医薬品メーカーが,服薬指導を実施できる薬局・薬店に限定して,医薬品を出荷することは,独占禁止法上問題ないと回答した事例。

1 相談者

 A社(医薬品メーカー)

2 相談の要旨

(1) A社は,これまで医療機関での処方箋が必要な医療用医薬品だった甲製品を,厚生労働省の承認を受けて,一般用医薬品として薬局・薬店(以下「小売業者」という。)で販売することとした。A社は,甲製品の有力なメーカーである。

(2) 甲製品は,上記のとおり,医療用医薬品から一般用医薬品に切り替わったものであり,販売に際して摂取の仕方,副作用等の注意事項を説明する服薬指導を行わないと,服用の仕方によっては,現在の症状が悪化したり,副作用の可能性もあると考えられる。そこで,A社は,消費者に適切に服薬指導を実施できる小売業者に限定して甲製品を販売することとし,これを実施できない小売業者には甲製品を出荷しないこととしたい。

(3) 具体的には,A社は,小売業者の選定に当たっては,事前に説明会を開催した上で,同社の販売方針を理解したすべての小売業者に対して甲製品を販売することとしている。また,説明会に出席できなかった小売業者についても,後日,A社の学術担当者が個別に小売業者の従業員に対し詳細な説明をすることとしている。
 また,A社は,服薬指導の重要性にかんがみ,A社の再三の要請を無視して服薬指導を行わない小売業者に対しては,場合によっては甲製品の出荷停止もあり得るとしている。
 なお,A社は,甲製品の副作用等の服薬上の注意事項を記した説明書を小売業者に配布するとともに,当該注意事項をユーザー向けにも広報していくこととしている。
 このような販売方法を行うことは独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

 A社は,小売業者に対して,服薬指導を実施できる小売業者のみに甲製品の出荷先を制限することによって,小売業者の販売方法を制限することから,本件は,拘束条件付取引の観点から検討する。

(1) メーカーが小売業者に対して,販売方法(販売価格,販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは,商品の安全性の確保,品質の保持,商標の信用維持等,当該商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ,かつ,他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。
 しかし,メーカーが小売業者の販売方法に関する制限を手段として,小売業者の販売価格,競争品の取扱い,販売地域,取引先等についての制限を行っている場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる場合がある。[流通・取引慣行ガイドライン第2部第2-5(小売業者の販売方法に関する制限)]

(2) 相談の場合においては,A社が,甲製品を販売するに当たり,消費者に適切に服薬指導等を実施できる小売業者のみに甲製品を販売するという販売方針を採るものである。甲製品は医療用医薬品から一般用医薬品に切り替わったものであるところ,摂取の仕方,副作用等の注意事項を説明しないと,服用の仕方によっては,現在の症状が悪化したり,副作用の可能性もあることから,A社の販売方針は,不適切な使用による身体への危害の発生を防止するという合理的な理由があると認められる。
 また,この販売方針は,すべての小売業者を対象に,甲製品の販売に必要な注意事項とその販売方法の説明を行った上で,当該販売方法を理解したすべての小売業者に対し販売するということであれば,すべての取引先小売業者に対して同等な条件が課せられていると考えられる。
 したがって,A社の販売方針については,適切な販売のための合理的な理由が認められ,かつ,すべての小売業者に対して同等の条件が課せられていることから,独占禁止法上問題ないと考えられる。

(3) また,A社の再三の要請を無視して,服薬指導せず販売を行う小売業者に対してA社が出荷停止を行うことは,服薬指導をしないことを理由とするものである限り,独占禁止法問題ないと考えられる。ただし,例えば,A社が,服薬指導を行わずに販売している小売業者のうち,甲製品の安売りを行っている小売業者のみに出荷停止することは,これにより甲製品の販売価格が維持されるおそれがあり,独占禁止法上問題となる。

4 回答の要旨

 A社が,一般用医薬品の不適切な服用による身体への危害の発生を防止するという目的のために必要な範囲内で,一般消費者に適切に服薬指導を実施できる小売業者にのみ甲製品を出荷することとし,服薬指導を行わない小売業者には甲製品を出荷しないことは,独占禁止法上問題ない。ただし,服薬指導を行わずに販売している小売業者のうち,甲製品の安売りを行っている小売業者のみに出荷停止することは,独占禁止法上問題となる。

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