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(平成12年度:事例11)(株)住友銀行と(株)さくら銀行の合併等

(平成12年度:事例11)(株)住友銀行と(株)さくら銀行の合併等

第1 本件の概要

 本件は,株式会社住友銀行(以下「住友銀行」という。)及び株式会社さくら銀行(以下「さくら銀行」という。)が,銀行業界の再編の進展等による競争の激化等に対処するため,住友銀行を存続会社として合併するものである(新会社の名称は「株式会社三井住友銀行」)。
 また,当事行は,さくら銀行の証券子会社であるさくら証券株式会社の営業のすべてを,住友銀行の関連証券会社である大和証券エスビーキャピタル・マーケッ ツ株式会社へ営業譲渡する。

第2 独占禁止法上の検討(関係法条 15条及び16条)

1 一定の取引分野について

 本件については,金融分野における競争への影響の検討に当たり,次のとおり一定の取引分野が成立すると判断した。

(1) 預金業務

 主として全国市場について,全国に店舗を置いて営業展開する都市銀行(9行),長期信用銀行(3行)及び信託専業銀行(6行)ベースで検討し,地域市場(都道府県)については,その地域に店舗を置いて営業展開する地方銀行等を含めて検討することとした。

(2) 貸出業務

 主として全国市場について,全国に店舗を置いて営業展開する都市銀行,長期信用銀行及び信託専業銀行ベースで検討し,地域市場(都道府県)については,その地域に店舗を置いて営業展開する地方銀行等を含めて検討することとした。

(3) 外国為替業務

 外国為替取引は,「対顧客取引」と「インターバンク取引」とに分けられるところ,いずれも,東京外国為替市場で活動する全金融機関ベースで検討することとした。

(4) 証券業務

 株式及び債券に係る引受業務及び売買業務のそれぞれにおいて,一定の取引分野が成立すると判断した。

2 競争への影響の検討

 上記1で画定した取引分野のうち,競争への影響が大きい預金,貸出し及び債券の引受業務についての検討の結果は次のとおりであり,いずれの取引分野においても競争を実質的に制限することとはならないと判断される。

(1) 預金業務について

 本件合併等による都市銀行,長期信用銀行及び信託専業銀行ベースでの合算シェアは20%強で,その順位は第2位となる。また,他の都市銀行等が統合を予定していることから,上位行の集中度が高まることとなる。
 しかしながら,次のような状況が認められる。

 個人預金が株式,投資信託等の代替的な金融商品に流入し,隣接市場を形成する証券会社,投資信託委託会社,保険会社等が提供する金融商品が競争圧力となっていること。

 隣接市場を形成する商品である郵便貯金(平成12年3月末における貯金残高は約260兆円)が競争圧力となっていること。

 低コストを反映した高い利回りを実現するインターネット専業銀行やコンビニエンスストアを利用した24時間サービスを行う銀行としての他業種からの参入が予定されていること。

 各銀行は金利優遇商品や懸賞付き商品など独自性のある多様な預金商品を提供し,預金獲得競争を展開していること。

 都市銀行等の有力な競争業者が存在すること。

 また,地域市場についてみた場合,当事行の合算シェアが第1位となる都道府県はない。

(2) 貸出業務について

 本件合併等による都市銀行,長期信用銀行及び信託専業銀行ベースでの合算シェアは約20%で,その順位は第2位となる。また,他の都市銀行等が統合を予定していることから,上位行の集中度が高まることとなる。
 しかしながら,次のような状況が認められる。

 資金調達手段が多様化され,大企業は社債,コマーシャルペーパー,売掛債権流動化等の間接金融によらない資金調達を進めており,隣接市場からの競争圧力が働くこと。

 アの状況の下で,一般に,信用リスクが低く,貸出額の大きい大企業向け貸出しは,縮小傾向にあるところ,資金調達の一部に間接金融を利用する大企業に対する貸出しについては,他の都市銀行等の有力な競争業者が存在すること。

 都市銀行等が中小企業向け貸出しの強化・拡大を図っており,活発な競争が行われるものと見込まれること。

 個人向け貸出しは,多様なローン商品の開発,金利優遇,手続利便性の向上等をめぐり,他の都市銀行等の有力な競争業者との間で活発な競争が行われるものと見込まれること。

 また,兵庫県においては,結合関係のある地方銀行のシェアを加算すると,当事行のシェアが30%を超え,その順位は第1位となるが,上記ア~エの状況に加え,同県には地方銀行,信用金庫等多数の地域金融機関が存在しており,大企業向け貸出し及び中小企業向け貸出しともに競争が活発な状況にあると認められる。

(3) 債券の引受業務について

 当事行と結合関係のある証券会社を加えた場合,社債の引受高の合算シェアが約20%で,その順位は第1位となる。
 しかしながら,次のような状況が認められる。

 今後,企業の資金調達手段として直接金融が伸張し,証券市場が拡大することにより,競争は活発化すると見込まれること。

 商品開発力,販売力等の事業能力が高い大手証券会社等が有力な競争業者として存在すること。

 公社債の引受業務においては,銀行の証券子会社の躍進が著しいところ,これら有力な競争業者が存在すること。

 外資系証券会社が当該分野で業績を大きく伸ばしていること。

第3 産業界に与える影響について

 本件合併等により,当事行は,上場会社約2,300社(金融会社を除く。)のうち,1,400社強(60%強)に対して融資を行うこととなる。また,このうち当事行からの融資額の合算が第1位となる上場会社は350社弱(約15%)となる。
 このため,本件合併等が産業界に与える影響について,当事行から融資を受ける事業者(上場会社及び中堅・中小会社)等に対し,アンケート調査及びヒアリング調査を実施した。
 調査結果の主なポイントは,次のとおりである。

1 本件合併等の評価

 事業会社へのアンケートの結果,本件合併等に対する評価として,約40%の事業者が「情報提供能力等の向上」を挙げた。一方,本件合併等に対する懸念として,30%弱が「サービスの低下」を挙げた。

2 個別事業者の経営に与える影響

(1) 本件合併等により,設備資金及び運転資金の調達の手段を変えるとする事業者は,それぞれ,約40%及び約35%であった。他方,設備資金及び運転資金の調達で代替的な資金調達手段がなく,資金調達の構成を変えられないとする事業者は,全体の25%程度に上った。

(2) 本件合併等後,融資姿勢の変化に伴うリスクを回避するため,借入比率の調整を行うとしている事業者は, 半数以上に上った。

(3) 借入条件については,60%強の事業者は,本件合併等による影響は特にないとしているものの,15%弱の事業者は,不利になると回答した。

(4) 本件合併等により,預金等借入以外の取引の要請,社債引受幹事を特定の証券会社とすることの要請等が現にある又は今後強まると見込んでいる事業者は30%弱から40%強と高い比率となっている。

3 業界再編への影響

 アンケートの結果,約70%の事業者が「特段の変化はない」としている。

4 企業集団内取引への影響

(1) 白水会(住友系)は,住友銀行等計20社の社長をメンバーとし,二木会(三井系)は,さくら銀行等計25社の社長をメンバーとして,定期的に会合を開催している。

(2) 本件合併等が,こうした企業集団にどのような影響を与えるかについてアンケート調査したところ,企業集団内外の取引の変化については,企業集団内外の事業者とも80%以上が特に変わらないとしており,企業集団が解消するとみている事業者は少なかった。また,企業集団の今後の動向については,企業集団に所属する事業者の80%強が,企業集団内の事業者同士の結び付きが維持・強化されるとの見方を有している。

第4 独占禁止法上及び競争政策上の取組

1 独占禁止法上及び競争政策上の問題点の指摘

 当委員会は,上記第3の調査結果を踏まえ,当事行に対して,次のとおり,独占禁止法上及び競争政策上の問題点の指摘を行った。

(1) 事業経営への関与について

 本件調査の過程において,事業規模が拡大する当事行からの融資比率及び出資比率が高まる事業者は,銀行が次のような行為を行うこと等,自己の事業経営への関与を懸念している。

  •  預金等借入以外の取引を行う(あるいは増やす)よう要請すること。
  •  社債引受幹事を特定の証券会社とするよう要請すること。
  •  社債の管理を当事行に行わせるよう要請すること。

 融資比率や出資比率の高まりを背景として,上記のような行為を行い,当該「要請」に応じない場合不利益な取扱いをする旨を示唆する等,当事行の事業活動いかんによっては,不公正な取引方法(19条)につながるおそれがあることから,今後の事業活動に際しては,自社の影響力を背景として,取引先事業者に不利益を被らせるような行為がないように所要の対応が図られる必要がある。

(2) 企業集団について

 当委員会の実施した累次の企業集団調査においては,集団内取引の割合は年々減少している等の実態がみられるところ,今般の調査によれば,上記第3のとおり,企業集団内の取引に変化がなく企業集団内の事業者同士の結び付きが維持・強化されるとの見方が集団内外の事業者において多く,企業集団に属していることをもって取引先等の選別が行われ,排他的・閉鎖的な取引関係となるとの懸念がある。

2 当事行からの申出

 上記の指摘に対して,当事行からは次の申出があった。

(1) 事業経営への関与について

 独占禁止法に違反する行為がないように,引き続き,コンプライアンス・マニュアル等の関連規定の制定,教育・研修の実施,役職員向けマニュアル・ハンドブックの配布等の施策を行内で実施することにより,法令遵守について役職員への周知体制を徹底し,自律的な法令遵守機能が働くよう最尽力していく。

(2) 企業集団について

 排他的な企業集団を形成する意図は持っておらず,白水会と二木会を統合する考えはない。白水会・二木会の運営についても,銀行中心の運営を行うつもりはない。また,白水会・二木会に属する企業間の統合を支援・促進していく考えはなく,新銀行が主導的に白水会・二木会内の事業者間の結び付きを強化・拡大するような動きをすることはない。

第5 当委員会の今後の対応

1 住友銀行とさくら銀行の合併及び両行の証券子会社と関連証券会社との間の営業譲渡については,独占禁止法上の規定に違反するおそれはないと認められた。

2 本件合併等が産業界に与える影響に関して,当委員会からの指摘に対する当事行からの申出については,その実施状況を十分把握していくとともに,独占禁止法に違反すると認められる行為がある場合には,これに対して厳正に対処していくこととする。

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