味料と混合させてアミノ酸系調味料として供給される場合が大半であるところ,ユーザーは,蛋白加水分解物という単体調味料であるか,アミノ酸系調味料という複合調味料であるかを区別せずに使用している。また,蛋白加水分解物はアミノ酸系調味料メーカーによって内製されており,蛋白加水分解物の製造はアミノ酸系調味料の製造工程の一部とみなすことができる。
 以上のことから,蛋白加水分解物は独立した単体調味料として取引分野を形成しているとは考えられず,蛋白加水分解物はアミノ酸系調味料と同一の商品範囲として画定することとした。

(イ) 複合調味料
 複合調味料の中でも複合うまみ調味料は,料理の味のベースとしてほぼ必ず使用される必須基本調味料であり,他の複合調味料との間に需要面においての代替性はない。また,複合うまみ調味料の製造業者と天然複合調味料の製造業者は異なっており,供給の代替性も認められない。
 一方,天然複合調味料といわれるアミノ酸系調味料,酵母エキス系調味料及びエキス系調味料は,配合されている単体調味料の種類はほぼ共通しており,その混合比率が異なるだけであり,また,天然複合調味料のユーザーは,それぞれの天然複合調味料をほとんど区別して使用しておらず,複合うまみ調味料だけではうまみが十分ではない場合に,味にコクや深みを与えるために追加的にいずれかの天然複合調味料を加え,さらに,まだコクが足りなければ異なる天然複合調味料を加える,といった具合に天然複合調味料を使用している。
 したがって,こうした天然複合調味料間には一定程度の需要の代替性がみられるとともに,それぞれの天然複合調味料は製造設備等がほぼ同様であることから,供給の代替性が認められる。
 以上から,複合うまみ調味料と天然複合調味料のそれぞれによって商品範囲を画定することとした。

(ウ) 最終調味料製品
 最終調味料製品である麺つゆ,風味調味料,ラーメンスープ,しょうゆ,だし入り味噌,ドレッシング,マヨネーズ等は,いずれも風味が大きく異なり,異なる用途に用いられることから,それぞれの間に需要の代替性は認められない。また,それぞれの最終調味料製品は製造工程も異なり,製造・販売している企業も異なることから,供給の代替性も認められない。
 したがって,これらの最終調味料製品はそれぞれ異なる商品範囲として画定することとした。

イ 地理的範囲
 単体調味料及び最終調味料ともに,物流面による制約はなく,全国で販売されていることから,地理的範囲は全国で画定することとした。

2 本件企業結合が競争に与える影響の検討

 上記第6-1で画定された一定の取引分野のうち,業務用・加工用のMSG及び複合うまみ調味料以外で両当事会社グループ間において競合するものは,いずれも,水平型企業結合のセーフハーバーに該当することから,業務用・加工用のMSG及び複合うまみ調味料について検討した。

(1)業務用・加工用MSG

ア 市場希望
 平成18年度の業務用・加工用MSGの外販用市場の規模は約125億円である。

イ 市場シェア・HHI
 本件企業結合により,当事会社グループの合算シェア・順位は35%・第1位となる。
 また,本件企業結合後のHHIは約2,l900,HHIの増分は約700である。

ウ 当事会社グループの事業形態
 当事会社グループは,いずれもMSGの自社での生産は行っておらず,海外の企業に製造を委託し,当該海外企業製MSGを国内で自社ブランドによって販売している。
 したがって,当事会社グループが価格上昇を目的として販売量を制限しようとすれば,製造委託先である海外企業が直接日本市場に進出する可能性があることから,当事会社グループはこうした行動を採りにくいと評価される。

エ 有力な競争事業者
 シェア10%以上の有力な競争事業者が複数存在する。

オ 輸入
 MSGについては,国内メーカーの海外生産も含めて既に約8割が海外生産品となっていることから,輸入を行う上での障壁は大きくないと評価される。
 現在,一部の海外メーカーの供給能力が減少したことに伴って一部の国から輸入量が減少しているが,一部の国からの輸入量が減少した際には補うように他国からの輸入量が増えており,今後も,国内価格が上昇すれば,輸入量が増大し得る状況にあり,価格引上げに対する牽制力となっていると評価される。

カ 需要者からの競争圧力
 MSGのユーザーは,主に加工食品メーカーであるところ,加工食品メーカーは通常複数購買を行っており,取引先を変更することが容易である。また,加工食品メーカーは,貿易統計で公表されているMSGの輸入価格情報を利用しつつ,厳しい価格引下げをMSG事業者に対して要求していることから,輸入価格が上昇しているにもかかわらず,販売価格の上昇は微増にとどまっており,需要者からの競争圧力が一定程度機能しているものと評価される。

(2)業務用・加工用複合うまみ調味料

ア 市場規模
 平成18年度の業務用・加工用複合うまみ調味料の市場規模は約54億円である。

イ 市場シェア・HHI
 本件企業結合により,当事会社グループの合算シェア・順位は30%・第2位となる。
また,本件企業結合後のHHIは約3,700,HHIの増分は約300である。

ウ 有力な競争事業者
 シェア10%以上の有力な競争事業者が複数存在し,シェア約50%・第1位のM社は,ユーザーからのブランド認知度が高い。

エ 輸入
 海外メーカーは,日本において,単体調味料であるMSG及び核酸調味料の販売を行っているが,複合うまみ調味料の販売は行っていない。これは,単体調味料と複合うまみ調味料では,ユーザー,流通経路等が異なり,海外メーカーにとって参入しにくいためと考えられ,今後も海外メーカーによる複合うまみ調味料の日本販売への進出は困難と評価される。

オ 参入
 複合うまみ調味料の製造販売に関して,風味調味料メーカー等であれば,MSGや核酸系調味料の調達を既に行っているため,調達面での障害が少なく,販売先も共通していることから,比較的参入が容易と評価される。

カ 隣接市場からの競争圧力
 複合うまみ調味料の価格の引上げが生じれば,一部のユーザーはMSG及び核酸系調味料を直接調達する可能性があることから,単体調味料であるMSG及び核酸系調味料は,複合調味料の価格引上げに対する一定程度の牽制力として評価される。

キ 需要者からの競争圧力
 業務用・加工用複合うまみ調味料の主たるユーザーは,業務用の外食産業等であり,卸売業者を経由した取引が一般的であるところ,こうした卸売業者は,複数のメーカーの複合調味料を取り扱っており,メーカーに対する価格交渉力が強いと評価される。

3 独占禁止法上の評価

(1)業務用・加工用MSG

ア 単独行動による競争の実質的制限についての検討
 本件企業結合により,当事会社グループの合算シェアは約35%・第1位となるものの,シェア10%以上の有力な競争事業者が複数存在し,海外メーカー品の直接輸入が増えており,今後も日本市場における価格の動向によっては容易に輸入が増大し得る状況にあること,ユーザーである加工食品メーカーは価格交渉力が強いことから,当事会社グループの単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

イ 協調的行動による競争の実質的制限についての検討
 上記3(1)アで挙げた事項に加え,当事会社グループはMSGの自社生産を行っておらず,海外メーカーに委託生産を行っているのに対し,他の有力な競争事業者は自社製造しており,当事会社グループと費用条件等の競争条件が異なることから,協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第7 本件企業結合に対する独占禁止法上の評価

 以上のとおり,G-CSF以外の取引分野については,本件企業結合により競争を実質的に制限することとはならないと判断したものの,G-CSFについては,本件企業結合により競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

第8 当事会社グループが申し出た問題解消措置及びその評価

1 当事会社グループが申し出た問題解消措置

 本件資本提携について,G-CSFの取引分野における競争上の懸念を指摘したところ,当事会社グループは,以下の問題解消措置を採ることを申し出た。
 「協和発酵キリンが製造販売しているノイアップ固有の研究開発及びノイアップの製造販売に係る権利等(薬事法上の製造販売承認取得者の地位を含む。)を第三者たる製薬会社に可能な限り速やかに譲渡,利用許諾等(以下「本件譲渡」という。)を行う(平成21年9月末までに本件譲渡に係る契約を締結し,平成22年3月末までに本件譲渡を実行する。)。
 本件譲渡が実行されるまでの間,協和醗酵キリンは,ノイアップ固有の研究開発及びノイアップの製造販売に関する従来どおりの事業活動の継続及びその価値の維持に努める。」

2 問題解消措置を踏まえた独占禁止法上の評価

 当事会社グループから申出のあった問題解消措置において,薬事法上の製造販売承認取得者の地位を承継させることを確約しており,ノイアップの製造販売を行えるのは上述のノイアップ固有の研究開発及びノイアップの製造販売に係る権利等の譲受先のみとなる。また,当該譲受先はノイアップの製造を自社で行うか,他社に委託するかを選択する必要があるところ,本件問題解消措置においては,当該譲受先が希望すれば,当事会社グループに製造委託を行うことも可能な措置内容となっている。
 したがって,当該問題解消措置により,譲受先は,確実にノイアップの事業を引き継ぐことができ,G-CSFの取引分野における新規の競争者として独立して事業を行うことが可能となり,本件企業結合前の競争状況をほぼ回復できると評価される。

第9 結論

 以上の状況から,当事会社グループが申し出た措置が確実に実施された場合には,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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