医薬品メーカーが,卸売会社の卸売価格に応じて仕切価格を修正等することは,独占禁止法上問題となると回答した事例。

1 相談者

 A社(医薬品メーカー)

2 相談の要旨

(1) A社は,一般用医薬品の販売について卸売会社B社のみを通じて販売することを検討している。

(2) A社は,自社でマーケティング調査を行い,販売先の薬局・薬店等の販売能力及び価格交渉能力をあらかじめ査定し,個別販売先ごとにB社の値引補償枠(仕切価格の一定割合)を設定したいと考えている。

(3) 次に,A社は,仕切価格(A社からB社への販売価格)を希望卸売価格(B社から薬局・薬店等への販売価格)と同額に設定し,B社が希望卸売価格より低い価格で販売したときは,希望卸売価格と実際の卸売価格との差額が,(1)個別販売先ごとに設定する値引補償枠の範囲内であれば,A社が仕切価格を実際の卸売価格と同額まで修正する,(2)値引補償枠を下回る場合には,仕切価格を値引補償枠の限度額まで修正する。

 ただし,(1),(2)どちらの場合も,このままではB社は利益が得られないので,B社の実際の卸売価格に一定率を乗じた額を販売手数料としてA社がB社に支払う(経理上は,仕切価格から販売手数料を差し引く。)。このようなA社の仕切価格の設定方法は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

 A社は,取引先卸売会社B社への仕切価格に値引補償枠を設けて,その範囲内でB社の卸売価格に応じて仕切価格を修正することから,本件は,再販売価格の拘束の観点から検討する。

(1) メーカーが流通業者の販売価格(再販売価格)を拘束することは,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる。

 再販売価格の拘束の有無は,メーカーの何らかの人為的手段によって,流通業者がメーカーの示した価格で販売することについての実効性が確保されていると認められるかどうかで判断される。メーカーの示した価格で販売する場合に,リベート等の経済上の利益(出荷価格の引下げ,他の製品の供給等を含む。)を供与することによって,当該価格で販売するようにさせている場合には,流通業者がメーカーの示した価格で販売することについての実効性が確保されていると判断される。[流通・取引慣行ガイドライン第2部第1-2(再販売価格の拘束)

(2)
ア 相談の場合においては,A社はB社の希望卸売価格を仕切価格とし,B社の実際の卸売価格がA社の設定する値引補償枠を下回るときには,同枠の限度額まで仕切価格を修正するものである。A社がB社の実際の卸売価格に合わせて仕切価格を修正することは,A社によるB社の卸売価格への関与をもたらし,卸売価格を拘束するための手段として用いられるおそれがある。

 また,A社からB社には,B社の卸売価格に一定率を乗じた額が販売手数料として支給されるが,B社の卸売価格が低くなれば販売手数料も少なくなる。このような販売手数料の支払方法は,B社に卸売価格をできるだけ高い額とさせる効果を生じさせるものである。

イ したがって,A社が個々の販売先ごとに値引補償枠内で事後的に仕切価格を修正し,卸売価格に応じた販売手数料を支払うことは,B社の再販売価格を拘束する効果を有するものとして,独占禁止法上問題となる。

4 回答の要旨

 A社が,B社に対して,値引補償枠を下回る価格で販売する場合に,下回る分については仕切価格を修正しないこととするとともに,B社の卸売価格に一定率を乗じた額を販売手数料として支払うことは,B社の卸売価格を拘束する効果を有することから,独占禁止法上問題となる。

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