自動車メーカーが,部品メーカーに対してある自動車部品に係る特許をライセンスするに当たり,契約書に当該特許技術を用いた製品の販売先を特定の自動車メーカーに限定する条項を設けることは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
A社(自動車メーカー)
2 相談の要旨
(1) A社は外資系自動車メーカーである。日本の普通自動車市場におけるA社のシェアは2%である。
A社は,ある自動車部品について日本国内で特許権を取得しているところ,自動車部品メーカーに当該部品の生産・販売についてライセンスすると,当該部品が自由に流通するおそれがあることから,ライセンス条件について合意のできた自動車メーカーに対してのみ,当該部品の生産・使用につき直接ライセンスしている。
(2) このたび,A社は自動車メーカーであるB社から当該自動車部品についてライセンスの申入れを受け,A社はそれに応じることとした。その際,B社から,ライセンス料はB社に部品を納品している部品メーカーC社が支払うため,直接C社とライセンス契約を締結してほしい旨の申入れがあり,最終的にA社はC社と当該部品の生産・販売に係るライセンス契約を締結することとなった。その際,A社はC社に対して,特許製品をB社にのみ販売することを義務付けることとしたいが,このような制限を課すことは独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1) 特許ライセンス契約において,ライセンサーがライセンシーに対して,特許製品についてライセンサー若しくはライセンサーが指定する者を通じて販売する義務を課すこと又はライセンサーが指定する者には販売しない義務を課すことは,ライセンシーの販売先の選択の自由が制限されることにより,市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には,拘束条件付取引として不公正な取引方法に該当し,違法となる。[特許ノウハウガイドライン 第4-5(3)イ]
(2) 本件は,A社がC社に対して,特許製品たる自動車部品の生産・販売についてライセンスする際に,その販売先を指定するものである。
しかしながら,
ア A社は従来から,他の自動車メーカーに対して,当該部品の生産・使用についてライセンスしており,本件も,当初は自動車メーカーであるB社からの申入れを受け,他社と同様の条件を提示したものであるところ,その後,B社から,C社へのライセンスとするよう申入れがあったものであり,実質的にはB社へのライセンスと認められること,
イ 他の自動車メーカーも,A社から,当該部品の生産・使用に係るライセンスを受けており,C社から当該部品を購入できなくても,事業活動の継続に何ら影響を受けるものではないこと
などから,本件については,当該自動車部品及び自動車に係る製品市場における公正な競争が阻害されるおそれがあるとは認めがたく,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
A社が契約書において,C社の販売先をB社に指定することは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。