第1 当事会社
明治生命保険相互会社(以下「明治生命」という。)は,生命保険業を営む者であり,生命保険全体では保有契約高シェア約10%・第4位である。安田生命保険相互会社(以下「安田生命」という。)は,生命保険業を営む者であり,生命保険全体では保有契約高シェア約8%・第5位である。
当事会社は,合併後,生命保険全体では保有契約高シェア約18%・第2位となる。
第2 合併の概要及び関係法条
当事会社は,平成16年1月に合併を計画している。
よって,本件合併の関係法条は,独占禁止法第15条である。
第3 合併の目的
当事会社は,経営資源を効率的に再配置し,成長力・収益力・財務健全性を高め,多様化する顧客ニーズ等に対処するために本件合併を行うとしている。
第4 一定の取引分野
1 一定の取引分野
一定の取引分野の画定は,当事会社が競合する保険について,死亡保障に重点を置くか(終身保険,定期付終身保険等),貯蓄機能に重点を置くか(養老保険,貯蓄保険等)などの加入目的,個人向け保険か団体向け保険かなどの顧客層,契約形態などから,ユーザーにとって機能・効用が同種であるか否かの観点から検討した。
また,個人年金保険(払込保険料を原資に一定年齢以降に年金を支給するもの),団体信用生命保険(住宅ローン利用者の債務を保証している信用保証機関, 銀行等の信用供与機関等を対象とした保険)等については,加入目的,顧客層,契約形態などからみて機能・効用,代替性の観点から生命保険商品と同種のもの(信託,損害保険等)があり,これらも含めて一定の取引分野が画定されるものと判断した。
2 重点審査対象品目の概要
前記1で画定した一定の取引分野のうち,合併後に想定される市場の状況からみて,詳細な検討を要すると認められた団体定期保険(企業の従業員等に加入勧奨が行われ,希望する者が任意に加入する死亡保険であり,企業等が契約する保険)及び団体信用生命保険(住宅ローン利用者の債務を保証している信用保証機関,銀行等の信用供与機関等を対象とした保険)の2種類の保険について,重点的な審査を行った。団体定期保険及び団体信用生命保険の概要は別紙のとおりである。
第5 重点審査対象の2種類の保険に関する検討
1 団体定期保険
(1) 市場の状況
団体定期保険の保有契約高(注)は減少傾向にあり,平成13年度における市場規模は約146兆3000億円となっている(前年度比4.1%減)。
本件合併により,当事会社の合算保有契約高シェア・順位は,約39%を占め,第1位となる。
(注) 保有契約高とは,生命保険会社が現在保有している保険契約の保障金額の総合計額をいう。
順位 | 会社名 | シェア |
---|---|---|
1 | 安田生命 | 約30% |
2 | A社 | 約15% |
3 | 明治生命 | 約10% |
4 | B社 | 約10% |
5 | C社 | 約5% |
その他生保合計 | 約30% | |
(1) | 当事会社合算 | 約39% |
全体合計 | 100% |
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
(2) 考慮事項
ア ユーザーの取引先変更の容易性
企業等のユーザーは,リスク分散のために複数の生命保険会社と契約しているのが通常であり,また,団体定期保険は1年契約であって,企業等のユーザーは毎年契約内容の見直しを行っている。団体定期保険の新契約高(注)シェアの推移をみると各生命保険会社の新契約高シェアの変動は大きく,企業等のユーザーは保険料や契約内容に不満があれば,他の生命保険会社への変更は容易であると認められる。
(注) 新契約高とは,当該年度において生命保険会社が新たに契約した保険契約の保障金額の総合計額をいう。
イ 競争事業者の状況
保有契約高シェア約15%の競争事業者A社及び保有契約高シェア約10%の競争事業者B社が存在する。これらの競争事業者は,個人保険の分野においてはいずれも当事会社よりもシェアが高く,団体定期保険のシェア獲得の能力は高いものと認められ,また,その意欲もあるものと認められる。
ウ 隣接市場からの競争圧力
(ア) 団体定期保険の隣接市場として,郵便局が販売する職域保険(簡易生命保険)や全国労働者共済生活協同組合連合会等の協同組合が行う団体定期生命共済が存在しており,それぞれ団体定期保険に対する有効な競争圧力として認められる。
(イ) 団体定期保険は,企業の従業員等の全部又は一部の者を対象とする死亡保険であり,企業等が保険契約を締結するものであるが,従業員等に個別に加入勧奨が行われ,個々の従業員等の加入も任意であって,保険料は従業員等の負担であることから,個人向けの定期保険と類似している保険であり,団体定期保険から個人保険(死亡保険)への切替えが容易であると認められる。このため,従業員レベルでみれば個人保険(死亡保険)は,団体定期保険に対する競争圧力として認められる。
(3) 独占禁止法上の評価
前記(2)のとおり,企業等のユーザーがリスク分散のため複数の生命保険会社と契約しており,取引先変更が容易であること,団体定期保険のシェア獲得の能力の高い競争事業者が存在していること,隣接市場からの競争圧力があることが認められることから,本件合併により,団体定期保険の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
2 団体信用生命保険
(1) 市場の状況
団体信用生命保険の保有契約高は増加の傾向にあり,平成13年度における市場規模は約166兆600億円となっている(前年度比2.0%増)。
本件合併により,当事会社の合算保有契約高シェア・順位は,生命保険のみでは下表のとおり,約30%を占め,第1位となる。
順位 | 会社名 | シェア |
---|---|---|
1 | A社 | 約20% |
2 | 明治生命 | 約15% |
3 | 安田生命 | 約15% |
4 | B社 | 約15% |
5 | C社 | 約10% |
その他生保合計 | 約25% | |
(1) |
当事会社合算 | 約30% |
全体合計 | 100% |
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
(2) 考慮事項
ア ユーザーの取引先変更の容易性
銀行等のユーザーは,リスク分散のために複数の生命保険会社と契約しているのが通常であり,団体信用生命保険は1年契約であって,銀行等のユーザーは毎年契約内容の見直しを行っている。団体信用生命保険の新契約高シェアの推移をみると各生命保険会社の新契約高シェアの変動は大きく,銀行等のユーザーは保険料や契約内容に不満があれば,他の生命保険会社への変更は容易であると認められる。
イ 競争事業者の状況
団体信用生命保険については,機能・効用,代替性の観点から同種のものである損害保険(住宅ローン保証保険,住宅資金貸付保険等)と併せて一定の取引分野が画定されると判断されるところ,銀行等の住宅ローン貸出残高を基に,損害保険を含めた一定の取引分野における当事会社の合算保有契約高シェアを推計すると約26%となる。
そして,損害保険を含めた一定の取引分野において,A社及びB社という保有契約高シェアが10%以上であるとみられる競争事業者が複数存在する。
ウ 隣接市場からの競争圧力
団体信用生命保険の隣接市場として,全国共済農業協同組合連合会が行う共済事業である団体定期生命共済に付加することができる団体信用生命特約が存在しており,団体信用生命保険に対する有効な競争圧力として認められる。
(3) 独占禁止法上の評価
前記(2)のとおり,銀行等のユーザーがリスク分散のため複数の生命保険会社と契約しており,取引先変更が容易であること,保有契約高シェアが10%以上であるとみられる競争事業者が複数存在していること,隣接市場からの競争圧力があることが認められることから,本件合併により,団体信用生命保険の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
第6 結論
重点的な審査を行った団体定期保険及び団体信用生命保険については,前記第5のとおり,本件合併により,それぞれの一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられ,また,審査を行った他の一定の取引分野についても,当事会社の説明を前提とすれば,競争を実質的に制限することとはならないと考えられることから,本件合併は独占禁止法に違反するおそれはないものと認められる。
別紙
1 団体定期保険(概要)
保険内容・特徴 | 特定の共通な性格を持つ人的集団を一括して単一の保険契約において保障する死亡保険である。企業の従業員等に加入勧奨が行われ,加入を希望する者が被保険者となり(任意加入),被保険者による保険料負担等を特徴としている。この形態から個人保険に類似する保険である。また,集団的な取扱いのため,一般的に個人保険よりも保険料は割安である。 | |
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被保険団体の制限 | (1) 最低被保険者数 (団体の区分に応じて基準が設定されている。) (2) 加入率の制限 ((1)の最低被保険者数にかかわらず,有資格者のうち一定割合以上の者が加入することが必要である。) |
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契約の形態 | 契約者 | 企業・団体の代表者 |
被保険者 | 従業員・団体の所属員のうち,一定の資格を有する者 | |
契約方法 | 企業・団体が一括して契約 | |
保険金受取人 | 従業員・団体の所属員が指定した者 (通常,従業員・団体の所属員の遺族) |
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保険料率 | 企業・団体の規模や年齢構成等によって異なる。 | |
保険料負担者 | 原則として従業員・団体の所属員 | |
契約期間 | 1年 |
2 団体信用生命保険(概要)
保険内容・特徴 | 住宅ローン等の利用者の債務を保証している企業・団体を対象とした保険であり,企業の住宅・育英資金貸付制度の貸付保全等にも利用される。 債務の返済が完了する前に債務者が死亡,又は所定の高度障害になった場合には,未返済債務額に相当する保険金を債務者に支払い,債務を消滅させることを目的としている団体保険である。 |
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契約の形態 | 契約者 | 債権者である信用保証機関,信用供与機関等 |
被保険者 | 債務者 | |
契約種別 | (1) 金融機関のローンに関するもの (2) 販売会社の提携ローンに関するもの (3) 企業の社内ローンに関するもの |
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保険金受取人 | 債権者である信用保証機関,信用供与機関等 | |
保険金額 | 未返済債務額(債務の残高に応じて逓減する。) | |
保険料負担者 | 債権者である信用保証機関,信用供与機関等 | |
契約期間 | 1年 |