公正取引委員会事務総局
公正取引委員会においては,独占禁止法(以下「法」という。)第70条の15の規定に基づく事件記録の閲覧・謄写(以下「70条の15の規定に基づく閲覧・謄写」という。)の請求について,今後,以下の審査基準に基づいて対応する。
(参考) 独占禁止法第70条の15の規定
第70条の15 利害関係人は,公正取引委員会に対し,審判手続が開始された後,事件記録の閲覧若しくは謄写又は排除措置命令書,課徴金納付命令書,審判開始決定書若しくは審決書の謄本若しくは抄本の交付を求めることができる。この場合において,公正取引委員会は,第三者の利益を書するおそれがあると認めるときその他正当な理由があるときでなければ,事件記録の閲覧又は謄写を拒むことができない。
2 公正取引委員会は,前項の規定により謄写をさせる場合において,謄写した事件記録の使用目的を制限し,その他適当と認める条件を付することができる。
1 第70条の15の規定に基づく事件記録の閲覧・謄写に係る考え方
(1)利害関係人
ア 70条の15の規定に基づく閲覧・謄写は,当該事件記録に係る審判事件の「利害関係人」に認められている。ここでいう「利害関係人」は,以下のものである。
(ア) 当該審判事件の被審人(以下「被審人」という。)
(イ) 法第70条の3及び第70条の4の規定に基づき当該審判事件に参加し得る者
(ウ) 当該審判事件の対象をなす違反行為の被害者(以下「被害者」という。)
イ 請求者が被害者に該当するかどうかについては,個別の請求ごとに判断する。例えば,(1)入札談合の違反行為における発注者(2)違反行為によって市場から排除された競争事業者であって,違反行為者に対して国内の裁判所において損害賠償請求訴訟を提起する者などが被害者に当たる。
(2)70条の15の規定に基づく閲覧・謄写の対象となる事件記録
ア 70条の15の規定に基づく閲覧・謄写の対象となる事件記録(以下単に「事件記録」という。)は,審判手続に提出されたものをいう。
(参考) 70条の15の規定に基づく閲覧・謄写(改正前の法第69条の規定に基づく閲覧・謄写)の対象となる事件記録について,東京高裁は,「審判手続そのものについての記録をいうのであって,審判の開始される以前の手続段階における関係書類や審判手続に提出されていない審査官手持ちの資料は,右記録に含まれるものではなく,それが審判手続に提出されてはじめて右記録の一部になる」(東京高裁昭和46年7月17日判決)。
イ 具体的には,70条の15の規定に基づく閲覧・謄写の対象となる事件記録とは,審判請求書,速記録・審判調書,準備書面等の当事者の主張を記した書面(以下「準備書面等の主張書面」という。),証拠申出書,供述調書,その他書証,審決案,異議申立書,その他手続に関する書面(呼出状等)である。
なお,証拠の申出がなされている場合であっても,審判において当該証拠が採用されていないときには,当該証拠は事件記録に含まれない。
(3)事件記録の閲覧・謄写請求の制限について
ア 前記1(1)の「利害関係人」の閲覧・謄写の請求の目的は一様でなく,当委員会は,各請求者の閲覧・謄写請求の目的に応じ具体的事件ごとに「第三者の利益を害するおそれがあるとき」,「その他正当な理由があるとき」に該当する情報を開示するか否かを判断する。(注)
イ 被害者からの請求があった場合において,以下の情報については不開示とする。
(ア)個人に関する情報
a 不開示とする個人に関する情報は,例えば,以下のようなものをいう。
(a)個人の生年月日・住所・学歴・病歴等
(b)違反行為に関しないと認められる個人の氏名
(c)その他個人の私生活上の情報
b なお前記(b)以外の個人の氏名については,訴訟の提起・維持の便宜を図る観点から明らかにされる必要性が高いことなどから,不開示としない。
また,速記録・審判調書に記載されている個人の氏名は,公開の審判廷で実際に陳述されたものであり,70条の15の規定に基づく閲覧・謄写において秘匿すべき必要性が低いと考えられる。このため,このような個人の氏名については,当該速記録・審判調書中において,不開示としない。
(イ)事業者の秘密
a 事業者の秘密とは,(1)非公知の事実であって,(2)事業者が秘匿を望み,(3)客観的にもそれを秘匿することにつき合理的な理由があるものをいう。
例えば,事業者の製造原価・仕入価格を明らかにする情報,営業上のノウハウ等がこれに該当するものと考えられる。
なお,これらの情報であっても,速記録・審判調書に記載されているものについては,不開示としない。
b 公正取引委員会は,必要に応じて,被審人等に対して,事業者の秘密として不開示を要する部分及び具体的理由について照会することとする。
(ウ)今後の事件処理に著しい支障を及ぼすおそれがある情報
例えば,審査活動の端緒となった情報源の特定を可能とする情報等今後の当委員会の事件処理に著しい支障を及ばすおそれがあると認められるものについては,不開示とする。
(エ)その他公益上不開示とする必要があると認める情報
(注)課徴金減免制度の積極的な利用を促進する観点から,国際カルテル事件における課徴金減免申請事業者の供述調書,報告書等について,それを相当とする特段の事情があると認められるときは,当該供述調書,報告書等の謄写を制限する場合がある。
(4)謄写した事件記録の使用目的の制限等について
ア 後記2(1)の方式に基づき,第70条の15の規定に基づく謄写の請求をした者で,事件記録の謄写を認められたものは,その謄写した事件記録を請求した目的以外に使用してはならないものとする。公正取引委員会は,謄写を認める決定の際に,書面で,当該請求者に対し,請求した目的以外の使用を制限する旨を通知することとする。
イ 第70条の15第2項に規定する「その他適当と認める条件」については,具体的事件ごとに個別に決定することとする。公正取引委員会は「その他適当と認める条件」を付する場合には,謄写を認める決定の際に,書面で,当該請求者に対し,当該条件を通知することとする。
2 閲覧・謄写の請求の方式及び実施の方法
(1)請求の方式
ア 70条の15の規定に基づく閲覧・謄写の請求は,これを請求する者(以下「請求者」という。)において,次に掲げる事項を記載した書面を公正取引委員会に提出して行うものとする。
(ア)請求者の氏名又は名称及び住居又は居所並びに法人その他団体にあっては代表者の氏名
(イ)利害関係人たる事由
(ウ)請求の目的
(エ)請求に係る事件記録を特定するに足りる事項
イ 公正取引委員会は,請求者に対し,必要に応じ,前記アの各事項についてこれを認めるべき資料の提出を求めることとする。
ウ 70条の15の規定に基づく閲覧・謄写に係る事務手続は,公正取引委員会事務総局官房総務課審決訟務室(以下「審決訟務室」という。)でこれを行う。
(2)閲覧・謄写の決定
公正取引委員会は,70条の15の規定に基づく閲覧・謄写の請求に係る全部開示,部分開示,全部不開示又は請求却下の決定を書面で行い,これを請求者に通知する。
(3)閲覧・謄写の実施
閲覧が認められた請求者は,当委員会が前記(2)の書面で指定した日時以降,審決訟務室において事件記録を閲覧することができる。なお,事件記録中に不開示の部分がある場合,請求者は,事件記録の写しに墨塗り等がなされた資料を閲覧するものとする。
事件記録の謄写は,公正取引委員会が謄写のために供した資料を用いて,請求者の負担において行うものとする。