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(平成17年度:事例13)株式会社三菱東京フィナンシャル・グループと株式会社UFJホールディングスの経営統合について

(平成17年度:事例13)株式会社三菱東京フィナンシャル・グループと株式会社UFJホールディングスの経営統合について

第1 本件の概要

 本件は,株式会社三菱東京フィナンシャル・グループ(以下「三菱東京FG」という。)及び株式会社UFJホールディングス(以下「UFJHD」という。)が,両社の合併を初めとする両グループの経営統合について計画したものである。
 当事会社の子会社である普通銀行,信託銀行及び証券会社についても,当事会社の合併と同時期に合併することが計画されている(当事会社の主な子会社・関連会社は次表のとおり。)。本件においては,これらの合併を審査対象としたほか,その傘下子会社・関連会社で当事会社の合併時において,合併されず同一の取引分野で事業活動を行っているものが複数存在することとなる場合についても,持株会社やその子会社・関連会社による株式保有等により結合関係が形成・強化されることから,本件の審査対象とした。
 本件の関係法条は,独占禁止法第15条である。

 表

第2 一定の取引分野

1 企業結合審査の対象となる分野

 上記のとおり,三菱東京FG及びUFJHDの傘下にあるグループ会社が取り扱っている商品・役務について,ユーザーからみて機能・効用が同種であるか否かなどの観点から一定の取引分野の役務範囲について検討し,30の分野が存在すると判断した。また,地理的範囲については,原則として全国で画定し,預金市場及び貸出市場については,全国のほかに都道府県単位においても取引分野が画定されると判断した。
 したがって,合計で以下の47の取引分野が画定されると判断した。

 表

2 詳細審査対象分野

 上記47の取引分野のうち,書面審査の段階で独占禁止法上問題がないと認められた24の取引分野を除き,次に挙げる23の取引分野を詳細審査の対象とした。

 表

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第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討及び独占禁止法上の評価

1 銀行(預金)分野(全国市場及び6都府県市場)

(1) 全国市場

ア 市場の状況
 本件統合により,当事会社の全国市場における預金残高の合算シェア・順位は約40%・第1位(HHI約2,600,増加分 約750) となる。

 表

イ 独占禁止法上の評価
 大手17行ベースでみた市場シェアについては約40%となるが,以下の考慮要因を踏まえれば,単独行動・協調的行動いずれの観点からも競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(ア)単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 手数料優遇などの商品内容の多様化,ATM利用サービスの拡大等により預金獲得競争が展開されていること。

[2] 低コストを反映した高い利回りを実現するインターネット専業銀行や,コンビニエンスストアを利用した24時間サービスを行う銀行等,他業態からの銀行業務参入がみられ,競争の活性化に寄与していること。

[3] 隣接市場を形成する郵便貯金が競争圧力となっていること。また,投資信託や個人年金保険(貯蓄型保険)等,証券会社,投資信託委託会社,保険会社等が提供する金融商品が隣接市場を形成し,競争圧力となっていること。

[4] 都市銀行等の有力な競争事業者が存在すること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 上記[1]~[3]と同じ。

(2) 地域市場(東京都,千葉県,神奈川県,愛知県,京都府,大阪府)

 (注) 千葉県,神奈川県及び京都府の地域市場については,下記と同様の分析・評価により競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

ア 市場の状況
 本件統合により,当事会社の主な地域市場における預金残高の合算シェア・順位は次のとおりとなる。

 表

イ 独占禁止法上の評価
 東京都,愛知県及び大阪府では,上記のような市場シェアの状況となるが,以下の考慮要因を踏まえれば,いずれの地域においても単独行動・協調的行動いずれの観点からも競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 (1)イ(ア)の[1]~[3]のほか,

 ○ 都市銀行(東京都及び大阪府)の有力な競争事業者が存在すること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 (1)イ(ア)の[1]~[3]のほか,

 ○ 都市銀行のほか,地方銀行,信用金庫等の金融機関が多数存在すること(東京都,愛知県及び大阪府)。

2 銀行(貸出)分野(全国市場及び6都府県市場)

(1) 全国市場

ア 市場の状況
 本件統合により,当事会社の全国市場における貸出残高の合算シェア・順位は約35%・第1位(HHI約2,500,増加分 約600)となる。

 表

イ 独占禁止法上の評価
 大手17行ベースでみた市場シェアについては約35%となるが,以下の考慮要因を踏まえれば,単独行動・協調的行動いずれの観点からも競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 資金調達手段が多様化され,大企業は社債,コマーシャルペーパー,売掛債権の流動化等,中小企業も売掛債権の流動化等の直接金融による資金調達を進めており,隣接市場からの競争圧力が働くこと。

[2] [1]の状況の下で,大企業向け貸出は縮小傾向にあるところ,資金調達の一部に間接金融を利用する大企業に対する貸出については,他の都市銀行等の有力な競争事業者が存在すること。

[3] 中小企業向け貸出についても,収益構造の改善のため都市銀行等が強化・拡大を図っており,活発な競争が行われていること。

[4] 個人向け貸出は,多様なローンの開発,金利優遇,手続利便性の向上等をアピールした競争が行われていること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

 上記[1],[3]及び[4]と同じ。

(2) 地域市場(東京都,愛知県,三重県,京都府,大阪府,奈良県)

 (注) 三重県,京都府及び奈良県の地域市場については,下記と同様の分析・評価により競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

ア 市場の状況
 本件統合により,当事会社の主な地域市場における貸出残高の合算シェア・順位は次のとおりとなる。

 表

イ 独占禁止法上の評価
 東京都,愛知県及び大阪府では,上記のような市場の状況となるが,以下の考慮要因を踏まえれば,いずれの地域においても単独行動・協調的行動いずれの観点からも競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 (1)イ(ア)の[1],[3]及び[4]のほか,

[1] 東京都においては,市場構造が高度に寡占的ではなく,企業結合後の市場シェアがそれぞれ35%以下であり,かつ,10%以上の市場シェアを有する競争事業者が2社存在し,当事会社間の従来の競争状況等から考慮して問題がないと考えられること。

[2] 大阪府においては,市場構造が高度に寡占的ではなく,企業結合後の市場シェアがともに25%弱であり,かつ,10%以上の市場シェアを有する競争事業者が存在し,当事会社間の従来の競争状況等から考慮して問題がないと考えられること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 (1)イ(ア)の[1],[3]及び[4]のほか,

[1] 地方銀行,信用金庫等が地元地域の中小企業や個人向けに激しい競争を行っていること(各都府県)。

[2] 都市銀行のほか,地方銀行,信用金庫等の金融機関が多数存在すること(東京都,愛知県及び大阪府)。

3 信託分野

(1) 市場の状況

 本件統合により当事会社グループの信託の種類ごとの合算シェア・順位等は次のとおりとなる。

 表

(2) 独占禁止法上の評価

 各信託のいずれの分野も市場シェアが高まることとなるが,以下の考慮要因を踏まえれば,いずれの分野も単独行動・協調的行動いずれの観点からも競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

ア 金銭信託・金外信託

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 市場構造が高度に寡占的ではなく,企業結合後の市場シェアが35%以下であり,かつ,10%以上の市場シェアを有する競争事業者が2社以上存在し,当事会社間の従来の競争状況等から考慮して問題がないと考えられること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 多数の競争事業者が存在すること。

[2] 委託者のために金銭の運用を行う点においては,全国に多数存在する投資顧問業者の投資一任業務が類似した機能を果たしており,隣接市場からの競争圧力として機能していること

イ 証券投資信託

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 複数の有力な競争事業者が存在すること。

[2] 受託者たる信託銀行に対する信託報酬については,最終的には委託者たる証券投資信託委託会社に決定権限があり,同会社間での競争が圧力として働いていること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 上記[2]に加え,受託者は管理業務中心であり,顧客である証券投資信託委託会社に対して事務処理,管理面での競争が行われていること。

ウ 年金信託

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 複数の有力な競争事業者が存在すること。

[2] 生命保険が隣接市場からの競争圧力として機能していること。

[3] 顧客である企業,年金基金等は,運用面の実績等を勘案して,信託銀行のみならず,生命保険会社,投資顧問会社,全共連(全国共済農業協同組合連合会)の中から運用先又は管理先の選択を行っていること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 上記[2]及び[3]と同じ。

エ 財産形成給付信託
 信託銀行間の財産形成給付信託残高でみれば,統合後の当事会社は約30%(第2位)のシェアとなるが,財形取扱金融機関としての契約獲得競争は全金融機関で行われていることから,一定の取引分野としては,銀行,証券会社,保険会社等が取り扱う財形貯蓄を含む財形貯蓄全体とすることが適当である。この場合,財産形成給付信託を含む財形貯蓄制度の取扱金融機関は,銀行,証券会社,保険会社など競争事業者が非常に多く,財形貯蓄制度を取り扱う全金融機関ベースでの市場シェアは10%以下であることから,単独行動・協調的行動のいずれの問題も生じないと判断した。

オ 有価証券信託

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 複数の有力な競争事業者が存在すること。

[2] 有価証券管理信託については,証券会社の保護預りなど,機能・効用の類似した競合サービスが存在し,隣接市場からの競争圧力として機能していること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 上記[2]に加え,

[1] 運用の成績等を勘案して,顧客が受託銀行を切り替えることが容易であると考えられること。

[2] 後発の信託銀行が有力な地位を占めるなどシェアの変動が容易に生じていること。

カ 金銭債権の信託

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 複数の有力な競争事業者が存在すること。

[2] 普通銀行によるSPC(特定目的会社)の活用など,機能・効用の類似した競合サービスが存在し,隣接市場からの競争圧力として機能していること。

[3] 証券会社系,外資系等,証券化のノウハウを持つ後発の信託会社が業務展開しており,活発な参入がみられること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

 上記[2]及び[3]に加え,証券化の対象資産が事案ごとに異なり,それぞれにつき非同質的なサービスが提供されていること。

キ 包括信託

(ア) 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 市場構造が高度に寡占的ではなく,企業結合後の市場シェアが35%以下であり,かつ,10%以上の市場シェアを有する競争事業者が2社以上存在し,当事会社間の従来の競争状況等から考慮して問題がないと考えられること。

(イ) 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 一括して複数の種類の顧客資産を信託財産として受託することから,受託資産ごとに非同質的なサービスが提供されていること。

[2] 不動産証券化に係る包括信託については,マーケットの拡大に伴い,証券会社系,外資系等の信託会社や,普通銀行の参入が広がっており,今後も参入が見込まれること。

4 証券代行分野

(1) 市場の状況

 本件統合により当事会社グループの受託社数(公開会社)の合算シェア・順位は約40%・第1位(HHI約2,600,増加分約700)となる。

 表

(2) 独占禁止法上の評価

 公開会社の受託社数で市場シェアが40%弱となるが,以下の考慮要因を踏まえれば,単独行動・協調的行動いずれの観点からも競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

ア 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 有力な競争事業者が多く存在すること。

[2] 平成21年までに株券のペーパーレス化が行われるところ,証券代行業務への参入障壁は低くなり,他業態からの参入により競争がより激しいものとなると考えられること。

イ 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 上記[2]に加え,

[1] 近年,公開会社による証券代行機関の移管の増加,事務代行手数料の低下が認められ,受託競争が活発に行われていること。

[2] 証券代行関連の情報提供等,株式事務に付加価値を高める競争も活発に行われていること。

5 クレジットカード分野

(1) 市場の状況

 本件統合により当事会社グループのカード取扱高(ショッピング+キャッシング)の合算シェア・順位は約25%・第1位(HHI約1,200,増加分約400)となる。

 表

(2) 独占禁止法上の評価

 クレジットカードの取扱高で市場シェアが約25%となるが,以下の考慮要因を踏まえれば,単独行動・協調的行動いずれの観点からも競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

ア 単独行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因
 市場構造が高度に寡占的ではなく,企業結合後の市場シェアが25%以下であり,かつ,10%以上の市場シェアを有する競争事業者が存在すること,当事会社間の従来の競争状況等から考慮して問題がないと考えられること。

イ 協調的行動により競争を実質的に制限することとなるとはいえない要因

[1] 多数・多様な競争事業者が存在すること。

[2] 対加盟店取引・対会員取引の双方において激しい競争が行われていること。

[3] デビットカードやコンビニエンスストアでの代引き等,決済手段の多様化が進んでおり,隣接市場からの競争圧力として機能していること。

第4 結論

 以上の状況から,本件行為により,第2で画定した一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

 なお,独占禁止法第9条において,事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立又は転化が禁止されているところ,「事業支配力が過度に集中することとなる会社の考え方」(平成14年11月,公正取引委員会)に従い本件統合後の当事会社グループ(当事会社並びにその国内の子会社及び実質子会社)について検討を行った結果,事業支配力が過度に集中することとなる会社には該当しないと判断した。

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