1 メーカーによる流通業者に対する販売先制限

 電子機器メーカーが,取引先販売代理店を変更しようとするユーザーに対し,販売代理店変更理由の提出を求めることが,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例

1 相談者

 A社(電子機器メーカー)

2 相談の要旨

(1) A社は,家庭用及びオフィス用の電子機器を製造する電子機器メーカーである。

(2) A社が製造する電子機器のうち,オフィス向けに製造され,特定の事務処理を専門に行う電子機器Xは,A社の販売代理店を通じてユーザーである企業に販売され,メンテナンス等も同販売代理店により行われている。電子機器Xを製造する事業者はA社のみであるが,電子機器Xと機能,効用が類似したパソコン用ソフトも複数存在し,これらを含めた場合のA社の市場シェアは20%である。しかしながら,ユーザーにとってパソコン用ソフトと電子機器Xでは使用方法が異なるため,パソコン用ソフトから電子機器X,又は電子機器Xからパソコン用ソフトへ移行するユーザーは,ほとんど見られない状況である。
 販売代理店は電子機器Xの販売後に,ユーザーの仕様に合わせた簡単なカスタマイズ作業や,操作指導などのアフターフォローを行っている。
 さらに,電子機器Xを使用するとユーザーのデータが蓄積されるが,ユーザーが買換えを行う際には機械をすべて交換するので,新しい機械を販売した販売代理店がデータを移行させる作業を行っている。

(3) 電子機器Xの需要が頭打ちの状況にあるなか,販売代理店の中には,安値売り込み等によって他の販売代理店からの乗換えを働きかける者もいる。このため,多くの販売代理店は長年フォローしてきた顧客が奪取される状況に歯止めをかけるよう,メーカーに対して販売代理店の変更を伴う販売活動について一定のルールを策定することを求めた。

(4) こうした販売代理店の要望を受け,A社では以下のとおりルールの策定を検討しているが,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 電子機器Xは,機能,効用において類似するパソコン用ソフトも存在するが,使用方法が異なるなど代替性は低く,パソコン用ソフトに移行するユーザーは少ないことから,本件では,電子機器Xの顧客の獲得をめぐる販売代理店間の競争に及ぼす影響について検討する。

(2) 一般に,メーカーが販売事業者に対し,サービス内容の向上等を目的として,その販売方法について一定の制限を課すことは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。しかし,こうした制限を課すことにより,販売事業者の自由な事業活動が制限されたり,新たな販売事業者の参入が困難になるなど,販売事業者間の競争を阻害する場合には,不公正な取引方法(第13項・拘束条件付取引)として独占禁止法上問題となるおそれがある。

(3) A社が策定する本件ルールにおいて,販売代理店の変更理由の提出を求められるのは,他の販売代理店のユーザーと行う取引についてである。通常,販売代理店からの売り込みに応じ,取引条件等を勘案してユーザーが販売代理店を自由に選ぶことで,販売代理店間の競争が促進されるところ,本件ルールにより,ユーザーから書面の提出を得られない場合,販売代理店間の競争が阻害される可能性がある。特に,本件ルールの制定は,顧客略奪を防ぐ目的で販売代理店側から求められたという経緯があり,A社による本件ルールが,販売代理店の間で競争回避の目的で利用される可能性が高く,販売代理店間の競争を阻害するおそれがある。
 ユーザーから変更理由を聞くことによりサービスが改善されるなど,ユーザーの利便性向上に資するとも考えられるが,そのような目的を達成するために,本件ルールが不可欠であるとは認められない。

4 回答の要旨

 A社が本件ルールを定めることについては,販売代理店の間で本件ルールが競争回避の目的で利用される可能性が高いことから,販売代理店間の競争が阻害され,独占禁止法上問題となるおそれがある。

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