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農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針

農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針

平成19年4月18日
公正取引委員会
改定:平成22年1月1日
改定:平成23年6月23日
改定:平成28年4月1日
改定:平成29年6月16日
改定:平成30年12月27日

 

第1部 指針の趣旨と構成

1 指針の趣旨

(1) 農業協同組合は,農業協同組合法に基づき自主的に設立された協同組合であり,小規模な事業者である農業者が相互扶助によって,経営効率の向上や生活の改善を図るとともに,その組合員のために最大の奉仕をすることを目的としている。農業者による農業協同組合への加入・脱退が自由であることはもちろん,組合員が,農薬,肥料,飼料,農業機械等の生産資材を購入したり,組合員が生産した農畜産物を出荷したりする際に農業協同組合の事業を利用するか否かは組合員の自由意思に委ねられている。
 このため,農業協同組合が組合員に対して農業協同組合の事業の利用を強制することは,そもそも農業協同組合制度の趣旨に反するものであるが,さらに,組合員の自由かつ自主的な判断による取引を妨げることや,農業協同組合と競争関係にある商系事業者等の取引の機会を奪うことなどを通じて,農業分野における競争に悪影響を及ぼすことにもなる。

(2) 農業協同組合については,組合員に対して農業協同組合の事業の利用(いわゆる系統利用)を強制したり,農業協同組合と競争関係にある商系事業者と組合員が直接取引すること(いわゆる商系取引)を妨げるといった問題行為に関して,公正取引委員会が法的措置や警告を行ったものが平成元年以降で14件あったところである(平成30年3月31日現在)。

(3) この背景の一つとして,農業協同組合連合会(以下「連合会」という。)及び単位農協の内部で独占禁止法についての理解が浸透しておらず,同法に関する認識が必ずしも十分ではないことが挙げられている。仮に同法に関する認識が十分でないとすれば,組合員の自由で自主的な取引先の選択が妨げられたり,独占禁止法に違反する行為が行われることにもつながりかねない。
 農業分野における独占禁止法違反行為を未然に防止し,連合会及び単位農協の適正な活動を担保するためには,連合会及び単位農協において独占禁止法の理解の浸透と法令順守体制の強化が図られることが重要である。

(4) このため,今般,独占禁止法上問題となる行為を明らかにすることにより,連合会及び単位農協による違反行為を未然に防止するとともに,農業分野における公正かつ自由な競争の促進に役立てることを目的として,本指針を策定した。

2 指針の性格及び構成

(1) 指針の性格

 本指針は,連合会及び単位農協のどのような行為が不公正な取引方法に該当し,独占禁止法上問題となるかについて,具体的な事例を挙げながら明らかにすることによって,連合会及び単位農協による独占禁止法違反行為の防止を図るとともに,農業分野における公正かつ自由な競争の促進に役立てようとするものである。
 本指針では,過去に独占禁止法上問題となった事例のほか,関係者からのヒアリング調査の結果等も踏まえ,実際に行われる可能性が高いと考えられる行為その他独占禁止法上の考え方を明確にする必要性があると考えられる行為を取り上げている。したがって,本指針に列挙されている行為は,独占禁止法上の問題が生じると考えられる主要なものを例示的に挙げたものであって,問題となる行為は本指針記載の行為に限定されるものではない。
 本指針において,「不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある」とされている行為については,当該行為自体で直ちに独占禁止法上違法と判断されるものではなく,個々のケースに応じて,当該行為を行う連合会又は単位農協の市場における地位等から,商系事業者等の競争事業者(以下「競争事業者」という。)を排除することとならないかどうかなど,市場の競争に与える影響から違法となるか否かが判断される。また,連合会又は単位農協が,購買事業,販売事業等の対象である生産資材や農畜産物の安全性の確保,品質の維持等のために合理的な理由が認められる必要最小限の制限を,関係する全ての組合員に対して同等に課す場合には,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。
 本指針では,連合会及び単位農協による共同事業に関する固有の問題行為を中心に取り上げている。このため,単位農協によっては,例えば,ガソリンスタンドやスーパーマーケットのように,組合員に対して一般の事業者と同様の事業活動を行っている場合もあるが,本指針においては,このような活動における問題行為については,特段の記載は行っていない。
 連合会及び単位農協の具体的な活動が独占禁止法に抵触するおそれがあるか否かについては,個々の事案ごとに判断を要する場合も多いと考えられるが,このような場合には,当委員会に設けられている相談窓口において個別の相談に応じることとしている。

(2) 本指針の第2部の構成

 公正取引委員会が連合会及び単位農協に対して審決等の法的措置を採った事例や,違反の疑いがあるとして警告を行った事例のほとんどは,不公正な取引方法に関するものである。このため,農業協同組合に係る不公正な取引方法について,
第1 独占禁止法と農業協同組合
第2 単位農協による組合員に対する問題行為
第3 連合会による単位農協に対する問題行為
第4 連合会又は単位農協による仕入先に対する問題行為
第5 連合会又は単位農協による販売先に対する問題行為
の5部に分けて説明している。
 第1において,独占禁止法の目的,独占禁止法の規制対象,独占禁止法の禁止行為と協同組合に対する適用除外制度及び不公正な取引方法の概要について説明している。
 第2において,単位農協による組合員に対する問題行為,第3において,連合会による単位農協に対する問題行為,第4において,連合会又は単位農協による仕入先に対する問題行為,第5において,連合会又は単位農協による販売先に対する問題行為を記載している。
 また,具体的事例については,過去に独占禁止法上問題となった事例のほか,関係者からのヒアリング調査の結果等から実際に行われる可能性が高いと考えられる事例を踏まえて,問題行為についての理解を助けるために例示したものである。このため,問題行為を網羅的に示したものではない。

第2部 農業協同組合に係る不公正な取引方法について

第1 独占禁止法と農業協同組合

1 独占禁止法の目的

 独占禁止法は,公正かつ自由な競争を促進することを目的としている(第1条)。これは,事業者が創意工夫により良質・廉価な商品を供給しようとする努力を促そうとするものであるが,各事業者が自ら商品の価格,生産数量などを決め,新たな市場に挑戦し,また,創意工夫を凝らして,消費者から選ばれる魅力的な商品を供給しようとして競い合うことは,消費者に利益をもたらすとともに,事業者自らの事業活動の発展にもつながることになる。

2 独占禁止法の規制対象

 独占禁止法は,この目的を達成するために,事業者や事業者団体が競争制限的又は競争阻害的な一定の行為を行うことを禁止している。この規制の対象となる「事業者」の範囲について,独占禁止法は,「商業,工業,金融業その他の事業を行う者」と定義しており(第2条第1項),事業の種類や営利性の有無,法人か個人かは問わない。したがって,農業資機材の製造販売や,卸小売のみならず,農畜産物の生産や販売を行っている個人農業者や農地所有適格法人も事業者に該当する。
 また,単位農協は,事業者である組合員の結合体であるという点では事業者団体に該当するのと同時に,自ら購買事業,販売事業,利用事業,信用事業等の事業活動を行っていることから事業者にも該当することとなる。連合会についても同様である。

3 独占禁止法の禁止行為と協同組合に対する適用除外制度

 独占禁止法は,事業者が,私的独占,不当な取引制限(価格カルテル,入札談合等の共同行為),不公正な取引方法等の行為を行うことを禁止するとともに(第3条,第19条),事業者団体が,競争制限的な行為又は競争阻害的な行為を行うことを禁止している(第8条)。
 一方,独占禁止法は,協同組合の一定の行為について適用除外規定を設けている(第22条)。農業協同組合法に基づき設立された連合会及び単位農協の行為についても,連合会及び単位農協が,[1]任意に設立され,かつ,組合員が任意に加入又は脱退できること,[2]組合員に対して利益分配を行う場合には,その限度が定款に定められていることの各要件を満たしている場合には,原則として独占禁止法の適用が除外される(第22条,農業協同組合法第8条)(注1)(注2)。例えば,連合会及び単位農協が,共同購入,共同販売,連合会及び単位農協内での共同計算(注3)を行うことについては,独占禁止法の適用が除外される。
 しかしながら,[1]不公正な取引方法を用いる場合,又は[2]一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には,適用除外とはならない。また,例えば,単位農協が事業者としての立場で他の事業者や単位農協と共同して,価格や数量の制限等を行うこと(カルテル)等は,独占禁止法第22条の組合の行為とはいえないことから,適用除外とはならない。

(注1)この適用除外制度は,以下のような趣旨のものと解されている。
 単独では大企業に伍して競争することが困難な農業者が,相互扶助を目的とした協同組合を組織して,市場において有効な競争単位として競争することは,独占禁止法が目的とする公正かつ自由な競争秩序の維持促進に積極的な貢献をするものである。したがって,このような組合が行う行為には,形式的外観的には競争を制限するおそれがあるような場合であっても,特に独占禁止法の目的に反することが少ないと考えられることから,独占禁止法の適用を除外する。
(注2)単位農協の下の組織である部会が単位農協とは別に独自の行動をしている場合など,当該部会が単位農協とは別の事業者団体であると認められる場合には,当該部会の行為は,独占禁止法の適用除外とはならない。
(注3)生産調整については,これに参加しない事業者に対して,協同組合内で不当に差別的な取扱いが行われ,その事業者の事業活動を困難にさせる場合には,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)第5項(事業者団体における差別取扱い等))。

4 不公正な取引方法

 「不公正な取引方法」とは,独占禁止法第2条第9項各号のいずれかに該当する行為であり,独占禁止法第19条で禁止されている。このうち,第6号に該当する行為は公正取引委員会が指定することとされており,全ての業種に適用されるものとして,一般指定により,15の行為類型が指定されている。
 独占禁止法第2条第9項各号の規定に該当する行為(不公正な取引方法)が行われた場合,公正取引委員会が当該行為の差止め等の措置を命ずる(第19条,第20条)ほか,当該行為によってその利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者から差止めを請求されたり(第24条),当該行為の被害者から損害賠償を請求される可能性もある(第25条,民法第709条)。
 また,独占禁止法第2条第9項のうち第1号から第5号までの規定に該当する行為については,一定の条件を満たした場合,公正取引委員会は課徴金の納付を命じなければならない(第19条,第20条の2から第20条の6まで)。
 なお,不公正な取引方法のうち,本指針に関連する主なもの及びその概要は,以下のとおりである。
① 取引拒絶(一般指定第2項)
不当に事業者が単独で特定の事業者との取引を拒絶したり,第三者に特定の事業者との取引を拒絶させる行為
② 取引条件等の差別取扱い(一般指定第4項)
不当に,ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利又は不利な取扱いをする行為
③ 事業者団体における差別的取扱い等(一般指定第5項)
事業者団体若しくは共同行為からある事業者を不当に排斥し,又は事業者団体の内部若しくは共同行為においてある事業者を不当に差別的に取り扱い,その事業者の事業活動を困難にさせる行為
④ 不当廉売(独占禁止法第2条第9項第3号及び一般指定第6項)
商品を不当に低い価格,例えば実質的な仕入価格を下回る価格で,継続して販売し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれのある行為
⑤ 抱き合わせ販売等(一般指定第10項)
商品やサービスを販売する際に,不当に他の商品やサービスを一緒に購入させる行為,その他不当に取引を強制する行為
⑥ 排他条件付取引(一般指定第11項)
自己が供給する商品のみを取り扱い,競合関係にある商品を取り扱わないことを条件として取引を行うことなどにより,不当に競争相手の取引の機会や流通経路を奪ったり,新規参入を妨げたりするおそれのある行為
⑦ 再販売価格の拘束(独占禁止法第2条第9項第4号)
小売業者等に自社商品の販売価格を指示する行為
⑧ 拘束条件付取引(一般指定第12項)
取引相手の事業活動を不当に拘束するような条件を付けて取引する行為
⑨ 優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)
取引上優越的地位にある事業者が,その地位を利用して取引先に対し正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為。例えば押し付け販売など。

 第2 単位農協による組合員に対する問題行為

1 購買事業に関する問題行為

 単位農協は,購買事業において,農薬,肥料,飼料,農業機械等の様々な種類の生産資材を取り扱っているが,全ての生産資材について商系事業者等との間で競争関係にある。このような状況の中で,単位農協が,サービスの向上,例えば,品ぞろえの充実,割安な商品等の提供や,購買事業に関する情報提供,その利用の呼びかけ等を通じて,組合員による購買事業の利用促進を図ることは,独占禁止法上問題となるものではない。しかしながら,例えば,以下のような行為は,独占禁止法上問題となる。

(1) 購買事業の利用に当たって単位農協の競争事業者との取引を制限する行為

 単位農協が,農畜産物の生産に必要な生産資材の一部について購買事業を通じて購入しようとしている組合員に対して,他の生産資材も併せて購買事業を通じて購入することを強制する等何らかの方法により(注4),購買事業を利用せずに購入したいと当該組合員が考えている生産資材を含めて購買事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

(注4)組合員に対し不利益を課す場合のほか,競争事業者との取引を制限することとなる系統利用率に応じた奨励金(占有率リベート)等を供与する場合も含まれる。以下同じ。なお,系統利用率に応じた奨励金(占有率リベート)等の考え方については,流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針 第1部第三 参照。
[1] 単位農協が組合員に対して,組合員が購買事業を利用する際に,全量又は一定の割合・数量以上について購買事業の利用を条件とする行為
[2] 単位農協が組合員に対して,組合員が購買事業を利用する際に,購買事業を利用せずに購入したいとその組合員が考えている品目についても購買事業の利用を条件とする行為
(具体的事例)
ア 単位農協が,その管内に他の競争事業者がいない種子を単位農協から購入しようとしている組合員に対し,単位農協から肥料を併せて購入しない場合には,当該組合員にその種子を販売しないこと

(2) 共同利用施設の利用に当たって購買事業の利用を強制する行為

 育苗センター,ライスセンター,カントリーエレベーター等の共同利用施設は,農畜産物の生産・出荷を行う上で極めて必要性が高いものであるが,設備費・施設維持費が極めて高いことから,これらの代替施設を保有することが難しい組合員にとって,このような共同利用施設の利用を制限又は禁止されると,組合員が農業活動を行う上で重大な支障が生じることになる。
 このように,単位農協が組合員に対して,共同利用施設を組合員が利用する際に,自己の購買事業の利用を強制する等何らかの方法により,当該組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(注5)(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

(注5)施設の能力の制約から,何らかの利用制限を行わざるを得ない場合に,組合員による自由・平等な利用を最大限確保しつつ,受入れ品種や受入れ時期等についての合理的な計画を事前に定め,組合員の利用日程の調整を行うことは,原則として独占禁止法上問題となるものではない。
[1] 単位農協が組合員に対して,組合員が共同利用施設を利用する際に,その組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを条件とする行為
(具体的事例)
ア 単位農協が自ら事業主体として行っているビニールハウスのリース事業について,組合員がリース事業を利用するに当たっては,使用する肥料,農薬その他の生産資材を単位農協から購入することを義務付けること
イ 単位農協が,米の生産及び出荷に係る共同利用施設である育苗センター,ライスセンター及びカントリーエレベーターの3施設について,組合員が当該単位農協から生産資材を購入しない場合には各施設の利用を断ることがある旨を3施設それぞれの利用案内文書に記載して,組合員に対して周知することにより,当該組合員に単位農協から生産資材を購入させること
ウ 肉用牛生産業を営む組合員に対する土地,牛舎等の生産設備の賃貸借等の契約において,当該組合員が単位農協以外の者を通じて飼料等の生産資材を購入した場合には無条件で当該賃貸借等の契約を解除できるとする条件を付けて,当該組合員に単位農協から生産資材を購入させること

(3) 信用事業の利用に当たって購買事業の利用を強制する行為

 単位農協は,組合員の営農及び生活に必要な資金の融資をする信用事業を行っているが,一般に,組合員は,営農に必要な資金の融資を受ける上で,単位農協に対する依存度が高い。
 このため,単位農協が組合員に対して,信用事業を組合員が利用する(注6)際に,自己の購買事業の利用を強制する等何らかの方法により,当該組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

(注6)生産資材の購入に係る代金支払の繰延べの許容により信用を供与される場合を含む。
[1] 単位農協が組合員に対して,組合員が信用事業を利用する際に,その組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを条件とする行為
(具体的事例)
ア 組合員が生産資材等を購入するための短期貸付金について,当該単位農協から飼料等の生産資材を購入する場合に限り,当該組合員に当該短期貸付金の融資を行うこと
イ 単位農協が組合員に対し,[1]自己から農業機械を購入することを条件に融資を行うこと,[2]融資の条件として,商系事業者から農業機械を購入した場合には組合員又は商系事業者から手数料を徴収することを認めさせること

(4) 販売事業の利用に当たって購買事業の利用を強制する行為

 単位農協が販売事業で取り扱っている農畜産物には,米,野菜,畜産物等の様々な種類があり,農畜産物の出荷の大半を単位農協による販売事業に依存している組合員にとっては,単位農協から販売事業の利用を拒否又は制限された場合には,農業活動を行う上で重大な支障を来すこととなる。
 このため,単位農協が組合員に対して,販売事業を組合員が利用する際に,自己の購買事業の利用を強制する等何らかの方法により,当該組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

[1] 単位農協が組合員に対して,組合員が販売事業を利用する際に,その組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを条件とする行為
(具体的事例)
ア 単位農協が減農薬栽培米の条件として指定した農薬と同じ品質・規格の農薬を商系事業者から入手することが可能であるにもかかわらず,単位農協から当該農薬を購入して栽培を行わないと減農薬栽培米として扱わないとすることにより,各組合員に単位農協から当該農薬を購入させること
イ 単位農協が減農薬栽培米の生産に必要な農薬を指定する際に,実際に使用した農薬に応じて点数を加算し,点数が規定の数値以下で生産されたものに限り減農薬栽培米として出荷を認める場合において,単位農協が扱っている農薬と同じ品質・規格の農薬を商系事業者から購入した場合の点数を著しく高くすることにより,各組合員に単位農協から農薬を購入させること
ウ 同じ品質・規格の肥料や農薬を商系事業者から入手することが可能であるにもかかわらず,単位農協から購入した肥料や農薬を使用することを米の出荷の条件とすることにより,各組合員に単位農協から肥料や農薬を購入させること
 なお,近年,農畜産物に対する安全・安心志向が強まる中で,例えば,栽培において,どの農薬,肥料をどの程度使用したかという生産履歴を組合員が記帳し,これを単位農協がチェックすることにより,農畜産物の安全性を担保することが広く行われている(生産履歴記帳運動)。また,組合員による生産履歴の記帳は,単位農協の農畜産物の生産方法を統一すること(使用する農薬や肥料その他の生産資材を同じ品質・規格とすること等)により,農畜産物の品質を揃え,ブランド農畜産物として出荷する上でも重要な役割を果たしている。
 生産履歴記帳運動は,安全・安心な農畜産物を生産する観点から,生産者等が使用する生産資材の管理を徹底するものであり,こうした取組自体が独占禁止法上問題となるものではない(注7)。しかしながら,例えば,使用する生産資材が一般的なものであって,同じ品質・規格のものを商系事業者から購入することが可能であるにもかかわらず,単位農協から購入するものに限定するなど,組合員に対して競合する商系事業者の販売する生産資材の使用を制限又は禁止する場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなり,独占禁止法上問題となるおそれがある(一般指定第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

(注7)一般的に,農畜産物の品質を揃え,ブランド農畜産物として出荷するために,品質の均一化等に関し合理的な理由が認められる必要最小限の範囲内で,単位農協の農畜産物の生産方法を統一すること(使用する農薬や肥料その他の生産資材を同じ品質・規格とすること等)は,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。

2 販売事業に関する問題行為

 単位農協が販売事業で取り扱っている農畜産物における流通チャネルが多様化し,単位農協と商系事業者等との間で競争関係にある。このような状況の中で,単位農協が,サービスの向上,例えば,販売ルートの開拓,共同販売による販売力の確保等や,販売事業に関する情報提供,その利用の呼びかけ等を通じて,組合員による販売事業の利用促進を図ることは,独占禁止法上問題となるものではない。しかしながら,例えば,以下のような行為は,独占禁止法上問題となる。

(1) 販売事業の利用に当たって単位農協の競争事業者との取引を制限する行為

 単位農協が,農畜産物の一部について販売事業を利用しようとしている組合員に対して,他の農畜産物も併せて販売事業を利用することを強制する等何らかの方法により,単位農協の販売事業を利用せずに販売したいと組合員が考えている農畜産物を含めて販売事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

[1] 単位農協が組合員に対して,組合員が販売事業を利用する際に,全量又は一定の割合・数量以上について販売事業の利用を条件とする行為
[2] 単位農協が組合員に対して,組合員が販売事業を利用する際に,販売事業を利用せずに販売したいとその組合員が考えている品目についても販売事業の利用を条件とする行為
(具体的事例)
ア 単位農協が部会に対し,同部会の会員が生産物を全量出荷しなければ,部会から除名するよう求め,単位農協に全量出荷させること

(2) 共同利用施設の利用に当たって販売事業の利用を強制する行為

 共同利用施設の利用を制限又は禁止されると,組合員が農業活動を行う上で重大な支障が生じることについては,前記1(2)のとおりである。
 このため,単位農協が組合員に対して,共同利用施設を組合員が利用する際に,自己の販売事業の利用を強制する等何らかの方法により,販売事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な事業活動が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(注8)(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

(注8)前記1(2)の(注5)と同じ。
[1] 単位農協が組合員に対して,組合員が共同利用施設を利用する際に,販売事業の利用を条件とする行為
(具体的事例)
ア 単位農協が自ら事業主体として行っているビニールハウスのリース事業について,組合員がリース事業を利用するに当たっては,農産物を単位農協へ出荷することを義務付けること
イ 単位農協が組合員に対して,単位農協を通じて米を出荷しない場合には育苗センター,ライスセンター及びカントリーエレベーターの3施設の利用を断ることがある旨を各施設の利用案内文書に記載して,組合員に対して周知することにより,当該組合員に単位農協を通じて米を出荷させること
ウ 肉用牛生産業を営む組合員に対する土地,牛舎等の生産設備の賃貸借等の契約において,当該組合員が単位農協以外の者を通じて肉用牛を販売した場合には無条件で当該賃貸借等の契約を解除できるものとする条件を付けて,当該組合員に肉用牛を単位農協を通じて販売させること

(3) 信用事業の利用に当たって販売事業の利用を強制する行為

 前記1(3)のとおり,一般に,組合員は,営農に必要な資金の融資を受ける上で,単位農協に対する依存度が高い。このため,単位農協が組合員に対して,信用事業を組合員が利用する(注9)際に,自己の販売事業の利用を強制する等何らかの方法により,販売事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

(注9)前記1(3)の(注6)と同じ。
[1] 単位農協が組合員に対して,組合員が信用事業を利用する際に,販売事業の利用を条件とする行為
(具体的事例)

ア 単位農協が,組合員への融資に当たり,組合員が農畜産物を単位農協系の加工業者のみに供給することを条件とすること
イ 単位農協が,単位農協系の加工業者と競合する事業者と取引している組合員に対し,当該事業者と取引していることを理由として資金の供給を拒否すること

(4) 販売事業の利用に当たって特定の組合員を差別的に取り扱う行為

 単位農協が,当該単位農協以外に出荷した組合員に対して,販売事業の利用に係る条件又は実施について,他の組合員よりも不利な取扱いをする場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第4項(取引条件等の差別取扱い))。
① 単位農協が,当該単位農協以外に出荷した組合員に対して,販売事業の利用に係る条件又は実施について,他の組合員よりも不利な取扱いをする行為
(具体的事例)
ア 単位農協が,組合員から青果物の販売を受託する取引に関し,特定の組合員に対して,当該単位農協以外に出荷したことを理由に,特定銘柄の青果物に係る販売事業を利用させないこと

3 組合員に対する優越的地位の濫用

 単位農協が,取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,自己と継続的な取引関係にある組合員に対して,自己のために金銭・役務等の経済上の利益を提供させること,自己若しくは自己の指定する事業者の販売する商品若しくは役務を購入させること,又は,その他自己と取引関係にある組合員に不利益となるように取引を実施すること等は,当該組合員の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該組合員はその競争事業者との関係において競争上不利となる一方で,当該単位農協はその競争事業者との関係において競争上有利となるおそれがあるものである。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(注10)(独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用))。
(注10)優越的地位の濫用として問題となるかどうかは,取引当事者間に取引上の地位の優劣があるか否か,取引上優越した地位にある事業者が当該地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えているか否かを踏まえて個別具体的に判断される。
① 単位農協が組合員に対して,取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,当該組合員に不利益となるように取引を実施する行為
(具体的事例)
ア 自己の組合員が自らに対して出荷した農畜産物の数量に応じて所定の販売手数料を徴収していた単位農協が,組合員が出荷する全ての農畜産物の出荷量,販売高等に応じた賦課金(注11)を新たに徴収するとともに,当該賦課金の徴収に相当する額を販売手数料から減額することにより,当該単位農協に農畜産物を出荷する組合員の負担は従前と変わらないのに対し,当該単位農協以外へ出荷する組合員に対しては,当該単位農協以外への出荷の規模に見合った金銭の支払を義務付けること
(注11)一般的に,単位農協が農業協同組合法に基づき自らの定款の定めにより組合員に対して経費を賦課することは,独占禁止法上問題となるものではない。しかしながら,その賦課の方法や内容,賦課が競争に及ぼす影響等によっては,独占禁止法上問題となる場合がある。

第3 連合会による単位農協に対する問題行為

1 単位農協は,購買事業の対象としている生産資材の多くを連合会から購入している。連合会は,これら単位農協の購入分を取りまとめて,製造業者から必要な生産資材を購入し,単位農協から手数料を得ている(注12)。単位農協は,価格の引き下げを図るべく競争事業者からも仕入れを行っているが,連合会の活動にとって,単位農協による連合会の購買事業の利用率を維持することが重要であるといわれている。
 このような状況において,連合会が,農畜産物の生産に必要な生産資材の一部について購買事業を通じて購入しようとしている単位農協に対して,他の生産資材も併せて購買事業を通じて購入することを強制する等何らかの方法により,連合会の購買事業を利用せずに購入したいと単位農協が考えている生産資材を含めて購買事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,単位農協の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が単位農協と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。
(注12)連合会が単位農協に対して,単位農協が当該生産資材を組合員に販売する価格を指示し,この価格で販売するようにさせている場合には,不公正な取引方法に該当し原則として違法となる(独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束))。
 なお,連合会が設定する希望小売価格や建値は,単位農協に対し単なる参考として示されているものである限りは,それ自体は問題となるものではない。しかし,参考価格として単に通知するだけにとどまらず,その価格を守らせるなど,連合会が単位農協の販売価格を拘束する場合には,原則として違法となる(流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針 第1部第一 1⑵)。
① 連合会が単位農協に対して,単位農協が一部の生産資材を連合会から購入する際に,単位農協が連合会の購買事業を利用せずに購入したいと考えている生産資材についても購買事業を利用させる行為
(具体的事例)
ア 単位農協が必要とする肥料及び農薬の大部分を連合会から購入しており,また,単位農協にとって連合会からの肥料及び農薬の購入に伴って支給される奨励金が重要な収益源である場合に,連合会が,自己からの肥料及び農薬の購入率を一定割合以上と定めた上で,年間購入計画書を単位農協に提出させるとともに,単位農協に対して肥料及び農薬の購入における系統利用率に応じた累進的な奨励金を支給することにより,連合会の競争事業者と単位農協との取引が増加することを阻止すること(注13)
(注13)系統利用率に応じた奨励金(占有率リベート)等の考え方については,流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針 第1部第三 参照
 
2 連合会が単位農協に対して,正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価(注14)で継続して供給したり,その他不当に低い対価で供給したりすることは,連合会と競合する商系事業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせることがある。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(独占禁止法第2条第9項第3号又は一般指定第6項(不当廉売))。
(注14)ここでいう「供給に要する費用を著しく下回る対価」とは,廉売対象となった商品又は役務を供給しなければ発生しない費用(可変的性質を持つ費用)をいう(不当廉売に関する独占禁止法上の考え方 3⑴)。
① 連合会が単位農協に対して,購買事業を利用させるべく,正当な理由がないのに生産資材をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,競合する商系事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為
(具体的事例)
ア 連合会が単位農協向け農薬販売額の拡大を図るため,他の農薬卸売業者に先んじて農薬の予約獲得のための活動を行い,主要な単位農協との間で,農薬取扱目標額の達成を前提に販売価格等の取引条件について合意し,農薬について,仕入価格を下回る価格で単位農協に販売することにより,他の事業者の事業活動を困難にさせること

第4 連合会又は単位農協による仕入先に対する問題行為

1 仕入先の事業活動に対する不当な拘束等

(1) 生産資材の流通においては,通常,連合会を経由して単位農協から組合員に生産資材を販売するルート(系統ルート)と商系の卸・小売業者から組合員に販売するルート(商系ルート)がある。これらの流通ルートとは別に,単位農協の中には,連合会を経由する場合よりも生産資材を安価に仕入れるため,連合会に対して卸売を行っている商系の製造業者又は卸売業者から直接仕入れを行っているところもみられる。
 こうした状況において,連合会が,生産資材の仕入先に対して,連合会以外と取引をしないよう強制する等何らかの方法により,仕入先が事実上連合会以外と取引をすることができなくなる場合には,仕入先の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,単位農協が連合会以外と取引をする機会が減少することとなる。また,単位農協が仕入先に対して,単位農協以外と取引をしないよう強制する等何らかの方法による場合も同様である。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第2項(その他の取引拒絶),第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

[1] 単位農協が仕入先に対して,単位農協以外へ販売することを禁止し,又は,単位農協以外へ販売する際に自己の承諾を要求する行為
(具体的事例)
ア 単位農協が取引先の資材製造業者に対し,競合する商系事業者に農協系統取扱品と同種の商品を供給しないよう条件を付けること

イ 単位農協が,組合員の生産資材の購入数量に占める自己の供給比率を引き上げるため,取引先である生産資材の卸売業者に対して,組合員と直接取引しないことを内容とする契約を締結すること等により,仕入先が生産資材を組合員へ直接販売しないようにさせること

[2] 連合会が仕入先に対して,連合会以外へ販売することを禁止し,又は,連合会以外へ販売する際に自己の承諾を要求する行為
(具体的事例)
ア 連合会が段ボール原紙製造業者から段ボール原紙を仕入れて段ボール箱を製造し,単位農協等に販売しているところ,当該段ボール原紙製造業者から段ボール原紙を購入している紙器製造業者と単位農協が共同で新規に段ボール箱製造販売会社を設立しようとしたため,連合会が当該段ボール原紙製造業者に対して,紙器製造業者が新会社の設立を取りやめない限り,当該紙器製造業者に段ボール原紙を供給しないようにさせること
イ 連合会が,自己が指定した青果物用段ボール箱製造業者(指定業者)から段ボール箱を仕入れて,単位農協に販売しているところ,段ボール原紙製造業者の子会社である段ボール箱製造業者(新規参入者)が新たに青果物用段ボール箱の製造販売を開始しようとしたことから,連合会が指定業者に対し,[1]新規参入者に青果物用段ボール箱の原材料である段ボールシートを供給しないようにさせ,[2]新規参入者の親会社である段ボール原紙製造業者から段ボール原紙を購入しないようにさせることにより,新規参入者による青果物用段ボール箱の製造販売を止めさせること

ウ 連合会が青果物用段ボール箱製造業者に対し,青果物用段ボール箱を直接,単位農協に対し低価格で販売することを取りやめるように申し入れ,従わなければ取引を停止することを伝えて当該製造業者が青果物用段ボール箱を直接販売しないようにさせること

エ 連合会が仕入先である青果物用段ボール箱製造業者に対し,単位農協に対する受注活動を取りやめるよう申し入れ,当該製造業者による受注活動を取りやめさせること

オ 連合会が米の包装資材製造業者に対して,[1]単位農協が購入を希望する包装資材は,単位農協に直接販売せず,必ず連合会を通じて供給すること,[2]単位農協等連合会以外の販売先に包装資材を販売しようとする場合は,契約前にあらかじめ連合会の了解を得るものとすること,[3]上記[1]又は[2]に違反して包装資材を販売した場合は,その販売価格より更に一定額値引きして連合会に販売すること,を条件として取引すること

カ 連合会が自己の農業機械の取扱高の増大を図るため,[1]農業機械販売業者に,農業機械を単位農協及び組合員に対し原則として直接販売させないこと,[2]直接販売する場合には,連合会の定めた価格で販売させ,同価格を下回った価格で販売したときは,自己が当該販売業者から買い受ける同一種類の機械について相当額の値引きを行わせることを内容とする基本契約を締結すること

(2) 連合会が生産資材の仕入先に対して,仕入先が系統以外の卸売業者又は小売業者に販売する場合,自己が単位農協に販売する価格を下回らない価格で卸売業者が小売業者に販売し,又は単位農協が組合員に販売する価格を下回らない価格で小売業者が組合員に販売するよう指示させ,これを条件として仕入先と取引を行う場合には,卸売業者又は小売業者が競合する連合会又は単位農協の販売価格を下回る価格で販売することができなくなることにより,卸売業者又は小売業者が単位農協又は組合員と取引する機会が減少することになる。単位農協が生産資材の仕入先に対して,仕入先が小売業者に販売する場合,自己が組合員に販売する価格を下回らない価格で小売業者が組合員に販売するよう指示させ,これを条件として取引を行う場合も同様である。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第12項(拘束条件付取引))。

[1] 連合会又は単位農協が仕入先に対して,仕入先が系統以外に販売する際に,連合会又は単位農協が販売する価格を下回らない価格で販売するようにさせる行為
(具体的事例)
ア 連合会又は単位農協が仕入先である生産資材製造業者と取引する際に,商系ルートの卸売業者や小売業者の販売価格を連合会及び単位農協の販売価格よりも高くすることを条件とすること
イ 単位農協が,農薬,肥料,各種ビニール等の生産資材を仕入先から購入するに当たり,仕入先等が組合員に配布する生産資材のチラシ広告等に自己の供給価格より低い価格を表示しないようにさせること

2 仕入先に対する優越的地位の濫用

 連合会又は単位農協が,取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,自己と継続的な取引関係にある仕入先に対して,自己のために金銭・役務等の経済上の利益を提供させること,自己と継続的な取引関係にある仕入先に対して,自己若しくは自己の指定する事業者の販売する商品若しくは役務を購入させること,又は,その他自己と取引関係にある仕入先に不利益となるように取引を実施すること等は,当該仕入先の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該仕入先はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,当該連合会又は単位農協はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものである。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(注15)(独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用))。
(注15)前記第2の3(注10)に同じ。
① 連合会又は単位農協が自己と継続的な取引関係にある仕入先に対して,取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,自己のために金銭等の経済上の利益の提供を要請する行為
(具体的事例)
ア 連合会を経由して青果物用段ボール箱を購入している単位農協が,青果物用段ボール箱の購入を系統ルートから商系ルートに変更することを防止する対策を行うために要する金員を,連合会が指定製造業者に提供させること
イ 連合会又は単位農協が生産資材の仕入先からの派遣従業員に棚卸や内部事務処理等,仕入先との取引内容に直接関係ない仕事をさせること
② 連合会又は単位農協が自己と継続的な取引関係にある仕入先に対して,取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,自己又は自己の指定する事業者の販売する商品又は役務を購入させる行為
(具体的事例)
ア 連合会が契約先の段ボール箱製造業者に対し自己から原材料の段ボール原紙を全量購入することを強制し,連合会以外の製造業者から原紙を調達した場合には,事後的に同量の原材料を自己から購入させること

第5 連合会又は単位農協による販売先に対する問題行為

1 単位農協の販売先の事業活動に対する不当な拘束

 単位農協の中には,管内において生産される農畜産物を原料として加工業者に販売し,当該加工業者が製品を製造,販売している場合がある。
 管内の加工業者に対する農畜産物の供給の大半を占めている単位農協が,加工業者に対して,自己の販売事業と競合する事業者と取引しないことを条件とする場合には,加工業者の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が加工業者と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。

[1] 単位農協が販売先に対して,自己の販売事業と競合する事業者と取引しないことを条件とする行為
(具体的事例)
ア 単位農協が生乳加工業者に生乳を供給するに当たり,[1]自己と競合する生乳供給業者から生乳の供給を受けないこと,[2]自己から生乳の供給を受けていない生乳加工業者の製品の製造委託を受けないことを条件として取引すること

2 連合会の販売先に対する販売価格の拘束

 連合会は,農畜産物を加工業者に販売し,その加工業者が当該連合会ブランドの製品を製造,販売している場合がある。
 こうした場合において,連合会が加工業者に対し,自己ブランドの製品の販売価格を指示し,これを条件として取引を行うときには,これによって価格が維持されるおそれがある。自己ブランド製品であっても,例えば,以下のような行為は,商標法による権利の行使とみられるものではなく,不公正な取引方法に該当し原則として違法となる(一般指定第12項(拘束条件付取引))。

[1] 連合会が加工業者に対して,当該加工業者が製造し,販売する連合会のブランド製品の販売価格を指示し,これを遵守させる行為
(具体的事例)
ア 連合会が連合会員である乳業者(加工業者)に生乳を供給し,当該乳業者が連合会ブランドの牛乳を製造・販売しているところ,連合会が当該乳業者と取引する際に,連合会が決定した小売業者の最低販売価格を下回る価格で牛乳を販売しないように小売業者に対して指示することを条件とすること

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