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(平成13年度:事例4) 日本鋼管(株)及び川崎製鉄(株)の持株会社の設立による事業統合

(平成13年度:事例4) 日本鋼管(株)及び川崎製鉄(株)の持株会社の設立による事業統合

1 本件の概要

(1) 本件統合の概要

 本件は,日本鋼管(株)と川崎製鉄(株)が,最近における需要業界の世界規模での再編,グローバル調達の拡大等の事業環境の変化に対応するため,国際水準の競争力の実現等を目的として,両社の親会社となる持株会社を設立し,その後,両社を事業別会社に再編することにより事業の統合を行うものである。

(2) 鉄鋼業界の現状

 我が国の鉄鋼生産量(粗鋼ベース)は,近年,年間1億トン前後で推移している。鋼材価格はバブル崩壊以降低下傾向にある。輸入については,1980年代以降,韓国,中国等アジアの鉄鋼メーカーの成長に加え,円高の影響もあり急増したところ,最近では国内価格の低迷もあり,低下傾向にあるものの,粗鋼ベースで国内出荷量のほぼ1割前後のシェアを占めている。

2 独占禁止法上の考え方

(1) 一定の取引分野

 本件においては,当事会社が共に製造販売している鋼材の品種ごとの製造販売分野に一定の取引分野が成立すると判断した。

(2) 競争への影響の検討

 上記2(1)で画定した取引分野ごとに検討を行ったが,本件事業統合後の販売数量シェア,順位等に基づき,特に,無方向性電磁鋼板(シェア約35%,順位第2位),容器用鋼板(同約35%,第1位),配管用鋼管(同約45%,第1位)及び高抗張力鋼(同約35%,第2位)の各品種の取引分野について,重点的に検討を行った。

(3) 競争への影響

 上記4品種については,本件統合後の販売数量シェア及び順位は上記2(2)のとおりとなる。しかしながら,以下の事情を総合的に勘案すれば,本件統合により,これら4品種の取引分野のいずれにおいても競争を実質的に制限することとはならず,上記2(1)で画定したこれら4品種を含むいずれの取引分野においても競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

ア 無方向性電磁鋼板について

 本件事業統合後の販売数量シェアが約35%となり,また,順位が第2位となるが,以下の事実が認められた。

(ア) シェア50%弱の首位事業者を含む有力な競争業者が複数存在する。

(イ) ユーザーはほとんどが大手電気機械メーカーであるところ,近年,製造拠点を海外へシフトするとともに,無方向性電磁鋼板を現地メーカーから調達するケースも増加している。このような状況の下,アジア製品の品質の向上等もあり,今後,輸入比率が上昇する蓋然性は高い。また,アジア製品の輸入を検討しているとするユーザーも存在する。

(ウ) ユーザーは,鉄鋼メーカー間で品質差はないため,複数の鉄鋼メーカーから調達する方針を採っている。
 ユーザーは,価格交渉においては,より低い価格を提示したメーカーからの調達シェアを増加させるとの方針を採るなど低廉な価格での調達を重視しており,また,自社の海外製造拠点における我が国の鉄鋼メーカーからの調達価格及びアジアの鉄鋼メーカーからの調達価格などを交渉の材料としている。
 このように,ユーザーの価格交渉力は強く,無方向性電磁鋼板の価格は低下している。

イ 容器用鋼板について

 本件事業統合後の販売数量シェアが約35%となり,また,順位が第1位となるが,以下の事実が認められた。

(ア) シェア約35%及び約25%の有力な競争業者が存在する。

(イ) 容器用鋼板の用途の過半を占めるスティール缶については,競合品であるアルミ缶,小容量ペットボトルに代替されてきており,スティール缶の素材である容器用鋼板の販売数量は減少している。

(ウ) 容器用鋼板のうち,一般缶及び18リットル缶向けのものについては輸入品も使用され,輸入量も増加している。

(エ) ユーザーは製缶メーカーであり,スティール缶のほか,その競合品であるアルミ缶及び小容量ペットボトルも製造していることから価格交渉力が強い。また,鉄鋼メーカー間で品質差はないため,複数の鉄鋼メーカーから調達する方針を採っている。
 価格交渉においては,容器用鋼板の用途であるスティール缶の価格のみならず,その競合品であるアルミ缶の価格も参考にして交渉が行われている。また,一般缶及び18リットル缶向けについては,輸入品の価格も交渉材料とされている。
 このように,ユーザーの価格交渉力は強く,スティール缶から小容量ペットボトル等への代替もあり,容器用鋼板の価格は低下している。

ウ 配管用鋼管について

 本件事業統合後の販売数量シェアが約45%となり,また,順位が第1位となるが,以下の事実が認められた。

(ア) シェア25%強の有力な競争業者が複数存在する。

(イ) 配管用鋼管の販売数量の約8割を占める中低圧用配管用鋼管については,競合品である樹脂管に代替されてきており,販売数量は減少している。
 また,鉄鋼メーカー間で品質差がないことに加え,中低圧用配管用鋼管やその競合品である樹脂管については市況が存在していることから,中低圧用配管用鋼管を取り扱う卸売業者はこれらの市況を価格交渉の材料の一つとして鉄鋼メーカーと交渉している。このようなことから,中低圧用配管用鋼管の価格は低下している。

(ウ) 配管用鋼管のうち,高圧用配管用鋼管については,そのユーザーは,価格交渉力の強い造船会社,プラントメーカー及びガス会社であることに加え,鉄鋼メーカー間で品質差がないため,ユーザーは複数の鉄鋼メーカーから調達する方針を採っている。
 また,ユーザーの中には,競争入札による調達を行うとともに,具体的な数字を提示して鉄鋼メーカーにコストダウンを求めている者もある。
 このように,ユーザーの価格交渉力は強く,高圧用配管用鋼管の価格は低下している。

エ 高抗張力鋼について

 本件事業統合後の販売数量シェアが約35%となり,また,順位が第2位となるが,以下の事実が認められた。

(ア) シェア45%強の首位事業者を含む有力な事業者が複数存在する。

(イ) ユーザーは,価格交渉力の強い自動車メーカーやゼネコンなどであり,鉄鋼メーカー間で品質差がないため,複数の鉄鋼メーカーから調達する方針を採っている。
 ユーザーは,価格交渉においては,より低い価格を提示した鉄鋼メーカーへの調達シェアを増加させるとの方針を採るなど低廉な価格での調達を重視している。
 このように,ユーザーの価格交渉力は強く,高抗張力鋼の価格は低下している。

(ウ) 最近では,ユーザーの側において,コスト削減を図るため,大量購入を背景とした鉄鋼メーカーの選別を強める動きが顕著になっており,この結果,鉄鋼メーカーへの競争圧力が増大している。また,今後,自動車用の高抗張力鋼にターゲットを絞るなど独自の販売戦略を一層強化していくとする鉄鋼メーカーも存在する。

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